LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/6/28 大泉学園 in-F
出演:shezoo+小森+岡部+多治見
(shezoo:p、小森慶子:ss,cl,b-cl、岡部洋一:per、多治見智高:vln)
予備知識なしで聴きにいったセッション。立見も出る満員の盛況だった。ステージには譜面台が立ち並び、ピアノの前や背後の壁に絵画がかけられる。
shezooと多治見智高は聴くのがはじめて。アンサンブルの主導権はshezooがとった。
後半のMCで、なんとなく背景がわかる。shezooのバンド"トリニテ"(小森慶子が参加、岡部洋一はゲストで参加経験あり)時代や、背後に飾られた霧島留美子の絵とコラボレーションなど、全て自作曲を演奏した。
アレンジは相当にかっちりして聴こえた。が、実際の譜面はかなりシンプルらしい。テーマなどのフレーズや、曲の構成やコードのみという。
にもかかわらず、産まれるサウンドは隅々まで世界観が統一され、構築度高く整った音楽だった。
アンサンブルで即興の自由度をもっとも高く感じたのが小森だった。
譜面を見ながら、アドリブとおぼしきフレーズをイントロやオブリで挿入する。多治見は後半数曲を除いて譜面を弾いていた。持ち味なのか、無表情のまま。
ステージ背後の岡部も譜面を見っぱなしだった。
後半の中ごろまで、MCはほとんど無し。せいぜい曲目紹介を丁寧だが簡素にするくらい。小森が「かたっくるしいなー」と思わず突っ込んでいた。「持ち味なの」とすかさずshezooは返していたが。
出来ればあの後半MCを、前半最初にして欲しかった。かなり親しみやすさが変わった。ぼくだけかな、そんな客。
そんな進行やアレンジだったので、いきおいshezooの音世界を強調したライブ、と感じた。
前置き無く、まずshezooと小森のデュオからライブが始まった。シンプルなピアノに載って、クラリネットが優雅にアドリブを膨らます。ひとしきり二人の音がからみあったあと、そっと多治見が演奏に加わった。
譜面によるテーマをバイオリンが静かに奏でる。クラとバイオリンが対位的に行き来するさまがきれいだ。
やがて岡部もアンサンブルへ参加。カホンとシンバルを軸に、僅かにリズムを入れた。左指先で低音の連打をカホンから引きだす。
ライブを通じて、アレンジはshezooが軸で小森が肝。岡部はパーカッションの役割で、ビートは刻まない。多治見は主旋律の提示役か。
2ndセットの後半数曲のみ、音楽性が変わってアドリブ要素を強めた。曲目紹介は全曲では無かったが、全てshezooの作品だろうか。
shezooはアコースティック・ピアノを、音数少なく弾く。ほとんどが譜面を弾いていそう。左手でシンプルなリズムを刻み、音楽の輪郭をくっきりつけた。右手は柔らかく鍵盤へ落とす。ときおりフロント二人と絡みつつ、スケール大きい音を作った。
アドリブ的なフレーズはほとんど無い、強固な音楽性を提示した。
小森は前半がクラリネット、後半は頭の2曲をソプラノ・サックス、残りはバスクラ。いちばん最期の曲でソプラノと持ち替えたかな。
全員が譜面と首っ引きなステージングの中、もっとも華やかなムードを醸した。
右足を重心軸に、吹きながらふわふわと身体を揺らして表現を膨らます。クラリネットでは腿でベルの先を挟むようなそぶりを幾度か。ミュートを狙ったのかは定かでない。
オブリの旋律はほとんどがアドリブっぽい。柔らかな身体の動きが、滑らかかつアクセントあるフレージングとあいまって良かった。
多治見はアコースティックとスケルトンのエレクトリック・バイオリンの二挺を準備した。足元にエフェクターもいくつか。ディレイやディストーションか。ループ的なアプローチは無かった。
スケルトンのエレクトリック・バイオリンは女子高生のプリクラみたいに、華やかなラメのシールでデコレーションされていた。
前半セットは全てアコースティック。3曲目でエレクトリックに持ち替えたが、音が出ず。舌打ちしてアコースティックへ戻した。
後半セット最期の2曲を除き、譜面にのっとったプレイ。shezooとは初共演だそう。かなり若いミュージシャン。無表情で淡々と弾き続けた。
ステージ背後で見えづらかったが、岡部はジャンベにシンバル2枚、小さなシンバル群を吊るしたものが数本。さらにハイハットと腰掛けたカホンを基本セットだった。
ときおりパンデイロやシェイカー、鐘などを使う。叩きっぱなしではなく、アレンジにのっとって場面で音を挿入した。
shezooの曲はアジアンなムードを基調に、和音響きや展開が鮮烈で面白かった。
シンプルなピアノのフレーズと、隙間多いパーカッションのおかげで、曲の輪郭はくっきり。だからこそ、一瞬でがらり変わる瞬発力が良かった。
日本の童歌を連想する穏やかな旋律の1曲目から、中国や東南アジア系へイメージが膨らむ2曲目や3曲目など。shezooの生み出す大胆で繊細な音風景に、エキゾチックな嗜好を感じた。
shezooの曲はリバーブたんまりなミックスで聴いたら、素晴らしくロマンティックだろう。in-Fはかなりデッドな響きなため、曲の骨格を無造作に、ぽんっと提示した感触だった。
1stセットでは4曲目で、岡部がソロを取る。冒頭はジャンベの上に小さなシンバルを逆さに載せ、まわしたり棒で叩いて響かせる。やがてビリンバウを手に取った。
間近で演奏風景を見るのは初めて。左手の円盤をリズミカルに弦へぶつけながら弾いた。
前半は5曲で45分、後半も6曲で50分強。曲名は失念したが、前後半それぞれshezooのアルバムから弾いたようだ。
後半セットはリラックス度が増した。前半の組曲では小森のソプラノがゆっくりと立ち上がり、ピアノと優美に音を紡ぐ。ときおり岡部の挿入するシンバルの響きが、きれいなアクセントだった。
小森がバスクラへ持ち替えた3曲目に惹かれる。ランニング風にベースのフレーズをバスクラが刻み、バイオリンがメロディを。やがて二人が旋律へ向かう。
さらに、同一の符割で音程を変えてぐるぐると螺旋状に漂う曲でとても良かった。
多治見のエレクトリックは控えめなアプローチ。ディストーションも音色として使い、崩しにはいかない。
個人的にやられたのは、後半の5曲目あたり。オクターバーで音程をあげたエフェクト。ベース・ラインを弾くケースは別のミュージシャンで聴いたことあるが、上にあげるのは気が付かなかった。
しかもスケルトンとはいえ、バイオリンの生音もうっすら聴こえる。
実際は、ハーモニクスで倍音が出ていたそう。
さらに後方で岡部が鐘をフェルトのついた棒でエッジをこすり、倍音を膨らます。
多層的な響きが重なり、玄妙な効果だった。
岡部は後半5曲目あたりでも、アドリブを存分に取った。今度はハイハットへチャイナ・シンバル(?)を逆さ向きにのっけた。踏むと金具に押し上げられたシンバルが、ちゃかちゃかとサワリみたいに鳴る。
小脇にトーキング・ドラムを抱え、左手はジャンベを叩く。猛然なアドリブだった。
最期の曲あたりで、小森がソロをとる。ジャズ的なソロ回しでなく、さりげなく独奏のスペースを作った。この曲は岡部もshezooも活き活きさを増し、テーマで全員が疾走する躍動感がたまらなかった。
コンパクトかつふくよかに拡がる、きっちり構築された心地よいアンサンブルを聴けた夜だった。