LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/8/10   日比谷 野外大音楽堂

   〜野蛮人の夜会〜
出演:菊地成孔Pepe tormento azucarar

 メンバーを一新。新ぺぺの初ライブは日比谷野音、東京スカパラダイスオーケストラとタイバンで行われた。セミが猛烈に鳴く賑やかな夜。客席は満席で立見がいっぱい。
 ステージはぺぺが先。グランドピアノやハープのある光景が、真夏の野外になんだかミスマッチで楽しい。ステージにはアルト・サックスが置かれていた模様。

 まだまだ明るい暮れまだき。定刻に全員があらわれた。全員が白のシャツ、菊地成孔だけが黒のスーツに蝶ネクタイ、サングラス姿だった。テナー・サックスを持って。 
 ぺぺのメンバーは大儀見元を除き、全員入れ替えだそう。その大儀見は、別のスケジュールで今日は欠席。トラが入ったが名前を失念した。
 編成は変わらず、p、vlnx3(一人はva?),vc,bandoneon,harp,b,perx2の編成。他のメンバーは紹介されず、詳細不明。その後の情報ではピアノが林正樹、バンドネオンが早川純、ベースが鳥越啓介だった。

「われわれもダンス・バンドです。頭の中で踊ってください」
 簡単に挨拶したあと、菊地はメンバーを振り返る。ふっと腕を振って、演奏が始まった。

セットリストは不完全だが、こんな感じ。曲紹介が無く、記憶頼りで間違えてると思います。
・イントロ
・組曲「キャバレー・タンガフリーク」 1) 孔雀
・京マチ子の夜
・組曲「キャバレー・タンガフリーク」 4) 夜の全裸
(MC)
・You don't know what love is
・ルペ・ベレスの葬儀
・"「8 1/2」の挿入曲"

 静かな立ち上がりで音楽が膨らむ。混沌とした音像が漂う中、菊地のキューでハープやベース、ピアノが抜き出されては短いソロを取る。そして再び、揺らめきへ。
 方法論は"Catch 22"と通低するが、ダンサブルさは狙わない。あくまで上品かつデカダンに。あたりはまだ明るいが、白いライトがくっきりとぺぺを照らす。

 当然PAを使ってる。やたら細部まで分離が良い。全員アンサンブルのときですら、パーカッションの小さな打音やベースの指使いが明瞭に響く。弦はリバーブをうっすらかけて融かした。音色は硬く、きっちりエッジを立てる。
 つまり遠距離から見ている姿と、聴こえる音の分離がすごく違和感あり。音楽が丸まらず、一つ一つが際立つ。これはこれで良いが、アコースティック・アンサンブル然とした絵面との対比が、なんともグロテスクな美しさあった。

 しばらくイントロ的な抜き差しをぺぺへ加えた後、滑らかに次の曲へ。穏やかな立ち上がりだった。
 菊地はテナーを構えて悠然とサックスを吹き鳴らす。ロマンティックなアドリブがいっぱいに広がった。
 さほど長尺ではなく、あっさりと。しかしやたらソロ回しはせず、ピアノやベース、バンドネオン程度にしぼってメリハリをつけた。
 ゲネラル・パウゼの瞬間、あたりにセミが鳴き響く。その瞬間が残忍な美しさだった。
 前半三曲目("京マチ子の夜"だったかな?)で、がらり雰囲気を変える。優美さを素早さに。くっきりピアノが打ち鳴らす中、サックスとベース、バンドネオンがユニゾンでテーマを紡ぐ。
 ピアノがアドリブを取る。走りすぎず、高音をきらめかせて力強いプレイを。

 終盤のテーマではピアノの4つ打ちが裏かな?主旋律との対比でポリリズミック的なやりとりで静かに連打する。
 あれは狙ったPAバランスじゃないと思うが・・・ピアノが強く打つリズムより、数人で弾く主旋律のバランスが弱い。ピアノがぐっと前へ出た。
 すなわちくきくきと動く主旋律を、ピアノのリズムが打ち消すかのよう。
 生音のアンサンブルでは発生しづらいバランスの響きが、強烈に印象深かった。
 
 なだめるかのように、もういちど穏やかな音像へ曲は変わる。丁寧にサックスがソロを取った。
 今夜はさほどキューを送らない。メンバーが場面場面で譜面を色々めくっており、きっちりとアレンジされていたのかも。

 30分ほど経過。いったん、MCを短く菊地が取った。今後のライブなどを紹介する。大儀見が不在を苦笑し、トラだけを紹介した。
「他のメンバーは紹介しません。次のライブでやります」
 
 そして後半へ。歌モノを、と中央のスタンド・マイクを口元へ向けた。
 ふっくらしたスローなアレンジで"You don't know what love is"を、クルーナーで。
 この曲を20分くらい、かなり長尺でやっていた。

 サックスやバンドネオン、ピアノだけでなくバイオリンのソロも挟んだろうか。
 他のアドリブのときは、杖のようにテナーサックスを足元へ置き、菊地はサングラスをはずしてソロへ耳を傾ける。
 やがてすっと持ち上げ、ストラップをはめた。サングラスを掛けなおして。

 パーカッションの無伴奏デュオがクライマックス。ピアノのアドリブから切り替えるように、菊地がハンドキューを飛ばす。
 闇に包まれた中、ピンスポットで二人が浮かび上がる。猛然と疾走せずともパワフルさは滲ませて、打音をずらすようにリズムが交錯した。

 セミの声はいつの間にか止んでいる。全休符では静寂が。
 菊地がサックスを構え吹こうとした瞬間、空からヘリコプターの爆音が降った。花火大会の取材か。
 確かに菊地は苦笑して身体を折ったあと、テナーのソロをばっちり決めた。
  
 メドレーでアップテンポへ。ステージが真っ赤に染まる。ピアノが冷徹に刻む上で、アンサンブルは優雅に奏でた。
 PAで人工的な響きなのは否めないが、隙無くまとめた合奏が素晴らしかった。

 最期は強烈なロマンティックを膨らませた。"はなればなれに"だろうか。
 銀のアルトへ持ち替えた菊地が、軽やかにソロを取った。

 約1時間強のステージ。メンバーへ手を振って立たせると、菊地は胸へ手を当てて拍手へ応える。次はスカパラだ、と紹介してステージを去った。

                             
 ちなみに東京スカパラは聴くの初めて。スカそのものもUB40くらいしか知らず、感想は割愛させてください。とにかく転換が長い。20分くらいかけてチェックしていた。
 そろいのスーツ姿で、ステージ狭しと賑やかに跳ねる。観客も大盛り上がりだった。
 スカといいつつ、ツイストやR&B、ラテンも。リズムのエッジは今風だけど60年代から続く伝統をきっちり踏まえ、変に懐柔しないスタンスだった。
 後半では雨がぱらつく。客席背後のライトへ照らされた雨粒の煌めきがきれいだ。

 スカパラのステージが50分くらいと短め。
 アンコールでは菊地も呼び出される。本編とは一転、キャップにサングラス、派手なTシャツに短パンとすごくカジュアルな服装で現れた。

 スカパラはコンタクト・マイク、菊地は銀のアルトをステージ中央のマイクで拾う。アップテンポのブギだったろうか。周りは盛り上がっていたので、オリジナル曲かも。
 菊地が両足を上げ、ぴょんと高く飛び上がる。スカパラのメンバーがひっきりなしにやってたアクションをまねて。

 8小節から2小節まで、ひっきりなしにソロ回し。トロンボーンとテナー、そして菊地が主にアドリブを取った。時にステージ前で揃って、菊地も加わりブロウのアクションも。
 キーボード奏者がごっついキーボードを抱え、ステージ中央で荒れ狂うソロを披露する。大盛り上がりで疾走した。

 ラストのキメはギタリストが菊地へ、ジャンプの切り落としを促す。
 その気を見せる菊地が飛び上がるそぶりを見せたが、身体の曲げだけで曖昧に。ドシャメシャへ行くかと思いきや、さすがにきっちりバンドは締めた。

 終演は20時半頃。思ったより早い終わり。
 薄闇な野外で聴くぺぺは妙にうらぶれた雰囲気も漂って、それはそれで面白かった。しかしやはり、屋内でより生音に近いPAで聴いてみたいかな。
 この日は新たなぺぺをあからさまにするほど、明確なサウンドの違いは打ち出さず。
 今年予定のクラブハイツやオーチャードでのライブや、新譜で表現だろうか。楽しみ。

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