LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/7/11  西荻窪 音や金時

出演:ル・クラブ・バシュラフ
 (松田嘉子:ウード、竹間ジュン:ナイ,レク、やぎちさと;ダルブッカ)

 今年の1月ぶりに聴く。ル・クラブ・バシュラフは今月中頃に、チュニジアへ向かう。第44回ハマメット国際フェスティバルに招聘されたため。そのイベントを控え、今日はとても充実した趣きだった。
 当日に演奏予定のレパートリーも今日はやります、とMCで幕を開けた。喋りはいつものように松田嘉子がつとめる。丁寧に曲の紹介で前置きはいつもと同じだが、今日はずいぶんユーモラスで寛いだ雰囲気もあった。

 演奏が始まると、ぐいぐい引き込まれる。なんどもル・クラブ・バシュラフのライブは聴いてきたが、いつになく気持ちがのめり込んで楽しめた。
 3人の演奏スタイルは今日も対照的。
 松田はほとんどの場面で目を客席へ静かに向け、ほとんど身じろぎせず淡々と弾く。竹間ジュンは半身にかまえ、目を閉じて没入するようにナイを奏でた。やぎちさとの姿勢は横を向き、ダルブッカの叩く手の動きが良く見える。にこやかだが凛とした雰囲気で着実にリズムを刻んだ。
 
 最初がエジプトの曲だったろうか。今夜もメモを取りそびれ。セットリストは割愛させてください。すらすらと松田が説明する曲名が、どうもうまく頭に残らない。

 じわじわと曲は盛り上がる。松田と竹間が視線をすっとあわせて、ブロック毎に風景が鮮やかなに変わる1曲目。フレーズの末尾で、僅かにウードとナイがユニゾンからはなれて絡み合う。
 続いては松田のオリジナルか。途中でテンポがどんどん転換し、早回しに疾走するのが爽快だった。
 この日もナイとウードをPAで通す。ナイの響きがしみじみと漂った。

 ナイのタクスィームを冒頭に置いたのが3曲目。存分に即興を竹間は披露した。
 最初は短いフレーズから。ちょっと吹いてはナイを口から離し、再び音を紡ぐ。伴奏でウードが淡々と単音を刻んでいた。
 次第にフレーズが長くなり、ひとつながりの旋律へ変化する。どんどん音楽が深まった。
 今夜、たぶん竹間はナイを1本だけ使ってたと思う。大ぶりのすらっとしたナイを、颯爽と吹いた。
 改めてナイの奏法のあれこれに耳が行く。指を蓋のように使う仕草が印象に残った。
 笛は穴を指で押さえ、音程を変える。基本的に、このスイッチは1かゼロだと思っていた。しかし竹間はその中間も使っていたことに、恥ずかしながら今さら気づいた。
 
 指は時にゆったりと穴を押さえて音程を変える。出る音が指の動きでゆったりと音程が変わるだけでなく、音色に風切り音めいた音が混じり、響きにふくらみが出た。
 中間的な音が切なく響く。さらに押さえる時、指を離すときも音の表情が変わる。
 もちろんスパッと指を押さえる奏法もある。さらに口でのビブラートや息の量も変わる。
 多層的な表現が、音のニュアンスを膨大に膨れ上がらせる。気づくと、聴きどころがさらに増えた。

 タクスィームが終わった瞬間、すかさずダルブッカが切り込む。
 一気に曲へ流れる刹那が、とてもキュートだった。たしか2曲目と同じ旋法を使った、と説明な気がする。

 ウードの奏法も色々なバリエーションがあった。曲を演奏するとき、松田はほとんど身じろぎしない。ウードの中央にある穴が目玉のように見え、なんだか吸い込まれそうな気分で音楽を聴いていた。
 ところが4曲目、冒頭にウードのタクスィームがあったとき。初めて松田は、ぐいっとウードの持ち位置をずらした。ちょっと半身な感じ。

 アプローチも曲演奏とは少々違う。ビブラートを多用し、ハンマリングやプリング的な弾き方もしていそう。このタクスィームのあと奏法にも意識を飛ばしていた。けれども曲の時には、ビブラートはごくわずか。フレーズの終わりで、たまに揺らすくらい。
 だが前半4曲目のタクスィームでは、豪快にビブラートを使う。音が消えたあとでも、力強く弦を揺すって幽かな響きを出すシーンもあった。
 符割が多彩なタクスィーム。速弾きも織り交ぜて、刺激的な演奏だった。

 前半最後はソロ回しを導入する曲。かなりの長尺で、たっぷりと各自のアドリブを聴かせた。
 滑らかなテーマのアンサンブルをひとしきり。ナイのソロでは竹間が存分にソロを取った。ダイナミズム大きなフレーズが次々現れ、イマジネーションがさまざまな方向へ膨らむ。
 一本のナイから時に厳しく、そして優しく、音色の色合いを変えた。

 静かにトリルさせたのはこの場面だったろうか。音が上下するフレーズが多用された中、唐突にある指だけを上下させてトリルする。それまでの情感と対極なミニマルのアプローチが鮮烈だった。

 ウードのソロに代わると、竹間はレクに持ちかえる。こんどはおっとりした雰囲気でアドリブを組み立てた。
 フレーズの合間にレクとダルブッカがざわざわと盛り上がる。「まだよまだよ」と言うがごとく、静かな響きを出す。レクはシンバル部分も使ってるのか。あのリズム・パターンは好き。
 もっとも、すぐさまウードが弾きはじめ、実際にリズム・パターンを聴けるのはごく短い時間だった。

 そしてやぎちさとのソロへ。レクが伴奏し、途中から掛け合いのようになった。
 手のひらの動きは淡々としていても、音色が速やかに変わる。曲演奏のとき、やぎは涼しげなリズムで盛りたてる。
 このソロでは途中から、低音を連打する勇ましいビートも飛び出して華やかだった。

 短い休憩のあと、後半セットは曲から。伝統曲だったと思う。
 次がナイのタクスィームを冒頭に置いた、竹間と彼女の先生による共作。
 こんどの即興は立ち上がり早い。オクターブをひらりひらりと動いた。最初は高音部のメロディが、一気に低いオクターブへ。高い音域が続いたあとだと、それだけで新鮮に音像が響く。

 ひとしきり勇ましく低音域で奏でると、今度は高域と上下し始めた。フレーズの途中で唐突に低音から高音へスキップし、さらに中域も取り混ぜて自在に音楽が広がった。
 前半でも気づいた指穴押さえの奏法に加え、ボリュームも。クレッシェンドするダイナミズムの瞬間がしみじみ良かった。

 続いて冒頭にウードのタクスィームを置いた4曲のメドレー。どこが区切りなのか、知識不足でさっぱりわからず。
 この即興でも松田はがらりと雰囲気を変えた。ビブラートは激しくなり、指板を動く指の音が、きゅきゅっと響く。曲の時には印象に残らないのに。こんどは姿勢をさほど変えず、穏やかな面持ちで弾いた。
 しかしフレージングは激しい。左手は力強く弦を押さえ、めまぐるしく右手で速いフレーズをばら撒くシーンもあった。

 後半4曲目もメドレー。MCで「4曲ほど」とあったが、「ほど」ってなんだろう。1曲全てじゃなく、ごく一部の旋律だけ混ぜた曲もありってことかな?ともあれこの曲も切れ目がよくわからず。
 まずコード弾きのようなウードと、ダルブッカがそっと刻む。勇ましいナイの響きがアドリブで響く。
 おもむろにアンサンブルで曲に入る。アップテンポで力強いメロディ。
 もう一度ナイのソロが入って、別の曲に移ったのはわかった。もしかしてナイのソロが違う曲だったのか。だとしたらかなり器楽的なフレーズで、歌うのは難しそう。

 最期は竹間のオリジナル。ハマメットのイメージした曲、と説明あったかな。
 これまでの伝統曲とメロディの耳ざわりは寄り添いつつも、やはりロマンチックさが違う。うまく説明できないが、エジプト伝統曲のストイックさと別の情感が溢れるメロディだった。
 アレンジも明確に変え、ユニゾンでなくアンサンブルのイメージが強い。
 さらにナイやウードのソロも挟み、ふくよかに盛り上がった。

 とても気持ちよかった。途中でぼおっとするほど、ぐいぐい音楽にのめりこむ。アラブ音楽の魅力にまた気づく、飛び切り充実したライブだった。

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