LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/4/12 西荻窪 アケタの店
出演:明田川荘之+明田川歩
(明田川荘之:p,オカリーナ、明田川歩:vo)
今月の定例深夜ライブは、娘の明田川歩とデュオ。この時間帯での共演は昨年9月ぶりだ。ちなみに来月も同じ編成を予定している。
ステージの中央にはマイクと譜面台が一つ。ピンクのクリア・ファイルを載せた。譜面台からかなり離して置かれてる。
荘之はオカリーナの入ったハードケースを手に持ち、ピアノへ向かう。
ぱっと歩を紹介して、無造作にライブは始まった。
<セット・リスト>
1.クルエル・デイズ・オブ・ライフ
2.レフト・アローン
3.アルプ
4.オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート
(休憩)
5.セント・トーマス〜リンゴ追分〜オーヨー百沢
6.クレイジー
7.オール・オブ・ミー
8.アケタズ・グロテスク〜シチリアーノ
ボーカルはマイクを通す。ごく薄くリバーブが有り?生声っぽい響きだった。
スピーカーからの音量はさほど上げない。スペースの広さと声量からいって、ノーマイクでも成立するのでは。ピアノとのバランスを意識したか。
1stセットは荘之のオリジナル2曲に、スタンダードを2曲。20分くらいであっという間に終わった。
基本的に歩はフェイクやスキャットをいれず、まっとうに旋律を歌う。あとは荘之のピアノ・ソロが展開する構成。しかし今夜はアドリブもかなり短めだった。
熱がこもると右肩をぐっと入れる姿勢で、ピアノを奏でる。
ぐんぐん手早くステージが進んだ。てっきり休憩無しかと思った。
"クルエル・デイズ・オブ・ライフ"は若干テンポが速め。ころころと素早くトリルするフレーズを多用した。
歩は胸の前で軽く組むように手のひらを持ち上げ、滑らかに歌う。
じんわりとアドリブが展開しかけるが、フリーなフレーズへ向かった。もっとも、混沌な即興は短め。比較的すぐに、ぐいっと歌世界へ戻る。
つづく"レフト・アローン"はイントロの情感がアケタ節で楽しかった。
和音のタイミングや音使い、じわっとグルーヴするさまが、独特のムードを醸しだす。
冒頭に曲名を告げて弾いたが、なんだかオリジナル曲を聴いてる気分だった。
音数は全体に少ない。旋律をあっさりと歩が歌いあげ、ロマンティックさの薄いシンプルなバッキングで荘之が支える。
前半ではこのテイクが好み。
"アルプ"も前倒しな性急さを感じたテンポ。冒頭でテーマをピアノが提示するが、矢継ぎ早に音を重ねた。
歌のバックではむしろピアノが奔放さを増す。リズムもバッキングも解体し、フリーに叩きのめした。一瞬だけ、"猫踏んじゃった"の変奏みたいなフレーズを挿入。
もはや歌伴とは違う次元のピアノ・ソロへ向かっても。途中でテンポをピアノが揺らそうとも。歩は全く動じずに声を伸ばした。
エンディングでさりげなく、荘之がピアノへかかと落しをした気がする。
1stセット最後は"オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート"。
「キーが違うからやりづらいんだよな」
荘之はこぼしながらオカリーナを構えた。二本を吹き継ぎながらイントロを。譜面を見ながらと思ってたら。ピアノへ移る時にごそごそと、譜面台の楽譜をめくりなおしていた。
これも素直な歌伴じゃないアプローチ。かろうじて左手がテンポとリズムを提示するが、しょっちゅうフリーへ移動する。
右手は自由に叩くのみ。歌を横へ押しやる強引さは無いが、ピアノ単独で成立を目指すさまが独特で興味深かった。
エンディングは至極あっさり。この曲に限らないが。ピアノ独奏へ戻ってしばらく弾くと、いきなり終わらせる。
どの曲か記憶が曖昧だが、ボーカルとピアノが揃って全休符。コーダへ行くか、と思わせいきなり終わり、ってパターンもあった。
後半セットはぐっと演奏へ熱がこもった。
まず荘之のオカリーナ・ソロで。バロック風のイントロから長めのフリーへ。
おもむろに"セント・トーマス"のテーマを提示し、アドリブの合間で一瞬だけ"リンゴ追分"っぽいフレーズが顔をのぞかせた。
複数本のオカリーナをつぎつぎ吹き分け、ソロがまとまる。
そのとき、歩はゆっくりとステージへ向かった。
曲はオリジナル"オーヨー百沢"。ゆったりと歌う。ピアノのテンポはぐいぐい揺らし、伴奏フレーズも力がこもった。
アドリブでは唸りを上げながら、鍵盤へ立ち向かった。
熱っぽい音列が心地よい。内部奏法でピアノ線を爪弾いたり、低音部を平手で叩いたのはここか。
次はカバー曲で"クレイジー"を。ジャジーな雰囲気の小品。
フレーズを捻らず、素直に歩は歌う。スイングするピアノと、きれいに混ざっていた。
歌入り編成では最後に"オール・オブ・ミー"を。今夜のベストはこれか。
伴奏と歌が調和しつつ、ピアノは個性を崩さない。間奏も長めで心地よかった。
歩は手拍子を軽く入れる。足でリズムを取りながら。
ピアノは唸りながらソロを続けた。ときおり大胆に拍頭をずらすように。
最後にピアノ・ソロ。曲紹介のとたん、猛スピードで疾走した。
クラスターが噴出し、イントロが延々と続く。鍵盤をひっぱたき、両腕の連打へ。猛烈なテンションだった。
ついにテーマが登場。ぶっ早いテンポで弾き倒す。すぐさまアドリブへ突っ込んだ。
ふっと音が止む。今度はロマンティックな世界へスライドした。"シチリアーノ"は僅かにイントロをはさんでテーマを。
アドリブは比較的、短め。ここまでのテンションを安らがすように、しっとり奏でた。ピアノ・ソロとして、この2曲メドレーのまとまりも素晴らしかった。
エンディングはすこぶるあっけなく。余韻やもったいぶりは全く無く、すっと鍵盤から指を離して顔を上げ、終演を告げた。休憩を含んで、1時間強のステージ。
デュオ形式だと曲が短めにさくさく進む関係で、あっさりさが先に立つ。だからこそピアノ・ソロは、味わいの濃厚さが増して楽しい。
このデュオは幾度か聴いたが、選曲がほぼ固まっている。そろそろ新しいレパートリーの投入も期待したいところ。荘之の既存オリジナルへ歌詞をつけるのは難しそうだから、カバー曲か。
ともあれ尻上がりにテンションがあがる、あっというまのライブだった。