LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/3/23   表参道 月光茶房

   〜月光茶房の音会 (第六回)/雛月の一人とふたり〜
出演:深水+吉田+壷井
 (深水郁:vo,key、吉田隆一:bs,cho、壷井彰久:vln)

 月光茶房でのライブは、ちょっとイレギュラーな編成で。同店で個展を実施中な深水郁の訪京にあわせ、ライブが組まれた。深水の希望で、相方に吉田隆一を指名。
 さらに吉田の仕切りで壷井彰久が参加した。彼は同店2回目の出演。
 なお物販では深水の新作CD−R(ライブ音源)も置かれていた。

 吉田は彼女の作品をアレンジし、数日前に渋谷クラシックスでライブをやったばかり。ところがその譜面は潔く使わず、しかも即興メインなプログラムとなった。
 ピアノの弾き語りを基調に活躍のイメージあったため、この展開は非常に興味深い。

 同店にキーボードが無く、当初は深水が歌へ専念のはずだった。ところが吉田がシンセを持ち込む。とはいえほとんど深水は鍵盤を弾かず、ヴォイスの即興中心で挑む。シンセの出音もサイン派のような素朴な音色が多かった。
 
<セットリスト>
1."プテラノドン"
2.満たされてゆく
3.カリントウの歌
4."琵琶湖"
(休憩)
5.コイゴコロ
6."バラ"
7.初蝶の一夜寝にけり犬の椀
8.まよい道
9.マグマの歌
10.歌のまぼろし燃やし燃やし
  〜魚の話なんかやめて

 メンバー紹介のようなMCから、なし崩しに"プテラノドン"をお題の即興へ。吉田の提案。
「今日の前半は喋りを無しで演奏します」と宣言後も、深水と吉田はおしゃべり。壷井が「喋ってるじゃない」と突っ込む。
「もう、演奏が始まっているんです」
 澄ました顔で吉田が応え、"プテラノドン"を静かに解体する吉田と深水の言葉の応酬へ、そっと壷井がエレクトリック・バイオリンを載せた。
 バリサクを構えた吉田が、循環呼吸かのように軋ませ続ける。

 深水の完全インプロは初めて聴く。堂々たるさまで、時に貫禄すら滲ませた。
 じわじわと奔放に言葉を捻ってゆく。しばし3人で空間を探りあったあと。壷井が穏やかで暖かいソロを展開した。

 そのまま次の曲へ。無造作に鍵盤を鳴らし、深水が"満たされてゆく"を歌いだした。テーマのように歌った後、吉田や壷井の即興スペースを作る。
 この曲に限らず、ほとんどで歌伴的なアレンジを意識的に避け、自由度高い音空間を選んだ。

 "カリントウの歌"は野太い響きが頼もしい一曲。この曲だったか、シンセが金属質でシンプルなフレーズを選ぶ。
 両手でこまごまとフレーズを重ねつつも、弾き語りっぽい音選びをあえて避ける深水のセンスが興味深かった。

 アンサンブルは主に壷井がソロ役をつとめたか。ほとんど曲順を決めていなさそうで、曲が始まると壷井は鍵盤を横目に見たり、宙を見つめ展開をイメージするかのよう。
 おもむろにバイオリンを構えなおし、優雅にアドリブを取った。メロディアスな味わいだった。
 吉田はバリサクを積極的に吹いた。ベースラインにこだわらず、スペースを見つけてアドリブもどんどん披露。ノイジーに軋ませる場面も。

 前半最後は、壁にかかった深水の絵でモチーフの一部にもなった、"琵琶湖"をテーマに即興。桜島と琵琶湖がレイヤーし、雨だれがポイントと言ったかな?

 "琵琶湖"の言葉をきっかけに深水が唸りだし、そのまま即興で歌い始める。大陸的な低音多用の、唸るようなフレーズ使いが予想外だった。
 後半の即興歌でも、同種の味わいな旋律。ほのぼのと琴線に触れるメロディを扱うオリジナルと対照的に、即興では素朴なパワーのがっしりした節回しだった。
 ソロ回しのような約束はあえて設けず、3人が互いの音を聴きながら紡ぐ即興。
 けっこう長尺だったと思う。

 後半セットは"コイゴコロ"。渋谷クラシックスでの吉田のアレンジも、オリジナル弾き語りのフレーズも、双方とも回避する深水のアプローチが斬新。
 まずアカペラ状態でじっくり歌い、そのままキーボードを爪弾くように、指をぽつぽつと落とした。フレーズの断片のごとく。
 しかし音使いはオリジナルの音列とは違っていそう。エコーもさほど効かせぬ、電子音で。
 おもむろに壷井がアドリブへ入ったか。渋谷で吉田のアレンジも良かった曲だけに惜しい反面、まったく新たな行きかたでの演奏も嬉しかった。
 
 次も吉田の提案で"バラ"をテーマに完全即興。言葉を重ねて、進行を思い巡らす。
 そっと壷井がソロを始めた。節回しへ溶け込んで。
 聴きながら深水と吉田が、バイオリンのフレーズの切れ目に「バラ♪」「バラ♪」と合いの手をキュートに入れてたのが面白かったな。

 深水はここでも太い淡々としたフレーズを唸る。後半ではじんわりと旋律の輪郭が強まった。
 鍵盤をほとんど弾かず、声に軸足を置いた即興だった。

 続いて小林一茶をモチーフにした"初蝶の一夜寝にけり犬の椀"を。細かいところの記憶はあやふや。すいません。

 次が確か、"迷い道"。リハでやったらしく、吉田のリクエスト。
 この曲がもっとも弾き語りなアレンジだった。小刻みに鍵盤を弾きながら、深水が歌う。オルガン音色で最後まで引っ張った。
 バイオリンやバリサクも加わったが、この曲だけは深水の色で、より鮮明に曲を塗った感触あり。
 
 終わりの時間を意識しながら、深水の提案で"マグマの歌"を。渋谷クラシックスとは異なり、吉田はコーラスへ専念。壷井の伴奏のみで深水はコミカルに歌った。リラックスして落ち着いた雰囲気を漂わせつつ。

 最後はメドレー形式で2曲を。どちらの曲をやるか迷った深水が、双方を演奏した。冒頭の歌は無伴奏で朗々と響かせたかな。
 たしか、この曲だったと思う。バリサクとバイオリンのコンビネーションが、素晴らしかった。

 吉田はテーマからフレーズをつかみ、低音リフでアグレッシブに攻め立てる。その上を壷井が涼やかな感触で、スケール大きく即興を膨らます。
 間をおかずバリサクが受け継ぎ、力強い音色でアドリブを奏でた。
 ここまで抽象的な音空間を多用しただけに、濃密で前のめりなアンサンブルがひときわ心地よかった。

 一呼吸置いて、"魚の話なんかやめて"へ。吉田はほぼコーラスを。
 中間部では3人揃って無伴奏の手拍子もいれ、そっとライブの幕を下ろした。

 各セット1時間弱。深水の歌を活かしつつ、壷井/吉田の演奏もたっぷり聴ける自由度高いステージだった。
 コンパクトでありつつ、頼もしい。どんな展開でもがっしりと支えられる実力な二人だけに、深水の即興がより冴えた。こういう構成のライブもまた聴いてみたい。

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