LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/8/14   西荻窪 Binspark

出演:不破+立花+南
 (不破大輔:b、立花秀輝:as、南加絵:dance)

 数ヶ月前から「不破大輔の日」と銘打ち、ほぼ毎月開催のイベント。今回、初めて見る。映像担当や別の奏者も加わる日があったと思うが、今夜は非常にシンプルな編成。
 20時をしばらく回った頃合で、まず不破大輔と立花秀輝がステージへ向かった。
 今日の不破はコンタクトマイクを使用。音の感触は丸いが、低音がびんびん響いてきた。
 
 演奏はそれぞれ50分強の完全即興一本やり。曲は全くやらず、ひたすらインプロが続く。後述のように、三人だけの編成で、さまざまなアプローチや組合せにタイミングをはかる、刺激的なライブとなった。
 無造作に二人が音を確かめる間に、照明がすっと落ちる。BGMが絞られた。今夜のライティングは店のスタッフが勤めた。

 不破がぶいぶいと弦をはじく横で、立花はフリーク・トーン中心の抽象的な音像で幕を開けた。
 互いの音は聴きつつも、それぞれが独自の音世界を作る。拍子感覚は薄い。
 アルト・サックスが軋み、絞られる。青白く線の細い立ち上がりの立花。
 メロディ・ラインがなかなか現れない。ときおり音が続いても、たちまち無機質な色合いに溶けた。
 ウッド・ベースは力強い。たちまちグルーヴし、速弾きもしょっちゅう現れる。手術後のベースを改めて聴いたが、パワーとスピードにあふれてた。

 低音は休まない。不破はさまざまな音符をめまぐるしく操った。
 両ステージとも、弾き続けたのは不破のみ。休み無く低音が唸る。
 ふと、立花が音を止めた。コップを持ち上げ水をすする。
 からん、と氷が鳴った。

 それを合図のように、不破のソロが一段と凄みを増す。
 ライトは落とされ、奏者の輪郭だけが浮かび上がる。拝むようにウッド・ベースを構える独特の姿勢で、音数を控えたフレーズに移った。
 生木の丸太から、音を弾き毟るがごとく。不破はベースと対峙した。

 時に猛然たるフレーズを挟みつつ、存分にベースが弾きまくった頃合で、立花がそっとアルトを構えなおした。
 いくぶん、メロディ寄りのサックス。しだいにふくよかな色合いへ向かう。
 ライトは明るく照らす。もしかしたら、ミラー・ボールが回り始めていたかもしれない。
 南加絵が、入り口からそっと姿を現した。
 
 真っ赤なワンピースに素足、うっすらと白塗り。
 不破のベースが6/8のオスティナートに変わった。微妙にニュアンスを加えつつ、ずっと同じリフを繰り返す。立花が南を見ながらサックスを鋭く吹いた。
 立ち尽くす南は左足に重心を置き、右足のつま先をすっと前方の床へ乗せる。腕を引き絞り、スローモーションで動いた。

 ゆっくり南は下手へ歩を進める。アルトは甲高く鳴き、ベース・リフが執拗に続いた。

 数メートルの距離をたっぷり時間かけ、南は端にたどり着く。大きな店のスピーカーへ身体を寄せ、くるり姿勢を変えた。
 ほぼ同時のタイミングで、不破のリフが移動。4/4拍子、テンポは変わらず。
 符割が変わってもトーンの力強さは変わらぬ。アンプからの低音が、みっしりと店内を埋めた。

 南はじっくりと、今度は入り口に向かって歩んでゆく。
 やがて店内から去った。クロス・フェイドのように、立花のサックスがメロディアスに変化した。
 ビバップの色合いを残し、フリー要素強く。めまぐるしいフレーズが立ち止まらず流れる。
 不破のベースは、リフから離れ奔放な音使いで絡んだ。

 また、立花が吹き止めて不破のソロに。進行は即興だが、繰り返しや約束はなさそう。常に違うパターンでアンサンブルを試みた。
 さらにグルーヴィさを増した、無伴奏ベース・ソロ。
 立花はサックスのキーをパタパタはじく音で、リズムをほんのりと付け加えた。
 速い旋律をはじくときは、不破の唸り声が漏れる。たんまりとベースが低音をぶちまけて、立花が加わった。
 
 やがて二人の視線が交錯、ベースがコーダらしきものを提示する。しかし立花はテンションを下げず、終わりを見せない。
 しかし、楽器は吹いていない。コップを顔の前へ捧げ持つ。サックスへもちかえ、淡々と空白の緊張を見せた後。立花がサックスを鳴らし、演奏が復活した。

 すっと店内奥の幕が開く。南が両腕を上げて立ち尽くした。
 ベースが再び、リフ中心の展開に。今度は即興フレーズを混ぜていた気がする。サックスは線が細い立ち位置か。
 南は白い布を身体にまとった。ゆっくりとステージへ歩を進める。瞬きせず、両腕を頭の上で交差させたまま。
 彼女の歩みは止まらず、客席スペースまで進んだ。客席中央で立ち尽くし、くるり背を向ける。
 音楽は止まない。

 スポットライトが赤く、次に青く彼女を照らした。
 プラスティックのような輝きで、彼女はステージ中央へ戻ってゆく。スローモーションの合間に、躍動を混ぜて。
 音楽はダンスへ寄り添いそうで、ベクトルは独立する。ダンスも音楽を踏まえつつ、異なる視点を確かに持っていた。

 南はステージへ四つんばいになり、足を高く伸ばす。そのまま、舞台から去った。
 床には白塗りのあとが、点々と残る。
 演奏は止まない。ライトが明るく二人を照らし、ミラーボールが回る。
 しばしベースとサックスが鳴り響き、重たく着地した。

 後半セットも二人の音あわせから。いったん空白、演奏が始まった。
 こんどはサックスが一段と、メロディ寄りな感じを受けた。実直に、かつ着々とフレーズがあふれる。ときおり、サックスを軋ませながら。
 不破はぐんと音を減らす。4拍子で頭の1音と4拍目にクイを入れて装飾音符とまた一音。
 リズム楽器は無い。が、ふっと音を不破が止めたとき。幻のハイハットとあわせてリズムを切ったように聴こえ、素晴らしくかっこよかった。

 ベースのソロへ。この場面転換は、ポイントとして幾度も現れた。
 一転して音数が濃密に。不破の唸り声がますます増してゆく。
 ノリは持続しながら、スケール大きくベースが吼えた。低音と不破の声が混ざり、高まった。

 サックスが加わる。活き活きとメロディを立花は操る。軋み音をときおり挟みつつ。
 南が現れた。下着一枚のセミヌードで、頭に真っ赤な造花。ペンダントと右手に煌びやかなバングル、さらに黒い布を手に持つ。
 音楽はダンサブルさを増した。ライティングも華やかに。
 ステージ中央で南はくるくると舞った。渋さ知らズとは違う文脈。うっすら白塗りして無表情、スローモーションや固定の動きも取り入れる。
 その上で付け加えた。身体を激しく振り、回転する。肉感的な動きを。

 とはいえ音楽に全く合わせはしない。ぐんとファンキーな展開を音楽が向かっても、全くかまわず立ち尽くすシーンも。
 二人はあおるように音楽のテンションをあげた。南は反応せず、身体を固定さす。
 不破はリフを中心に飾りを入れるパターンから、自由な展開へ向かった。立花も休まずに吹きまくる。

 すっと南がカウンターへ移動。寄りかかり、呼吸を整えるように立っている。
 アンサンブルは続く。
 南は再びステージの横で舞い始めた。表情をにこやかに変えて。
 そして素早く、南は入り口から出て行った。

 不破の唸り声は間断なく響き、ベースをはじく。
 開放弦を使いつつ、一音だけ押さえるリフ。二本の弦を押さえながら、一音だけ開放と押さえるパターンを混ぜるオスティナート。
 さまざまな発想で、不破は低音を歌わせた。 
 立花はメリハリをつける。フリーク・トーン一辺倒から、鋭い旋律まで。

 次のベース・ソロの途中だったろうか。
 南が現れた。出のパターンも毎回違う。今度は1stセット後半の衣装と同じ、白い布を身体にまとって。
 今度は素早くステージを横断する。すたすたと惑い無く。その仕草すら、新鮮だった。
 音楽は続き、ステージ下手で南は立ち尽くした。アルトがくるくるとメロディを操る。

 一転、華やかな表情を固定して南は舞った。ステージ中央で力強く身体を動かす。ついでスローモーションにて不破と立花の間へ向かった。
 じわじわと歩みは進む。客席に向けた表情は、にこやかな笑み。手を高々と上げる。
 不破は俯いて、立花は顔を上げて。猛烈な演奏の間に立つ南。赤と青のライト、さらにミラーボールが三人を照らす。独特の違和感と新鮮さを持つ絵面だ。
 ステージ風景では、この瞬間がもっとも強烈に印象に残った。

 南は素早く去り、不破と立花が視線を合わせて演奏は終わり。
 拍手。不破が立ち、立花を紹介する。南は袖から素早く現れ、深々と礼をした。

 全てがインプロで間延び無し。絶えず轟くベースが空間を引き締めた。
 3人だけ、がゆえに個性が際立つ。全員の手管が常に異なることをやり続けていたせいだろう。
 計算づくじゃない即興が、びしりと決まった瞬間の心地よさが素晴らしい。刺激に満ちた濃密な一時だった。すごく、面白い。

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