LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/5/5   東京国際フォーラム ホールC

   〜LA FOLLE JOURNÉE au JAPON〜
出演:クリスティアン・ツァハリアス指揮:ローザンヌ室内管弦楽団

 GWに東京国際フォーラムを中心会場で、さまざまなクラシックのコンサートを集中上演するイベント、ラ・フォル・ジュルネ。チケットが偶然、手に入った。
 日本では05年から毎年開催らしい。恥ずかしながら、全く知らなかった。

 世界中から1700人の奏者が集まり、無料/有料コンサートを合わせ大小400ものコンサートが開催される。プログラムを見ると圧巻。朝から晩まであちこちハシゴしまくって浸りたい。
 もっとも人気は凄まじいようで、小ホールでのコンサートは軒並みソールド・アウト。当日券でふらり、とは叶わぬようだ。

 今年のテーマはシューベルト。国際フォーラムの入り口には、数人のイラストレーターが書いたシューベルトの肖像で、どかんと観客を迎える。
 曇り空だったためか、ほどほどいっぱいの入り。
 会場ちょっと前にホールCへ向かうと、いきなり駆け足で階段を駆け下りる観客が数人。まっしぐらにドアから出て行く。次のコンサートの時間が迫ってるのか。

 実際、前のプログラムは押した。今回聴いたコンサートは初手から15分遅れ。さらにまずはロビー開場で、入場はしばらく待たされた。
 ロビーは人でぎっしり。いくつかのテーブルに置かれた、チラシ一枚の曲目解説を自由に取れる。この方式、いいな。クラシックのコンサートで、ぎっしりのチラシはは荷物になるから。もっともタイトなスケジュール形式の本イベントで、そんな手のかかる配布はムリだろう。

 ホールCのキャパは約1500席。少なくとも一階は、ほぼ埋まった。
 テレビカメラが数台入っており、ロビー前ではNHK−FMの生放送も。この公演もテレビでやるのかな。

 たまたま入手したチケットだから、演目や奏者への思い入れはまったく白紙状態。
 オケのローザンヌ室内管弦楽団はスイスの"超名門"だそう(パンフレットより)。44名の団員という。
 指揮者は50年代産まれのドイツ人で、ピアニストとしても活動。今日のオケへは00年から芸術監督をつとめてるそう。現地ではすごい人気あるひとのようだ。
 
 この指揮者とオケは数日間にわたってホールCとホールAへ出演。演目は少しづつ違う。今日の前半曲は、最終日のホールAでも演奏予定あり。

(プログラム)
1.シューベルト/ウェーベルン:ドイツ舞曲D820(管弦楽版)
2.シューベルト/交響曲第二番 変ロ長調D125

 曲目解説のチラシから丸写しだが。(1)はシューベルトが27歳(没は31歳)に書いたピアノ・ソロの舞曲集を、のちにウェーベルンが管弦楽にアレンジしたもの。
 (2)はシューベルト18歳のとき、神学校の校長ラングへ捧げたシンフォニーだそう。

 開演時間を5分ほど押し、一ベルが軽く鳴る。開演前のアナウンスが終わると、袖に奏者が集まったようす。
 ちょこんとコンサート・マスターが、顔を覗かせた。そのままステージへ表れる。
 他のメンバーもぞくぞくと舞台へ登場した。全員真っ黒の服でシックに統一。

 最初は弦が全員と、後ろへホルンやクラ、オーボエなどの少なめな編成だった。1階席はかなり平坦な客席で、オケの後方が良く見えない。
 オーボエがBを出し、コンマスが立ち上がって音を合わた。他の奏者もチューニングを始める。
 ずいぶん若く見えるコンマスだ。ベテラン奏者が2ndにもいたから、抜擢かも。

 おもむろに指揮者が登場。そして客電も消えぬまま、コンサートは幕を開けた。
 譜面を軽くめくったツァハリアスは指揮棒を持たず、軽く素早く腕を振って最初の音を導いた。
 冒頭から滑らかなメロディが、すうっと広がった。
 
 今日の曲目はどちらも初めて聴く。最初は弦のヌケがいまいちと感じてしまった。
 実際はもともと弦に弱音器をはめ、そっと柔らかな音色を狙ったようだ。
 中盤で弦が揃って弱音器に触る場面あり。ボウイングだけでなく、そんな仕草まで揃ってる。

 当然ながらボウイングはあわせてるが、奏者の座る向きが微妙にずれており、弓の動きは多少揺れる。音楽に関係ないが、つい気になってしまう。こういう検事の視点がまずいのはよくわかってるんだが。

 ちなみにこの日は少々眠たく、途中でいくどか陶然としながら聴いていました。

 ふくよかに弦がメロディを奏で、耳を優しくくすぐる。
 中盤でコンマスが独奏っぽい場面有り、そこでは明確に単独の音色を聞き分けられた。そんなさりげない音色の変化も興味深い。

 ツァハリアスの指揮はシャープで、くっきりと拍を提示。きびきび腕を振り、上半身は優雅に動いた。
 音楽から微妙に先行した動きになる。激しい旋律のクライマックスで、次の流麗なフレーズへ向けた柔らかい振りになるのが、なんだか面白い。
 腕の位置は肩の上だけでなく、腰の辺りでもそっと揺らす場面も多い。
 ゆったりしたフレーズを腰位置でふうわり動かすさまが、ユーモラスに見えてしまった。

 (1)はきびきびした旋律と滑らかな雰囲気が段階的に移り変わった。
 最期のクライマックスでツァハリアスの指揮が激しくなる。
 ふわっと高く手を振り上げた瞬間、音が止まった。

 拍手。ツァハリアスはオケを立たせて拍手に応えた後、いったん袖へ下がる。コンマスもあとを追った。こういう段取り?
 オケの全員が一斉に、コンマスの動きを追って視線を袖へ向けたまま。なんだか不思議そうな雰囲気が漂って可笑しかった。
 その間にトランペットやティンパニ奏者が、さりげなくオケへ加わった。

 すぐにコンマスとツァハリアスが舞台へ戻る。
 観客のざわめきも消えぬ間に、ツァハリアスは素早く指揮を始めた。

 (2)は第一楽章から盛大に盛り上がる賑やかな展開。ずいぶんたっぷりした楽章だった。ピチカートもきれいに響く。
 第二楽章の静かなシーン辺りから、だんだん記憶は曖昧になってくる。第三楽章は短めだった気も。

 弦は弱音器をはずし、たっぷりしたボリュームでじっくり聴かせた。ホールの中へじわっとオケが広がる。全体のバランスもとても良かった。
 フォルテでメロディがふわっと流れる響きが心地よかった。

 最終楽章は疾走するように小気味良く展開。華やかに盛り上がり、ツァハリアスが腕をぐんっと持ち上げて、ぴたりクライマックスへ駆け上がった。
 静寂を待たず、ブラボーを叫ぶ観客も。
 いったん袖へ消えるツァハリアス。再び現れ、コンマスと握手。金管からストリングスへ、オケを立たせて拍手へ応えた。

 時間はまだ50分ほどしかたっていない。もともとのプログラムは45分。アンコールは無く、あっさりと終わり。
 コンパクトなプログラムだが、これでS席2千円。リーズナブルだと思う。(ちなみに他の有料演目もS席3000〜1500円程度)
 手軽に、その気になったら一日中。濃密にクラシックを楽しめる。今までこのイベントを知らなかったのが残念。このプログラムも爽快さとしとやかさが混ざり合う、素敵な演奏だった。

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