LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/11/30  国立 一橋大学兼松講堂

出演:国立パワージャズ2008

 一橋大学の講堂で半日かけて行われる日本ジャズのイベント。観客はびっしり。当初は予定が無かったらしい、二階席の開放も行われた。
 メインホールのイベントとは別に、サブ・ステージでも平行してライブは進行する。もっとも出入りに必要な半券を、入るや否やどっかへやってしまい、メインホール以外でのライブは聴きそびれた。
 この会場は天上高く残響がすごい。音がかなり回って、大味な印象は否めない。

第1部:梅津和時+中村達也

 ドラムの中村達也は元ブランキー・ジェット・シティのほう。初めてライブを見る。デュオでの演奏はこの日が初らしい。
 時間をちょっと押して、ツナギ姿の中村が登場。すぐにバスクラとアルトを持った梅津和時が続く。梅津が座る間もおかず、いきなり中村が叩き出した。続いて梅津がバスクラを循環呼吸で吹く。ときおり鋭いノイズの響きを取り混ぜて。

 中村のドラミングはロック畑でインプロ要素は薄い。連打を基調にときおりフィルを入れるパワー・ドラム。勢い、梅津とのセッションというよりバトルが延々と繰り広げられた。
 冒頭から梅津は飛ばしまくり。即興応酬の妙味よりも、切った張ったの派手さを前面に出したか。
 延々とバスクラの循環呼吸で存在感を見せ付けたあと、アルトへ持ち替える。メロディを切り捨て、いきなりフリーキーな軋ませで疾走する。さながら梅津のテクニック披露大会となった。

 マウスピース、ネック吹き、ボディ吹き。フラジオからフリーク・トーン。刺激的な奏法を休まずに梅津は出し続ける。中村は決めなどで反応する以外、ほとんどは独自路線で叩きのめした。全即興で5〜6曲くらいやったか。

 中村はグルーヴさは希薄で、パルスのようなビートを猛烈に轟かす。残響が多いため、背後で歓声が沸き立ち続けてるような幻聴を覚えた。
 中盤で口に含んだ水を高く吹き上げると、観客から歓声が上がる。
 
 3曲目あたりをやる前に、梅津がシューズで床を滑らし、きゅっきゅと音を出した。それを見た中村もドラム・セットから降りて、ステージの前へ。お辞儀の格好で足の間からスティックを使い、バスドラを叩くプレイも披露した。

 梅津はほとんどメロディを吹かぬ。軋み音中心で、アグレッシブに突き進んだ。
 セッション中盤でいきなりテンポ・ダウン。中村も音数を減らしたところで、ぐうっとアルトを鳴らしたくらい。この瞬間がかっこよかった。
 テンションをほとんど切らさず、50分あまりのぶつかり合いで幕をおろした。

第2部:大友良英+鈴木正人+芳垣安洋

 鈴木が加わってのトリオ編成は、これまた今夜が始めてらしい。ジャズの形式を取りつつ、ノイジーな即興が繰り広げられた。
 大友はエレキギターのみ。冒頭で弓をもってボウイング奏法を。アルコ弾きの鈴木と、シンバルを弓でこする芳垣。さながら弓合戦の構図がはじめから出現して面白かった。

 芳垣は小物を取り混ぜ、奔放かつタイトに叩きまくる。シンバルをタムの上へ置いたり、手に持ったシンバルを玄妙に響かせたり。中盤ではチェーンをもってシンバルやスネアの上へそっと載せる場面も。

 最初はブラシを小気味よくふり、軽快なビートで三人のアンサンブルのバランスを取った。もっとも大友のボリュームが上がるにつれ、スティックに持ち替え激しいビートを叩きまくる。
 テンポはさほど変わらないが、小節感は自由自在。奇数拍子と4拍子を無造作に混ぜ合わせ、一筋縄では行かぬ展開だった。

 鈴木はウッドベースを。中盤や後半ではアルコを激しく弓へ叩きつける場面が頻出した。
 大友と芳垣を相手に回し一歩も引かず、素早く指が弦の上を動き回る。ところがぼくの席では残響がありすぎて、低音の鈍い振動ばかりが強調されて、ほとんど細かな音使いが判別できず残念だった。
 単なるランニングや音像キープにはとどまらず、二人の音とは違うことを常に続けていた。

 最初に30分ほど、完全即興を。次に大友が"ロンリー・ウーマン"を崩して提示、アドリブへ雪崩れる。
 場面によっては大友から鈴木へソロ回しのような場面も。

 冒頭の即興は訥々とした大友のアドリブから、混沌なノイズへ。クリップなどをはめていたのか、小物を大友は弦に近づけ、鈍い響きを産んだ。
 やがて芳垣と一体になって疾走モードへ。途中で磁石のようなもので、フィードバックを引きずり出す。ついに強烈なピックのストロークがハイテンションで燃え上がり、いったん幕へ。
 拍手の中、間をおかず鈴木のソロへつなげた。

 後半は"ロンリー・ウーマン"を大胆に歪ませる。芳垣の切れ味光る小刻みなスティックさばきが、常に前のめりさを強調。
 ギターを片手で持った大友が、アンプへ近づけフィードバックを響かせた。

 探りあいより、3人の音楽性を無造作にぶつけ合うようなセッション。緊張をとぎらせず、1時間弱をきっちりとこなした。
 
第3部:渋さ知らズ
 (片山広明,佐藤帆,立花秀輝,鬼頭哲,吉田隆一:sax、辰巳光英:tp,高橋保行:tb
   磯部潤,つの健,関根真理,松:per、ファンティル:g、オノアキ,増田俊行;b
  スガダイロー,山口コーイチ:key、室舘彩:fl,vo、
    ペロ,東洋,たかこ,シモ,ふる,南加絵,すがこ:舞踏、青健:VJ,
    不破大輔:ダンドリスト)

 地底新聞より。渡部真一もクレジットされ、サウンドチェックでも「渡部マイク」といいつつチェックしていたが、参加はなし。
 舞台転換は30分。どんな風にセッティングするのか眺めてた。大友らがはけると、椅子が次々持ち込まれる。不破がまず登場し、スタッフとなにやら会話。
 すぐさまステージ両脇には、渋さの垂れ幕が吊るされた。

 パーカッションなどからサウンドチェックが進み、ホーン隊がひとりひとりマイクを確認する。ほぼ終わったのがぴたり開演時間。
「このままやりましょうか?」
 不破がスタッフへ尋ねた。結局、いったん袖へ消えず、そのままライブが始まる。
 まだ姿を見せない片山を不破が探しに行き、戻ってきたところで音楽が始まった。テナーを持った片山がおもむろに登場。

 ゆったりしたテンポの音像。背後にはヨーロッパと思しきバスからの移動風景が映される。
 そのまままず、片山が豪放なソロをじっくりと取った。

 不破のハンドキュー。曲は、"股旅"へ。
 セットリストは続いて"Song for one"、"P-chan"、"ひこーき"、"ナーダム"、"仙頭"だったと思う。
 でかい音で残響が混じり、妙にとっつきにくい。最初の二曲で1時間近く演奏していた。持ち時間は1時間のはずだが、確信犯のように1時間半ほどのライブ。

 今日は舞踏の面々が冴え渡っていた。1曲目の中盤あたりで、客席中央の通路へ南加絵とすがこが。大きなバナナを振りながら、通路中央を通ってステージへ向かう。
 舞台の両脇には東洋,たかこ,シモらが次々に。ペロがさわやかに登場した。

 "股旅"のテーマが始まった頃から観客が数人、立って踊り始める。何人かがステージ前へ向かうと、雪崩のように同調する人が増えた。ステージ前はびっしり。殺気立ってないのが幸い。人がわやわやともつれるさまをニッコリ微笑んで見下ろし、ペロが涼やかに踊る。

 淡々とバナナを振る南加絵やすがこ。たかこは身体を大きく伸ばし、静止を多用する舞い。
 いっぽうでシモがにこやかな笑顔を顔へ貼りつかせ、しなやかな動きを見せ付けた。無邪気な笑いの東洋が、ステージの立ち位置を演奏が進むにつれ変えながら、元気よく動く。
 一呼吸遅れて現れたふるは、動きと静止、双方の色合いを混ぜて身体をくねらせた。

 演奏は不破がときおりハンドキュー。長いソロ回しを見せた。片山からファンテイルや高橋らにソロが回る。
 佐藤帆がばりばりとロックンロールなアドリブで吼え、フラジオをつんざかせた。山口がひしゃげた音色でキーボードを唸らせる。
 "股旅"が終わる瞬間も、不破はつの健へキュー。空白を作らず、ドラム・ソロで場面を繋いだ。

 もっとも印象的な瞬間は、"Song for one"での一場面。
 フルートを吹いていた室舘が、しみじみと喉をふるわせる。
 舞台転換では風邪気味なのか思い切り着込んだ様子。ステージが進むにつれ薄着になり、最後はグレーのモノトーンな雰囲気だった。

 室舘の歌は辰巳のソロへ繋がる。ぐっとテンポが落ち、切なげにトランペットが響いた。
 アドリブは吉田にバトンが渡る。ソロはみるみるうちにテンションが上がり、アンサンブル全体も加速する。
 足を幾度も振り上げながら、吉田が威勢よくバリサクで咆哮。滑らかに変わる場面が鮮烈だった。

 "P-Chan"はスローで気だるげなアレンジから。片山のソロへつながり、"セント・トーマス"や"第九"の変奏を取り混ぜたブロウで、アップテンポに盛り上がる。
 短めに曲がかわり、"ひこーき"へ到ったか。

 トイピアノで長いソロをダイローが取った。オルゴールのような甲高い音色が軽やかに弾む。
 ドラムとベース、あとはファンテイルのギター。薄いアレンジのなか、関根がメインで室舘がカウンターをかぶせる"ひこーき"へ。二人の声が美しく重なる。
 立ち上がった立花がメロディアスなソロを取り、鬼頭のアルペジオが加わった。

 冒頭2曲が長尺だった一方、中盤はさくさくと進む。明確な曲の終わりは提示するが、メドレー形式に音楽はひとつながり。
 "ナーダム"のテーマがホールへ響き渡り、観客が大きな歓声を上げた。
 背後のVJが風景から、クラゲの映像など抽象的なものに変わる。

 "ナーダム"はソロ回しもたっぷり入れて前のめりに。不破の合図で"仙頭"がはじけた。
 フレーズの切れ目で飛び跳ねてたのは辰巳かな。中間部はすっごく混沌に鳴った。
 ステージ前で踊ってる観客群が、両手を挙げて演奏を讃えた。

 "ステキチ"を強いブロウで響かせ、すぐさまマイクはオフに。ぞろぞろとミュージシャンが消えていく。
 残ったペロが左右の舞踏を呼び寄せる。揃ってぺこりとお辞儀をした。たかこは踊ってた台の上へ正座、南加絵とすがこは脚立の上から。
 中央、左右と礼をして、全員がステージから去った。一時間半、コンパクトな渋さ。渡部がいなかったぶん、メドレー感が強調されたか。 
 休憩時間を入れて5時間あまり。"パワージャズ"の表現がぴたり合う、豪腕な演奏がいっぱいだった。

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