LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/3/5   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、喜多直毅:vln、平松加奈:vln、井野信義:b、石塚俊明:ds、
  飛び入り::鬼怒無月:ag *1st setのみ)

 特別編成の緑化計画。平松加奈をゲストに向かえ、早川岳晴のトラで井野信義が。
 さらに飛び入りで鬼怒無月が加わった。夜にマスタリングがあり、その前にたまたまアケタへ来たのがきっかけで、演奏することになったそう。
 アケタへ行くとアコギが一本置いてあり、首を捻っていたところ。嬉しい驚きだった。彼が緑化へ参加するのは初めてらしい。

 ステージには弦楽器が5人。翠川敬基はフルセットでアルコを使う。井野もアルコを使う場面では、なんだか壮絶な絵柄だ。
 自由さを積極的に盛り込む、翠川のロマンティシズムがふんだんに溢れるステージとなった。
 
<set list>
1.West Gate
2. Tao
3. Seul-B
(休憩)
4. Tres
5. O-hon
6. Anohi

 まず鬼怒を前面に立てた"West Gate"から。井野を含む4人の弦奏者が白玉でふっくらと土台を提示。アコギを構えた鬼怒が、しっとりとメロディをゆるやかに奏でた。
 1stセットはとにかく濃密。井野はトラのためかさほど前に出ない。さらにアンプの音が小さく、余り聴こえなかった。
 にもかかわらず、ステージの音はとても濃かった。

 翠川はあえて解体を志向するかのよう。フレーズよりも自由に弦を奏でる。井野は静かに弦をはじく。もっとも前へ出たのは喜多だろう。口を大きく開けながら、つるべ打ちにフレーズをばら撒いた。
 構成は特に決めて無くとも、完全フリーよりもソロ回し的なアプローチが多かった。
 合間を縫って翠川も伸びやかな旋律を挿入する。

 鬼怒は比較的控えめ。カウンター・フレーズを入れながら、スペースが出来るとソロへ向かう。平松の演奏は初めて聴いたが、ステージ全体を通し、控えめな印象あり。
 しかし1stセットでソロが回ったとき、すかさず音の風景を鮮烈に変えた。すっと足を組んで。
 彼女の音楽性は詳しく知らないが、トルコ風の節回しでいきなり音像を変えるセンスに耳をそばだてる。

 とことん元気だったのが喜多直毅。口を大きく開け、猛烈に弓を弾きむしる。弓の毛がつぎつぎほつれ、曲の合間に幾度もちぎっていた。
 積極的に音楽へ突入し、しばしば力技で展開を引っ張る。

 そんななか、石塚俊明が意外なキーマンとなった。編成に配慮してか、スティックはほとんど使わない。ブラシなどで小さい音を出す。
 刻みも無く、パーカッシブなプレイ。しかしソロの切れ目やカウンター的に叩くフィルがピシりと決まり、アンサンブルを的確に引き締めた。曲によっては力いっぱい振り下ろした一打で、すっとコーダへ導く場面も。

 "West Gate"は全員が探りあい、立ち位置を決めるような感触。待ちの姿勢で無いがゆえに、濃密さが漂ったのかもしれない。
 むしろ"Tao"以降では、多くをソロ回し的な流れにすることで、すっきりさを出した。
 とはいえ翠川は、積極的にチェロで音像を揺さぶる。さらに平松や鬼怒のアドリブが、するりとサウンドのイメージを変えた。
 その上で喜多のバイオリンが、豪腕に音楽を振り回した。

 4ビートの"TAO"で、冒頭はくっきりとトシが刻む。微妙に縦線を揺らしながら。しだいに演奏が進むとビートは解体し、より弦楽器が主導権をもつようなアレンジに代わって言った。
 途中でトシはカウベルへスティックを突っ込み、カラカラと鳴らす。

 "Seul-B"は翠川の合図で、喜多と井野のデュオから。トシはシェイカーで冒頭は軽やかに色づけた。
 テーマの響きがとにかく美しい。3曲で50分強の長尺な演奏となった。

 ふうわりと着地したところで休憩へ。
 ところが鬼怒が譜面を見ながら、
「今、どの曲をやってたの?え、これ?」と、いきなり言い出す。きれいに終わってたのに。おかしいなあ。

 楽器を片付けた鬼怒が店を去ってしばらくすると、後半セットへ。
 まず"Tres"。冒頭での弦による響きが、見事に決まって美しかった。
 
 トシのドラムがぴしりとアクセントを入れつつ、穏やかに演奏は展開。たとえ喜多が激しく弦をかきむしって盛り上がりへ進んでも、着地ではきちんとテーマのムードへ回帰した。
 翠川のチェロも、すごくきれいだった。

 井野のアンプ出音は若干大きくなり、ベースの小刻みなパターンも耳へ届く。指弾きを主体のベースで、たまに弓や棒らしきもので弦を叩く。
 たまにトリッキーなフレーズも盛り込むが、ほとんどは一歩引いた感じでもどかしいときも。
 
 「次は"A-hen"を」
 翠川の選曲で譜面を皆探すが、見当たらないらしい。すかさず"O-hon"に切り替えた。
 この曲も4ビートでソロ回し。平松がずっと弾かず、じいっと喜多の演奏を眺めてたのは、ここだったろうか。
 アドリブが回るとすかさず、喜多とは別のアプローチなスケールの大きい旋律使いを聴かせた。

 トシはスティックを持ちつつも、強打は控えめ。シンバルも音量やタイミングを配慮した叩き方だ。
 最後にトシが力いっぱい振り下ろし、そのまま急転直下のエンディングって、この曲だったかな。

 「とにかく自由です」
 今夜、最後の曲な"Anohi"。演奏前に井野らへアレンジを、翠川はこう説明した。この言葉が音楽性や翠川の美学を象徴している気がした。

 冒頭はチェロの無伴奏。柔らかなタッチで、揺らしながら翠川はメロディを紡ぎ上げる。
 最後の曲では井野も短めながらソロのスペースを受け持ち、滑らかな音使いでアドリブを奏でた。
 
 エンディングが抜群だった。トシがまず打ちやめ、音楽へ耳を澄ます。
 ベースが、バイオリンが、音を止めてゆく。ピアニシシモなチェロが、ふうっと音を消して終わりを告げる。とても美しい終わり方だった。

 次も平松がゲストで加わるのかな。どんなに顔ぶれが変わっても、緑化計画は緑化の音がする。そしてここ最近、緑化はまた新たな地平へ向かっている気がひしひしとする。

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