LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/11/23   渋谷 Club Asia

出演:レナード衛藤:大感謝祭
 (レナード衛藤:太鼓、芳垣安洋:ds、菊地英二:ds、スティーヴエトウ:重金属打楽器、
  太田惠資:vln,voice、ナスノミツル:b)

 ライブでレナード衛藤を聴くのは初めて。今夜はベスト・アルバムのレコ発ミニ・ツアーか。ステージ中央に大太鼓がずらり並び、背後へ直径3尺くらいの太鼓が据付けられた。
 左右にパーカッションやドラムのセットが3つ。急遽ゲストが決まったナスノミツルと、太田惠資の配置はステージ向かって右側隅にまとめた。開演前、袖からたまにぶぉっとスモークが小さく噴出す。

 前半は"Blendrums"編成から。レナード衛藤、芳垣安洋、菊地英二の3人がステージへ姿を現す。客電とBGMが消え、何故かベースの音だけが薄く残った。
 ベースの音を消せ、というそぶり。なかなか消えず苦笑。BGMじゃなかったみたい。
「てなわけで」
 ようやく音が消えたあと。オフマイクで一言告げて、レナードはバチを持った。
 薄胴から太い胴の太鼓へ。軽快なバチさばきから、力がこもる。
 3人のユニゾン・リフが、野太く轟いた。

 芳垣はシンバル3枚、1タムのこじんまりなセット。菊地は良く見えなかったが、2タムにスタック・シンバルが3種類ほど。フロアタムの位置へ、さらにバス・ドラムを置いていた。
 太鼓類は全員が生音。ベースとバイオリンのみアンプを通すが、十二分にドラムの音は響き渡った。
 レナードは力任せに中央のみを叩きのめしたりしない。繊細なバチさばきで、深みのある低音を巧みに表現した。

 1曲目は"MIDNIGHT THEATER"だったろうか。日本風のグルーヴを細かいパターンの組合せで紡ぐ。かっちりとリフが譜面化されユニゾンで走る中、微妙に3人が符割を崩す。
 視覚的な迫力、さらに皮膚へ響く重低音がかっこいい。

 ばっちりコーダを決めて、すぐさま次の曲へ。これまでの曲をメドレーでまとめた特別な作品だそう。
 レナードは場面ごと、太鼓ごとにバチを替える。
 背後の大太鼓を初めて叩いた。左手は4尺位の細長い棒、右手に2尺ほどの太いバチ。左右で違う響きを巧みに操った。
 軽やかに響きを調節する左手、鈍く着実に鳴る右手。饒舌な音に引き込まれた。

 軽妙なMCを挟み、"Blendrums"編成では確かあと1曲、"王様の記憶"をやった。
 それまでも左右のドラム・ソロは短く挿入されたが、ここではたっぷりと二人の無伴奏ソロを提示した。
 まず菊地。筋肉もりもりな両腕をいかんなく振り回し、パワフルに叩きのめす。拍は途中で曖昧になり、タム・ロールをメロディアスに回しつつ、ツーバスとハイハットが響き続けた、空間を埋める力強いソロ。

 芳垣は対象的に、シンバル・ロールから。スティックを交差させライドを叩きつつスティックそのものも叩く。小刻みなビートはおもむろにスネアも食い込んで膨らんだ。響き線を落としたスネアを懐深く鳴らし、やはり小節感覚は希薄に。
 やっとハイハットも加わり、クレッシェンドしながら手数を増やした。シンバル強打がアクセント。最期はかかとをスネアに乗せ、ミュートしながら叩いた。

 もちろんレナードのソロも。打音とあわせて響く低音のブレンド感覚が単純に心地よい。
 見かけは巨大な大太鼓を軽やかに打ち鳴らす。数種の音程の組合せを、バチの操りで多彩に鳴らした。バチは単に振り下ろすだけでなく、打面や角度、力加減で豊富な音色を引き出した。

「太鼓で絵を描きます」
 芳垣、菊地がいったんステージを去る。中央に残ったレナードが一言つげ、背後の大太鼓へ向く。ここまでで一時間弱。

 細いバチと太いバチ。二本の異なる種類の音色で玄妙な太鼓の独奏を。左手のバチを表面へ載せるように持ち、打面の振動をディストーションのごとく響かせる。
 ざらざらした音色を置きつつ、右手のバチは優しく動いた。
 最期はバチの中央を持ち、上下両方を交互かつ高速に打ち鳴らしてたようす。打面へ映った手首の影が、猛烈に動いていた。

 今夜は休憩無し、ノンストップ。振り向いたレナードが、スティーヴエトウを紹介する。海外ツアー直後にライブへ参加したらしい。
 現れたスティーヴは、ステージへ繋がるドアを開けた。ドアがドラム缶太鼓へぶつかり轟くノイズ。小首をかしげる。
 身体を曲げてステージへ入り、ドアを幾度もドラム缶へぶつけて鳴らす。既にパフォーマンスは始まっていた。この隙にいったんレナードは袖へ消えた。

 自らのセットへ立つスティーヴ。無言のままスティックを持つ。メロタムをティンバレスのように並べたセットで、まず小さい一つをシンプルなリフで集中して叩いた。
 数分間、同じリフを繰り返す。酩酊感が広がったところで、横のタムも加える。じわじわとリズム・パターンを広げた。

 レナードが現れる。客席へ一枚。スティーヴを一枚。デジカメで写真を撮る。それを見たスティーヴが横の荷物からデジカメを出した。もちろん、叩きながら。レナードを撮るそぶり。バチを持ったレナードがポーズを取って笑いを誘う。
 バチを持ったレナードが加わり、デュオでまとめた。

 ゲストのナスノミツルが登場。曲名が曖昧だが、"大仏様々"だったか。
 ディストーションとディレイを効かせたソロをナスノがまず取る。じんわりとノイジーに鳴らして、小刻みなフレーズに。
 太鼓が入ると、ボリューム感覚がぐんっと上がる。レナードは担ぎ桶太鼓、スティーヴはジャンベに持ち替え応酬。
 レナードがステージ前に立ち位置を変えた。観客の目前にて担ぎ桶太鼓の華やかなバチさばきを披露した。

 最期のゲスト、太田が呼び込まれた。丁寧なMCで紹介し、太田の独奏スペースをレナードは提示した。
 微笑んだ太田は赤いエレクトリック・バイオリンを構える。爪弾きからボイスへ。唸り声も軽くエフェクト処理され、エコーをまとってフライング・スピーカーから声が降った。
 バイオリンと声の紡ぎがしばらくあたりへ漂い、おもむろにナスノが数音を隙間多く載せる。
 デュオから、アンサンブルへ。スティーヴとレナードも太鼓を鳴らした。この曲が"NO ELEPHANT"だったかな。

 中間のソロで、レナードはチャッパシンバルを持つ。高速かつ猛然たる勢いで、ステップを踏むような仕草でシンバルを打ち鳴らした。これまたステージ最前方で。
 さらに担ぎ桶太鼓でも。どんどんレナードの迫力が増す。
 バイオリンのソロは時にカントリー風、時に無国籍に。ひとつながりでフレーズが唸った。十二分に旋律感あるパーカッション群を包み込むかのように。

 激しい演奏で腕を痛めたか、MCで繋ぐ。ナスノへ喋りを振って、太田が自らのマイクをナスノへ渡した。
 ナスノとレナードは10/18のステージ、世界遺産登録10周年記念、布袋寅泰@東大寺で共演したそう。リハーサルが緻密できつかった、とぼやくナスノ。
 喋りで盛り上がりながら、レナードは腕のチェックを怠らぬ。

 最期に芳垣と菊地を呼び、全員で演奏。いったん下がって身体冷え切っちゃったかな、とレナードのギャグを受け、二人ともジャンパーを着て震えながら登場した。
「まーた小芝居をして〜」
 と、レナードが笑った。
「予定時間とまったく違うじゃない」
 メモを振りながら芳垣がやりかえす。

 全員演奏は壮観だった。プログレ風の盛り上がりを魅せる。バイオリンが低く強く唸り、4人のドラミングは揃ってもばらけても豪快だった。
 ばらけると手さばきでリズムは想像できるが、個々の音が溶け合ってききわけづらいほど。 
 ソロ回しをきっちりとり、まず太田から。フレーズはぐんぐん鋭さを増し、あたりへ緊迫感をばら撒く。ドラム・ソロでは芳垣は空間を細分化させ、菊地は隙間を埋めて行く。
 リズムとメロディが混在したスティーヴのソロが盛り上がったところでアンサンブルへ。
 太田のメガホン・ヴォイスが轟いた。呟きから叫びへ。吹き荒ぶ太鼓のうねりを、声が力強く突き進んだ。

 最期1曲だけでなく、この編成でもたっぷり聴きたかったな。
 レナードが全員を紹介、太田がオフマイクで「レナード衛藤!」と叫んで指し示した。

 アンコールの時間があるかを確認するため、いったん全員がステージから去る。すぐさまレナードが戻って呼び戻した。
 レナードのカウントで入る曲。最初はドシャメシャになってしまい、やり直された。

 ユニゾンのリフをバイオリンが強いボウイングで彩る。短めのソロがやりとりに惹き込まれ、あっというまに終わった印象あり。
 最期はレナードがバチの替わりに木製バットを持つ。両手でどかんと太鼓を叩き、合間に素振りで笑いを呼ぶ。
 コーダのリフもバット一本、豪快に叩きのめしてステージを締めた。

 休憩無し、2時間半弱にも及ぶボリューム。多彩な構成とレナード自身の奥深い演奏で、たるみ無い進行でとても楽しいライブだった。
 視覚効果だけでなく、太鼓の響きを生で体感できたのも嬉しい。日本風味の伝統リズムの味わいと、それだけに終わらぬ独自の解釈へ向かう、骨太なビートの応酬が心地よかった。

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