LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/8/11   西荻窪 音や金時

   〜Do Show mo ありやなしや〜
出演:太田惠資+吉見征樹
 (太田惠資:vln,vo、吉見征樹:tabla,per,vo)

 "Do show"と銘打つときは、喋りも重点おいたセッションと教わった気がする。太田惠資と斉藤ネコのハナシガイみたいなものかな、と前から興味あり。今回、初めて聴く。
 店内はびっしり満員。ところが、太田がなかなかあらわれない。吉見はセッティングを大まか済ませ、待っていた。
 20時20分頃ようやく太田の登場、二人が素早く準備する。太田はエレクトリック2本とアコースティック・バイオリンを。足元に各種エフェクターも並べた。吉見はタブラと各種パーカッションのセット。

 準備が整ったところで、太田が観客へ深く頭を下げる。
 吉見がすかさず「お詫びの気持ちを音楽に表せ」と喋りはじめ、なし崩しにライブは始まった。客電が溶暗する。

 猛烈なツッコミあいな、二人の喋りがしばらく続いた。主導権はいくぶん、吉見寄りか。"Do show"は演奏も前提みたい。いつ演奏するかもわからない、ハナシガイと微妙に違うコンセプトのようだ。
 喋りはアドリブながら、観客いじりはほとんど無し。太田の視線はほとんど吉見に向かい、パッケージ・ショー的な仕上がりだった。

 吉見が厳しく太田の遅刻を追及するさまに、爆笑が続いたあと。おもむろに演奏が始まった。
 とたんに空気が締まり、音楽へ集中。奏者だけじゃなく、観客も。二人の底力がいきなり提示された。

1)演奏は即興が基本。冒頭は青バイオリンだったか。エレクトリックで太田が滑らかにアドリブを奏でた。ケルトやカントリー的なアプローチから、アラブ方面まで。さまざまな要素を混交しつつ、ぐいぐいテンポが上がってく。
 太田は目を閉じてバイオリンを奏でながら、ときおり楽しそうに笑みを浮かべた。

 吉見が強靭なビートをばら撒く。オーソドックスな奏法だが、左手ベンドは少なめか。右手が素早く打面を打ち鳴らし、時に太田とユニゾンで疾走する。
 場面展開するたびにサウンドが引き締まり、バイオリンとタブラの素晴らしい即興デュオが満開した。

 コーダもバッチリきめ、二人は会心の笑みを交わした。15分位、長めのインプロ。
 いきなり今日のクライマックスとも言える、痛快な完成度だった。

 長いMCが入る。MCも即興の一種。進行や時間はあまり気にせず、奔放なセッションだった。
 最初は吉見が酔うとキス魔な話題。さらに子供連れの観客がいたため、虫の話を。子供向を意識なはずが、虫食いの話で盛り上がった。

2)コミカルな即興。MCの話題を片端から詰め込み、タブラを静かに叩きながら「キス」「カブトムシ」と、吉見がランダムに言葉を挿入する。
 太田はリフとフレーズを混ぜながら、吉見と絡んだ。短めの即興。
 「タコ」と言葉を連ねつつ、押すと鳴る玩具の蛸を吉見は取り出し、リズムにあわせてきゅきゅっと鳴らした。

「オー・・・タだけはイヤ」
 「キス」と連呼しつつ、コーダで言葉を伸ばした吉見は、最期にギャグでまとめる。
「そういう落ちかい!」と太田が叫んだ。

3)また喋りのあと。1stセットを締めよう、とバイオリンを構えた。吉見がレクを持ち、太田はアコースティックへ変更。
「持ち替えたの?」
「こっちのほうがいいかな、と」
 するとレクを横へ置く吉見。ちらり見て太田が赤エレクトリックを持つと、さりげなく吉見はレクを引っ張りだす。苦笑して、太田はそのまま弾き始めた。

 爪弾きからオクターバーで低音も使ってループを作る。
 その上でクラシック風の要素も残す、メロディアスなフレーズをバイオリンが奔出させた。吉見はレクで刻むが、この瞬間だけは太田だけでサウンドが完結気味。
 マイクを引き寄せアラビック・ボイスも混ぜた、すごい存在感のパフォーマンスだった。

 しばらくして吉見がタブラへ切り替える。横に吊るしたベルを一打ちし、指先が素早く動いた。
 一つのタブラを両指で叩いたのも、この場面だったろうか。太田の即興フレーズを巧みにリズム化し、二人のフレーズが行き交う。吉見は爽快に、かつめまぐるしくタブラを鳴らした。

 短い休憩を挟み、後半セット。喋りもそこそこに演奏へ。

4)太田がアコースティック・バイオリンで、静かにリフを作った。緩急を効かせつつも、ほとんど変化無し。穏やかな雰囲気で、この即興では吉見を立てた。
 まず口タブラから。僅かに指先で叩きつつ、吉見は早口でビートをまくし立てる。
 しだいに指数も増えた。
 口と同期しつつも、違うフレーズをタブラから引きだす。前のめりに口タブラが加速した。

 続いて間断無く鋭いリズムが降り注ぐ、タブラのソロ。
 太田は吉見が繰り出す演奏の波にあわせ、ゆったりとリフを繰り返す。穏やかなバイオリンの伴奏の上で、リズムが燃える。
 吉見の存在感を、この即興でがっちり見せた。

5)短めのMCをはさみ、話題を踏まえたコミカルな即興へ。
  髪の毛に関する単語の挿入で、太田がしかめっ面。すかさず吉見は、網膜の自虐な話題へ向かった。
  げらげら笑いっぱなしで、あんまり細かい部分を覚えてない・・・。

6)呼び名不明の楽器を吉見が構える。脇に抱え、中央から出た1本の弦を撥ではじくリズム楽器。それを使うのか、と太田がバイオリンを構えた。
 しかし吉見はまず、横から玩具の棒を出した。傾けるとぎゅーっと鳴る。目を閉じて聴いてた太田が、すかさずホーメイを。吉見が棒を置いてしまい、太田が目で訴える。
 笑いながら棒を持って鳴らす吉見と、しばしホーメイがセッションした。

 最初に構えた楽器で吉見が軽快にビートを出し、バイオリンが絡む。太田は即興歌も入れた気がする。短めの曲。
 
7)喋りのあと、"モスクス"を。太田が無造作にアコースティックでイントロを奏で、すかさず吉見がタブラを入れ替えた。キーを相談したあと、吉見はタブラを軽快に鳴らす。
 テンポがずいぶん遅めで、じっくりとリフを太田は重ねた。重厚でミニマルな要素を強調した。

 じわじわと助走が長く続き、バイオリンのソロに。切なげなフレーズを多用した。
 そこからエンディングまで、がらり印象が変化。
 場面毎に、みるみるテンポが上がる。吉見は平然と太田の変化に合わせ、最期は超スピードで駆け抜けた。

8)後半セットは喋りが少なめ。演奏に軸足を置いた。
 最期はスケール大きい符割のバイオリンへ、吉見がそっと中近東の超小型シンバルであわせる。最初は一鳴らし。やがて、両手に持って打ち合わせた。

 太田は歌声も入れつつ弾きまくる。吉見のリズムがきれいにアクセントで決まった。響かせぬ硬質な打音で、素早く吉見はシンバルを鳴らす。
 タブラへ持ち替え、バイオリンとがっぷり噛合った即興へ。これも後半に向けてテンポがみるみる加速した。

 息の合った即興と笑いの耐えぬMCで、濃密なセッション。サウンドはスピードと調和が同時進行の、骨太かつ柔軟なもの。
 タブラは頻繁にメロディアスなアプローチを取り、時にユニゾンで太田のフレーズと身を寄せ合う。
 互いの手の内を承知しつつ、さらに引き出しを開け合う。常に鮮烈な場面を構築する、二人の懐深さを存分に魅せるライブだった。

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