LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。


2008/9/14   吉祥寺 sometime

出演:ギラ+南+水谷+松山
 (ギラ・ジルカ:vo、南博:p、水谷浩章:b、松山修:ds)

 ギラ・ジルカの歌を聴くのはたぶん始めて。サイドメンの顔ぶれも凄腕ぞろい。積極的なライブを聴いてみたかった。
 今夜は1stセットからみっちり。ステージ後方、レンガ席から聴く。ミュージシャンの背後から見る機会はそう無くて、嬉しい。

 開演の19時半ちょっと前に、水谷浩章が譜面を持ってふらりとステージのスペースへ現れた。南博がスタンバイしないと楽器のポジションへ落ち着けないのに。
 どのセットでもまず水谷がきっちりと、時間ちょうどに現れた。もっとも今夜はほぼ全て、時間どおりに演奏が始まる。特に客電が落ちるでもなく、ごく自然体に。
 1stが始まる頃合。南がくわえタバコのまま姿を見せた。のっそりとピアノへ向かう。
 
<セットリスト>
(1st)

1.But not for me
2.Deluve(?)
3.LOVE
4.Honey sucklerose
5.On a clear day
6.Smile
7.Love for sale
(2nd)
1.How insensitive
2.Blame it on my youth
3.My favorite things
4.Havana Gila
5.You'd be so nice to come home to
6.Fly me to the moon
7.S'wonderful
(3rd)
1.Wildflower
2. ?
3.Teach me tonight
4.The "Boy" from Ipanema(incl.take the A-Train)
5.One note Samba
6.Misty
7.Route 66
(アンコール)
8.Autumn Leaves

 どのセットも約1時間みっちりでびっくり。3rdセット構成だと1セット40分くらいと思ってた。基本的な進行は全て一緒、まず2曲はピアノ・トリオのインストから。曲目紹介をするでもなく、無造作にスタイリッシュなジャズが流れた。

 最初はスタンダードの"But not for me"。南のピアノが静かに盛り上がり、水谷ががっしり支える。水谷は今夜、フレットレスの4弦エレベのみ。ボディは傷だらけで、かなり年季が入った楽器。
 松山修は初めて聴くと思う。真っ直ぐに振り下ろすリズムで、手数が細切れ。スペースも考慮してか、さほどボリュームは大きくない。しゃきしゃきと小気味いいリズムで、ノリをぐいぐい動かす水谷と対照さを出した。

 1stセットは途中でうとうとしながら聴いていた。2曲目がウェイン・ショーターの曲、と譜面に。タイトルは"Deluve(?)"と読み取れたが、帰って検索してもヒットせず。間違ってるんだろう。
 6/4拍子、頭1拍休符で下から順番に上がっていくテーマ。素朴なフレーズがすっごく雰囲気あるジャズに仕上げるセンスがとても良かった。
 しょっぱなからソロ回しもたっぷり、じっくりと演奏する。

 全編を通じてベースが特に素晴らしかった。ピアノは寛いだ面持ちで豊潤なフレーズを次々出すが、バンド全体をまとめる方向性とは異なる。自らの美学をさりげなく披露する。
 ドラムもタイトに決めるテクニックはばっちり。トリッキーなリフで悪目立ちもせず、着実にスイングさせた。
 そしてベース。水谷は曲ごとにさまざまなアプローチを見せる。ぐいぐい押したり、ゆったりな符割で揺らしたり。彼のベースこそがアンサンブルをぎゅっと締め、有名曲ぞろいのセットリストに、新鮮さと瑞々しさを注ぎ込んでたと思う。

 さて、ギラの登場。すぐさまスタンドを横へ置き、終始ハンド・マイクだった。テーブル席だけでなく、満遍なく周囲の観客へ顔を向けるサービスぶり。
 スタンダードの"Love"から幕を開け、豊富なMCもはさみつつ次々と進行する。"ハニー・サックルローズ"では歌詞の一部のたびに、唇の横へ蜜が滴る様子を表しながら歌う。
 ときおり日本語も混ぜていた。バンドの一体感を意識したか、「歌が歌がっ」って押し付けがましさが皆無。スキャットもしっくりとアンサンブルに溶ける。ジャズ・ボーカルはともすれば歌い手の個性が全面に出るイメージあったが、彼女はちっともそんなことない。
 有名スタンダードの連発でうんざりしそうなセットリストだが、退屈さは皆無。心地よく音楽へ浸れる。前衛さは無い。しかし滑らかなメロディを踏まえて、音楽が続く。
 ピアノ・トリオは甘さを隙無く敷き詰め、スイング。ボーカルは伸びやかに歌う。ボーカルの合間にも、ピアノやベース、ときにドラムのソロもたっぷりと。とても楽しく、ジャズ・ボーカルのライブを聴けた。

 小粋な"On a clear day"に続き、チャップリンの"Smile"。
 "Smile"の演奏前に「スイングで?」と尋ねる南へ、ギラが応える。
「ううん、まっすぐ」
 まっすぐってなんだよー、と水谷らが横で大うけしていた。

 コール・ポーターの"Love for sale"は、ギラが松山と水谷へ一言。それだけで、がっつり粘っこいファンクなアレンジで披露した。
 ぐいぐいと押す西海岸っぽいファンク。ギラは声を張り上げて歌いまくった。間奏では南がハンコックの"Rock it"らしきフレーズを一瞬挿入。ギラらが、にやり笑った。
 
 2ndセットは30分後。"How insensitive"と"Blame it on my youth"をピアノ・アドリブをたっぷり挿入して。前半の曲をかなり早めに演奏したかな。
 南のタッチは大胆さが仄見えた。めまぐるしく鍵盤の上を指が動き、和音をさまざまに押さえる。この日は左手が比較的シンプルに、右手で渋く盛り上げる。
 くるくるっと指が動く合間で、ぐいっと押さえる右手小指の動きが印象に残った。

「今のは大好きな曲です。演奏してくれて嬉しい。"Blame it on my youth"でした」
 インスト場面から滑らかに歌のコーナーへ繋ぐギラ。コップ片手にステージへ現れる。
 "My favorite things"もぐっとファンクなアレンジ。こんどはNYスタイルか、ぐっとシンプルで乾いたグルーヴでぐいぐい押した。
 ハリー・ベラフォンテがヒットさせたという"Havana Gila"は、ギラのルーツ、イスラエルの曲だそう。この曲も元気よく、ギラは歌いまくる。

 こんどはジャジーにスタンダードを2連発。特に"Fly me to the moon"はピアノの独奏のみがイントロ。ギラは南を見つめながらしっとりと歌う。
 1番をピアノだけ。低音が静かに響き、シンバルが鳴る。さりげなく滑らかに、ピアノの独奏はトリオ編成に移った。
 
 2ndセット最期は猛烈なアップのスイング、"S'wonderful"。ドラムはスティックをブラシへ持ち替え、激しく叩きのめす。ゴスペル・タッチの歌唱でギラはどんどん盛り上がる。
 ある意味、2ndセットはクライマックスだった。終了時間は22時。ちょうどここで観客が入れ替わるらしい。

 3rdは22時半の幕開け。ふだんはかなり観客数が減ることもあるそうだが、休日中日なためか、どのテーブルも観客が残っている。
 冒頭のインスト2連発は、ショーターの"Wildflower"から。ぐっとモダンな色合いのジャズが、きれいにはまっていた。南のピアノはますます冴え、水谷のベースがひときわ洒脱にグルーヴさせた。

 メドレーで演奏された2曲目は、タイトル不明。全員が譜面なしで演奏していた。スタンダードかな?メロディ・ラインは聴き覚えあった。
 早めのテンポでころころと弾む旋律が小気味よかった。ソロ回しからテーマへ戻る頃合で、ギラがさりげなく姿を見せる。

 今度はジャジーな"Teach me tonight"。冒頭に歌詞の紹介をして、親しみを持たせる工夫も忘れない。
 どメジャーな"イパネマの娘"は、歌詞を"Boy"に置き換えた。ここでも日本語の歌詞を織り込んだり、コミカルな要素も。中盤で南へギラが視線を投げたとたん、"A列車で行こう"を弾き出す。ギラも一節歌った。

 アレンジがめっちゃかっこよかった"One note Samba"。高速のドラム独奏のみをバックに、超速テンポで歌詞をまくし立てる。ラップではなく、きっちりメロディを保って。
 中盤でバンドも加わり、とびきりシャープでスインギーな"One note Samba"に仕上げた。

 夜が更けてきた。ピアノの独奏をたっぷり前面に出した、"ミスティ"を。ギラは南を見ながら、じっくり喉を震わす。
 ピアノのアドリブが、とても美しかった。

 最期は"ルート66"。大盛り上がりで幕を下ろした。跳ねるビートが全面に飛び交う。
 間奏では南が立ち上がり、中腰でロックンロールなソロを。リトル・リチャードばりに弾きまくる、お茶目なシーンも挿入された。

 アンコールはすぐに応える。
「水谷さん、終電は大丈夫?」
 と笑顔で尋ねるギラ。時間はすでに23時半。何をやろうかちょっと考えたギラは、「キーはCマイナーで」とメンバーへ告げたかな。

「とても有名なスタンダードです。"枯葉"を」
 ギラはそう紹介し、しみじみと歌った。

 全て終わったのは23時40分だった。3セット・ライブって、こんなに盛りだくさんとは。
 にもかかわらず、どの演奏も内容が充実。耳慣れた曲ばかりにもかかわらず弛緩せぬ、濃密な聴き応えをきっちり準備する。派手じゃない、極上のスイングに包まれた。
 味わいたっぷりなジャズを堪能の、贅沢な一夜だった。

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