LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/10/25 西荻窪 アケタの店
出演:明田川荘之
(明田川荘之:p,オカリーナ)
深夜月例ライブ。演奏前にスタッフへ、一枚のCD−Rを渡す明田川荘之。足元には各種オカリーナの入ったアタッシュケース、ベル、そして珍しくタンバリンも準備した。
今夜は口元を狙うマイクが、ちょっと遠めにセッティングされていた。
ライブが始まったのは0時20分頃。曲紹介をして、オカリーナを持つ。
ゆったりなテンポで、イントロから"リンゴ追分"に。やがてアドリブへ変わる。ひとしきりオカリーナの独奏、軽く音を立ててピアノへ置き、ベルを一振り。鍵盤を押さえた。
つと指を伸ばし、ピアノ線をぱらりはじく。今夜、内部奏法はこの瞬間だけだった。
<セットリスト>(不完全)
1.リンゴ追分〜オーヨー百沢
2.Like someone in
love
3.世界のめぐまれない子供たちへ
4. ?
5.ブラックホール・ダンシング
6.マジック・アイ
7.ロマンテーゼ
8.吉野ブルーズ〜ブラックホール・ダンシング
9.村時雨
"オーヨー百沢"はテーマから、滑らかにアドリブへ変わった。乾いたタッチで緩やかにフレーズを紡ぐ。中盤でテーマを蘇らせ、アドリブへ戻る。
早々に唸り声が登場したが、粘っこさは控えめ。あっというまにエンディングへ向かった。
足元のセットリストを見ながら、一曲づつ曲名を紹介しながら演奏する。のけていたピアノの譜面台を、セットしなおした。
スタンダード"Like someone in
love"は、強力な左手のベース・ランニングを土台に、めまぐるしくアドリブが駆け抜けた。
高速テンポで疾走し、グルーヴをぐいぐい搾り出す。
ときおりテンポは揺れる。溜めては突っ込み、ふっとスローでテンションを緩めた。
それでもまだ、ギアはトップに入っていない。
弾き終わるなりピアノの中を覗き込む。ピアノ線が切れたのか。変な音したよな、とぼやいたのは、ここだったろうか。
かまわず、そのままライブは進む。
明田川のテンションは続く"世界のめぐまれない子供たちへ"から、熱く噴出した。
センチメンタルなテーマがアドリブへ移りつつ、するりとテーマのリフレイン。テーマの繰り返しがアドリブに溶ける、螺旋のような独特のスタイル。聴きながら、どんどん彼の音楽へ没入した。
たっぷり"世界の〜"を弾いた後、「ボサノヴァです」ってタイトルとともに次の曲を紹介した。おそらく先月の月例ライブでも演奏した曲と思うが、名前を聴き取りそびれた。
カバー曲だろうか。初手からどっぷりとテンポを揺らし、がっつりアドリブを盛りたてる。テーマも含めて明田川節に塗りつぶし、オリジナルみたいな趣きだった。
ボサノヴァの軽快なリズム感とは違うベクトルを志向。濃密な世界をじっくり描いた。
"ブラックホール・ダンシング"でクラスターへ。ひじ打ちを軽く落とし、鍵盤へ腕を振り下ろす。
イントロなどでタンバリンを持ち上げ、膝で裏拍を叩きながら左手はベース・ラインを。タンバリン使うアレンジ、珍しいかも。
テンポは速いが、軽やかさを残した。テンション高いソロとテーマが行き交う。細部のメロディをフェイクさせつつ、明田川は弾きまくった。
次の"マジック・アイ"が最高だった。続く"ロマンテーゼ"とともに、ぜひCD化して欲しい。
深夜ソロでこの曲を聴くのはひさしぶり。丁寧にテーマを盛り上げ、がつんとアドリブで崩す。
凄みを奥に潜め、着実にテンションが高まってゆく。きれいなメロディがくっきりと現れる瞬間がたまらない。
唸り声はどんどん派手になってゆく。時間は短めで10分強だったろうか。広大なサウンドをじっくりと提示した。
"ロマンテーゼ"ではストイックさを強調。凛とした香りを漂わせ演奏をまとめた。
「11拍子だから、拍子取らないほうがいいかも」
イントロでいったん中断し、にやりと告げる明田川。そのまま間をおかず、演奏に。
包み込むようにテーマのリフレイン。幾度も繰り返され、フェイクしてゆく。アドリブも11拍子のまま演奏してた感触。イメージが統一されてブレない。
これもとてもきれいだった。
冒頭で2種類のオカリーナを吹き分けるソロを入れたのは、"吉野ブルーズ"の前だったろうか。記憶があやふや。
ピアノはブギウギ調でイントロから猛烈にぶっ飛ばす。スニーカーの左足がハイテンポで床を踏み鳴らし、ノリを切らさずに高速フレーズを弾きまくった。
唸り声は時に悲鳴なほど高まり、顔をしかめながら。
おもむろにシンプルな"吉野ブルーズ"を歌う明田川。今夜はこのコミカルな歌詞の場面が一度だけ。あとはピアノの豪快なプレイを存分に披露した。
ブギウギがどんどんフリーへ加速してゆく。メロディ感覚を残したクラスターが飛び出し、ばらばらばらっと鍵盤を打ち鳴らした。
いつしか完全フリーに。明田川は両腕を鍵盤へ激しく叩きつける。前のめりで客席から頭が見えなくなるほど、かがみこんで腕打ちの連打。
さらに中腰でピアノへ立ち向かい、乱打がひたすら。両方ともこれまでとは違う姿勢だった。最近は、ライブ毎にクラスターの打ち方を変えているのだろうか。
かがみこみと中腰が幾度も入れ替わった。強打のクラスターがぐわんぐわん轟く。
終盤で曲が変わり、"ブラックホール・ダンシング"の断片が再び現れる。
"アケタズ・グロテスク"あたりにへ行くかと思ってたら、即興と"ブラックホール〜"の繰り返しが混沌と行き交い、そのままコーダへ雪崩れた。
いきなりエンディング。客が拍手をする間もなく、スタッフへ合図した明田川は立ち上がった。
冒頭に渡したCD−Rから、店内にアコギとシンセで作ったサウンドが流れた。息を切らし、消耗した明田川がオカリーナを持つ。"村時雨"をしみじみと吹き始めた。深夜ライブでこのエンディングを聴くのは、数年ぶりかもしれない。
疲れて辛そうな表情の明田川。朴訥としたメロディをそっと吹く。場面ごとにオカリーナを持ち替えて。
伴奏でシンセの野太いストリングス音色が、店内へぶわっと広がる。旋律を吹き終わった明田川は目を閉じて立ったまま、流れる音楽へ耳を傾ける。
音が消えると観客へ会釈。ライブは終わった。
100分あまりの熱演。3曲目あたりから立ち上った盛り上がりは途切れることなく、最期まで翔けた。味わい深い、濃密で素敵なライブだった。