LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/5/11 渋谷 Duo Music Exchange
〜泉谷還暦・誕生ライヴ 〜オレの歌は君の季節になれるか?〜
出演:泉谷しげる
(泉谷しげる:vo,g、藤沼伸一:g、中西康晴:key、人時:b、大島治彦:ds)
今日が誕生日、還暦を記念して。新作シングルを引っさげてライブが行われた。
幅広い年齢層の観客が集まって、開場前の入り口前は人でぎっしり。周りにはミュージシャンや芸能人、TV曲などからの花輪がいっぱい。小学校の同級生一同からも届いてた。
ようやく開場しても、なかなか人の山が崩れず。300人くらい入ったか。基本はスタンディング、前方に数列ほど椅子席あり。
ステージは奥に真っ赤な緞帳をさげただけ、ごくシンプルなセット。中央に板を置き、泉谷が立つ。足元にはモニター・スピーカーがいくつか。真ん中に歌詞を書いたボードを置いた。もっとも、ほとんど見てる様子はない。
泉谷しげるの音楽へ興味を持ったのは高校生になりかけのころ。枝松克幸のコミック"4SPIRITS"がきっかけ。88年頃のアルバム"Self
Covers"は愛聴した。他にも何枚か聴いたけれど、膨大な作品のごく一部のみ。とても熱心なファンとは言えない。
ましてライブは未体験。でも一度は体験したいと思ってチャンスを伺ってた。オフィシャル・サイトで情報見かけ、さっそくチケットを購入。あとから"クラシック化計画"とかぶっており、地団太踏んだが・・・いい、せっかくだから泉谷を今夜は楽しむ。
15分ほど開演時間が押し、客電が落ちた。ストリング・シンセがシンフォニックに鳴る。ステージ中央のマイクが、スポットで照らされた。
噂のとおり、とたんに熱心なファンからの怒号が飛ぶ。声が若いのが妙に違和感あり。
おもむろに泉谷が登場。へこへこと手を振り、腰が低い。もっとも観客の罵声にすぐ応え、「バカヤロー!」とやり返した。
アコギを構え、歌いだす。最初の伴奏は同じくアコギで藤沼伸一(元アナーキー)のみ。いきなり、今日発売のシングル曲"すべて時代のせいにして"で幕を開けた。
全くかざりっけ無い演出効果。初手からステージはこうこうとライトで明るく照らされる。後述するいくつかの場面を除き、ほとんどライトも変化しない。つねにくっきり全体を見せた。
泉谷はアコギをかき鳴らし歌う。間奏でボディをこぶしでガツンと叩いた。
一曲終わったところで、メンバーを呼ぶ。全員が黒尽くめの服装。泉谷だけがグレーのスラックスに、黒いジャケットの下へ赤いTシャツを着た。頭は黒の布でぴっちり巻いている。
軽くメンバーを紹介、泉谷はイントロをアコギで刻む。タイトルは不明。
なおぼくは泉谷のレパートリーはさほど詳しくない。記憶頼りだし曲名もだいぶ抜けある。詳細はファン・サイトを検索してくださると幸いです。
2曲目のイントロは泉谷の弾き語りだったろうか。中西康晴が頬杖ついて泉谷を眺めてる。サビあたりで、バンドが入ったと思う。
元"黒夢"のベース人時、大島治彦のドラムと至極あっさりな編成。中西もキーボード一台のみ。
人時と中西、大島は譜面を見ながらのプレイ。ギター・リフを弾く藤沼がいるにせよ、基本は泉谷だけがステージをひっぱる構造で、かなりおとなしいアレンジだった。
泉谷の歌は予想より声が出てた。脂っこいシャウトをきっちり聴かす。
風邪気味なのか、ときおり鼻をすすりながら。安定した凄みを見せた。
おっとりした雰囲気で冒頭から進み、3曲目でエレキへ持ち替えた。
ギターを下ろし、マイク・スタンドを掴んで泉谷が歌う。
サウンドのバランスは、基本が藤沼のギターを強調。次にドラム。泉谷のギターやベースはさほど大きくなく、キーボードは埋もれ気味だった。
観客から曲間で頻繁に怒声が飛び、泉谷がそれに反発するMC。昔は知らないが、今は一つのコミュニケーションとして、まったりムードが漂った。
「はやく帰ってくれよ、演奏やらなくてすむから」
「うるせーなー。足の匂いかがすぞ」
と、笑って余裕しゃくしゃく、泉谷が観客へ応えた。
4曲目はタイトル不明ながら、"ナンバー2!"って言葉が頻繁に出てくる、組織のナンバー2の悲哀を歌った曲。
ここまでほとんど聴こえなかったキーボードの連打がイントロに入る。
「頼むからのらないでくれ。拍手すると間違えるんだ。難しい曲だから」
わざわざ前置きして、キーボードのイントロ。何人かが拍手始めると、演奏とめて苦笑い。
「やめてくれって。ほんとに難しい曲なんだ」
仕切りなおしのこの曲、かっこよかった。歌唱劇のように、キーボードのリフへかぶさり、芝居仕立てで泉谷が歌い語る。サビで腕を振った瞬間、鮮やかに客電を眩く点けた。
新しい曲っぽい。
続いてバンド編成でもう一曲、"ハーレム・バレンタインデイ"。
ここでいかにも疲れたそぶり。スタッフが椅子を持ってきて、座って演奏のコーナーへ。
ちなみに進行はスタッフ数人がきびきび動き、泉谷のギター交換や足元の歌詞カード回収などをさりげなく執り行っていた。
藤沼もアコースティックへ持ち替え、どっぷり軽快なフォーク・スタイルのアンサンブルで"野良犬"を。エンディングでは全員がそろって、こぶしを宙へ突き上げた。
続いて2曲、アコースティックで。両方とも曲名がわからず。
一曲はかなりキュートなフレーズ。
「藤沼は弾けるか?元アナーキーだからな」
「弾かせてるのはアンタだろう」
オフマイクの二人の掛け合いが、うっすら聴こえた。
「次も難しい曲だ。手拍手なしだぞ」
イントロをかき鳴らしたとたん、観客が歓声と手拍子。苦笑しながら弾き止める。
「だからやめてくれって。拍手でリズムわかんなくなるんだよ」
観客がさらに突っ込み、「うるせ〜!」と吼えたあと。
改めて"黒いカバン"を弾き出した。
弾き語りで突き進む。途中でテンポあがり、言葉はロレってドシャメシャのまま疾走。コーダでバンド全員が、一音出して決めた。
「おまえら・・・去年と同じじゃないか。今年は途中で助けてくれると思ったのに」
泉谷がメンバーを振り向いてぼやいてみせた。
椅子が取り払われたのはここだったかな。
「次は振りつきだ。ここだけ、いっぱい練習してきたんだ」
歌いながら、泉谷はぴょんぴょん跳ねる。サビで頭や鼻に手を当てて、ひらひらと。
裏拍でしゃくりあげるビートで"おー脳!!"を。こういうアレンジでもやってたんだ。
これも軽やかで良かった。歌いながら終始、踊り続ける。終わったときは息も絶え絶え。振り付けした自分をぼやき倒す。熱心なファンとおぼしき前列の女性観客数人が、大きなうちわで泉谷を扇いでた。
また座ってアコギで一曲。タイトルは不明。
確かこの曲で、いったん終わりかけて拍手が飛ぶと、泉谷が指を振ってヨーデルを。「ハイジ!」「クララが立ったわ!」と小芝居を始めた。
そのままなし崩しにエンディング。
「なんだよー!一人でやらせるなよ。恥ずかしいんだよー!」
と、藤沼へ食って掛かる泉谷。笑いながらなにやら藤沼が答えていた。
「ちなみに"ハイジ"ってのは、"ハイな爺い"の略だからな」
泉谷が言ったとたん、すかさず観客から「ハイジー!」の呼びかけ。苦笑しながら、
「拾うな、こんな言葉まで」
そしてこのギャグが最期のキーワードになる。
続けてゆったりと数曲、"君の便りは南風"、"陽が沈むころに"、"寒い国から来た手紙"を。テンポや曲調が似てるが、まったくその辺は頓着しない。
途中で立ち上がって歌う。"日が沈むころに"は向かって左から泉谷を強くライトであて、右下に影を作った。まるで日暮れのように。
さりげない照明の演出がきれいだった。
「この曲は今後も歌い続けるんだろうなあ」
泉谷は演奏前にしみじみとボヤく。自らアコギのかき鳴らしをイントロに、"春夏秋冬"を。
フォーク調のアレンジと節回しを採用した。冒頭は数音を藤沼が弾くのみ。泉谷のアコギのみで歌われる。サビから一気にバンド・サウンドとなったが、それでもおとなしめ。
リズム隊はぐっとシンプルに泉谷を支えた。
今夜のステージを通し、アレンジそのものはごくオーソドックス。アドリブはほとんど無し。前半のギター・ソロはリフを続けるのみ、なほど。
中西もソロはほぼ皆無で、ドラムとベースのアンサンブルもかざりっけ無し。
あくまでも泉谷を前面に立て、バッキングに徹した。
「なあ、次の曲で終わろう。きれいなライブだった、ってしみじみ帰れるぞ?」
へとへとな風情の泉谷が観客へ前置きし、中西が軽やかなイントロを。
ここに"裸の街"を持ってくるとは。
泉谷はすっくと立ち、マイク・スタンドを引っつかんで歌い上げた。汗まみれで。
「な、終わろうぜ。このあとは喧しい曲しかないんだ」
もちろん、観客が大声援と罵声で泉谷を後押し。
いきなり照明がストロボになった。イントロは"Dのロック"。冒頭部分が延々くり返される。
泉谷は上着を脱ぎ捨て、赤いシャツをステージ袖から手渡された、カッターか何かで切り裂く。ずたずたなTシャツも脱ぎ去った。
上半身裸でスタッフから白いシャツを受け取る。素肌にまとい、前を軽くとめた。
ミネラル・ウォーターを含んでは客席へ吐き散らし、ボトルをぶん投げる。
そんな一部始終がストロボの中で行われたあと。一気にこうこうと照明がつきなおし、"Dのロック"へ突入。前列の観客も立ち上がり、ステージ前へ押し寄せた。
拍手の間をおかず"褐色のセールスマン"、メドレー形式で泉谷がギターのストロークを続け、"火の鳥"。
一気に派手な盛り上がりを演出した。
"火の鳥"ではさすがにシャウトも控えめ。だが、根本的なドスの利かせかたは健在。目をぎょろっと光らせ、ステージから存在感をぞんぶんにアピールした。
ここにきて藤沼が、長めのギター・ソロをふんだんに挿入する。泉谷はカポをはめたエレキギターをかき鳴らして煽った。
間をおかず"眠れない夜"、"国旗はためく下に"へ。ブルージーな"眠れない夜"が勇ましい。
そしてクライマックス。泉谷がイントロのリフを高らかに弾く・・・と言いたいが。エフェクターをかけぬ、素直な音色で重心軽い響き。
だとしても、この曲はかっこいい。"翼無き野郎ども"。
サビでは客電もつけて、幾度も泉谷は吼えた。
観客の合唱が続く。泉谷は前列の客へ近づき、握手してゆく。観客は泉谷の身体だけでなく、ギターにもぺたぺた触ってた。
ブリッジ部分で泉谷がリフを弾く。おもいきり細い音色で泉谷も苦笑した。あの箇所はディストーションを存分にぶち込んで欲しかった。
いっぱい盛り上がったところで、本編が終了。両手を組んで振り、泉谷が観客へ応えながらステージを去った。およそ2時間、休憩なし。
アンコールの掛け声は「ハイジ〜!ハイジ〜!」。本編のギャグがここに繋がった。しばらくして泉谷らが笑いながら戻ってくる。
頭へざぶざぶとミネラルウォーターをかけながら。ボトルは客席へ投げ込む。
まずこれも本日発売の新曲、"時よ止まれ君は美しい!"。
ここまで全く歌わず、飾り状態だった各人のマイク・スタンドを使って、メンバーもコーラスを入れる。とはいえサビを歌ってるようだが、あまり声は聴こえなかった。
続いて泉谷がエレキをかき鳴らし、"野生のバラッド"を。サビが幾度も幾度も繰り返され、ジャンプが続く。
途中で「出来るよな、お前らなら」と前置き。いきなり演奏を止めてアカペラで、観客へサビを歌わせた。
そこからタテノリのアレンジへ突入。ひとしきり歌った泉谷は、すっかりフラフラ。
「覚悟してアンコールしたよな。ここからが長えぞ」
吼える観客を押さえ、いきなり泉谷が観客をいじりだした。まず二階席。
「関係者席だからって余裕かましてるなー。お前らがジャンプしたら、おれもタテノリをやるぞ!」
1階席の観客が笑いながら振り向く中、二階の関係者席も立たせた。全員で思い切り盛り上がる。バンド・メンバーも一通り、ジャンプさせた。
サビがぐいぐい続き、改めてメンバー紹介。再度ステージ前の観客とコミュニケーションする。
観客のタオルで汗が拭われた泉谷は、ぐっと生気を増したつやつや顔で驚いた。
アコギの弦をわしづかみにし、全てを引きちぎる。ついに泉谷は、ステージを去った。
アンコールだけで30分。特に"野生のバラッド"は20分以上やっていた。盛り上がりはいいが、せっかくなら別の曲も聴きたいと望むのは贅沢かな。
依然としてアンコールの拍手が続く。"土曜の夜君とかえる"か"エイジ"でしっとりまとめるかと思いきや。無情なアナウンスで終演が伝わる。
しかし満足いくボリュームのライブだった。
泉谷は今年、ポニー・キャニオンから7年ぶりのスタジオ盤を発売予定。
10/4 Zep
Tokyoで60歳を記念し60曲を歌う、オールナイト・ライブ、さらに全国ツアーをも予定している。まだまだ泉谷は、動き続ける。