LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/10/14 大泉学園 in-"F"
出演:不破大輔+太田惠資
(不破大輔:b、太田惠資:vln)
今夜の仕切りは不破大輔だろうか。当初のスケジュールは確か"不破+太田+α"と告知、数日前に「デュオになった。映画音楽をやる予定」とインエフのブログに紹介された。
まずステージにはウッドベースのみが横たわっている。今夜のベースはアンプなしの生音。太田惠資が20時ちょっと前に登場、あっというまにセッティングをすませた。
太田もアコースティック・バイオリンのみ。パーカッションやメガホンも無し。マイクは上から立て、ごく薄くエコーをかぶせた。
ちなみに譜面をどっさり持ち込んだ太田。不破も映画音楽の譜面を買っていたという。
ところが開演の開口一番、太田が告げた。
「タバコ吸ってる間に決めました。われわれが映画音楽を担当したらどうなるか、ということで」
いきなり企画ががらり変わり、どっぷり即興のライブへ突入した。
演奏前、入念に弓へ松脂を塗る不破。しかし弓は後ろへ立てかけたまま。最期まで指弾きで突き進んだ。
まず太田が口火を切る。ゆっくりとメロディを。しばし耳を傾けた不破は、軽く弦をはじいた。いつものように、ウッドベースを目の前へ掲げるポーズで。
太田は軽くグランドピアノへ寄りかかり気味な姿勢。ときおり身体の前で足を交差さす。すっくと背筋を伸ばした立ち姿が多いのに、珍しい。
バイオリンのメロディと平行して、ウッドベースの音が鈍く響いた。次第にテンポ・アップする。二人は若干は絡み合いつつも、それぞれが存在感たっぷりに即興を繰り出した。
滑らかにテンションが上がる。不破の指捌きが激しくなった。シンプルなフレーズながら、奔出する雰囲気に、強烈で濃厚なジャズを感じた。
太田は指癖をあえて避けるかのように、硬質で美しいメロディを果てしなく紡ぎ続ける。ヨーロッパ調の旋律から怒涛のソロへ。まったく立ち止まらず、バラエティ豊かに。
今夜はソロ回しの概念は無し。逆に伴奏と主旋律の立ち位置も無い。互いの音楽が、じわじわと捩り合わさり、高まる。
1stセットは太田が弾きまくり。不破は音世界を共有するいっぽうで、自らの個性をがっちり残して弦をはじき続けた。
長尺一本勝負ながら、実際はメドレーっぽい展開。5〜10分くらいで一つの場面が収斂し、コーダへ向かう。ただし互いに音を止めず、どちらかが新しいきっかけを提示した。
整ったメロディを即興で間をおかず弾き止まぬ、太田の懐の深さに舌を巻く。あるときは叙情的に、次には凛と。個性豊かな旋律があふれ出る。
太田は目を閉じバイオリンを奏で、不破はときおり視線を太田へ向ける。
極太の低音が強靭に唸り、鋭いバイオリンと絡んだ。今夜の不破はひときわ自由だ。明確なビートを出しながら、リズムやバッキングの立ち位置は取らない。パルスが連なって一連の流れを作る。単音の連続すらも、凄まじい存在感があった。
太田は前半でボイスも無し。ただ、バイオリンへ没入。中盤でいったん弾きやめた。流れでベースのソロへ。
ぐいぐいとシンプルな音列を繰り返してた不破は、そのまま無造作に音列を複雑に。やがて手数が多く、ノリは濃くなった。
不破の4つ頭打ちのフレーズへ、太田がピチカートで応える。
ベースのパターンへ裏打ちで、太田がオクターブ上でなぞり応答を。さらに半拍へ符割を崩して絡んだ。そして弓を構え、メロディに。
最期はすっと二人が同時に音を止め、そのまま終了。40分ぐらいか。
ロマンチックなバイオリンと、がっちりグルーヴィなベースの即興合戦がたまらなくかっこよかった。
後半セットは「ドリフのもしもシリーズ」と太田が言い出す。「もしも、二人が映画音楽をやったら・・・ダメだこりゃ」
笑いを取って「気が向いたら曲をやろうか」と、背後に置かれた譜面の山へ視線を投げた。
後半はよりエッジの立った即興だった。美しいメロディとしっかり磁場を作った低音の応酬は、さらに対話のバリエーションを増やした。
ビートの頭をベースとバイオリンで微妙にずらし、多層構造を作る。
不破が猛烈に手数を増やし、あっという間に汗まみれ。
冒頭早々から太田が音を休め、たっぷりとベースのソロへスペースを作った。ベースは唸りながら高速フレーズも。
ばらり、と弦を指ではじく太田。沖縄風の旋律で、なおかつ符割をずらしてベースに絡む。
後半セットもいくつかの場面あり。太田は頭でイメージをもって弾いていたかは知らない。しかしどの風景もくっきり描かれ、ストーリー性の高い展開だった。
抽象的な音列の交錯ではない。バイオリンもベースもメロディを前面に出し、なおかつロマンティシズムを保持し続ける。
こういう不破のベースを聴いたのは、初めてかも。デュオでありつつ単独でも成立。相反する要素をあっさりと、ベースで作った。
ゆったりした複数弦奏法のロングトーンで、ベースを美しくバイオリンが飾ったのもこのあたりだったろうか。
中盤では太田がついにボイスを出す。弾きながらメロディをなぞる形をとり、ユニゾンで歌いまくった。ブルージーな香りを漂わせ、スピーディに駆け抜ける。
シャウトへ不破も応え、ベース・パターンへ叫びも混ぜた。太田がアドリブと並列で歌うならば、不破はリフの一要素でシャウトを入れた。
互いの叫びと演奏が高まり、そのままアカペラへ。二人が吼えあってブレイク。
このあたりから、さらにシアトリカルな世界へ。もしかしたら映画音楽をやっていたのかもしれない。ぼくは知識が無く不明だが・・・。
とっても美しいメロディがバイオリンから産まれた。チャップリンの"スマイル"を弾いていたそう。
ベースがゆっくりしたテンポで追いかけ、音を支える。2ndセット後半は、よりアンサンブル色が強いアレンジだった。
バイオリンのメロディが解体し、あきらかなアドリブへ雪崩れる。
「遠慮しないで、笑ってもいいんだよ」
大真面目な表情で、太田がポツリ。"スマイル"に引っ掛けた台詞ではないだろうか。
そのままさらに、太田はアドリブを深めた。
場面はベース・ソロへ。太田はコル・レーニョで静かに音を加える。弓でひとしきり弦をはじいたあと、しゃにむに弓で弦を弾き毟った。
今夜はひときわバイオリンの弓の毛がざんばらに。穂のように垂れ下がった毛を軽く払って弾く。高速フレーズを連発してるとき、指が弓に絡まないかと見ていたが、まったく忖度せずに演奏は続く。
不破の指が弦の間を猛烈に動き、高速リフがひたすらばら撒かれた。全部の弦をフルに使った、ダイナミックな演奏は視覚でも迫力ある。スケール大きく、速度が上がってゆく。
最期はウッドベースの弦を押さえた指板の部分を、左指でくるくるとはじく。静かな音像へ。
なんだか腰砕けのように、がらがらっとコーダへ。太田が苦笑して終わりを告げた。約45分くらい。
アンコールの拍手が止まない。いったんは終了しかけたが、横に置いたベースへ不破がかがみこみ、リフを弾き始めた。
微笑んだ太田がバイオリンを構えなおし、アップテンポのきれいなメロディを。これも即興だとしても、まるで曲のように聴こえた。カントリーっぽい印象あり。
不破は中腰の辛そうな姿勢のまま、ウッドベースをエレベのように弾いていた。バイオリンのソロが華やかに盛り上がり、コーダへ。
いったん音が止み、ベースに主導権が移りかける。バイオリンのボディを軽く叩く太田。
不破が同じくウッドベースを叩き、にやりと笑った。そのままぐいっと、ベースを持ち上げた。
ソロかな・・・と思わせて。そのまま180度逆にベースを置きなおしただけ。
「終わりです」と笑顔。
改めて二人の即興センスに圧倒された。寄り添いも双頭インプロも自由自在。アイディアがつぎつぎに投入され、互いがじっくり練り上げつつ咀嚼しあう。
しかも今夜は「映画音楽」のイメージを共有することで、互いの技はあえて縛りをつけた。
例えば太田のアラブ風味はぐんと抑えられ、欧州風のふくよかな旋律が主体。不破も豪腕のベース・ソロはあえて避け、じっくり盛り上がる。
にもかかわらず、まったくサウンドは停滞しない。多彩な展開だった。何らかの形で、ぜひまた聴きたいコンビ。濃密で充実したライブだった。