LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/6/14   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之+明田川歩
 (明田川荘之:p,オカリーナ、明田川歩:vo)

 月例の深夜ライブにて。ピアノに3本、中央にマイクが一本立つ。明田川荘之の口元を狙うマイクは、ちょっと遠めにセッティングしてるように見えた。
 明田川歩は全てハンド・マイクで歌う。ほんのりリバーブをかけてるのかな。残響はほとんど店内へ響かない。でも、ぴいんとした強さと伸びやかな声が、店内に通った。

<セット・リスト>
1.エミ (*)
2.クルエル・デイズ・オブ・ライフ
3.クレイジー
4.アルプ
5.リンゴ追分 (**)
6.オール・オブ・ミー
7.レフト・アローン
8.オーヨー百沢
9.アフリカン・ドリーム (*)
(* piano solo、** ocarina solo) 
 
 歩のレパートリーを中央に挟み、前後へピアノ・ソロを配置。中間のオカリーナ・ソロで進行にメリハリをつける。ボーカル曲はそろそろ新曲も聴いてみたい。
 スキャットは無くフェイクも控える歌唱スタイルだが、今夜は声に余裕あり。フレーズの余韻などで、ほんのりと揺らしたり伸ばしたりも聴けた。

 まずピアノのソロ。荘之はオカリーナの入ったアタッシュ・ケースを足元へ置き、無造作に弾き始める。
 音数は少なく情感を出すアドリブは、やがてペダルを踏みながら音符の数を増した。ゆったりと情緒をふりまき、唸り声とともにソロが展開。テーマがフェイクされ即興と溶ける。さりげなく力のこもったプレイで幕を開けた。

 歩がステージへ登場し、荘之オリジナルの"クルエル・デイズ・オブ・ライフ"から。歌版はキーが1音高いらしく「間違えるかも」と苦笑して演奏を始めた。
 自由なアドリブでひとしきり盛り上げ、明確なイントロへ。ちらと歌の入りを視線で合図。
 ハンド・マイクの歩はすっと背筋を伸ばし、ときおり身体を揺らしながら声を響かせた。この曲の魅力は、冒頭フレーズで鋭く高く駆け上がる旋律の響き。歌は1曲目にもかかわらず、軽やかかつ華やかに高音の声が響いた。

 歌の1番ではフレーズの合間にピアノ線を、ざらりと荘之がこする。2番目からは鍵盤のみで。ピアノ伴奏はかなり自由度高い。ボーカルと付かず離れず、別ラインのフレーズ的に引く場面も。だいぶ幅が広がった。
 間奏ではがっつりと即興に。短めなのがもどかしい。奔放なソロから、力技で歌伴へ戻る落差も興味深かった。

 「ぼくに捧げた曲です。"Crazy"」
 ぼそっと荘之が曲紹介。滑らかなイントロから。じっくりと歩が歌う。ピアノ伴奏がかっこよかった。1番では左手でベース・ラインをキープしつつ、右手はぐっと音数を減らす。雨だれのように。ボーカルだけで進行性を演出した。
 間奏から2番でじんわりと音数を増やし、次第にグルーヴさせた。

 "アルプ"ももはや伴奏とは違う世界へ。冒頭は別曲のように華やかなソロを一瞬垣間見せ、唐突にイントロへ戻した。歌の間はクラスターがひっきりなしに飛び出す、豪快なしろもの。隙間を多くし、歌と交錯させてピアノを叩いた。
 歩は動じず、身体を軽く揺らしながら歌声を紡ぐ。今夜は声が良く出ていた。きゅっと音像を引き締める。
 空間を自由に使える自由な伴奏と、まっすぐなタイム感のボーカル・ラインが対照的だった。
 今夜も譜面台をマイクの前に置く。"アルプ"あたりで譜面を繰ったが、特に見ている様子は無かった。

 後半は歌詞にあわせ"猫踏んじゃった"の高速変奏を入れたり、クラスターを取り入れたり。ユーモラスにピアノが続く。
 エンディングは急転直下。歌が終わると同時に弾き止め、じっと覗き込む。アウトロもコーダも無く、問答無用の終わり方だった。

 荘之はオカリーナを取り出し、"リンゴ追分"を。今度のオカリーナ関係のライブでこの曲と、吉幾三"酒よ"をやるんだ、と曲前に喋る。本気かどうかよくわからないが。
 今夜のアドリブは、小ぶりのオカリーナ一本でソロを組み立てた。テーマはすぐさま即興に溶け、軽やかにアドリブが続く。バロック調と日本情緒を混ぜ合わせたイメージ。

 ふっとオカリーナを持ち替え、倍音がいっぱい出る吹き方でブカブカと。
「ここで、酔っ払うんだ」
 無造作に、壁際へ座っていた歩へ声をかけてソロを終わらせた。調子はずれな響きに酔いをダブらせたのか。つまりこのブリッジのあと、"酒よ"に雪崩れる演出かも。

 歌入りに戻ってスタンダードを2曲。オーソドックスなジャズっぽいピアノを聴かせた"オール・オブ・ミー"から、"レフト・アローン"へ。
 "レフト・アローン"のイントロは、もろにアケタ節なのが面白かった。コード進行とフレーズの関係はよくわからない。しかし組み立てる節回しや、折り重なる情感の高まりは、まるで荘之のオリジナル曲のようだった。

 ボーカル入りの最期は"オーヨー百沢"。ピアノを弾く手に力が入る。半身に立ち位置を変え、身体を揺らしながら歩は声に力をこめて歌った。
 間奏は短めながらも寂しさと強さが入り混じる、旋律の揺れが心地よい響き。

 2番へ入った刹那。いきなり、ばしんっと鋭い響きがピアノから。
 思わず歩もピアノを見つめる。ピアノ線が切れたな。荘之は動じず、演奏を続けた。
 オクターブ上のGあたりが切れたようだ。音使いがそこへ向かうと、音がビリついた。

 ピアノ線のトラブルには全く触れず、最終曲として"アフリカン・ドリーム"を。イントロでちらと床へ目線を投げたのは、ベルを探したか。結局はベルを振らずにピアノだけで一曲を組み立てる。

 今夜の"アフリカン・ドリーム"は、素晴らしい名演だった。CD化されると嬉しい。ピアノ線が切れたトラブルも越えて、アドリブや展開が凄かった。
 イントロでの音使いはスケールが大きい。響きも新鮮だった。高音部をきゃらきゃらと叩く場面も、ゆっくりした8分音符で。たいがいは16分で素早くクラスター気味なのに、今夜はじっくりと鍵盤へ指を落とす。

 アドリブでもタイム感が自由に前後した。ひたひたとひとしきり弾いた直後、わずかテンポ・アップして畳み込む。次にはまた、ゆっくりめに。派手にテンポを変えぬだけに、風景の切り替わりがさりげなくきれいだった。広大な光景がピアノから提示された。
 興が乗るとフレーズは加速。ペダルを猛烈に踏む。足踏みするように。ソロが炸裂した。ときおりピアノ線が切れた音が混じると、鈍く軋む。

 中盤ではクラスターの連打。唸り、伸び上がって。荘之は幾度もひじを、腕全体を鍵盤へ振り落とした。
 クラスターの比率が高まり、ピアノがぐわんぐわん揺らいだ。

 すっとエンディングへ。じっくりとアウトロを弾く。やがて指が、切れた鍵盤へ載った。
 こん、こん。こんこんこん。
 既に音が鳴らない。ハンマーの動く音だけが聴こえる。
 悪戯っぽくその鍵盤だけを、幾度か鳴らして。静かに、ライブは終わった。

 ピアノ線が切れたのはハプニング。でも、逆手に取ったアレンジも面白かった。
 このところずっとデュオ形式で、深夜ライブは進んでいる。たまには完全ピアノ・ソロも聴きたくなった。最期の曲を聴いてて、しみじみ思った。猛然たるピアノとの対峙を、どっさり味わいたい。贅沢かもしれないが。

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