LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/11/16 表参道 月光茶房
〜月光茶房の音会 (第10回) 霜降月のふたり〜
出演:臼井康浩+田村夏樹
(臼井康浩:eg、田村夏樹:tp,etc.)
ハードな即興を予想し聴きにいく。まったく段取りを事前に決めず、2set構成なのもその場で決まっていた。プロデューサーの吉田隆一が前説をして、無造作にライブは幕を開ける。
臼井康浩をぼくはライブで聴くのは初めてかな。予想以上にパーカッシブにエレキギターを扱ってて意外だった。田村夏樹はさまざまにトランペットから音色を搾り出す。
アンサンブルを成立させつつ、互いが平行で音楽を作る。多彩な展開を繰り広げる臼井と、ストイックに組み立てを貫く田村、という構図を感じた。
冒頭は田村がバルブを押しながら息を吹き込む。片手に持ったカップでミュートしながら。かすかな音程を踏まえつつ、くきくきとブレス音を繰り出した。
臼井はフレーズをほとんど弾かない。左手のタッピングやハンマリング、ピックを口にくわえて右手も指弾きを多用。摘み上げる強いピチカートが印象に残る。
ピック弾きでも抽象的で断片的なフレーズを。どういう仕組みかよくわからなかったが、ボディの背後を引っかくようにして音を出していた。
さらにエレキギターは、ときおり音を激しく歪ませる。ボリューム・ツマミやアームを駆使し、臼井は断片的でロジカルな世界を構築する。途中でフリーになったが、微妙にダンサブルさも伺わせた。
田村がとことん抑え、ブレス音の交錯から極小音の軋みへ変化さす。
アームを持ってぐいぐいノイズを跳ねさす臼井と対照的だった。
ソロ回しは皆無。ときおりスペースを作りあうくらい。二人のソロが平行移動し、すっと軌道を同一にする。
1stセットは心地よくて、途中から夢見心地で聴いていた。
臼井のかき鳴らしが激しくなる。ディストーションをかけて。刻みでもリズムやフレーズは希薄で、どこまでもメロディを回避するかのよう。
さらにギターそのものの奏法も、あえてずらしてる。まともに弦を弾かず、ひっかいたり押さえつけたり。ノイズ装置としてエレキギターを操ってるように感じ、興味深かった。
速いフレーズで耳ざわり良く華やかに、の世界へ決して着地しない。どこまでも刺激と不安定と先鋭を追求した。
ギターの盛り上がりへ同期するかのごとく、田村のトランペットも力を増す。こちらもフレーズをほとんど吹かず、ボリュームも押さえていた。
田村が先陣を切って臼井と斬り合う場面も期待したが、あからさまなバトルは皆無。
アンサンブルは成立しているが、礼儀正しさを田村は持ち続けた。
最期は小音のやりとりに。音量と音数が急降下し、田村と臼井は相手を伺いながら断片を鳴らす。田村がふにゅっと音を絞り、臼井が載せる。静寂、そして幕。約50分。
2ndセットは早々に臼井が疾走した。エレキギターを小脇に抱え、左手が鋭く弦を押さえる。数フレットにまたがる、触れ幅広い音の揺らしも。ボリューム・ツマミを頻繁に操作し、持続音から激しいピチカートへ。
たちまち前のめりに音がばらけた。
「せっかくだから使うか」
田村は冒頭で呟き、マイクの玩具みたいなのを手に取る。どういう仕組みか不明だが、声を変調させてるようだ。ときおり派手にギターを抱える臼井と対照的に、田村は淡々としたそぶり。
マイクの玩具を持ったまま、ぶかぶかとフレーズを作った。くっきりと縦の線を明確にして、拍子はとりづらいがビート感覚はきっちりあり。
口から離したマイクの玩具を手に取り、神妙な表情でスイッチを操作。スクラッチ風のノイズが臼井のギターへ絡む。
後半セットでも臼井はメロディ志向と逆ベクトル。二人のサウンドはどこまでも抽象的に盛り上がった。
トランペットを持つ田村。ひしゃげた音をピアニッシモで出す。トランペットを構えなおしたとたん、臼井のディストーションが轟く。まるで田村が噴出したような、絶妙なタイミングだった。
田村はボリュームを気にしたか、トランペットを激しく吹くシーンは無し。店に充満するほどの響きも聴きたかったな。
曲を演奏するかのように、長くゆったりしたきれいなフレーズを積み重ねた。
エレキギターもほとんどボリュームは上がらない。臼井が小音系へ配慮したような音作りで、むしろエフェクト無しやアンプを通さぬ弦の響きなども奏法に取り入れていた。
右の手のひらで弦を押し付け、左手のハンマリングで音程を出すシーンもあったな。
トランペットを置いた田村が、もう一度マイクの玩具を持つ。
コミカルな絵面だが、出てくる音は真剣。
たまにブレイクが入るものの、後半セットもソロ回しは無し。双方とも目を閉じたまま、黙々と互いに奏で続けた。
後半セットは短め、40分弱くらいか。田村がブレスをトランペット経由で響かせる。
すっと音が消えた。
刺激まみれの、興味深いアンサンブル。甘さへ流されず、きっちりと即興を積み上げた。相手の音へ反応する場面、同時進行の場面。それぞれの価値観が飛び散る。
楽器を「音の出る装置」のように扱って、清々しい音が弾けるとても面白いライブだった。