LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/10/1  西荻窪 アケタの店

出演:板橋文夫G
 (板橋文夫:p、井野信義:b、小山彰太:ds、外山明:per)

 板橋文夫のライブを今年の4月ぶりに聴く。前回聴いたトリオへ外山明が加わった編成にて。
 まず外山、続いて他のメンバーもステージへ現れた。板橋は立ったまま無造作に、手で鍵盤を払うような仕草でぱらりぱらりと音を出す。外山も手持ちのパーカッションを軽く叩いた。
 開演時にマイクが入らず、スタッフが急いで確認するも叶わぬまま。
 鷹揚に手を振った板橋がライブを始めた。

 「"10月1日"をやります」
 いきなり宣言、トリオが一気に突っ込んだ。譜面ものかな?井野信義の前に譜面台があるものの、ほとんど見ている様子は無い。もっとも彼は2ndでの数曲以外は、どの曲も暗譜で演奏していた。
 
 いきなりリフがそこかしこでびしばし決まり、いっきにピアノソロへ雪崩れた。
 強いタッチで鍵盤が轟き、ドラムが後押しする。ベースがゆったりうねらせ、さらに外山のパーカッションが時にコミカルなほど、浮遊感を漂わせた。

 今夜の板橋はパーカッションを準備せず。グランドピアノのみでライブへ臨んだ。
 ピアノの上に自転車のベルみたいなのを置いてたが、使わずじまい。ちなみにそれは2ndセットの時に井野が無造作に取り、ほんのちょっとチリチリ鳴らしてた。
 板橋はまともに座って弾く時間のほうが少なそう。
 中腰、時に完全に立ち上がって鍵盤をパワフルに打ち鳴らす。身体はぐいんぐいん揺れた。
 ハードなソロだけでなく、リリカルな旋律を奏でるときでも、力やボディアクションの入り具合は変わらない。

 最初の曲を20分くらい、あとは数曲をメドレー形式でずっと演奏。インプロも混ぜていたようだが、区別はいまひとつわからない。
 板橋は基本的にしゃにむなソロを繰り広げ、力尽きたように崩れ落ちてソロをベースへ回した。
 ピアノは今夜も豪腕なステージ展開だった。MC無し。曲の赴くままに展開する。

 板橋へ背を向ける姿勢で、大胆にベースを操る井野。
 ほとんどが指弾きで、ときおりアルコで響かす。弦の端を弾く特殊奏法もしばしば披露した。
 コーダはほとんど、板橋と小山彰太が視線を合わせて突っ込む。奔放に突き進み、切り落としては次のモチーフか曲へ疾走する。
 モダンなパターンから、前衛まで立ち位置は幅広い。板橋の提示する世界感へ時にあわせ、時に別の方向へ。自在に板橋の音楽と絡んだ。
 
 今夜はまるで、パーカッション四重奏って印象。
 板橋の鍵盤はもちろん歌心たっぷり。けれども旋律あるパーカッションのごとく、音は跳ね回る。
 ベースも着実かつ大胆な音の動き。いわゆるベースラインもあったが、パルスのようなフレーズがひときわ際立った。
 スティックやブラシで叩きまくる小山は言わずもがな。

 そして、ステージへさまざまな音の表情を与えたのが、外山だった。
 今夜はアフリカあたりのコンガを3種類持ち込む。一つは樽のように馬鹿でかい。さらにカウベルと小さなカオスパッドも準備した。
 最初はバチを中心に、コンガを叩く。腕の関節を捻り、振り下ろすより打面へ置くがごとく。
 バチの動きでボリュームやダイナミクスをつけ、音数は少ない。
 正直、最初はビートの頭がグラングラン揺れて、アンサンブルとの調和が読めなかった。

 けれどもベースのソロから小山のソロに到ったとき。ぐにゃりと世界がまとまった。
 ベースとピアノが休んだパーカッション・デュオ。外山のアプローチは変わらないし、リズムの頭はうねってゆく。なのに二人の繰り出すビートはグルーヴィに踊った。
 ステージを通し、外山はほとんど激しさを出さない。軽いタッチで太鼓を叩き、玩具のようにカオスパッドを扱った。

 特徴的だったのが、カウベルの扱い。1stセットが始まりしばらくして。カウベルを左手の人差し指からぶら下げ、親指と薬指、小指に金属板のついた指貫をはめる。
 それでカチコチと始終叩きつつ、外山は右手で太鼓を演奏した。
 タッチは小さく、タイミングもバラバラ。ハイハットのリズムとズレるビートが、ポリリズミックに調和する。

 途中からほとんど、外山は立ったまま。足でコンガの端を持ち上げ、しじゅう手元へ引き寄せながら叩いた。
 2ndセット終盤では叩くタイミングが拍の頭と微妙に重なり、少ない音数でも強烈にスリリングだった。どう揺らし、どうあわせるか。鳴らすたびに面白い。

 カオスパッドの扱いも多彩。メロディを即興で出し、リズム・ボックス的にも使った。
 あれは2ndセットのベース・ソロ。井野が目を閉じ、無心にフレーズを繰り出していた。
 唐突に、カオスパッドが野太い電子音を出す。
 目をぱちくり、な井野。
「びっくりしたー」
 つぶやいて微笑む。そのままアドリブが続く。外山はリボン・コントローラのようにカオスパッドでメロディを繰り出し、ベースへ絡んだ。
 
 続いて小山のソロ。今度はスクラッチ風の音色で、パーカッシブに切り込む。小刻みなビートをタッピングし、小山とソロの応酬を繰り広げた。ダイナミックにスネアやシンバルを操り、タイトな刻みのハイハットで沈める小山の動きと、手先だけで激しいリズムを合わせる外山の対比が興味深かった。

 前/後半ともに60分程度。後半セットも数曲をメドレーで演奏した。
 板橋のピアノはいつも振れ幅が大きな美しさがある。猛烈に突っ込んだ直後、叙情的な旋律でしっとり。リフが高まってアドリブへ流れ、即興の混沌に呑まれる。
 別の曲へ行ったと思いきや、改めてバラードに戻る場面もあった。

 最期は威勢のいいアップテンポの曲。ピアノが鍵盤をひっぱたき、リフをトリオであわせる。外山は付かず離れず、だがグルーヴは維持したままの太鼓。左手のカウベルは鳴らし続ける。
 板橋のソロが高まって、ベース・ソロへ繋いだ。コーダへ行くと見せかけ、幾度もテーマのリフレインに。
 
 板橋がグリサンドで駆け上がる。幾度も。
 最期にがしゃがしゃん、とグリサンドで音が高まって幕を下ろした。
 もごもごとメンバー名を叫んで、ふらつきながら板橋はステージを去る。

 アンコールは無し。とはいえMCも無しでほぼぶっ続け。ソロ回しの合間に一息つくことはあっても、全体では濃密なテンションが維持され続ける。
 今夜は補助椅子がいくつも出るほどの満席。熱気でじわじわと熱くなり、ステージからは音の奔流が降り注ぐ。外山のクールに振れるリズムも、最期は大きなうねりと感じてのめり込む。
 聴いた、と気持ちが腹へ落ちる。満腹した心地よいライブだった。

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