LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/3/29   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p)

 月例深夜ライブ。店へ入ると、明田川がぽろぽろとピアノを弾いていた。曲は"テイク・パスタン"だったかな。調律は既に済ませていたようだ。
 ステージが始まったのは0時半頃。
「聴きたい曲があったら言ってくださいね。録音したい曲を演奏しますので」
 と、すごい鼻声で挨拶。花粉症だそう。

<セット・リスト>
1.テイク・パスタン
2.インバ
3.孝と北魚沼の旅情
4.  ?
5.  ?
6.杏林にて

 今夜はライブというよりよりレコーディングっぽい感じのステージだった。オカリーナやベルも準備したが使わず。ピアノだけ弾き通した。

 まず"テイク・パスタン"から。幾度も吹き込まれリリースされてる曲のため、まずこの曲が選ばれて意外だった。思い入れある曲なのかな。

 テーマの末尾でタメる箇所を、今夜は控える。
 淡々と丁寧に鍵盤へ指が落とされた。かすかに、カツ、カツ、と爪があたる音が聴こえた。
 情感をかなり抑え、一つ一つの音をくっきり響かせて。テーマが変奏され、アドリブから次のテーマへ移った。
 曲はいきなり終わる。十分くらい演奏が続き、クライマックスの佳境で唐突に音が止んだ。

 明田川はピアノの譜面台をはずした。横に置いた扇風機のスイッチをつける。おもむろにメモをのぞきこみ、次の曲を選んだ。
「"インバ"って曲、聴きたいですか?・・・では、やります」
 観客へ尋ねた後、無造作に演奏へ。

 これも長めのイントロがあった気がする。演奏はやはり慎重に音が紡がれた。
 やがて唸り声が出る。朗々とテーマへ。
 かなり長尺だったと思う。次の曲と並び、良い演奏だった。一つ一つを粒だたせ、鍵盤がくっきり鳴る。ときにびいんとピアノ線が響くような音も。
 今夜はクラスターは皆無。熱っぽく盛り上がるときすらも、響くサウンドはくっきりと輪郭が立った。

 続く"孝と北魚沼の旅情"もばっちり。粘っこくテーマが膨らみ、じわじわとアドリブ部門へずれてゆく。唸り声は次第に高まった。
 右肩をぐいっと入れ、目を閉じてピアノと相対する。ペダルも効果的に使用した。
 踏み続けるだけではない。イントロや即興部分のブロックでは、潔く全く踏まず素朴な響きを選択した。

 内部奏法で、そっとピアノ線を撫ぜたのはどの曲だったろうか。
 ぎりぎりと爪弾く金属質な音が、とてもきれいにテーマと馴染んだ。

 "インバ"からじわじわとエンジンかかった感触あり。
 (4)と(5)は拍手を待たず、数珠つなぎに奏でられた。
 双方ともタイトルを失念。どちらも、特に(4)は聴き覚えある。

 (4)は左手が執拗にランニングし、右手がぐいぐいとテーマや旋律を弾く。ときおり、力強く音世界が明確に変わった。
 ロマンティックなテーマの風景から、ブルージーなアドリブが深く溶ける。えんえんと動き続ける左手のパターンは、リズムがくっきりであるがゆえの幻惑する要素も。
 濃密なサウンドで奔放にアドリブが続いた。ときおり表れるテーマが、立ち位置を明確にした。

 (5)はセンチメンタルなフォークっぽい曲。歌モノみたいな印象を受けた。なんという曲だっけな。テーマを聴きながら、記憶をたどが思い出せず。
 やがてアドリブに。あまり長尺ではなかった気がした。日本情緒でなく、青っぽい情感をテーマがたどり、アドリブになると熱っぽくつっこむ。

 リクエストを募って、"杏林にて"を。大好きな曲。レコーディング音源は4枚組"旅"に収録のみだろうか。
「コードを覚えてるかな」
 つぶやいて弾きはじめる。実際は10分くらいの長尺。凄まじく気合をこめたサウンドが、とても嬉しかった。
 
 厳かなイントロをたっぷりと。一呼吸、全休符でタメて、体ごと鍵盤へ指を振り下ろす。幾度も、丁寧に。テーマが続き、アドリブをはさんで高音から低音へ、キラキラと音が舞い降りる。
 強化ガラスを叩き割るような、豪快かつきらめきが華やかな名演だった。

 即興部分も果てしなく盛り上がる。唸りが止まない。右肩をぐいっと入れ、ずぶずぶと音が深まる。熱いテンションだが、テンポはゆったりと。フォルテでも乱暴さは無い。
 ワイヤーロープを捩るように旋律が紡がれ、一瞬の全休符が次なるテーマの炸裂を誘う。

 荘厳なテーマが幾度も繰り返された。そのたびに、全休符を伴って。
 緊張を保ちつつ、鮮烈なテーマの炸裂が素晴らしく気持ちよかった。

 この曲も10分くらいだったろうか。コーダの余韻を断ち切るかのように、いきなり演奏が終わった。
「もう、今日はこのくらいでいいかな」
 鼻声で、明田川がニッコリと微笑みステージを下りた。

 約1時間のステージ。月例深夜ライブでは比較的短めだが、濃密な空間だった。休み無く音は連なり、新たなアドリブへ展開する。一つ一つが粒だって響いた。

目次に戻る

表紙に戻る