LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/6/8   新宿 歌舞伎町クラブハイツ

出演:菊地成孔 DUB SEXTET
(菊地成孔:ts、類家心平:tp、坪口昌恭:key、鈴木正人:b、本田珠也:ds、パードン木村:Live Dub)

 2nd録音を終えた菊地成孔 DUB SEXTETが、クラブハイツでの昼夜公演。昼公演へ行ってきた。開場はエレベータ一基のみで入場するため、かなり時間かかる。開演まで何故1時間も余裕見るのかと不思議だったが、むべなるかな。

 本来はキャバレーとして営業してるこの店、行くのは初めて。ロビーはさすがに狭く、中へ入れば、ずんっと広い。上にはでかいシャンデリアが下がり、中央のダンス・スペースにずらりソファが並び、周囲を囲うように小さなスペースがいっぱいの大箱だ。
 当然ながら窓は無く、客席の壁には鏡が何枚か。演奏中に、奏者がさまざまな角度から鏡に映される光景がきれいだった。
 
 ちなみにステージは店内中央置くの高台。奥深いステージだが、店の楽器群は舞台の奥へしまい、全て自前の楽器やPAを持ち込んだようだ。
 ステージ左上にも鏡あり。薄く輝くシャンデリアと、スポットライトが星空のように輝き、こちらもさりげなく華やかだった。
 
 なお1ドリンクはロビー横のブースで配布形式。えんえんと観客が並んでる。場内は禁煙。ためしにトイレへ行ったが、壁に演歌歌手の公演ポスターが貼られており、いかにもな雰囲気だった。

 開演時間を過ぎてもドリンクを求める人の列が切れない。どうなることやらと思ったら、15分ほど押して客電が落ちる間もなく、ステージへメンバーが現れた。
 ふわりと照明が落ちる。ステージ後方からスポットと、上部の各種ライトのみ、シンプルな照明だった。曲ごとに色合いが変わる。
 ステージ上部に飾ってる"Club Hights"のネオン・ライトがすっと消えた。

 現れたメンバーの全員が黒いスーツ姿。菊地のみサングラスを掛けている。パードン木村もステージの上、後方にスタンバイする。ぴしりと黒いネクタイを締め、菊地だけ蝶ネクタイでフォーマル感の強調か。無言で演奏が始まった。

 一曲目が"AAAL"だろうか。MC無し、6曲ほどで1時間半のステージ。曲名や順番は曖昧。ほぼ1stからのレパートリーだが、4曲目あたりが聴き馴染み無かった。
 (マネージャのブログで、のちに新曲"Koh-i-Nur"が披露と記載あり)

 冒頭2曲はかなり長めの演奏だ。
 1曲目の冒頭はドラムとベースのイントロから。すぐさまエフェクトがかかり、ドラムの音がひしゃげてゆく。おもむろに菊地と数家が音を乗せた。最初はキーボードが控えめ。
 スタイリッシュでほんのりデカダンなムードが漂う。初手から菊地がアドリブをシビアに取った。菊地はテナー・サックス一本。

 アドリブが終わると、ステージを下りてスピーカーの横に立ち、演奏へ目を向ける。
 各人がじっくりソロを回してゆく構成だった。パードンのエフェクトはくっきりかかり、音を歪めながらまとわりつく。やがて朦朧としてきて、次第に生音と混ざり合ってきた。

 数家の演奏は初めて生で見たが、ガレスピー・スタイルで頬を思い切り膨らます。鋭いフレーズから抽象的な音使いまで、多彩に吹き分けた。
 アンサンブルの基調はベースとドラム。鈴木がめまぐるしく低音を跳ね散らかし、本田が着実さと猛然ぶりが同居する凄まじさだった。
 強靭にハイハットで4ビートを刻み通し、別の曲ではポリリズムをしぶとく決める。
 2曲目だったか、ぐいぐいと前へ出るベースの向こうを張って、淡々と別のビートを刻む本田のさまがかっこよかった。

 坪口は一歩引いた印象。しかし横へカオスパッドを置き、音使いはもっともトリッキー。リアルタイムでサンプリングして、アドリブを弾きながら左手はカオスパッドの上を動く。
 4曲目あたりでカオスパッドとバトル形式のソロを取ったのが見事だった。

 二人はアドリブを坪口へ任せ、ステージ横へ向かう。パードンの操作で、ロングトーンを場内へ響かせたまま。
 
 パードンのエフェクトはユニゾン的に操作した音をかぶせるだけでなく、ロングトーンのディレイ、ループ的なものも任意に挿入する。ふと目をこらすと、奏者が弾いていないのに、音だけ出てる場合も多数。それがまた、不思議な光景。
 管だけでなく、ドラムでも同様のことが言える。
 さらに坪口はカオス・パッドも操るため、なおさら実演奏音と流れる音のギャップが激しい。かといって、やたら混沌さを狙わずに、根本的にはシンプルさを志向するようだ。

 聴きなれぬ4曲目をクールに決めて、菊地と数家の4バーズ・チェンジで場を盛り上げた。斬りあう音使いながら、姿勢は常に穏やか。すっと背筋を伸ばし、視線を合わさない。
 菊地はソロイストに徹していた。バンド・リーダーらしさは、曲の頭でテンポを出す指鳴らしくらい。だからこそ、たまにハンドキューでアンサンブルの出を示す仕草が決まった。
 ほぼ終盤で、数家のトランペットを軸に、腕を素早く振り下ろしリズム隊をカットイン/アウトした。
 
 最終曲は菊地がすっくと立って長尺ソロ。エキゾティックな雰囲気でドラムが盛大に叩かれる。ステージは赤く染まった。
 ここまでメロディックだったサックスのアドリブが一転、フリーク・トーンをばら撒いた。すかさずエフェクトが絡み、音がぐしゃぐしゃに混ざる。符割も音使いもさっぱり読めぬ、強烈にサイケな音の塔がそびえた。
 終盤でサングラスをはずした菊地は、素顔のままでテナーを吹きまくる。ライトに照らされたピアスが、きらりと輝いた。

 なおもソロ回しが続いた後、コーダのテーマへ。菊地はメンバーへ手を振って、紹介のそぶり。最期に顔をぐっと上げて強い視線で客席を見つめる。
 すぐさまテナー・サックスを持って、ステージから去った。一言も口を利かずに。

 ドラム・ソロが鳴り響く。パードンと本田を残して、メンバーもすぐにあとを追った。
 パードンはしばらく機材を操作したあと、もやもやしたドローンのみを残し、拍手の中ステージを去る。そして本田は叩き続ける。
 ステージを通して、ドラム・ソロはさほど無かった。その帳尻をあわすがごとく、ドラム・ソロが轟く。豪腕でシンバルとスネアを叩きのめしたあと。
 すっくと本田は立ち上がった。まだ、ドラムの残響が残っている。素早く、本田も舞台から去った。

 本編は約1時間半。しばらくして菊地を先頭にメンバーが現れた。
 昼間は苦手、とぼやきながら菊地が早口で喋り始めた。各種の宣伝からメンバー紹介まで。客席が静まり返っており、かなり戸惑っていたようす。
 ホストクラブねたで笑いを取ったあと、アンコールの曲。エリントン/ストレイホーンの"Isfahan"を。

 ピアノのイントロからたっぷり溜めて、テーマをサックスは吹いた。
 アドリブでは冷徹さが先に立つ本編とうって変わり、ロマンティックな旋律をたっぷり含んで。
 アンコールも含めて2時間弱。一方通行なほどに濃密な本編をいかに楽しむかで、このライブの評価は変わる。少なくとも最期の1〜2曲を除いて、座って聴くジャズと感じた。
 このあと全席着席/立見の2パターン公演を、彼らは予定している。座って楽しむ音楽と思い込んでいたが、立見でいかに踊らせるのか。それはそれで、興味深い。

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