LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/9/26 新井薬師Special Colors
出演:松本+室舘+山本
(松本健一:ts,尺八,etc.、室舘彩:voice,per、山本達久:per、Guest:マニュエル・ナップ(?):electronics)
松本健一+室舘彩のライブは聴いてみたかった。ようやく日程と場所と都合が合う。今夜はパーカッションに山本達久が加わる。さらに来日、山本の家へ滞在中というウィーン出身の白人男性もゲストで参加。
マニュエル・ナップと聴き取ったが自信無し。ネットで調べたがどの人か特定できず。
会場は07年8月にオープンしたフラットなフリースペース。シンプルな内装で、ルームエコーはごくうっすらあるくらいか。いっぽうライブの最中、パーカッションの響きで耳がワンワン言うほど、でかい音で轟く場面も。
壁一面ぜんぶをステージにした。松本と室舘が両端にぐんと離れて立ち、間に山本とマニュエルが入る。山本は1スネア1シンバルのセットで、周りに各種シンバルや半球型のドラ、小ぶりの鉄琴などを並べた。
室舘はマイク一本。足元にタンバリンとドリンクだけ置いた。
マニュエルの機材は台上へエフェクターをずらり。よくわからなかったが、コンタクトマイクを増幅し、ノイズ源にしてたのかも。小さなマイクらしきものを口にくわえたり、指先で台を小刻みにこする場面なども。基本はエフェクターのツマミを、静かに色々いじっていた。
室舘とマニュエルが背後にスピーカーを一台づつ使って増幅、松本と山本は生音。
開演時間を15分ほど押し、ライトが落とされる。もともと客電はさほど無し。数本のスポットライトがステージを照らしていた。
それらのライトも、客席横のPAで操作。おそらく全てマニュアルと思う。場面ごとにあわせ、ライティングを効果的に変化。後半セットで1台のみ赤フィルムを貼った以外は、全て白ライトのまま。
全てをスポット/溶暗/明度の変化で、じんわりかつ見事にステージの表情を変えた。
<セットリスト>
1.即興#1:全員 (約45分)
(休憩)
2.即興#2:山本+マニュエル(約10分)
3.即興#3:松本+室舘(約10分)
4.即興#4:全員(約20分)
まず山本が口火を切った。シンバルをスティックで強く引っかく。間を置いて、もう一度。マニュエルがじわっとノイズを載せた。
松本は尺八を構え、そっと吹いてゆく。小さく、シンプルな音で。
いきなりだが、マニュエルのセンスの良さへ惹かれる。ハーシュでもなく、アンビエンと一辺倒でもない。インダストリアルの要素も薄く、ループにこだわりもせず。
音像の下地を膨らます抑えっぷりと、すかさず前に出て響かすバランス感覚。さらに音色の変化でノイズにバラエティを持たす。ばっちり出音を操っていた。
ハーシュでも静寂でも、極端なノイズがどちらかといえば好み。しかし彼のノイズは素晴らしく感じた。
前半は特にストイックな即興が繰り広げられた。互いの音に反応を控え、音楽を提示しあう。あえて中心やソロ回しを置かず、並列に。個人が特に前面へ出しゃばらず、緩やかに寄り添って捩られてゆく。それでいて、繰り返し性は低い。変貌する音像が緩やかに開いた。
山本、松本、マニュエルの音がじんわり響く。室舘は目を閉じ、マイクの前でピンと背を伸ばし立っていた。やがて、声を乗せる。低く起伏の薄い旋律を延々繰り返した。
重たげな即興のなか、山本が半球のドラみたいなものを叩き始めた。
一転、場面が荘厳に。寺院の中で流れる音楽のようだ。厳かな雰囲気で、しばし音楽が高まった。
室舘の声がマニュエルのノイズと溶け合う。その瞬間、空間が一つに統合された。
マニュエルがぐんっと前へ出て、電子音をうねらせた。山本はブラシへ持ち替えたろうか。松本はテナー・サックスへ。全員のタイム感はずれたまま。
山本も含めビートを明確に提示しない。それぞれが微妙にずれた時間軸で演奏を重ねた。
そもそも松本はメロディをほとんど吹かない。リズムの要素も希薄なまま。テナーを足の間に挟む姿勢で背を丸めつつ、サックスを軋ませ続ける。
かといってノイズマシンとサックスを位置づけもしない。あえて苦難の道を選ぶがごとく、小さめの音量でぎしぎしとサックスを鳴らした。
フレーズもロングトーンも特殊奏法も、全て断片のみ。テンションを保ち続ける演奏だった。
この後はさまざまな場面が浮かんでは消える。
松本は拍子木めいた楽器を取り出し、鋭く幾度も打ち鳴らした。
マニュエルは電子音を漂わせ続ける。ときおりボリュームを上げ、前へ出た。
山本は首からぶら下げた袋から金属の丸棒群をつかみ出した。鉄琴の部品みたい。それをシンバルへ上から落とし、床へばら撒いてゆく。
室舘は日本語の歌詞で、即興歌を膨らませた。オンマイクからオフマイクへ。テンションをぐいぐいあげて、あたり一面に、叫ぶような歌声を轟かせた。
山本がシンバルをロール。みるみる高まり、耳をつんざく。マニュエルのノイズも載った。
ふっと山本が音を切る。しかし松本と室舘は淡々と、演奏を続けてた。
室舘が歌い休み、目を閉じて音楽へ聴き入る。他の三人がノービートで即興をじわじわ広げる中、指でリズムを取り出した。足元からタンバリンを拾う。微笑みつつ威勢よく叩き出した。
山本とマニュエルが反応。松本は変わらず自分の音楽を搾り出す。
ライトが室舘を眩く照らした。軽くステップを踏みながら叩く姿が、影となって背後の白壁にくっきり映った。
ひとしきり演奏が続いた後。山本が満足げな表情で演奏を止め、音楽へ耳を傾ける。
室舘と松本もぐいっと収斂させ、最期にマニュエルがツマミを捻ってノイズを沈めた。ノンストップで約45分の演奏。ここで休憩。
後半は山本とマニュエルのデュオから。スタックしたシンバルをノービートで叩き、ブラシやマレットも使ったと思う。
ビートを回避しつつ、小さな連打から複数のシンバルを打ちかえるバリエーションまで、山本は立ち止まらない。
マニュエルは鋭い電子音から歪んだ響きまで、音量/音色/音程を巧みに変化つけてゆく。数音でのリフっぽい場面も。
きっちりとコントロールされつつ不定形なマニュエルのノイズと、無作為ながらしっかりスティックを操る山本のコンビネーション。濃厚で、聴き応えばっちりの即興だった。
続いて松本と室舘のデュオ。室舘はなぜかストレッチしつつ演奏に備える。
二人の立ち位置がぐんと離れてるさまを、松本が「東京ドームで演奏してると思えば」って言い出し、そこから室舘が即興で"東京ドームの歌"を歌いだした。
松本はテナーを構える。伴奏でもソロでもない。軋んだ音を静かに搾り出す。歌詞を繰り返しながら室舘は歌い上げた。
「東京ドームで二人は100メートル離れてる。そんな二人のコミュニケーション方法は・・・っ」
たしか、こんな歌詞。そのまま、別の場面に行ってしまった。オチは・・・?!
室舘が一言で場面を提示し、大きく身体を曲げ耳に手をあて松本の反応を探るポーズを。
聴いてるのか反応してないのか、ほとんど変わらぬ音像のテナー。
とても抽象的な音が搾り出る。室舘はにこやかに同じパターンを繰り返す。そのギャップも楽しい。
そのうちに松本のフレーズがわずかに産まれ、室舘が合わせて歌いだす。
コール&レスポンスをほんのり匂わせつつも、完全に融合しない。ストイックな即興ながら、ユーモアをいっぱい含んだデュオだった。
最期は4人編成。マニュエルと室舘のデュオも聴いてみたかった。どんな音楽になるか、予想付かない。
山本が金属の丸棒を取り出した。いきなり激しく、別のシンバルへ投げつける。床へ勢いよく飛び散る。
一本はマニュエルの機材まで飛んでいった。無造作に摘み上げたマニュエルは、横へそっと棒を置く。
二本の竹製笛をアタッチメントで一本にした物を、松本が静かに吹いた。一本のみ指穴で音程を調整、もう一本はドローンで。しばし吹いた後、テナーへ持ちかえる。しかし尺八を持った松本は、その笛へ通してくるくると回し続けた。
風切り音はマニュエルや山本の音にかぶさり聴こえない。
最終セットは一段と抽象さを増した。濃密なサウンドが詰まる。
山本がスネアを幾度もロールで強打、終焉に向け場面の区切りを誘った。松本のテナーが、ようやくフレーズへたどり着き、野太い音を幾度か響かす。
そして全員の視線が交錯しあい、コーダへ到った。
松本と室舘デュオと全員編成での音像は、コンセプトへ相当に差があった。
山本が加わる場面では、ユーモア要素を合えて控えたか。予想以上にずぶずぶの聴き応えある即興が、バラエティ豊かで濃密に広がる。とても面白いひとときだった。また聴きたい。