LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/5/31 福生 Jesse James
出演:モヒカーノ関+太田惠資
(モヒカーノ関:p,太田恵資:vln)
太田惠資はユニット名だけでなくライブの場所によっても、違う音楽性を見せるミュージシャンってイメージがある。彼のどっぷりなジャズを聴ける場所は、ぼくが知る限りここJesse
Jamesで、だけ。
太田とモヒカーノ関がときたまライブやるのは知ったが、タイミング合わず行きそびれたまま。ついに聴けたぞ。
Jesse
Jamesは駅から徒歩10分程度。キャパ30人ほどのステーキハウスとバーボンの店。カウンターもあり、ウッディでアメリカンな内装だった。ステージは客席の奥にあり、アップライト・ピアノとシンプルなミキサーが置いてある。
ここでは週末のみライブなのに、こぶりながらステージのスペースをきっちり確保してるのがすごい。
なおすぐ横にステーキの焼き場があり、演奏中は煙や熱気が飛んでくる環境らしい。ライブ中に二人がぼやいていた。
サイトに記載の演奏開始時間は19時半。きっちり始まることを想定したが、20時になっても始まらず。
20時過ぎにアコースティック・バイオリンを持った太田が慌てて登場。喝采で迎えられた。
曲目を相談したあと、手早くマイクを準備して20時10分頃にライブは始まった。
今夜の太田はアコースティック・バイオリンのみ。タールやメガホンも無いシンプルなセッティング。
まず関が1曲目のタイトルを軽く紹介して、演奏が始まった。
<セットリスト>
1.デディケーション
2.スローボート・イン・チャイナ
3.惚れっぽい私(I
Fall In Love Too
Easily)
4.A列車で行こう
(休憩)
5.クレオパトラの夢
6.シークレット・ラブ
7.この素晴らしき世界(What
a Wonderful World)
8. ?
9. ?
(アンコール)
10.ミスティ
一部、曲名不明ながら。怒涛のスタンダードが展開する、もろのジャズだった。ビバップを想定したが、スイングやディキシーあたりに軸足を置いた感触。
一曲目からごきげんなソロ回しだった。テーマから間をおかず、滑らかにバイオリンがアドリブへ突入する。上品なコードのバッキングでピアノが支え、初手からぞんぶんに太田はソロを披露した。
ソロのたびに拍手が起こる、いかにもジャズな盛り上がりかただった。
ピアノのソロもじっくりと。太田はボディを軽く叩いたり、弦を指でウクレレっぽく爪弾いてバッキングを軽く入れる程度。カウンター・メロディでの絡みは避けた。ほぼ全曲で、この伴奏パターン。くっきりとピアノを目立たせた。
関のピアノは初めて聴く。リズムにわずか油っこさを残し、微妙にテンポを前後さす。ときおり低く唸りながら。操るフレーズは上品で、柔らかなタッチ。
たまに引っかくようなかたちで鍵盤をこすった。フリー要素はほぼ無く、数曲でアクセント程度にクラスターを入れるくらい。
王道をまっとうに、しかしほんの少しはみ出るピアノだった。
アドリブは左はランニングさせたりと、基本は伴奏の位置づけ。ソロはもっぱら右手で取る。コードを多用し、小指が軽やかに鍵盤を叩いてたのが印象深い。
音数がめちゃくちゃ多いわけでは無いが、軽快にフレーズが飛び交う。もちろん単音ソロもあったが、コードの連なりでソロを盛り上げた。
興がのるとフレーズが突っ込み、頭をぐっと下げて弾き続ける。メロディを歌わすよりも、和音でぐっと持ち上げるスタイルだった。ほがらかな感触のジャズ。
(1)での関はスイング・スタイルだったかな。もう一度太田へソロが戻ると、途中からアラブな音使いへ変化する。関の弾いたコードがきっかけらしい。
ひとしきりアラビック・ボイスも聴かせ、5分くらいでサクッと終わった。
ステージ進行は関がつとめる。寛いだ雰囲気で。太田はツアー疲れか、一歩引いた立場で関をもりたてた。
続く(2)はディキシーかラグタイムか。リラックスしたジャズが続く。バイオリンはふんだんにメロディを溢れさせ、ふくよかな音色を響かせた。
ピアノもこんどは単音メロディをあふれさせ、暖かい空気が広がる。
「謝謝!」
コーダで一声、太田が叫んだ。
"惚れっぽい私"はいくぶんソロがメロディ要素を強めた。途中で演歌っぽいフレーズも。冒頭はバイオリンの無伴奏ソロ。こぶしを思い切りまわす歌謡曲的な即興歌を太田が唸る。ホーメイも入れたかな。
関がその世界観を生かしつつ、するりとジャズへスライドさせた。バイオリンは強くかきむしり、弓の毛がブツブツ切れる。途中で毟った毛を軽くまとめて、後ろにあるミキサーの上へ太田はそっと毛の屑を置いた。
最期は曲名を継げず、いきなり関がイントロを猛烈なテンポで弾きだした。
何の曲をやってるのか、太田がピアノの譜面を覗き込む。ひとしきりピアノのソロ。ちょっとフリーな要素もあった。
おもむろにブレイクし、太田へ合図。ムードを変えて、二人で"A列車で行こう"のテーマへ突入した。
ソロ回しは2回くらい。互いにアドリブをいっぱい弾く。
エンディングは駅のアナウンスへ見立てた挨拶を、太田が豪快に叫んだ。
1stセットは40分程度と短め。だからてっきり3セットのライブかと思った。実際は2ステージのみ。開演が押したので、時間が短かっただけかも。
後半はリクエストを3連発。ふだんもリクエストを受けてるのだろうか。
まずバド・パウェルの"クレオパトラの夢"から。関は以前によく演奏してたそう。太田はほとんど弾いたことないそうで、譜面首っ引きだった。
冒頭は関のソロ。繊細ながら奔放に弾き、時に立ったり右腿を高く持ち上げたり。右腿を持ち上げるのは盛り上がった証拠とか。観客が拍手を送った。
テーマへ突入、メロディはバイオリンが流麗に歌わせた。譜面をじっと見ながらも、ポイントでぐっと響かせるさまが心地良い。
もちろんアドリブも双方、華やかに盛り上がった。タイトルか事前のMCに触発されたか。太田はアラブ要素バイオリンやシャウトも存分に放出した。
曲名を告げずに演奏始めたのが"シークレット・ラブ"。オリジナルは誰だろう。ぼくはムーングロウズで耳馴染みあり。もっともメロディ途中の"E〜ven
though"って歌詞だけが頭に浮かぶが、タイトルを思い出せず。最期の曲紹介でわかった。
旋律を何分割かして、合間にソロ回しを入れる。バイオリンは弾いてるうちにメロディへ装飾音が増え、ごく滑らかにアドリブへ変わる。さりげない一体感が素晴らしい。
今夜の太田は前衛要素をぐっと控え、あくまでジャズへ向き合った。アラブ要素などで個性は出すが、奔放なフリーの疾走は無い。イントロもさりげなく、ピアノの独奏を促し、サイドメン的な立ち位置。
しかしそれでも旋律の奔流と、テーマと即興の切れ目無き自然さのテクニックは、がっちりと見せ付けた。
関もどんどんのってくる。サッチモの"この素晴らしき世界"では、イントロの独奏を小粋に幾度も決め、フレーズを歌って笑いを呼ぶ。
アドリブでも没入し、次々と鍵盤を打ち鳴らした。太田は最初こそボディを叩いてバッキングしていたが、途中から楽器を下ろす。ピアノのソロに任せた。
ここまでがアンコール。次はグラッペリの曲らしい。"sing tea for
two"のように聴こえたが、どの曲かは特定できず。聴き覚えあるメロディだけれども。
ぐっとバイオリンをフィーチュアした演奏。ピアノがクラスターを軽く一打ち。バイオリンのソロに合わせてピアノの高音部をころころと叩きだす。
さらに盛り上がった関は、ピアノのボディを叩き出し、立ち上がって横の壁まで叩き続けた。太田のソロはどんどん続く。
関はピアノへ戻ってコーダへ。壁叩きは馴染みのパフォーマンスかと思ったら、今夜初めてらしい。なんかすごい盛り上がりだ。
エンディングでは、太田がヴィヴァルディの"四季"のフレーズを、さりげなく入れた。
最期はミドルテンポの曲を。タイトルの説明は聞き漏らし、メロディは馴染みあるが曲目思い出せず。
ひとつながりにメロディを連ねるボウイングで太田はソロを弾きまくり、ピアノもテンション高く、しかし洗練と上品さは残したアドリブで受け止める。
じわっと暖かい演奏だった。
アンコールの拍手がすぐさまに。
顔を見合わせたあと、関の提案でエロール・ガーナーの"ミスティ"を。これが、素晴らしかった。
ロマンティックなピアノと、情感溢れるバイオリン。高らかに奏でられるメロディが甘く広がり、アドリブは陶然と紡がれる。太田のこういう演奏は初めて聴いたかもしれない。
余韻をたっぷり残し、隙を作らぬアドリブのフレーズが暖かく広がった。
後半は1時間強。スタンダードとがっぷり組み合い、ピアノのはずし技やバイオリンのアラブ要素で、ほんの少しひねる。しかし根本はジャズ。寛いで旋律の流れに耳を任せた一夜だった。
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