LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/5/17 西荻窪 アケタの店
出演:緑化計画
(翠川敬基:vc、喜多直毅:vl,早川岳晴:b、石塚俊明:ds, guest
会田桃子:vl)
ゲストで会田桃子を迎えた月例ライブ。今年はゲストが続いており、先月まで平松加奈を、そして来月も会田をゲストに決定。すっかりフロントが生バイオリン2挺の編成づいている。
喜多直毅が正式メンバー後、ゆっくりと緑化計画の音楽志向が映りゆく過程へ、立ち会っている気分だ。なんだかわくわくする。
今夜の早川岳晴は、ウッドベースのみ。全員がアコースティックだが、アンプを通してバランスよく聴こえた。特に後半セットではチェロにかかったリバーブが、ふんわり音を響かせきれいに鳴った。
石塚俊明はスティックも使うが、ブラシやマレットを多用。ボリュームを落し気味に配慮した。
しかし後半セットではスティックで強打な場面もしばしば。それでもアンサンブルは壊れない。緑化計画ならでは。
ドラムは1タムのシンプルなセット。クラッシュに小さなシンバルを逆さにスタック、周囲にも小さいシンバルを何枚か。金物でさりげなく多彩な音色をもたせた。
演奏前に譜面を示しながら、翠川が会田と喜多へ曲の進行を話す。
色々な表現を使って説明するが、最期には「自由だから」「フリーだから」とまとめるのが、いかにも緑化だ。面白かった。
<セットリスト>
1.ergo
2.Bisque
3.Uzupe
(休憩)
4.TAO
5.ANOHI
6.Full
Full
まず"ergo"から。ずいぶん久しぶりに演奏するそう。おそらく20分を越える、いきなり長尺だった。
無伴奏チェロのフリーなイントロからベースが加わり、すぐさま喜多が鋭い音を加わらす。
テーマのフレーズは、バイオリンがふっくらと奏でた。符割は全てがつながり、かつゆったりと解釈された。波が来ては返すように。
1stセットはくっきりとソロ回しなアプローチがめだった。"ergo"でも翠川から早川、喜多から会田へとソロが移る。
トシはマレットで撫でるようにドラムをランダムに叩く。ハイハットのみでビートを作った。
翠川は朗々とメロディをアルコ弾きで操る。早川が抑えめなフレーズをさらり展開し、喜多が力強い旋律をたっぷり響かせた。
明確に何コーラスと決めず、フレーズが終わりかけると次の奏者へそっとバトンを渡す。
会田はスペースを見つけたとたん、すかさず弾き始めた。丸パイプ椅子に右足を軽く引っ掛け、自らの身体を支えるような姿勢で奏でまくっていたのが印象に残ってる。
エンディングはデクレッシェンドで音が消える。最期にシンバルが一打ち。いたずらっぽくトシが笑って、すかさずミュートした。
「先月もやったかな。この編成だと、どうしてもやりたくなる曲です」
微笑みながら、翠川がタイトルを紹介する。その気持ちはイントロを聴いたとたん、とても共感できる。
フロント三人でテーマを奏でる。ゆっくりと弦のみがアルコを使い、ふっくらと旋律を紡いだ。
穏やかで荘厳な旋律は、バイオリン2本とチェロ1本で、太く厚く懐深く響いた。
テーマからアドリブへ、リズム無しで3人がてんでに音を交錯させる。その場面が、特にきれい。あえて3人とも特殊奏法は控え、メロディの変奏だけで向かい合った。
音が絡み合い、昇華した。意識的なのか、特にバイオリン2挺のボウイングもけっこう合っていた。
早川もアルコで加わる。トシはブラシで応対したかな。中間部はすっかりフリー。静謐で鮮烈な展開だった。
最期もフロント3人だけで、じっくり曲をまとめた。早川はアンプにもたれ、静かに眺める。
ここでも最期はシンバルの一打ちが入った記憶あり。
本日の編成で"Uzpe"を演奏が、とても嬉しい。北欧を連想した旋律は、クレツマー的な要素も滲み出る。バイオリン二人の情熱的な音色で、そう感じたか。
トシの強打がだんだんアンサンブルと馴染んできた。スティックでときおり強打する。
中間部でふっと全休符が登場。すかさずトシと喜多がデュオでソロを始めたのはこの曲だったろうか。バスドラ連打であおりつつ、響き線をかませたスネアでランダムに叩くトシ。
喜多は目を閉じてぐいぐいと弾き進んだ。
ソロが会田へ移ったとたん、テンポアップ。ディキシー調をほんわり匂わせ、猛烈に疾走した。
翠川は静かに、リフを奏で続ける。
後半セットは"TAO"から。くっきりした4ビートのイメージあるが、この日はフリー要素を強く打ち出し興味深かった。
トシがうがい音を挿入したり、ドラムセット横にある、プラスティックのビール・ケースをスティックでなぞって、ギロ的に使ったり。だんだんドラミングが奔放さを増す。
早川はフロントの編成を意識してか、今一歩だけ炸裂しない。しかし弾き始めたとたん、豪腕でアンサンブルをがっしり支えるのはさすが。
指弾きとアルコを場面ごとで巧みに使い分けた。あれは"TAO"だったろうか。指弾きでじっくりとベース・ソロを展開。
生木を素手でむしりとるような、力強いソロがつくづくかっこよかった。
後半セットでフロント二人とバック二人の対比が産まれる場面が幾度か。まさに翠川の多様性を象徴しており、非常に面白かった。
美しいメロディの調和。フリーなビートで突き進む混沌。
双方が翠川の音楽であり、前後に並んだ二本の線が、ステージ右手へ座った翠川に収斂する。
翠川は全く動じず全てを受け止め、自在に音楽を作った。
この日の翠川はフリーとメロディのバランスが絶妙。
アドリブも積極的に披露し旋律を操る一方で、他のメンバーがソロのときは奔放に音をばら撒く。と思えば、先ほどからずっと、じっくりリフを弾き続ける姿に気づく。
あからさまにアンサンブルを指揮しない。さりげなく、音像を支えていた。
実際、きっかけは喜多がとる場合も多い。"ANOHI"でだったか、いったんテーマの繰り返しで終わりかけたとき、喜多の合図でもう一度突入する場面もあった。
"ANOHI"こそ、自在な緑化の本領発揮。イントロこそベースも含めてアルコ弾きで始まったものの、中間部分は全く自由。テンポもぐっと上がってアグレッシブなフリーとなった。
トシがスティックでビートを刻んでも、アンサンブルは壊れない。むしろ激しく叩いたときの、メロディとの対比こそが面白い。
ふわふわと着地点を見せずに、短いソロが幾度か行き交う。そしてテーマへ。
今夜の自由度ではこの曲がピカイチだった。
あえて今夜のベスト・テイクを選ぶなら、"Full
Full"。くっきりした符割のメロディを、ドラムは補完しない。
勇ましさはメロディ楽器に任せ、ランダムなビートでトシは揺さぶった。奇声を上げたりコップを振ってシンバルの端を叩いてまわったのもここか。
アドリブではバンドが緊張をはらみつつまとまって、スリリングな展開だった。
どういう展開でも全てを受け入れる、翠川の音楽の強靭さをくっきり表現した、聴きどころ満載の素敵なライブだった。
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