LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/4/20   表参道 月光茶房

  〜月光茶房の音会 (第7回)/卯月のふたり〜
出演:高良久美子+立岩潤三
 (高良久美子:per、立岩潤三:per)

 パーカッション二人のデュオが設定された、今回のライブ。
 開演時間をわずか過ぎて、プロデューサーの吉田隆一がまず表れる。カウンターの中で録音のヘッドホンをかぶった。
 高良久美子と立岩潤三が無言で登場した。無造作に楽器を構えて、音を出してゆく。
 そのまま、いきなりライブが始まった。

 カウンター側に高良、左手に立岩の配置。
 高良は椅子に腰掛けて叩いた。カウンターへ鐘や各種金物、スリット・ドラムなどを並べる。ヴィブラフォンの持ち込みは、スペース的に難しかったようす。
 背後のスタンドへ小さなシンバルを幾枚か吊るし、グロッケンを横に置いた。足元に小型のダルブッカを準備。

 この日は音バランスと残響含めて聴きたく、客席後方で聴いた。
 しかしその場所では、ステージと客席がフラットなスペースなため、高良が何を叩いてるか見えづらい難点もあった。途中で立ち上がるかと期待してたが。

 立岩は床座り。タブラを置き、フレーム・ドラムやダルブッカ、レクなどを中心に、各種シェイカーや鈴も準備した。無国籍で比較的西洋寄りのなパーカッションを揃えた高良に対し、アラブ系の楽器を並べる立岩。

 高良は生音、立岩はタブラをマイクで拾った。ボリュームはさほど大きくない。
 細かな空気の響きまで耳へ届く、心地よいサウンドだった。

 1stセットが40分、2ndセットが35分くらい。
 双方とも一本勝負の完全即興で、濃密なひとときが提示された。

 1stはノービートのふうわりとしたセッションから。淡々と打楽器の音が交錯する。
 高良が鍵盤ハーモニカで、ぶかぶかと和音を出した。立岩のシェイカーはタブラと絡み、次第に低音のふくらみを出す。
 指先で叩くタブラの低音は、やがてフレーム・ドラムへ持ち替えた。どぉうん、と深い低音が鳴る。

 前半は立岩の演奏がより印象深い。ゆっくりうねるパルスが、次第に規則的なビートへ移り変わった。
 ダルブッカを立岩が横支えし、軽快に叩き始める。
 ここから1stセットは一気にヒート・アップ。いつのまにか高良もダルブッカへ持ち替えた。
 互いの猛烈な応酬。アフリカンなビートが吹き上がる。めまぐるしいハイテンポで突き進んだ。

 4拍子をベースに、互いにリズムを細かく分散。しゃにむに突っ走るビートは、滑らかに3拍子、そしてハチロクへ展開する。
 降り注ぐ指先の連打は、鋭く濃密にビートを叩き出し、相互のリズムがみっしり絡んで高まった。
 
 立岩は高良を横目で見ながら叩き続ける。俯いたまま演奏する高良が、ふっと顔を上げた。
 二人の視線が交錯し、エンディングへ。素晴らしくスリリングだった。

 後半セットは簡単に二人のMCから。自分の楽器を丁寧かつにこやかに紹介する。
 セッションが始まると、とたんに空気がストイックに張り詰めた。
 鐘を持った高良は、大きな撥でぐるり周辺をこすって倍音を響かせる。
 ときおりもちかえつつ。テーブルに置いた鐘も、軽く叩いて複数を常に鳴らした。

 始まった演奏は、高良が主導な場面が多かった。
 立岩は前半に使わなかった、レクを持つ。打面を指先で叩くのみならず、シンバル部分を縦にこすって回転させる、鋭い響きも取り入れた。

 高良は鐘を置くと、スリット・ドラムや横に置いた金物を叩き、メロディアスなパターン・リズムを4拍子で構築。
 拍の裏を強調し、パターンの組合せでビートの区切りを曖昧にする。

 メカニカルな二人のビートは、人力テクノへ通じる要素を感じた。
 淡々とパターンを構築して音楽を進める。
 ときおり変動し、それをきっかけに、新たな場面へ移る。前半セット最後の肉体感覚と、あえて逆パターンを取った。

 金属の管をまとめた笛のような楽器で、高良はのどかな単音を挿入した。
 指で押さえ、音程を変える。ぬぼっとした音色ながら、コミカルさは廃した。あくまでシビアに音像へ組み入れる。

 立岩はレクからタブラへ移った。高良はマレットで机を叩いた後、グロッケンで滑らかに旋律のアドリブを。ジャストなビート感を保ったままで、軽やかに鳴らした。
 ひとしきり叩いたら、後ろへ吊るしたシンバルを軽く叩く。フレーズの合間に噛ませるように、ひとつひとつ。立岩はシェイカーなども取り混ぜ、応えた。

 立岩のソロ状態がしばらく続く。俯いて音を出さず、耳を傾ける高良。
 一通り、手持ちに並べた楽器を演奏した高良。次は何を叩くのかな、と眺めた。
 小さいマウスピースみたいな笛をくわえ、両手で抑えては開き、響きを変える。ぷかぷかと小さな音で、立岩のビートへ絡んだ。

 咥えたままシェイカーが先端に組み込まれたマレットを、高良は振りだす。笛を横へ置いた。
 スピーディなビートが立岩と交錯。やがて二人は手拍子の応酬に変化した。
 4拍子だと思う。二人は裏と表のタイミングを自在に入れ替えつつ、切り刻む。細分したパターンで、手拍子のみのシャープなセッション。
 店内を小刻みな強い手拍子で埋め尽くした。

 立岩は頬や口を叩いてコミカルなパターンも。高良はまっとうに手拍子だけで受けて立つ。べらぼうにかっこよかった。あくまで音像は真剣そのもの。
 ふっと音が止み、二人は視線を交わす。そして、幕。

 ほとんどが生音のため、ダイナミクスも奏者がコントロールする。持ち込んだ楽器もシンプルなものが多い。
 最後は手拍子だけで見事に音楽を成立させた。
 準備した道具を越えて、二人のセンスが炸裂した。アフリカンなビートからジャストなリズムの組合せまで。多彩な表現を凝縮し、濃密に突っ込んだ貴重なライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る