LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/8/30   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 土砂降りな雨の夜。月例の深夜ライブは無造作に始まった。娘の歩とデュオが続いた深夜ライブだが、今夜はひさしぶりに明田川荘之のソロだった。
 いつものアタッシュケースに入れず、手にいくつかのオカリーナを持った明田川がピアノへ向かう。足元へオカリーナを置いた。

 ぼそっと、つぶやくように一曲目のタイトルを告げる。小声のため、うまく聴き取れない。  
 ラテンの曲。スタンダードだろうか。彼のライブではあまり聴き覚えない曲だが、メロディはうっすらと記憶にある。親しみやすいメロディ。
 真っ赤な無地のTシャツにシャツを羽織り、スニーカーにジーンズ姿の明田川は、ゆっくりと旋律を紡ぐ。そのままアドリブへ雪崩れた。

 くっきりとしたタッチでピアノが奏でられる。足の甲を立て、じんわりとペダルを踏みながら、音数を少なめにソロが展開した。
 ごつっとした耳ざわり。コード進行はダンディで切なく、場面ごとの響きが耳へしみる。
 だんだんとテンションが上がっていく。しかし明田川の口から唸りは漏れない。

 2曲目は"スコットランド"と紹介。スコットランドの曲なのか、オリジナルのタイトルなのかは不明だ。メロディ・ラインはさほどトラッド色が強くない。むしろフレーズは、明田川の節回しがそこかしこに現れた。
 最初はペダルなしで。得意の左手ランニングが着実に鳴り、右手がしっかりと奔放にソロを紡ぐ。フリーな味わいが滲む。
 たんたんとベース・ラインが刻まれ、右手は自由に動いた。
 
 いきなり低音が倍テンポになり、明田川の唸り声がいつのまにか大きく鳴っていた。
 一瞬、草競馬のようなフレーズ。すぐさまアドリブへ埋もれる。
 わずかにテーマへ戻ったが、さらりと即興に。左手のランニングも崩れたが、グルーヴはきっちりと維持された。

 演奏前にシャツを脱ぎ捨て、Tシャツ一枚に。
 3曲目もタイトルは聴き取れず。拍手へかぶるように、小声で曲名を紹介する。
 今度はオリジナル曲かな。メロディ・ラインは聴き覚え薄いが、独特のロマンティシズムがあふれる。
 ペダルを踏みながら、ソロはふんだんに歌いまくった。右肩を入れて、ぐいぐいとテンションをあげる。
 エンディングは唐突に切り上げた。

 次の曲が、今夜の山場。聴きなれた曲ながら、タイトル失念。すいません。
 ここまで、明田川はオカリーナへ手を伸ばさない。内部奏法も全くなし。真正面にピアノへ対峙する。
 テーマが幾度も歌われ、フェイクしてアドリブへ溶ける。鈍く渋い輝きを音楽は光らせ、あかがね色に輝いた。

 唸りがピアノとともに響く。ペダルをぐいぐい踏みわけて、ソロが猛烈に盛り上がる。
 左手がはっきりと和音感覚を残す一方で、右手がみるみるフリーなクラスターへ向かった。激しく轟く重音。けれどもメロディ感覚は強烈に残る。
 クラスターですら歌わせる、明田川の才能が明確に輝いた。
 幾度も激しく打ち鳴らされるクラスター。左手も次第にクラスターへ向かう。猛然と鍵盤へ指が叩き落され、ペダルがせわしなく踏まれた。
 
 右足がペダルから離れると、左足は騒然たる勢いで床を踏み鳴らす。うねりを常に提示しつつ、フリーに盛り上がった。
 左手の和音は解体し、断片のみ。右手も自由に動き回る。それでも歌い続ける旋律を、確かに感じた。
 ピアノの下で、左足ががっちりとリズムを取っていた。

 一呼吸置いて、なにやらつぶやく。セットリストとして準備した曲がここまで、ということだろうか。
 つと手を伸ばし、オカリーナを二つ取り上げる。ソフトケースから出したオカリーナを、ピアノの上へ置いた。
 ひよひよっと早いソロ。メロディではなく、風切り音のように。右手でトリルさせ、同時に左手が素早く動く。

 持ち替えた。同様のアプローチを複数音で響かせる。タンギングをあわせ、いつになく強いタッチで、明田川はオカリーナを鳴らした。
 今夜はメロディアスと逆ベクトル。いくぶんノイジーに吹く。
 そのオカリーナもピアノの上へ置き、そのまま足元から別のオカリーナを取った。マジック・テープをべりっと剥がし、ちょっと大ぶりのものを出し、すかさず吹く。

 さらにもう一個。剥がす音すら無造作に、演奏が続く。右手トリルと左手の同時奏法を、今夜は多用した。
 ピアノのペダルを踏みリバーブを作りつつ、明田川はどんどんオカリーナを持ち替えていく。今度は小さめのほうに。一つの流れを楽器の持ちかえで表現した。

 間をおかず、ピアノ・ソロに転換。オリジナル"ブラックホール・ダンシング"の骨格を連想する和音感覚で、指先を鍵盤へ落とした。
 リズミカルなフリーからブレイク。ペダルから足を離し、すかさず内部奏法で、ピアノ線の爪弾きを短く。まるでスクラッチのように。
 鍵盤へ戻り、またピアノ線の爪弾き。今度は低音部。ペダルなしで。
 リバーブありの鍵盤ソロに、残響なしの内部奏法を挿入する。クラブ・ミュージックにも通じる、かっこいい音世界だった。

 ほとんどテーマを見せない。もしかしたら、完全即興かも。
 前のめりながらクールなノリを置きつつ、テンションは上がっていく。
 両手を高く上げ、最高音と最低音を同時にクラスター。フリーから、さらにクラスター。
 水鳥が湖面から舞い上がる光景がふっと浮かぶ。ずんっと幅広い響きに、店内のどこかが、みしっと共鳴した。
 ここでもクラスターがきれいに奏でられた。

 7曲目は間をおかずに。聴き覚えあるセンチメンタルな旋律だが、やはりタイトルを失念。
 テーマの繰り返しがみるみる解体され、アドリブと混在する独特の魅力をふんだんに披露した。
 一転して、切ない音世界へ。グルーヴしつつも情感を漂わす。メロディのうねりにぐいぐい引き込まれた。

 演奏がエンディングをにおわせ、緩やかにコーダへ。
「終わります」
 静かにつぶやき、ピアノから立ち上がった。今夜の終わりは、寂しげな余韻を残した。

 およそ70分くらいのひととき。さまざまな明田川の魅力を凝縮して魅せ、聴き応えいっぱいのライブだった。今夜もやはり録音されている。CD化しないかな。とても良かった。
 コーヒーを飲み干し、外へ出る。雨はほとんど上がって、夜は静かに表情を変えていた。

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