LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/7/12   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、喜多直毅:vln、平松加奈:vln、会田桃子:va、早川岳晴:b,石塚俊明:ds)

 ゲストにバイオリニスト2人を招き、フロントへ弦が4人並ぶ壮観な絵面の緑化計画。
 緑化は喜多直毅が加わって、今年に次々とバイオリニストを招いていた。総決算的な演奏になるかと、楽しみに行った。観客は補助席まで出る満員の盛況。ゆったりとメンバーが現れるのを待つ。
 ステージには最初、早川岳晴がセッティングをしてたが、ほどなく終わる。メンバーが揃ったのは20時半近くだった。たちまち客電が落ちた。

 フロントの3人を、ひとりひとり紹介する翠川敬基。
「あと、有象無象」
 早川と石塚俊明を一言で紹介して、笑いを呼ぶ。冒頭は黒田京子トリオで演奏される、"リンク"。ビオラ・パートは今日のために書き下ろしたそう。
 
 ほっこりとストリングスの響きが広がり、滑らかに即興へ。喜多のバイオリンが鋭く鳴った。

<セットリスト>
1.リンク
2.タコヴィッチ
3.フルフル
(休憩)
4.トレス
5.クリス
6.ウズペ

 早川はエレベ、フロント4人もマイクで音を拾う。個々の音は良く聴こえるが、バランスが相当難しそう。PAバランスを途中で変えたのか、奏者がダイナミクスを調整したのか、演奏が進むにつれ聴きやすくなっていた。
 最初は喜多がかなりきつく響き、平松加奈が埋もれ気味。会田桃子はかなり後半までボリュームが小さかった。音域違うので、音は聴こえるけれど。
 翠川だけは最初から最期まで、柔らかく弦が響く。ピアニシモからフォルテまできっちり聴こえた。

 "リンク"ではトシと早川が抑えめ。エレベは軽くはじかれ、ドラムもマレットで静かに叩かれるのみ。ドラムは小さいチャイナもいくつか仕込むセッティングだったが、後半までほとんどシンバルを叩かなかった。
 そのぶん弦の勢いがすごい。特に喜多。フリーキーにがしがし弦をこする。とはいえ弦が相互に盛り上がるのとは、違う方向性。いつしかソロ回しのように、ひとりひとり見せ場が作られた。
 翠川は目を閉じ、自由に音楽へからむ。フレーズをさりげなくそこかしこで挿入した。ハイトーンを素早く駆け抜ける、フリーな奏法もいっぱい。

 "タコヴィッチ"もビオラ・パートを書き下ろし。会田と翠川の低音部からバイオリン・パートが厳かにかぶさる。バイオリンのディビジを期待するが、ユニゾンのように聴こえた。平松が抑え気味なためか。

 前半セットを引っ張ったのは喜多。次に早川だった。喜多はムードメーカーのように、猛然と弓を動かす。切れた弓の毛を演奏中に引き千切った。フレーズだけでなく、ぎしぎしとバイオリンを軋ます。
 早川のベースはグルーヴの肝になった。トシがあくまでパーカッシブなアプローチ、かつ軽いタッチの太鼓なため。リーダーの翠川も悠然な風情。展開を引っ張るよりも、音に溶け込んでいた。いきおいベースがサウンドの中心になった。
 
 前半は"フルフル"が勢いあってよかった。早川がベースをくっきりと弾き、トシもスティックをときおり使い強打もまぜた。
 会田がいっぱいソロをとったのはここだったろうか。喜多が吼えながらフリーなアドリブを提示し、疾走した。
 
 後半セットはトシと早川をきっちりメンバー紹介し、「あと、前の4人」とまとめる挨拶で幕を開けた。チューニングのさまに
「クラシックみたいでしょ。やってることは自由なんだけど」
 と笑う翠川。

 こんども弦を生かしたレパートリー。"トレス"もビオラ・パートが書き下し。
 イントロの旋律がじんわり拡がり、ベースが加わった。チェロがテーマを響かせるが、あっさりと自由な即興へ向かった。

 後半はなぜか喜多がずいぶん抑え目。その分、平松や会田が活き活きとソロを取った。
 とくに"トレス"では平松が抜群の長尺ソロ。翠川は弾きやめて目を閉じ聞き入り、会田がバングルでこつこつとリズムを加える。
 弾き続ける平松。会田も聴きに回り、かすかな早川のベースとマレットによるスネアにのって、たっぷりと平松はソロをとった。
 継ぐアドリブが喜多だったか。さらに音数は減り、無伴奏的なアレンジでソロを弾いた。
 ひらりとテーマへ戻って、幕を下ろす。

 後半セットはどの曲もたっぷり演奏された。"トレス"が15分、"クリス"が20分くらい。"ウズペ"はさらに長尺で、しめて1時間近かった。
 その"クリス"はとことんフリーで聴き応えあり。
 テーマから即興に埋もれ、翠川がわずかに主題を提示したのみ。すぐさま即興へ向かった。

 会田や平松がじっくりとソロをとり、チェロもたっぷりとメロディを強い音で弾く。
 この曲だったか正直、記憶があやふやだが・・・。翠川のソロから会田が加わってデュオ。翠川がオブリへ回り、やがて平松へ受け継がれる、という場面が素晴らしかった。

 "クリス"は途中でノーリズムになり、トシのビートが刻みを明確にする。
 即興のはじめではワルツっぽい6/8で取り、平松や喜多がアドリブの頃には4拍子へ変わる。ロックっぽい4ビートや、ライド・シンバルをつかったどっぷりなジャズなど、ニュアンスをトシはさまざまに変えた。
 最期は4拍子で着地する。
 
「では、"エヘン"という曲を。・・・譜面、ある?」 
 メンバーへ確認するが、見当たらないようす。
「おっかしーなー。今朝、並べ替えたのに」
 ぽそっと素でつぶやきながら、翠川は"ガンボ・スープ"を提案するがこれも無い。
 やむなく(?)"ウズペ"が選ばれた。個人的には聴きたかったので嬉しい。
「いつもやってる曲ですが。メンバーが変われば、また変わります」
 そう、翠川は前置きした。

 切ない旋律はくっきりと奏でられ、ここに至ってリズム隊もぐいっと前へ出た。
 ソロが絡み合う中、トシがスティックへ持ちかえる。会田がソロのときだったろうか、激しいロールで盛りたてた。表情を変えず弾き続ける会田。
 ソロの合間にスペースが開くと、すかさず翠川が懐深いアドリブで音像を和ませる。

 早川はディストーションを踏み、速弾きソロをかぶせた。高音部をめまぐるしく手が動く。
 喜多もソロへ突入。スティックを持ったトシが、ぎらりと笑う。
 そのままデュオでハードに突き進んだ。

 エンディングはバンドが一体となって進行。もう一度、と翠川が指を立てる。
 大団円なまとめだった。

 演奏が進むにつれ編成が、ぐいぐいと緑化の音楽へ溶け込んでゆく。
 それぞれの立ち位置が多彩に変わるところが興味深い。聴き手へさまざまな観点や要素を撒いてゆく、刺激的なライブだった。

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