LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/6/27  西荻窪 音や金時

   〜ビオロンの太田惠資 ややっの夜〜
出演:太田惠資+関島岳郎
 (太田惠資:vln,etc.、関島岳郎:tuba,recorder,key,etc.)

 月に一回な"ややっの夜"は、今回が60回目だそう。冒頭で太田惠資が、感慨深げに挨拶した。今夜のゲストは関島岳郎。MC長めでバスキング風のほのぼのした演奏かな、と根拠無く想像していた。
 実際は真逆。ずぶずぶの即興がたっぷり。
 
 ステージのセッティングは、太田がアコースティック1挺とエレキ2本のバイオリン。足元にはエフェクタがずらり。あとはメガホンを準備した。
 関島はチューバのほかに、小さなテーブルの上へ各種リコーダーやキーボードなどを載せた。白い小さな箱は、なんだかわからず。プラグが刺さった機械も持ち込んだ。
 
 ところが開演時間になってもいっこうに太田が姿を見せない。
 さらに20分くらいたって、息せき切って現れた。口上のテープを忘れ、取りにいってたという。慌てた様子のまま、ほとんど間をおかずにライブは始まった。

 客電が落ち、暗闇の中を太田がステージへ向かう。
 薄明るくスポット・ライトで照らされた。
 太田はカセットのスイッチを入れて、テーマ曲"Alexander's Ragtime Band"を流した。

 場面でボリュームを絞ったり、口調を早めたりと小技を効かせた口上だ。
 関島を呼び込むと、喋りもそこそこに演奏が始まった。
 前半が即興2曲で40分強、後半は即興2曲の合間に関島の作品を1曲挟む構成で約1時間。
 
 まずは小音で幕を開ける。関島はチューバを持ち、抜差管をゆるやかにひっぱったり押したりしつつ、静かに息を吹き込む。おもむろに音量が上がった。
 太田は赤のバイオリンでサンプリングを繰り返し、ゆったりとパターンを構築。弓の背で弦を叩く音や、軋み音を混ぜ、ストイックなムードのループを作った。
 メロディ要素がとても希薄な即興だ。ドローンとときおり太田や関島の出すリフが、漂っては消える。

 次第に関島も吹息音からチューバを鳴らしにシフトする。だがベースラインとは違うアプローチ。4拍子を基調にランニングしかけても、くっきりと刻まない。4拍目あたりをぼやかして、揺らぎを作った。
 むしろ太田のほうがアプローチはリズミカル。関島へ耳を澄ましつつ、ぎしぎしとリフを繰り返す。
 関島はほとんどメロディを吹かない。そのためリフを互いに続け合うだけの、ストイックな場面も見られた。

 濃密な時間が続く。ひとしきり関島と音像を提示しあった後、太田はソロをわずか取った。
 アコースティックへ持ちかえるが、がっぷり関島と噛合うインプロの展開はそのまま。 1stセットの関島はずっとチューバを演奏。ボディをぴしゃん、と叩きながらリフを吹くシーンが印象に残ってる。

 互いの音楽が山を越えて終わりかけても、関島が改めて吹き続け、即興はしぶとく続く。太田は青バイオリンへもちかえた。
 最初の曲はすうっと音が消え、二人で顔を見合わせて区切りをつけた。

 次の即興はもう少しメロディアスだったか。関島はシンプルさを追求し、リフをずっと繰り返した。すっとバイオリンがその音像を膨らまし、響きに厚みを出す。
 ひとしきりサウンドをステージいっぱいに広げたところで、太田がさらりとメロディを奏でた。
 穏やかでクラシカルな旋律ながら、シリアスなムードを保って。軽くビブラートを効かせつつ、太田がじっくりソロを。

 この即興もあちこちに展開したが、細かい記憶が曖昧。無念。
 関島が静かにチューバを吹きつつ、抜差管を操作してたとき。静かな音場の中で唐突に、ぽんっ、と鋭く鳴った。故意か否か、抜差管がチューバから抜けた音。
 関島は慌てず、もう一本の管すらも抜き去る。
 バルブを押しても呼吸音がメインの音ながら、かまわず小さな音で吹き続ける。

 横で太田は唇を噛み、息笛を始めた。白玉の無機質な単音がしばし絡む。
 マイクを手に取って、太田は自らの息笛をサンプリング。
 さらに唇を鳴らしたり、唸ったり。自らの声を多層パターンで積み上げた。かなり長い周期のループが産まれる。

 ループがまとまったところで、太田はさらに即興を続けようとした。
 ところが関島が、チューバを下ろして見入ってしまう。どうしようか迷った様子だが、太田は結局そのまま曲を終わりにしてしまった。残念。

 休憩は短め。後半は多彩な楽器を関島が操る展開となった。
 まずは自作のリコーダーから。アルト・リコーダーのマウスピースへ紙筒を、ガムテープで貼り付けたかのような形状。
 仕組みや効果はいまひとつわからなかったが、呼気のパターンが増えるということか。

 冒頭は鋭い息でリコーダーを素直に鳴らした。
 後半には小刻みな息の操作で、金属質な高い音や、ぶるぶると震える音、さらにリコーダー自身と呼気の増幅らしき音。
 さまざまな方法論で、バリエーションある音色を聴かせた。

 アコースティック・バイオリンが単音を弾き続ける。音世界をきっちりあわすフレーズで、太田は応えた。
 やがてバイオリンを抱える。開いた両手で口を囲み、関島の出す息音と呼応する音を出した。しばし淡々と二人の出す音が交錯した。

 関島はリコーダーを小さい物に持ち替え、白い箱を膝の上において操作しながら吹き続ける。白い箱へリコーダーの先を押し付け、息で音を出してるようにも見えた。鍵盤ハーモニカみたいなものだろうか?
 太田のバイオリンと、関島のリコーダーの音も混ざって、混沌な音像が産まれた。

 太田は青バイオリンで迎えうつ。今度もあまり前面に出ず、関島の繰り出す技をがっちり受け止め、リフっぽい場面が多く見られた。
 けれども敏感に雰囲気を感じ取る。がっと両足を踏みしめ、アコースティック・バイオリンできっちり旋律を噴出させるときも。
 アコースティック・バイオリンでハードロック調のリフを刻むときも。穏やかな音使いのため、ほのぼのした空気も感じた。
 
 いったん即興を終える。譜面台を目の前に各自が置いて、関島が持ち込んだ曲を弾いた。
 数年前の深夜アニメ"奥様は魔法少女"の劇伴から。CDでも太田が弾いてるそう。
 もっともライブでは初めて。太田も曲の記憶がさっぱり蘇らぬそぶり。さらにスコアが見づらい、と太田はいったん楽屋へ戻ってめがねを持ってきた。

 せっかくだから、と関島がチューバの音をその場でサンプリングしたキーボードで伴奏を。
 音の立ち上がりが微妙に遅れて入るのと、音程が柔らかく変わるため、厳かなホーン合奏とコミカルな要素が混ざり合う伴奏の響きとなった。
 旋律は美しく、情緒を保ちながら気品も漂う。いい曲だった。アドリブはおそらく無く、さらりとメロディを奏でてあっさり終わった。

 譜面物はこの一曲のみ。ふたたび即興は硬質な世界へ。根本でアタックを厳しく取らぬ音色のチューバなため、耳ざわりは優しい。
 今度は尻尾を持つと音が出る玩具をサンプリング。複数の音色を同時にメモリーさせ、さらにリアルタイムで玩具からも音を出す。かなり震えるピッチが錯綜し、猛烈に奇妙な響きで面白かった。
 
 太田はエレクトリック・バイオリンで、つぎつぎサンプリングを始めた。オクターバーで下げた低音でのリフを複数にボディを叩く音なども重ね、ダンサブルなパターンをあっという間に作った。
 メガホンを持ち、サイレンを響かせる。ときおり身体へメガホンのベルを押し付け、ボリュームを操りながら。賑やかに響くループは、ペダルで随時カットイン&アウト。痛快にかっこいいシーンだった。

 最期は関島がチューバを持って抜差管を操りながらの即興。太田が静かに音を止める。
 吹きながら、ちらちらと太田の様子を伺う関島。ついに音がやみ、視線を交わす。
 曲の終わりを確認しあった。

 拍手に包まれ、関島がステージを去った。クロージング・テーマをアコースティック・バイオリンで奏でる太田。きっちり1コーラスをインストで弾いた後、しみじみと歌った。
 深い一礼のなか、溶暗。

 関島の即興持ち味が、これほどシビアとは。長尺で独自の世界観をあっけらかんと提示する。聴き応えあるライブだった。

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