LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/3/7 入谷 なってるハウス
出演:立花秀輝+不破大輔
(立花秀輝:ss,as,C-Melody、不破大輔:b)
二人は視線を合わさない。アルトを構えた立花秀輝は俯いて、ロングトーンを一音吹いた。
同じ音を、もう一度。そして、もう一度。
青白い響きでサックスが響く。ときおりリードが軽く軋む。展開をさぐるように、ではない。助走ともちがう。ぽおんと無造作に、立花はロングトーンを吹いた。
不破大輔も俯いたまま。指板の後ろに塗ったクリームを指につけ、弦をはじく。こちらもゆっくりと。
ふっとテンポを上げた。右足でリズムを取りながら。リフを作り、繰り返した。
立花と不破のデュオは過去に何回かあり。以前06年10月レディー・ジェーンで聴いたことあり。過去の感想を読み返すと、そのときは曲をやっていた。
フラジオまみれのフリーだときつい。だが最近の渋さでとてもメロディアスなソロを吹く立花を幾度か見た。
デュオでも幅広い即興が聴けるかな、と想像しながらライブハウスへ向かった。観客は5人と残念な状況。
ステージには立花のサックスが並ぶ。普段のアルトだけでなく、ソプラノとC-メロディも(てっきりテナーかと思った)。
ステージは一見、ひろびろ。でも、破が現れシートを敷いてウッドベースを置いたら、ぎゅっと風景が締まった。
二人は無言でステージへ向かう。互いに椅子へ腰掛けた。
視線も交わさず、無造作に楽器を構えた。ほんのわずか静寂があり、立花がまずロングトーンを出した。そして本稿冒頭の記述へ繋がる。
予想以上にストイックな展開だった。不破はグルーヴィなベースを弾きつづけるが、決してノリ一辺倒ではない。相手の音は聴いている。しかしソロのように奔放な展開でぐいぐい世界を切り開いた。
特殊奏法はほぼ無い。真摯に弦をはじく。頭の上にネックを掲げるような姿勢で弦を操り、や指板の横から覗き込むように高音部分を鳴らした。
盛大に唸りながら速弾きも披露したが、苛烈さは控えめ。切迫したムードは控え、余裕を持ってベースを弾いた。かといって迎合する要素は無い。
立花のサックスを踏まえつつ、あくまで独自の音像を作った。
いっぽうの立花も度胸たんまりな演奏。不破とは別次元で奔放だった。練習を横で見てるかのよう。不破のリズムとあえてずらす。拍の頭をある程度提示するベースだが、それを跨ぎ、浮遊した。
かといってベースを聴いてないわけじゃない。ときどきはピシリとあわせ、一丸となって疾走する。
だが、根本のところで立花は独立していた。不協和音みたいな響きじゃないが、ベースの流れにこだわらず吹く。その意識すら消して。
ステージに透明なついたてが、二人の間にあるような感じ。
だが。二人の音楽はきっちりと絡み合っている。形容矛盾だが、そう感じた。
ロングトーンなアルトは、次第に音の長さを短くした。不破は一定のテンポで、ときおり変化させつつ奏で続ける。じわり、空気を揺らすかのように。
立花は単音から違う音のロングトーンへ変えてゆき、みるみる流れを組み立てた。音色に太さが増す。やがてフリーで猛烈に吹きまくった。
いきなり吹き止めた立花が、楽器を置いて客席奥へ。どうやらタオルを取りに行ったらしい。不破はまったく意に介さず、ベースを鳴らし続けた。
ステージに戻った立花だが楽器は膝に置いて座ったまま。ベースのソロへ向かった。
次第に音数が多くなる不破。唸りながら速弾きへ。けれどどこか、懐の深さを残していた。
無伴奏ソロでもメロディ紡ぎへ向かわない。リフを繰り返しつつ、速弾きで揺さぶる。じわりと凄みをのぞかせるソロだった。
立花は膝に乗せたアルトやスタンドへ立てかけたCメロのキーを、パタパタ鳴らす。
立花がアルトを構えた。ここからはしばらく抽象的な音像が提示か。ベースが優しく空気を震わせた。
まともにサックスを吹かず、ベルの中へ口を突っ込んで音を出す。サックスを構えても、キーを手の腹などで強引に押さえ、軋む音も搾り出した。
フリーキーな場面がかなり続いたところで、唐突に二人の音楽が絡み合う。
前のめりに活き活きと跳ねるベースに乗って、立花が爽快に吹きまくった。
ぐっと盛り上がって、1stセットは終了。
「たまには吹くかな」
つぶやいた立花は、後半セットでソプラノをまず持った。
不破と視線を交錯させたあと、今度はいきなりスインギーなフレーズをアップテンポで矢継ぎ早に。野太くサックスが鳴り響いた。
ベースはがっしりとサックスを受け止めた。
フリーキーにサックスが鳴ってると音像がきゅっと締まり、ステージがやけに広く見えた。
なのに不破が高速ランニングでリフをばらまき、サックスが華やかなメロディのときはサウンドの分厚さを感じる。音数だけの問題じゃなくて。
ひとしきりソプラノを吹くと、再び立花は無伴奏ソロのスペースを作った。
不破は立花が吹くときも、吹かないときも、まったく音楽に揺らぎが無い。後半セット全体を使って、ベースの雄大なソロを構築した。
繰り返しになるが、立花のサックスと無関係に、ではない。デュオとして音楽は成立している。
にもかかわらず、不破のベースは自由だった。
サックスがどんな音量で吹こうと、ダイナミズムをベース単独で作る。ピアニシシモで弦をはじき、じわじわとクレッシェンド。シンコペーションの効いた符割で、しぶといグルーヴを作る。
いきなり速弾きを投入し、リフから旋律へ。とても幅広い展開だ。
途中でふっと弾きやめ、立花を見つめる短いひとときも。そして無造作に演奏を再開する。
無伴奏ソロの途中で、不破はシャツを脱ぎ捨てた。ステージは無音状態になる。でも演奏は止まっていない。
不破がベースを構えなおして、そのまま音楽は継続した。
立花はアルトへ持ちかえた。ひとしきり吹いたあと、Cメロへ手を伸ばす。
調子が悪いのか、ネックのオクターブ・キーや、ネックと本体と繋ぐネジを演奏途中でしきりに調整する。
音楽を演奏しつつも、楽器の調子と悪戦苦闘。まるでステージであることを、意識してないようなそぶりだった。
後半はずっとCメロを吹いたかな。両足の間に構えたり、右の腿に載せて吹いたり。
さらに循環呼吸で鳴らし続け、ときにマウスピースへがぶり噛み付き、ぶっとく音を出す。
立花はずっとパイプ椅子へ座って演奏していた。が、終盤で足をだらんと前へ投げ出す。
初めて足で、リズムを取り始めた。それまでは全くそんなそぶりなかったのに。
リズムが不破の足で踏むテンポと合致する。
最初は拍の頭をずらしながら。やがて、きゅっと一致した。
終盤も滑らかに立花が吹き鳴らす、メロディ志向のアレンジで終わり。
音が止んだとき、二人が視線を合わせて終わりを確認した。
今夜のステージは、約50分の演奏を一本がセット。それを2セット。おそらく完全即興だろう。
しかしバラエティに富んでいた。フリーキーさからぐっとダンサブルな場面まで。
互いの展開へ応えあい、リアクションを応酬の即興ではない。自分の世界を構築させつつ、アンサンブルとして成立する。あからさまなジャズから、フリーな展開まで。
ある程度それぞれの場面を継続するため、唐突さに振り回されることはない。特に2ndセットが良かった。
不破はがっしりと安定して、自在にベースを操る。立花のアプローチしだいでこのデュオは大化けしそう。