LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/3/18  渋谷 公園通りクラシックス

出演:深水郁+tea-pool+1
 (深水郁:vo,piano、"tea-pool":吉田隆一:arr.,bs,cho、壷井彰久:vln、立花泰彦:b、永田利樹:b、ゲスト:太田惠資:vln)

 吉田隆一のバンド"tea-pool"へ深水郁をフィーチュアし、さらにゲストで太田惠資を招いた特別編成の一夜。深水のライブは昨年11月ぶりに聴く。福岡が拠点ながら、次第に東京での機会が増えてきて嬉しい。

 今夜のレパートリーは、吉田が編曲した深水のオリジナルを中心に。
 ふだんピアノの弾き語りをユニークな編成で、どうアレンジされるかが楽しみだった。(チェロと深水のデュオ・ライブ音源は存在するけれど)

<セットリスト>
1.Kikuchi
2.歌のまぼろし燃やし燃やし
3.雨の中で
4.春分点
(休憩)
5.猫の旅
6.氷の魚
7.コイゴコロ
8.魚の話なんかやめて
(アンコール)
9.マグマの歌

 (4)、(9)が吉田、あとは深水の曲。個人的には「大きな青い・・・」もこの編成で聴いてみたかったが叶わず。
 なかでも(3)の編曲にやられた。アレンジ抜群、今夜のベスト。

 各セット1時間弱。歌伴でなく、深水の曲をテーマ的に扱うアレンジを施した。インストへ軸足置いたアプローチ。吉田のハンドキューで奏者の入れ替えや、アドリブを重ねる場面もあった。
 かなり長いMCは正直、意外。てっきり立て続けに、深水の曲を演奏すると思っていたので。

 フリーさは残しつつも、基調はくっきりと構成を作る。バイオリンは分厚いストリングス編成を思わせる入り方と音色で、とても気持ちよかった。
 裏拍からすいすいっと2本のバイオリンが、そろって入る。小編成にもかかわらず、ゴージャスな雰囲気を醸した。
 当初は完全アコースティックを吉田は想定だったらしい。実際は太田が赤のエレキも持ち込み、アンサンブルに幅を持たせた。1部では1曲、2部でも場面によってエレキを弾いた。

 ステージは下手へピアノ、中央にバイオリンで奥に弦バス。バリサクのみが指揮者的に、上手へ座る配置。
 吉田はバリサクをあまり吹かず、楽器を横へ置いて立つ、指揮の役がめだった。
 指先で奏者のソロを誘い、アンサンブルの増減もキューで合図する。とはいえ大まかな場面転換の指示にとどめ、構築へ固執はせず。
 即興で決める部分もあるみたい。演奏中にステージを思い切り横切り、深水の前へ行って、なにやら打ち合せる場面も。

 立ち上がって腕組みしつつ音を聴く吉田は、ふっと腕を振って次の展開へ向かう。
 終盤などで音を切る指示が面白かった。ゆるやかなデクレッシェンドなどで終わらせたいのか、波打つように腕を振る。どこで音を切るのか、あえてぼかした。

 全般的に深水は、遠慮深く引いた感触あり。そうそうたる顔ぶれを相手に、がっぷり弾き倒すピアノも聴いてみたい。
 アンサンブル全体は吉田の指揮が締め、華やかにまとまった。
 
 ライブの最初はPAバランスが生音っぽく、混沌とした音像。2曲目辺りからベースがぐっと前へ出たきれいなバランスに。
 太田のバイオリンを強調気味。バリサクとピアノはもうちょい大きくても良かったな。

 弦バス2本の響きも効果的だった。一人がアルコなら、もう一人は指弾き。多用なパターンの低音で支える。もちろん二人ともアルコで深い響きを与えることも。
 リズムキープでなく、奔放なフレーズで多層化な低音が刺激あった。
 アンサンブルへ音が溶けるさまにのめりこんでしまい、個々のフレーズ展開を細かく覚えていないのが残念。

 1曲目は熊本の菊地渓谷が主題、と深水が冒頭に告げると、
「地元です。庭みたいなものですよ」
 と、さっそく太田がにっこりと反応した。

 ピアノのアドリブがイントロ。途中でフリーなバリサクが入る。そして一気に合奏へ。全員がアルコ弾き。複雑な響きだった。
 深水はさりげなく手のひらでうねうねと、グリサンドを加えた。バリサクはメロディを吹かず、カウンターでフリーなフレーズを続ける。
 アドリブは主にバイオリンが取った。カントリー風味のフレーズを、二人は溢れさせた。
 エンディングでのアンサンブルは、軽やかにまとまった。

 "歌のまぼろし燃やし燃やし"は冒頭と最後に深水の歌を置き、中間はインストで突き進む。太田はエレクトリックへ持ち替えた。
 壷井が弾きまくってるときか。エフェクタを操作し、ハーシュな響きでざらついた飾りをつける。

 "雨の中で"は冒頭から弦の響きが美しい。ふくよかな音像に浸った。
 ピアノに寄り添い、別フレーズで支える。ロマンティックな風景が。バリサクもアンサンブルの要素として参加した。
 太田と壷井がツイン・ソロで猛烈に盛り上がったのは、この曲だったろうか。
 ときおり視線を合わせつつ、アドリブが交錯しては離れ、また寄り添う。果てしなく、ソロを互いに続けた。

 1stセット最後は"春分点"。これもきれいなメロディ。深水はメガネをかけ、譜面台を立てる。柔らかなタッチで鍵盤へ指を落とした。
 イントロは吉田の指示で、太田の無伴奏ソロから。アラビックなフレーズが次第に展開してゆく。おもむろにヴォイスも。他の曲に比べ、馴染んだ演奏に聴こえた。
 
 後半は吉田の"猫の旅"から。4拍子だと思うが、符割を6/8+2/8っぽく聴いていた。中盤でも捻った音列を、幾度か繰り返す。拍子を取れなかったが、奇数拍子かな?
 滑らかなメロディがきっちり構築され、中盤の場面展開でメリハリつけた。
 
 太田がソロを取ると、壷井がそわそわ。立花の譜面も覗いたあと、なにやら太田へ告げる。一瞬苦笑したが、とめずにアドリブをたっぷりと放出した。
 MCによれば、譜面のコードが違っていたらしい。Am7がAmになってる、と言ったかな。
「まあ、テンション・コードということで」
 太田が微笑んだ。

 "氷の魚"では吉田が、冒頭からメロディを朗々と歌った。もともと歌詞入りの曲だから、いっそ歌詞つきでも面白かったかもしれない。
 永田がまずイントロ。ピアノが受け、すかさずバイオリンたちがかぶさる。
 これもピアノの弾き語り版を、スケール大きく展開したアレンジ。

 深水と立花がデュオで展開したのはここか。吉田のキューはけっこう頻繁に飛び、奏者の演奏タイミングを操った。
 こぶしクラスターの"彌生弾き"も投入。ごろごろと鍵盤の上を、深水のこぶしが転がる。あくまで丁寧さを保ちながら。

 "コイゴコロ"の前には、野球のMCで散々盛り上がった。詳しくないという深水は、きょとんと椅子に腰掛ける。
 最初は壷井と吉田。永田が加わって長い喋りのあと。ちょっと口を挟んだ立花まで、熱く語り始めて可笑しかった。

 曲はピアノ弾き語りを、アンサンブルへ膨らませたイメージ。バイオリンの涼やかで暖かい、シンプルな響きが心地よい。
 場面ごとにメリハリあり、全員のイントロからピアノの独奏へ向かう。
 壷井のアドリブがたっぷり。この曲も特によかった。

 本編最後は"魚の話なんかやめて"。吉田が全面的にコーラスを。
 中盤でアカペラに全員の手拍子も挿入する。ごく自然に手拍子は始まり、きっちりアレンジされていた。
 深水の歌声は芯の強さをみせつつ、軽やかに響いた。

 エンディングでは二人の歌へ、太田がメガホンでなにやらアジる。
 コーダ前にメガホンを置こうとしたらサイレンが鳴ってしまい、慌てて消していた。

 アンコールの拍手が響く。最後は深水と吉田だけで演奏。壷井が観客状態で、客席へ座って聴いてたのが面白かった。
 "マグマの歌"は初めて聴いたが、コミカルな小品。冒頭のフレーズは伊福部のゴジラをつい連想する。

 手早くアンコールを演奏し、ライブは幕を下ろした。きっちりと吉田がアレンジした印象あり。バイオリン2本なのに、ときおり分厚く感じられる響きが、とにかく鮮烈だった。
 一曲くらい全員がフリーに絡み合う展開も期待していたけれど、今回はお預け。聴いていて、さまざまな可能性を感じさせたライブだった。ぜひ再演して欲しい。

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