LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/7/8   大井町  きゅりあん小ホール 

   〜Dance Venus Presents〜A・huu・・・・ vol.12〜
出演:異教の蓮 ーPagan Lotusー
 (武元賀寿子,加賀谷香,北川美和子,佐藤昌枝,ナオミミリアン,庄子美紀,柴田恵美:dance、
  齋藤徹:b、太田惠資:vln)

 ライブではなく、ダンスの舞台公演に斉藤徹と太田惠資が即興伴奏をつけるステージ。二日間公演の初日に行った。
 この演目は3回目。伴奏者は同じらしく、初回は完全即興、2回目は少々打合せで臨んだとチラシにあり。

 場内へ入ると、ステージがどおんとせり出していた。客席の一部までも潰して。長方形のステージ右手片隅に、板が斜めについて橋となっていた。
 奥行き深い舞台の後方には、大きな円形のオブジェが。月だろうか。
(翌日に見た方から「蓮の実では」と指摘を頂いた。これが正解か。自ら気づかなかったので、付記の形で補足する。)

 長方形なステージの両脇には電動紗幕が吊るされ、両脇に舞台のスペースを作ってある。コントラバスが横に置かれてるのが見えた。
 
 ステージの前面には、葉っぱのようなオブジェが20本ほど林立する。空調なのか、ゆらり、ゆらりと揺れていた。
 そのうち一本、ステージ左側前方。なぜか一本だけ、ひときわ大きく揺れていた。
 
 舞台は薄明るく照らされ、上部からはスポットライトが客席も眩く照らした。
 客入りのBGMすらない、静まり返った舞台。ほぼ満席の観客によるざわめきが広がる。
 大きく、一ベルが鳴った。長く。

 客電が落ちる。暗闇・・・のはずだったが、舞台左手のドアだけが開いており、明かりが漏れる。あれは本当に惜しかった。暗転を狙ったはず。単に段取り違いだろう。
 ともあれ。暗闇に包まれたステージの奥で、人影が動いた。
 静寂の中。残響いっぱいに包まれ、バイオリンが静かに響いた。

 即興のフレーズは、アラブを感じさせる音階。おもむろに奏者は歌いだす。ホーメイを織り交ぜて。
 いつしか、ステージが明るくなる。太田惠資は歌いながら、弾き続けた。
 ダンサーが、舞台端の橋を上がってゆく。ステージ中央で、ゆっくりと舞った。

 もうひとり、奥からも登場する。バイオリンにのって、軽やかに身体を動かした。
 ダンスについて知識は無い。バレエとは違うみたいだ。即興要素は無く、全て振り付けだろうか。冒頭こそ二人の動きに規則性は無かったが、途中で共通する動きもいくつかあった。

 しばらく無伴奏バイオリンで踊ったあと、ダンサーが舞台袖へ消えて別のダンサーが現れる。
 斉藤徹が姿を見せた。横置きのコントラバスの前に座り、棒で弦を叩き出す。
 弦にはなにやら挟んでおり、金属質な音が響いた。太田は入れ替わりで、弾きながら姿を消す。

 パーカッシブな斉藤の即興。メロディ要素は無い。ダンサーはときおり激しく、ときおり舞台周辺に飾られた草のオブジェへ身体を寄せる。
 空調が切られたのか、うっすら場内は暖かい。
 ときおりダンサーが、足を高々と上げてバランスを取る仕草も。ピクリともせず、引き締まった姿勢で身体を固まらせる仕草が美しい。

 背後でバイオリンの音が聴こえた。物悲しいメロディ。斉藤は依然、コントラバスの弦を叩いている。
 ダンサーがときおり入れ替わり、服装が次第にシンプルになった。
 舞台の意味は良くつかめない。ストーリーなりコンセプトなりはありそうだが、ストイックな面持ちで身体を動かすムードが先に立った。

 バイオリンの音色はますます高まる。斉藤も太田もアコースティックだが、場内の残響が凄まじく、リバーブをかけているかのよう。
 太田は客席の間を縫って、奏でながら歩をステージへ進めた。
 片足を橋にかける。ゆっくりと歩み、舞台へ身体を載せた。

 太田も、そしてダンサーも。客席へ背を向けることを躊躇しない。表情を背中で表し、踊りや音楽を提示した。斉藤はコントラバスを持ち上げ、弦をはじく。メロディが時に現れるシーンもあるが、ほとんどは断片的だった。コントラバスを持って、ステージ右奥へ移動した。
 太田も斉藤の横へ立ち、バイオリンを奏で続ける。

 ダンサーは踊り続けるわけではない。場面ごとに役割分担を決め、時には舞台の紗幕に身体を絡ませ、静止し続けるパフォーマンスも。
 垂れ下がった薄布も、効果的に使った。時に電動で幕の広さを前後させ、身体にからませたりして動きに幅を出す。

 音楽は激しさを増した。セッションでありながら、コントラバスとバイオリンは互いだけで完結しない。つまりソロ回しや応酬など主眼ではない。
 むしろ凛とした即興をダンスへぶつけるように、りりしく尖った演奏だった。

 ダンサーは全員が舞台に立った。時に揃って、時にばらばらな動きで群舞を続ける。
 激しい動きだが、踊っている最中に汗はほとんど感じさせない。
 ときおり、ぽおんとステージから床へ飛び降りたりも。橋も巧みに踊りへ盛り込んだ。
 力強く、一人の踊り手が橋に歩を進めたシーンが印象に残る。
 演奏者は明確にダンスへ絡まないが、ステージ脇で音楽を出し続けた。
 太田はステージ奥のスペースで、赤いスポットライトに照らされつつ弾く。斉藤がコントラバスを持って、ステージ脇へ移動した。

 すっと一斉に動きがまとまり、舞台がクライマックスを迎えた。

 大きな拍手。ダンサーが拍手に応える。いったん袖に消えても、もう一度拍手に応えて全員が登場。横一列に並び、深々と一礼した。改めて、踊り手たちの身体に汗が噴出しているのがわかる。
 
 ダンサーらはいともたやすく身体を二つ折りにした礼。
 斉藤がその横で対抗するように身体を大きく曲げ、手をぐいっと床へつける仕草が面白かった。
 太田はバイオリンを持ったまま礼をした。ダンサーらが袖へ消えるとき、伴奏しながら去って、ほのぼのした空気を醸しだす。

 約一時間の舞台。濃密でテンションを保ち続けた。
 観客がざわめきながら、席を立って行く。

 ふと、舞台を見た。開演前にあれほど揺れていた、草のオブジェ。
 今度は一本残らず、動かず静かにそそり立っていた。

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