LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/11/1  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 
 今月の深夜月例ライブは、先週からわずか一週間後にブッキングされた。今夜はオカリーナを置いたアタッシュケースのほかに、もう一つダンボール箱がピアノの足元にあり。なんだろう。中身は終盤に明かされた。

 マイクのセッティングは前回ソロ・ライブと同様、ピアノへマイク2本とオカリーナ用で、明田川の口元をちょっと遠くからマイク一本が狙う。
 0時半過ぎ。BGMが消えると客電が落ちて、明田川荘之はピアノへ向かった。

「けっこう昔に書いた曲です」
 ひとこと前置きして、ライブが幕を開ける。何故か今夜は、ひときわピアノがふくよかに響いて聴こえた。

<セットリスト>(不完全)
1.ナイト・ビフォー・サムシング(?)
2.杏林にて
3.ナウ・ザ・タイム〜 ?
4.ハートジャンプ大沢
5. ? 〜ナウ・ザ・タイム
6.おい郷、おまえなー
7. ?
8.アルプ
9.吉野ブルーズ
10.ポップ・アップ
11.オカリーナ即興

 かなり珍しいセットリスト。基本は明田川のオリジナル曲が並ぶ。
 (10)は早川岳晴の曲で、(3)、(5)、(11)がオカリーナの即興。
 (7)は最近良く弾く、ボサノヴァの曲。オリジナルなのかはよくわからない。この曲、今夜もタイトル紹介したが、またしても聴き取れなかった。

 1曲目のタイトルは"ナイト・ビフォー・サムシング"と聴こえた。たぶん、初めて聴く。早いテンポとゆったりしたフレーズが交互に現れるテーマ。素朴さと洗練が交錯するフレーズだった。テンポ感が場面ごとにグルグル変わる。
 間を取りながら、ふくよかにテーマを弾き、おもむろに世界感を変えてアドリブへ。
 場面転換をくっきり目立たせながら、どこかそっけなさを保ちつつ演奏は進む。即興の合間にテーマが顔を出しては変奏に。いい曲だな。

 次は"杏林にて"。鮮烈なテーマの響きが、とても好きな曲。あまりライブでやらない印象だったので、とても嬉しかった。
 テンポは遅め。いきなり「あ、間違えた」と呟き、イントロを弾きなおす。

 和音の高い部分が控えめなのか、以前ライブで聴いたときよりも重厚さが香る。
 この曲でもタイム感が歌いまくり。思うがままにフレーズを歌わせ、ノリがうねった。 テーマの流れを瞬断するように、少ない音数でアドリブへ。

 ソロのフレーズがたくましい。明田川の唸り声がひときわ高まり、ピアノと溶けた。
 内部奏法はここまで登場せず。低音の響きにわずかなクラスターを感じる。
 唸りがびいんと店内へ響き、ソロが突き進んだ。

 後半でフレーズとユニゾンの唸りとともに、アウトロのフレーズが繰り返される。
 このアレンジは前からだったろうか。失念している。いずれにせよ、凛としたテンションのこの曲へ和らぎを醸しだすムード転換で興味深かった。
 冒頭2曲はたっぷり長尺で演奏され、すでに20分くらい経過。じっくり演奏のスタンスが素晴らしい。

 オカリーナを持ち、立って演奏。B♭とE♭のオカリーナを途中で持ち替え、メドレーで演奏。プリマ楽器サイトへアップする音源録音もかねているようだ。
 このために作ってきました、とB♭の白いオカリーナを示す。
 イントロは即興。やがてテーマが顔を出すが、ほぼ全編がアドリブだった。後半で喋っていたが、曲演奏だと権利関係発生のため、いずれにせよ即興が望ましいらしい。

 早いパッセージだが音を濁らせたりせず。足で取るリズムが、店内へ静かに響く。
 途中でE♭のオカリーナへ持ち替え。今度は粘っこいセンチメンタルが漂うフレーズ。なんだか聴き覚えあるようなメロディな気もしたが、曲を思い出せず。

「これも前に作曲しました」
 96年、4枚組の大作「旅」に収録の"ハートジャンプ大沢"。ぼくはライブだとあまり聴き覚えない。
 ごっつり粘っこい旋律が展開し、初手から唸り声も登場。しぶとく弾む旋律は情感を含んだアドリブに。しみじみさと前のめりの意思が絡む。

 活き活きと鮮烈なピアノ・ソロだった。たしか一度だけ、ピアノ線の中低域を短くざらりと爪弾く内部奏法を挿入。
 演奏前に入れた足元の扇風機が、後の壁に貼られたメモをひらひらと舞わせる。
 即興がたっぷり続き、テーマが顔を出して交錯。独特のスタイルを堪能した快演だった。

 またピアノの前に立ち、オカリーナを。今度はE♭のオカリーナから吹き始めた。曲も(3)と逆のパターン。途中でB♭に持ち替える。
 テンポを揺らしながら、爽快なフレーズ。足でのビート踏みも場面ごとでパターンを替えた。

 続く"おい郷、おまえなー"も、アルバム「旅」に収録。ライブでは久々に聴く。
 訥々とした美しいメロディをじっくり解体し、アドリブに持ってゆく。途中でパワフルに盛り上がった。
 この曲もさまざまな思いが噴出す、味わい深い演奏だった。彼の音楽へ気持ちよくのめりこんでゆく。
 唸り声はピアノとはじけ、旋律が彼の唸りを包み込んだ。

 次がボサノヴァの曲。といってもリズムはどっぷりぬめったジャズの色合いが強い。
 テーマの部分で手短に内部奏法を数度。手の甲で低音部分をざらん、と鳴らす。
 アドリブはテーマと混在し、ぐいぐいグルーヴィに。熱っぽい演奏へ感激しながら聴いていた。クラスターがメロディアスに炸裂し、盛り上がる。
 
 ええと、と手元に置いたセットリストの紙を見る明田川。「あと3曲だ」、と呟いた。
 "アルプ"。なんだか前のめりのアップ・テンポだった。手短にテーマを片付け、アドリブへ。"猫踏んじゃった"を連想するフレーズをアドリブの末尾に付け、さらにテーマの区切りでも飾る。
 性急でフリーな味わいを強調し、さくっと小品のように。しみじみした旋律なスローと思ってた。でも今夜は、明田川歩とデュオでこの曲を演奏するときのように、今夜はコミカルでフリー色へ軸足を置いた。そんなアレンジが新鮮で面白かった。

 「次は・・・"吉野ブルーズ"。歌詞を変えろとここには書いてます。吉野は心が大きく、**(聴きそびれ)はタンシオが好き、と」
 イントロは短めに歌詞へ。途中で明田川も噴出してしまい、アドリブもそこそこにサクッとこの曲は終わった。

 「では最期に、早川岳晴の"ポップ・アップ"を」
 ずいぶん久しぶりに聴く。ちょっとログを検索したら05年の2月の深夜ライブで演奏していた。

 鮮烈な響きのメロディ。途中でブレイクが数拍。
 足音がかすかに響き、次のテーマへ突き進む。
 すっばらしくかっこいい。洗練された旋律がはじけた。
 強力な左手ベース・ランニングも明田川の武器の一つだが、この曲では低音リフをさほど強調しない。もっぱらメロディで強烈にグルーヴさせた。

 意外な選曲だと思ったが、以前に早川らとバンドを組んでいた時に、明田川はしょっちゅう演奏。もともとは2曲だったのを1曲へ早川がまとめ、ドクトル梅津バンドのレパートリーにしたという。
 テーマからいきなりフリーのアレンジもあるが、明田川はブレイクありの展開が好きで、今夜もそれを採用したそうだ。先月のセッションで久しぶりに取り上げ、今夜の演奏にも繋がったみたい。

 クラスターが炸裂。のめりこみ、両椀で鍵盤を打ち鳴らす。
 瞬時にメロディへ戻り、高らかに旋律を奏でた。
 ハイテンションで疾走する演奏は、どんどん熱気が高まる。明田川の顔は真っ赤。
 しゃにむなクラスターは、あざやかにテーマへ戻った。ゆっくりとコーダを弾き、きれいに着地した。
 ここまでで、およそ1時間強のライブ。

 アンコールのように、最期はもう一度オカリーナの独奏を。足元のダンボールに入ってるのは、オカリーナだった。作ってきたばかりとか。
 さらに2本Bbを取り出して、いくどか持ち替えながらしばらくアドリブを提示した。

 今夜はやりづらい環境にもかかわらず、1時間以上に渡っての熱のこもったライブを聴くことが出来、ほんとうに感激した。
 どの曲も聴き応えいっぱい。叶うならば今夜のテイクからもぜひ、CD化されたら嬉しいな。作品化にふさわしい演奏だったと思う。

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