LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/3/8  舞浜 クラブ・イクスピアリ

出演:渋さ知らズ・オーケストラ
(sax:片山広明,小森慶子,立花秀輝,川口義之,吉田隆一,鬼頭哲,佐藤帆、tp:北陽一郎,辰巳光英、
 tb:高橋保行、tuba:ギデオン・ジュークス、EWI:鈴木新、g:斉藤良一,大塚寛之、ds:磯部潤,藤掛正隆、
 per:関根真理、b:ヒゴヒロシ key,山口コーイチ,スガダイロー、vln:太田惠資、fl,vo:室舘彩、vo:渡部真一
 舞踏:ペロ,さやか,東洋,シモ,ちえ,たか子,南加絵,広田菅子,映像/美術:横沢紅太郎,青健
 ダンドリスト:不破大輔)

 ステージ前に踊り用のきっちりした台が3つ。さらに下手へパイプで組んだ高台、上手は白いふわふわで飾った高い脚立。前回ここで見たときとは違い、舞台がよりしっかりしていた。
 大きな垂れ幕が2枚、ステージ後方に吊るされる。さらに大きなスクリーンも。黒バックに白字で「Shibusa Shirazu Orchestra」の文字が。人数比較的多めな編成。
 
 時間をちょっと押して客電が落ちる。おもむろに不破が、コップを片手に登場した。今日のオープニングは楽隊の練り歩きは無し。ぞろぞろと両袖からミュージシャンがスタンバイ。大塚はいきなりギターを忘れて、楽屋へ取りに帰ってた。

 不破のキューで"火男"から。さやペロも現れ、全面の舞台で踊る。渡部が一声挨拶であおった。南国バナナ嬢らは後方から。脚立に上がってバナナを振る。
 白塗りの東洋らも、客席の間をじわっと歩いて舞台前へ。骨のようなお面を口にくわえて。
 スクリーンには欧州各地を駆け抜ける渡部の映像が映された。そこへ手書きのCGでイラストが描かれては消され、変容する。
 数人の舞踊を除いて、いきなり全面展開なオープニングだった。

<セットリスト>
1.火男
2.サリー
3.Fight on the corner
4.Song for One
5.Fishermans band
6.ひこーき
7.ナーダム
8.本多工務店のテーマ
9.仙頭

 今夜はエンターテイメント色を強調したアレンジか。ソロは満遍なく周るが、長尺気味。かといって長すぎもしない。見せ場を作りながら場面展開するかのよう。

 小森やギデオン、鬼頭や立花らが1回だけ。片山が一番ソロが多かったかな。あとは太田や大塚らのアドリブが目立った。
 ソロなしは関根やヒゴくらい。途中で片山が舞台袖へちょっと消えたとき、ヒゴのプレイが良く見えた。着実にシンプルなフレーズを、力強い弦のはじきで支えた。

 人数多いせいか、いまひとつ個々の音が聴こえない。PAを通したマイクのみ、すなわちソロが強調される。
 アドリブの合間に小森や片山に太田、吉田や高橋や北がカウンターを入れてるそぶりも見られたが、音が全く聴こえず残念だった。

 ソロの伴奏はホーン隊を押さえ、リズムとキーボードくらいが中心のアレンジ。もっこりした音像だった。
 PAバランスを操ってるのは渋さの関係者でなく、店のスタッフだろうか。正直、ちょっと大味なマイク切り替えだった。大編成なだけに、個々の掛け合いやカウンターも含めた、複層的な音像がぼくは好み。
 この日はすっきりと音の整理がされてたように思う。
 
 いきおいホーン隊はまったりモード。立花や川口はひっきりなしにデジカメで写真撮影を。片山は"Song for One"で居眠りモード。川口が構えたカメラへ、小森と立花が片山をはさんでにっこり。そんなときも微動だにしなかった。
 背後では手書きの素朴な鳥のCG。ぐっといったん縮小され、さらに大きな翼が素早く描かれた。

 冒頭の勇ましい"火男"では、さやペロのダンスはおとなしめ。左右の練り歩きはダンス用台の上をじりじりと動くのみ。さやかの足が、高々と宙を蹴る。
 ペロのダンスが今夜、ひときわ冴えていた。体がきっちり切れて、キュートにくねらせる。

 "火男"アドリブはダイローからだったろうか。やけにキンキンした音色のピアノで、パーカッシブに鍵盤を猛烈に叩く。フレーズでなく、小幅なクラスターの連打だった。
 吉田が引き継ぎ、バリサクを軋ませるスピーディなプレイ。高音が駆け巡り、メロディへ変容する。場を引き締めた。

 ちなみにその横で、小森が鼻の穴にイヤリングを詰め、にっこり笑って立花の撮影を受けてたのがなんともおかしい。面白がった不破も写真撮っていた。
 太田も赤のエレクトリック・バイオリンを使用。さほど音は濁らさない。勇ましいアドリブで駆けた。
 
 メモを取っておらず、ソロの順番や場面がかなり曖昧。各曲20分程度やっていた。
 さやペロや白塗り舞踊も積極的にアピールし、飽きさせぬ。

 続いての重厚な曲は"サリー"だったと思う。いったん、東洋たちが袖へ。さやかだけステージへ残ったかな。
 不破のサインはソロの抜き出しやリフの繰り返しなど。ときおり細かく指や腕を動かし、複雑なキューを送る。バンドはがっしり展開した。

 どの曲だったか、不破が右手下から左手上へ大きく手を振るサインを。クレッシェンドで上手から下手へ、楽器の切り替えで盛り上がろう、って意味か。小森がにこやかにその動きを真似する。
 実際には次の曲へ移ってしまい、あのサインがなんだったのかよくわからず。

 ステージ後方からスモークがうっすら焚かれ、ステージ後方からのライトが線をフロアへ飛ばす。
 ライティングはきれいだったが、なんだかパウダー臭い煙さが難点。

 "Fight on the corner"では室舘がリフを口ずさむイントロから。渡部が客席前を練り歩き、拍手をあおる。
 さやペロが、再び客席後方から表れた。

 しもがひらり登場し、高台で踊ったのもここか。白塗り舞踊も入れ替わり立ち代り表れ、躍動的なダンスを魅せた。
 パイプで組んだ台のすそに、すっとスタンバイ。するすると台を上ったり、舞台前の踊り場へ飛び乗ったり。スローモーションな動きだけでなく、激しい動きも取り入れた。

 東洋の動きがいきいきと。表情筋もさまざまに変化させつつ、アップテンポのビートにあわせ、身体をくねらせ続ける。コミカルな表情で大ぶりな舞踊を、存分に披露した。
 バナナ隊も負けていない。完全ユニゾンだった前回とは変わり、動きのタイミングをずらして振る。メカニカルな互い違いで動かしていた。

 ドラムの二人もデュオ形式でアドリブに。比較的、藤掛が野太く着実なリズムを。磯部がシャープに刻んだか。ホーン隊の影でよく見えず。
 ソロ回しやリフの応酬の切り替えに、間延びが無い。曲間で拍手のスペースも短く、しばしばメドレー的に動いた。
 大塚と斎藤のギター・ソロの流れもこの辺だったろうか。まず大塚。すっきりしたアドリブをうねらす。足元ではさやペロが寝転がって足を振った。

 続く社長のギターでは、さっそくさやペロが足元へ移動。ギターを弾き倒す社長の足へ、ペロがつかまりニッコリ。不破がそのようすをさっそく撮影。
 ギターのかきむしりはペグをいきなり緩めて、さらにボトルネックを"右手"に持つ。しばし弦をこするがさほどの効果が無い模様。葉巻のようにボトルネックをくわえ、さらにひとしきり弾き続けた。

 辰巳が猛然たるソロを聴かせたのは、どの曲だったろうか。北と立ち上がり、ソロの交錯を。確かアップテンポな曲だったと思う。黒尽くめの辰巳は、ベレー帽で俯き加減に吹きまくった。
 北も旋律を穏やかに積み上げる、味わい深いソロだった。

 「犬姫を」
 不破が合図する声が、かすかに聴こえた。曲順決めてないのかな。これだけ洗練されてるのに。
 ダイローのピアノをイントロ。しだいにサウンドが厚みを増し、盛り上がっていく。
 佐藤がテナーで、長いソロを冒頭から取った。
 帽子をかぶって腰掛けた室舘が、伸びやかな歌声を。関根がそっとハーモニーをつけた。

 そんなふうにステージでさまざまなことが起こる間、後方スクリーンではCGが休む間もなく変貌し続ける。手書きの描画はちょっと目を離すと別の風景へ。さらに画がいっきに縮小、別の背景や飾りをつける場面も。
 そのうえ実写映像も背後に移し、複層の場面を作る演出もあった。手書きCGだけでなく、PC処理のCGも。
 この日は渋さ独特の筆で書く超細密画こそなかったが(あれも迫力あって好き)、立ち止まらぬ美術展開も刺激的だった。

 ここまでステージに出ずっぱり。エアギターやダンスであおる渡部だったが、ついに主役の"Fishermans band"へ。"ライオン"のイントロを軽く挟み、歌が盛り上がる。
 早口でまくし立てる渡部のボーカルへ、軽快なコーラスを関根と室舘が入れた。

 無伴奏で渡辺が語り始めた。友達の家族旅行へ同行した話で盛り上がる。
 いったん下がった南国バナナ隊は太い骨を模した棒を二本持って、客席後方から現れる。
 音がない状態で語り続ける渡部。ステージ両袖で、そっとバナナ隊は踊り続けた。

 話が佳境になると、不破が"ひこーき"の合図を。渡部の語りとクロスフェードでイントロに入った。"Fishermans band"の続きと勘違いか、強引に渡部がゆったりと歌い始める。
 苦笑しながら不破が渡部へ突っ込み。きっちりワンフレーズ歌ったところで、すっと渡部は袖に。グッジョブ、と高橋が渡部へ親指を立てた。

 "ひこーき"で立花のソロだったかな。撮影隊のようにひっきりなしに写真撮ってた立花だが、ソロはきっちり決めた。
 背後のCGもきれい。家の絵が展開し、奥行きを出す。侘びた雰囲気。シンプルな家の絵で、土台の部分に黒い線を引いて厚みを出す描き方が、とても印象に残った。 

 関根の歌声へ、室舘のハーモニー。今夜は川口もコーラスを入れた。ハーモニカは吹かず。
 団子のような音像だったが、低く歌う川口の声がうっすら聴こえた。

 そして、"ナーダム"。ぐんっと音量が上がる。客電も一部つき、明るく盛り上がった。
 背後ではミジンコなどプランクトンの拡大写真が、矢継ぎ早に切り替わっていく。
 この曲での太田ソロが素晴らしかった。重厚なリズムに乗って、しみるメロディが次々と溢れた。
 不破はタバコを鼻に刺し、立花に写真撮られてたのもここだったか。ソロを誰かに任せ、ふっと不破が消えてしまう。
 一服しに行ったかな、と思いきや。後ろからワイングラス片手に表れた。さやペロもワイングラスを取りに行く。持ってきたグラスは次々回された。

 無論演奏はがんがん続く。
 その中で背後からウエイトレスよろしく、仮面をくわえた女性白塗り舞踊が表れた。皿には生っぽい鶏肉を載せて。
 パイプの高台に他の舞踊隊も現れた。シモがすっと台上でぬかづく。背をテーブルに、皿が置かれる。東洋と別の女性舞踊が、肉へかぶりつくパフォーマンス。
 太田が興味深げに、楽器を置いて覗き込みにステージ前までやってきていた。

 がぶりと噛み付いた肉を加えたまま、白塗り舞踊は舞台を去る。
 そんな光景にワイングラスをいくつか載せた本物のウエイターは、ステージ横へ立ったまま固まってしまう。  
 すかさずペロがグラスを受け取り、メンバーが回しのみ。お盆は台の裏へ、さりげなくすっと隠した。
 社長がソロを取った後で一口のワイン、大きく一礼をさやペロへ。グラスは辰巳へ回り、演奏している関根へ。叩きながら飲んで「おいしいね!」と口がにっこり動いた。

 メドレーで、関根のパーカッションによるイントロ。
 大団円は"本多"。おとなしく座ってた観客も幾人か立ち上がり、ステージ前へ押し寄せた。根本的に上品な場所で詰め込んでないため、それでも窮屈さはさほど無い。
 ホーンの練り歩きが始まる。アドリブを吹きながら。吉田は客席後方でバリサクを吹き鳴らした。
 メンバーが舞台へ戻る。室舘はかなり長く、客席内を練り歩いてたようだ。
 舞踊も全員が現れ、そこかしこで踊る。女性白塗りの一人は、けたけたと笑い続ける形態を。

 テーマを幾度も繰り返し、歌い継がれる。そのまま"仙頭"へ雪崩れた。
 スクリーンには、"渋さ知らズ、ありがとう"の文字が現れた。
 
 北が"すてきち"を吹きながら、ミュージシャンは袖へ消える。渡部とさやペロが観客へ最後の挨拶に応えて、ライブは幕を下ろした。休憩なし、約2時間半のステージ。

 音楽こそシンプルに整理された印象あった。ソロは長尺で、カウンターのフリーなフレーズが聴こえなかったせいもある。もっとも、舞踊や背後のCGにソロ回しの展開など、さまざまな情報のてんこ盛りは変わらない。
 同時進行で楽しめる展開は渋さ知らズならでは。感想がかなり長文になったが、他にも色々興味深い場面やソロがあったもの。
 渋さの魅力をすっきりとまとめた一夜となった。さらに細かいソロの応酬や、同時進行の掛け合いまで全て聴けるPAだったら、どう聴こえるんだろう。そういう渋さ知らズ・オケも体験してみたい。

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