LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/7/13   大泉学園 in-F

出演:クラシック化計画
 (翠川敬基:vc、菊池香苗:fl、常味裕司:oud、向島ゆり子:vln、会田桃子:vln,va、森下滋:p、渡部優美:p)

 今回のクラシック化計画は、18時開演。ぎりぎりまでリハをやっていた。時間はほんの少し押したのみ。翠川敬基が演奏順を手早く決め、どっぷりみっちりなプログラムで開催となった。

1.翠川+渡部
 
 曲はベートーベンの"チェロソナタ第5番:op.102−2"(1815年)。メインの演目、弦カル"ラズモフスキー"に引っ掛けて選曲という。これもラズモフスキー伯爵に関連してるらしい。

 ピアノを弾く渡部優美へ寄り添うように翠川がチェロを構えた。ピアノの蓋はほんの少し開いている。
 渡部のタッチは軽やか。滑らかに音楽が広がる。翠川は暖かい音色で、ダイナミクスを大きくつけた。繊細な印象が浮かぶチェロ。
 
 真剣な顔で翠川は譜面を睨みながら音楽を歌わせる。開放弦のとき、鼻を素早くこする瞬間が妙に記憶に残った。
 ずぶずぶと演奏にのめりこんで奏でられた。

2.常味+菊池

 アラブの伝統曲を3曲。なじみあるレパートリーなのか、堂々たる面持ちで常味裕司はウードを操った。菊池香苗はおっとりと譜面を見つめ、軽々吹く。
 冒頭に常味が簡単に曲の背景を紹介。冒頭のウード・ソロはタクスィームだろうか。
 フルートが入ると、とたんに光景は煌びやかに。ウードはコード弾きやフレーズの飾りをバンバンいれ、ダイナミックに弾いた。

 2曲目はウードのソロ。やはりタクスィームらしきフレーズがイントロに付く。
 「光り輝く街」と紹介したろうか。ウードの先生に教わった、「いつ作られたかわからないが、とにかく古い曲」だそう。
 常味の演奏は久しぶりに生で聴くが、迫力たっぷり。

 「こんな調子でいいですか?」
 選曲がクラシック化計画に沿っているか、心配そうに尋ねる常味。観客は拍手で応える。
 西洋音楽とアラブ音楽の成立や発想の違いなども、簡潔に常味は説明してくれた。

 最期は再びデュオ。常味は全て暗譜で、菊池は譜面での演奏。今度はイントロ無く、常味のカウントでいきなり突入した。フレーズが繰り返され展開して変奏される。
 フルートでいともたやすく微分音を鳴らすのにびっくり。菊池は全く惑わず、軽やかにアラブ音楽を奏でた。

 音楽そのものも心地よい。骨太なウードが、清冽なフルートと絡む。フルートは旋律を丁寧になぞり、ウードは装飾音やグルーヴをいっぱい。時には弾きやめ、無伴奏でフルートを生かす場面も提示した。

3.向島+会田

 プロコフィエフ"2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 Op.56"(1932年)を演奏。向島ゆり子と会田桃子は、賑やかに笑いながら準備した。会田は譜面台を二つ使い、二段譜をみながらの演奏。ぎっしり載った譜めくりを、渡部が努める。

 鮮烈で複雑な展開。鋭い高音の旋律が二挺のバイオリンから飛び出し、疾走した。
 猛烈なテンションで曲が進む。会田は鋭い瞳で譜面台を見つめて弾きまくり、向島は途中からどんどん身体が動いてくる。身体が踊り、床が鳴るほどステップまで。
 
 すごい集中力で演奏が盛り上がった。最期は猛スピードのフレーズが応答しあい、一気にコーダへ。
 終わったとき、二人とも汗を浮かべてにっこり微笑んだ。

 ここで休憩。約1時間の演奏。

4.菊池

 後半は菊池の無伴奏フルート。翠川の曲説明を聴きそびれたが、バッハの曲らしい。
「俺より上手い」
 と説明してたので、無伴奏チェロ組曲だったのかな。6曲ほど続けて演奏された。

 ほのかな緊迫感が漂う。ゆったりと空気を震わせ、フルートが響く。めまぐるしい旋律も、穏やかなメロディも。一定の流れを保ちながら、菊池は奏でる。
 曲の合間に、吹き口を手で軽く拭いながら。譜面を媒体に、菊池は音楽と対話をしていた。

5.森下

 譜面をわしづかみにピアノへ向かう。サティ2曲の合間にバルトークを入れたのかな。詳しい曲紹介は聴きそびれた。
 性急なタッチでしっかりと森下滋は鍵盤を押さえる。一曲目は和音が立て続けに挿入され、2曲目へ。早いパッセージの連発に、譜めくりが大変そう。演奏中に、すごい勢いで譜面を押さえる。ばっさばっさと音がするほど。

 音楽が止まるかとハラハラするが、そこはさすが。弾き続けながら、勇ましい譜めくりとともにプレイは進行した。
 2曲目、なんていう曲だろう。力強くてかっこよかった。

6.翠川+菊池+向島+会田

 クライマックスはベートーヴェン"弦楽四重奏曲第8番ホ短調『ラズモフスキー第2番』Op.59-2"(1806年)。
 このユニット独特の、1stバイオリンをフルートと変則な編成で演奏された。フルートはぐっと客席側へはみ出る並び。会田はビオラへ持ちかえる。向島は裸足で臨んだ。

 一斉の強い音。そして幕が開いた。
 アンサンブルの一体化とは別の次元で、それぞれの音色は味がある。菊池は清々しい。向島はほのかにくすみつつ、力強く。会田は凛々しいふくよかさを。そして翠川は、繊細で柔らかい。
 
 大胆に勇ましく解釈されて、対話が進む。フルートが第一バイオリンのため、第二バイオリンに音を受け渡すときは、明らかに風景が変わってきれいだった。
 ボウイングは図らずも揃う場面が多々あり。さっそうと吹きぬくフルートの横で、3人の弓が一気に動く。

 コーダはプレスト指定らしい。ものすごい勢いで雪崩れた。フレーズが絡み合い、まとまって昇華する。壮絶に終わった。

 終演は21時ごろ。各種プログラムがぎっしり詰まった、盛りだくさんのリサイタルだった。既に次の開催も決まってるようす。
 サロン的な風景ながら、奏者自身も楽しみながらクラシックと向かい合う。かといってクラシックを軽んじてもいない。真摯に音楽と相対するさまが、聴いていて活き活きする。このコンサートを聴くたび、クラシックへ興味が沸く。

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