LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/9/12 大泉学園 in-"F"
出演:煩悩六重奏団
(喜多直毅:vln,向島ゆり子:vln,会田桃子:va,翠川敬基:vc,西嶋徹:b,黒田京子:p)
今までセッションと勘違い。喜多直毅がリーダーのユニットみたい。サウンドもかっちり、アンサンブルがまとまっていた。客席は満席の盛況。
全員の曲を演奏する、とのコンセプト。冒頭からギャグ交じりで喜多がメンバーをじっくり紹介し、翠川敬基が混ぜ返す。
「この編成はクラシックだと、よくあります。でもわれわれ、テーマだけは譜面ですが、それ以外は何も決まってません」
喜多がユニットのコンセプトを明確に説明した。
フロアは座席を一つとって、バイオリン二人が客席にぐっとはみだす。間近で聴ける貴重な機会。ただしバイオリンの音が大きく鳴ると、ビオラやチェロの音が聴こえづらくなる。アンサンブルの決まった並びとは違うかもしれないが、左からビオラ、チェロ、バイオリン二人って順だとかなり聴こえ方が違いそう。
今夜は入り口横の台の奥で聴いてたが、場所によってけっこう響きが異なって面白かった。ベストポジションは、台の横へ体育座りかも。板の台へ反響するのか、アンサンブルの響きが強靭で素晴らしく心地よかった。
<セットリスト>
1.西日
2.アグリの風
3.向島さん
4.ムザン(?)
(休憩)
5.?
6.All
the things you are
7.泥の川
8.ホルトノキ
(アンコール)
9.聖夜〜夢
メンバーの曲を演奏するのが今夜のコンセプトだそう。一曲やるたびに、メンバーは入念にチューニングをする。
"西日"は西嶋徹の曲。今夜はデザインまで自らが施したというコントラバスを持ち込んだ。喜多が紹介のとき「量販店でもお求めになれます」と口走り、大爆笑。
前回のライブで聴いたときは重厚でウエットな印象だったが、今夜は涼しげ。イントロは喜多が口火を切り、しずしずとストリングスが浮かんでは沈む。
黒田京子がしっかりとサウンドを支える。滑らかな鍵盤が響いたとたん、しっかりと音像が締まった。
西嶋は無造作にコントラバスを奏でた。前半はピチカート。小さな音でもよく聴こえた。後半のアルコ弾きでも、軽やかに低音を扱う。
チェロはかなり音量を下げた。ピチカートでピアニッシモを操るときは、残念ながらほとんど音が聴こえず。演奏姿は、フラジオなどで音楽を揺らす。後半でアルコを持って、がっしりと鳴らした。
演奏中に向島ゆり子が足を踏み鳴らすのは、今夜控えめ。逆に会田桃子が凄まじいテンション。
"西日"でソロが回ったとき、リズム楽器のようにヒールで床を踏み倒しっぱなし。右足と左足でリズムを変え、パーカッション付きの勢いだった。
翠川はチェロへもたれかかるような姿勢で、目を閉じて音楽へ聴き入る。
翠川の曲"アグリの風"は曲紹介なしで始まった。
今度も喜多が鋭く弾き、ストリングスがまず重ねた。抽象的な漂いがしばらく続き、おもむろに喜多は主題を提示。そこでようやく、曲がわかる。
リズム楽器無し、弦のアタックが奏でる音符の連打はふくよかで鋭い。黒田はあえてユニゾンを避けたか、広がりある弾き方だった。
ソロ回しをじっくりと。向島は身体を大きく揺らしながら弾きまくり。
喜多がテーマの変奏を執拗に続けた。
音程を変えつつ、テンションあげてテーマの1フレーズを繰り返す。
次第に全体のムードが高まり、ついにアンサンブルがテーマへ雪崩れた。
会田の曲"向島さん"は素早いフレーズがそこここに入る、プログレ調の曲。難しい展開に「テンポを落とそう」と口々に。さんざん相談のあげく、「で、どのテンポがいいの?」と、会田へ尋ねる喜多。
ゆっくりもよろしくない、って会田により、アップテンポで演奏された。
雪崩のように積み重なるテーマ。ほぼ無伴奏な状態で、ソロが回されたのはこの曲か。
前半最後は"泥の川"を急遽変更、西嶋の曲を。どっかのアジア言語で、本ユニットに書き下ろしたそう。
ぼくの座ってた場所から喜多の譜面が遠めに覗けて興味深かった。テーマが提示され、中間部はなにも音符無し。
何か言葉のみが、書かれていた。"小さく細かく"って読める。
会田と向島が前のめりにリフを提示し、喜多が鋭くフレーズを重ねる構成。揺れる符割でかっちりと進んだ。
アドリブは最初、ハイテンションで喜多が弾きまくり。弓の毛は次々千切れ、椅子に座ったまま激しく足を踏み鳴らし、前のめりに猛烈なソロをとった。
ソロのテンションが持続したまま全体は熱く燃え、静かに着地。
ピアノがりりしいソロを決めた。
やがてアンサンブルはテンポ感を消して、抽象的で細かいフレーズを溢れさす。
一曲の中でダイナミズムが幅広かった。
後半セットはアップテンポな曲。ピアノ無しで演奏された。曲紹介を聴きそびれたが、向島の曲だろうか。
アンサンブルでピアノの位置づけが浮き彫りになった。ピアノ無しだと、アンサンブルは相当に重心軽くなる。メリハリが希薄となり、より音像が一点へ集中。
スピーディに全員が疾走した。
ピアノが加わった"All
the things you
are"。テーマの美しさにやられた。この曲はスタンダードだろうか。ハリウッド的なふくよかさを存分に溢れさす。黒田の演奏が骨組みを精巧に立てるいっぽうで、ロマンティックさを強調した。
ストリングスの揃った響きがもっとも流麗に膨らむ。他の曲と何が違うんだろう。和声か、コード進行か。びろうどのように弦が優しく耳元へ飛び込んだ。
ソロ回しはピアノとコントラバスが静かにバッキング、存分に奏でた。喜多は冒頭から燃えあがり、果てしなくメロディーをつぎつぎに放出する。
会田は俯き加減でのめりこみ、弓を激しく動かした。
ピチカートを多用し、落ち着つかせたのが翠川。じっくり確かめるようにソロを紡いだ。
クロスフェイドでソロは向島へ変わる。明るく力強いフレーズを重ねる彼女のバイオリンを支えるように、翠川はチェロをベースのように渋く決めた。
ソロは黒田へ回る。後半セットはタッチを強くしたのか、くっきり黒田の音が良く聴こえた。
弾きながら笑顔を西嶋へ向けソロを促す。が、そのまま西嶋はベース・ラインを奏でた。
さらにアドリブを重ねる黒田。唐突にカウントを始め、テーマへ戻った。しかも倍テン。
バイオリンを膝に立て聴き入っていた会田が、慌てて楽器を構えた。
前半テーマとは一転し、鮮烈な鋭さをまとった音像だった。
そして喜多の曲"泥の川"。「暗いです」と前置きした。確かに重厚。テンポは遅く、和音の響きはじんわりと漂う。全ての要素が鈍く、けれども峻烈に立ち上がった。
テンポの穏やかなアンサンブルが捩り合わさり、素晴らしく太くまとまる。酩酊するような快感を備えて音が揺れた。
滑らかかつ穏やか、しかし芯を確かに感じるサウンドへ耳を委ねた。
2ndセット最期は黒田の名曲"ホルトノキ"。お約束のように「#が4つある・・・」と翠川がぼやいた。
コメントせず微笑みながら、そっと黒田が鍵盤へ指を落とす。
翠川が独奏でじっくりとイントロの旋律を提示した。
この編成で聴く"ホルトノキ"は格別。厚みでもソロでも、いかようにもアレンジが変わる。テーマではバイオリンとビオラが、ピチカートからテーマの雪崩まできっちり決める。
チェロとコントラバスがピチカート部分では音数を絞って支えた。
さて、今夜のクライマックス。中間の即興場面がひとしきり盛り上がったとき。
ふと、女性の声が聴こえた。幻聴のごとく、静かに。
低く保ちつつ、確かな力強さも。
声の場所が一瞬わからず。向島がバイオリンを膝に掲げ、目を閉じて朗々と歌っていた。
会田も加わる。音程高く、しっかりと声を飛ばして。ぴいんと透明に張る会田、穏やかに包み込む向島。互いの個性がきっちりと絡み合う。
黒田のピアノは音楽の土台を優しくスケール大きく構築した。
アンサンブルが高まる。会田はビオラを弾きながら歌い続ける。
とびっきりの演奏だった。
拍手が止まない。メンバーはその場に座ったまま、アンコールへ突入した。曲をすかさず決め、ソロ回しや展開をあれこれ相談しあう。
"聖夜〜夢"とメドレーで。軽快に進み、それぞれを披露しつつ、一気にスパッと幕を落とす。小気味いい余韻が残る、粋なアンコールだった。
この編成で即興を繰り広げるスケール感は格別。個々のソロでも成立しえるものが、ユニットでの一体感まで昇華、確実に新しいものを作り上げていた。しかもインエフだと生音で、隅々まで聴けるメリットもあり。
次回の予定は知らない。しかし継続して欲しいユニットのひとつだ。