LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/3/1 西荻窪 アケタの店
出演:吉野+太田+古澤
(吉野弘志:b、太田惠資:vln、古澤良治郎:ds、+
tomoca:oboe)
アケタで吉野弘志のリーダー・セッションは久しぶり。履歴を"Live &
Live"でたどってみた。すると昨年11月15日ぶり。その前はかなりさかのぼる必要ありそう。
さらに太田惠資とは"彼岸の此岸"で共演してるが、古澤良治郎と太田の共演はあまりイメージ無い。面白そうで聴きにいく。
今夜は観客でオーボエ奏者のtomocaが来店。そのままほぼフルステージ、飛び入りの編成となった。彼女の演奏は初めて聴く。この人かな?(http://homepage2.nifty.com/tomoca/frame/index.html)
「チューニングといえばオーボエ。最初から出てきてもらいましょう」
ピアノで一音叩いて、吉野がtomocaを呼んだ。そのままオーボエの音でベースとバイオリンが調音する。吉野は超低音を出せる、独自のウッドベース。もっとも気づいた範囲では、この低音を今夜は使わず残念だった。
太田はアコースティックと赤のエレキ・バイオリン、メガホンを準備する。
冒頭から30分弱と20分位の長いインプロを続けて。個人的には当初の3人のみでインプロも、ワン・ステージたんまり聴きたかった気も。
1曲目はtomocaをふくめた探り合い的に始まる。スペースを置きあい、遠慮深げな展開となった。tomocaは遠慮かスタイルか不明ながら、ステージへ半身に立つスタンスで吹いた。
吉野の無伴奏ソロから、太田と古澤が静かに音を乗せた。ベースはオスティナートへ。
まずアコースティック・バイオリンを持つ太田。古澤はまったく刻まず、無造作にスティックでドラム・セットを叩く。吉野のグルーヴを足がかりに、奔放なノリが広がった。
tomocaはロングトーンからいくつかのフレーズをかすかに。静かに弾きながら太田は耳をすませるようす。まずtomocaへソロを取らせたいようだが、tomocaが一歩引いてなかなかはじけず。
太田がクラシカルなフレーズで口火を切る。すかさず吉野がビートを解体したフレーズで応えた。ソロがtomocaへ移ると、とたんにシンプルなランニングへベースが変わる。
ソロ回しの即興では無いが、なんとなくベースやドラムへもスポットが当たった。吉野はおっとりと旋律を積み上げる。
古澤が拍子木を打ち鳴らしたのは1曲目だったろうか。リズムは刻まず、拍の頭も意識しない。しかしテンポはきっちりキープ。ゴムのように柔軟なドラミングだった。
エレキに持ち替えた太田が空気を膨らます。tomocaも次第に前へ出てきた。古澤は途中でスティックからブラシか撥へ持ち替えた気もする。
吉野がぐいっと前へでるかと思ったが、むしろフロントを立てた。tomocaが派手に吹きまくったら、だいぶ音像は変わったろう。マイクのせいか、ほとんど音が聴こえず。
ともあれゆっくりとテンポを下ろし、古澤の合図で1曲目が終わった。
ステージに譜面台が準備されてたが、2曲目も即興で。今度はだいぶ互いの距離感が縮まった。太田はそのままエレキを。
古澤はすりこぎみたいな撥を持ち、太鼓を突っつくかのよう。あるテンポは感じるが、刻みとはほど遠い。打面をベンドさせつつ、軽快に鳴らした。
最初はtomocaが聴きに入ったかな。吉野のフレーズは古澤とポリリズムのように絡まって楽しかった。太田が滑らかに弓を動かした。ぐっとサウンドが締まる。
やがてマイクを交換したtomocaも。今度はアドリブでもだいぶ前へ出た。積極的にフレーズを吹く。
聴き所は中間部。吉野とtomocaが手を休め、太田と古澤のデュオに。突っつきドラムの古澤へ、太田は横構えのバイオリンで応える。スティール・パン風の音色で爪弾いた。
華やかながら、性急に向かわない。ほのぼのしたムードが心地よい。
古澤の一打ちにすかさず吉野が合わせ、ぐんっと盛り上がったのもここだったろうか。
ひとしきり弓で弾いたあと「さあ、あなたのソロだよ」といわんばかりに、ぐっと太田が身を乗り出しtomocaを見つめた。
3曲目は吉野のオリジナル。4小節の短い旋律に2小節のドラムが入る構成。引き続きtomocaが加わる。吉野が簡単に彼女へ説明し、演奏が始まった。
古澤は竹ヒゴをまとめたようなブラシを持つ。バルカン的なひっかかりある旋律が目まぐるしく進み、ふんわりドラムで和らげる。幾度かテーマを繰り返しフリーへ。
ドラムとベースのコンビネーションは依然としてユニーク。絡まないしパターンでも無いのに、グルーヴィだった。
太田からtomoca、吉野から古澤と、中間でテーマをはさんでソロが回る。
後半セットはデュオから。
まず吉野と古澤。吉野は慎重にマイクや音質を確認したあと、ほぼ全て弓で演奏した。モンゴルの牧歌を演奏、と紹介したろうか。
しずしずと無伴奏ソロからアドリブへ。スケール大きい符割で、たっぷりとスペースを作る。
袖へ座った太田が、タバコをくゆらす。
濃い煙がうっすらと、ステージ前をたなびいた。
古澤はすりこぎスティックだったろうか。良く覚えていない。
音像の周縁から辺りを広げるように。刻みをほぼ抜かしたドラムだった。中間で吉野が爪弾き、やがて弓へ。
これから盛り上がるかな、と身を乗り出したところであっけなく終わってしまった。
次は太田と古澤。エレキ・バイオリンで。まずロングトーンをドローンのようにループさせ、エコーのかかったフレーズを重ねる。
古澤は太鼓を無造作に素手で叩いてたが、そのうちスネアを持ち上げた。
膝の上に乗せ、両面から軽く叩き始める。口でもごもごっと即興の歌を。
すかさず太田が応え、即興ボイスの交換となった。
バイオリンは弾きつづけ。古澤はフロアタムのリムへスネアを乗せ、スティックでカラカラと叩いた。このセッションも10分くらいながら、あっというま。
次がtomocaも加わった、古澤の曲"クムクム"だったかな。20年前くらいに書いた曲らしいが、tomocaがセッションでよくやる曲という。それがきっかけで今日の飛び入りに繋がった。
譜面台が足りないが「古澤さんは無くて大丈夫かな?」と吉野の問いかけに、微笑む古澤。
tomocaのオーボエが力強くソロを取った。譜面を見ながら太田がロングトーンでふくよかさを強調する。面白かったのが古澤。今夜のライブでほぼ唯一、刻みを入れた。
途中のフィルで裏やその合間を縫う叩きを見せるが、くっきりとリズムの輪郭を描いた。
暖かいメロディで心地よく盛り上がった。
次が3人で一曲演奏したはず。テンポが演奏途中でひょいひょい変わった。
特に合図もせず、ぐっとスローになったり倍テンへ動いたり。
最後にもう一度、tomocaが登場。キーが一定で簡単だよ、と譜面を渡さず吉野が説明。
バルカン風のメロディを太田が奏で、軽快に始まった。tomocaはテーマへ耳を澄ませる。
アドリブ部分では、ぐんっと前へ出た。4人のアンサンブルで、この曲がもっとも聴き応えあり。やたら濃密にもならず、かといって隙間も無い。バランス取れた快演だった。
tomocaのソロでは太田がメガホンを取る。力強い歌声から、勇ましい掛け声へ変わった。
ひとしきりの即興後、テーマへ。tomocaはカウンターのメロディを入れた。
前後半とも約1時間。節度を保ってきれいにまとまった印象あり。互いを引き立てるようなソロの場所を作りつつ、ベースとドラムのグルーヴは自由度高い。
ライブが進むにつれアンサンブルが引き締まった。緊張ある切り合いや洗練さの志向ではない。ほのぼのさと自由を受け入れ、穏やかなメロディを操る大人なサウンドだった。
Live&Liveによると次回は4月10日が既に決まってるそう。同じメンバーか不明。ミュージシャンとして手ごたえあるライブだったんだろう。