LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/2/26 大泉学園 in-F
出演:クラシック化計画
(翠川敬基:vc、菊池香苗:fl、会田桃子:vl,va、渡部優美:p、森下滋:p)
クラシックへ真正面に取り組むユニット、クラシック化計画のライブ。
今回は森下滋が初参加となった。ポイントは"真正面"。とにかく奏者自身のチャレンジとして、難曲でも積極的にアプローチが特長か。
店へ入ると、翠川敬基が真剣な顔でカウンターに向かっていた。今日の演目が難曲だそうで、楽屋はおろかアルコール無しで臨む。
20時を10分ほど回った頃、おもむろにステージが明るくなった。
司会は翠川がつとめる。デュオやトリオのみならず、珍しくピアノ・ソロも。前半、後半ともにバラエティに富んだ編成で、盛りだくさんに聴かせた。
ちなみに選曲は各自奏者によるもので、翠川が関与はしてないそう。
なお今夜はメモを取っておらず、曲目の詳細は不明。すみません。
1.菊池香苗+渡部優美
曲はGary Schocker"Regrets and
Resolutions"。
「ショッカーみたいな激しい曲です」と、おどけた紹介で始まった。後で調べたら、アメリカの現代フルーティストの作品。
自らのアルバム・タイトルにもなっている作品だった。サイトはこちら。
彼は昨年に来日。ステージでフルートとピアノの同時演奏の荒業を披露、とのブログも見かけた。
曲が始まった瞬間、瑞々しくもポップな旋律に引きつけられた。菊池は軽々と演奏する。とても滑らかな旋律。ピアノのフレーズも、音色が暖かい。
インエフのエコー成分が少ない音場がいい方向に働いた。この曲はエコーたんまりな場所だと、かなり過剰なロマンティシズムが溢れそう。
今夜はむしろ余剰を削ぎ取ったフルートの響きが、改めて作品の躍動感を表現したと感じた。
2.会田桃子+森下滋
曲はバーバーの"アダージョ"だったらしい。1938年初演のサミュエル・バーバーの『弦楽のためのアダージョ』でいいのかな?バイオリン+ピアノ編成での情報をネットで見つけきれなかった。
バイオリンを会田は奏でた。強烈なボウイングで噴出すフレージングの力強さが美しい。
ちなみに演奏前、大胆にフレーズをさらう。こういうシーン、クラシックのライブではまずありえないので面白かった。
ちなみに彼女のチューニングも独特。ある程度あわせておいて微調整でなく、ピアノを聴きながら大胆にペグを捻って音を下げる。そしておもむろに音を合わせた。
演奏ではゆったりした旋律での、激しいビブラートが印象に残った。滑らかなメロディとともに。動きの少ない場面で。どちらも音がぐいぐいと揺れる。
穏やかに着地する場面で、伸びる音が揺れるさまが耳をくすぐる。鋭い目つきで会田は譜面を睨みながら、ためらい無く音楽を奏でた。
前のめりに噴出するサウンドは、くっきりと彼女らしさを魅せた。弓を叩きつけるような奏法に、タンゴっぽいアプローチを感じたのはこの曲でだったろうか。
森下のピアノは穏やかに丸く響く。後半セットで彼の演奏が鮮烈だったため、本曲での記憶が既に曖昧になってしまった・・・。
3.渡部優美
ピアノの独奏。蓋を大きく開けて音を響かせた。丁寧に曲紹介があったにもかかわらず、詳細を失念・・・。トロルの結婚式がテーマ、だったろうか。
暗譜で奏でた。勢い良くメロディが疾走し、ペダルを効果的に操った。
明確な輪郭の主題が中間部へ向かい、改めて主題にもどる。とうぜん譜面ながら、アドリブのような柔軟な作曲に感じてしまった。
途中で激しく和音が交錯し、複雑に盛り上がるシーンもすいすいと盛り上がる。とてもキュートな演奏だった。
4.翠川敬基+渡部優美
曲はブラームスの"チェロ・ソナタ第2番 in F dur:Op.99
"。
ピアノへ寄り添うように、ステージ中央に翠川は位置した。じっくりと音楽が立ち上がる。そうとうな難曲らしく、緊張した面持ちがこちらへも伝わった。
渡部がそっとピアノで支える。翠川は少々線の細いイメージでチェロを奏でた。
4楽章構成で、尻上がりに音色の力が強くなる。穏やかな雰囲気のメロディなのに、指が素早く、大胆に指板の上を動いた。
5.菊池香苗+渡部優美
後半も編成は前半同様の進行にて。階上で床を叩くようなノイズがコツコツと響く。すかさず渡部がそれにあわせ、カウントのそぶりで笑いを誘った。
曲はP.Aジュナン"ベニスの謝肉祭"らしい。猛烈なフルートのテクニックに圧倒された。古典的な感触の作品だったが、フルートが常に素早く音を操り続ける。実際は19世紀後期の曲。
菊池は涼しげな表情でなんなく吹ききったが、めまぐるしい旋律の展開にひきこまれた。
作品そのものもさりながら、とにかくフルートをずっと見つめてるうちに終わってしまった感も。
6.会田桃子+森下滋
曲はクライスラー"前奏曲"だそう。聴き覚えある。作品そのものの旋律にまず、強烈に自己主張あり。それを力のこもった演奏で、さらに会田が鮮烈な表情を加えた。
譜面からときおり目を離し、わずかにステップを踏むがごとくすいすいと身体を揺らす。
会田のバイオリンへピアノはがっぷり噛合った。華やかなバイオリンの旋律を、甘いタッチでふくよかに包んだ。
7.森下滋
こんどは森下滋のピアノ独奏。バッハとショパンを続けて。
バッハのエッジ鋭く、かつ情熱的なアプローチに惹かれた。メカニカルな思い込みがあった作品を、歌うような表情の音で駆け抜ける。ピアノとユニゾンでつぶやく幻聴を覚えたほど。
弾きおわると、音を立てて譜面を横へ置いた。
間をおかずショパンへ。滑らかに膨らむ旋律の美しさが素晴らしい。ショパンがどういう作曲手法をとったか、不勉強でぼくは知らない。しかしこの曲は、ほんとうに"ピアノ・ソロ"だった。
まるでショパンがサロンで即興にて曲を紡いでいるような。そんな妄想を思い浮かべつつ演奏を聴いていた。
帽子をかぶったまま、森下は無造作に鍵盤へ向かう。流れる音はとびきりロマンティック。素晴らしかった。
8.菊地香苗+会田桃子+翠川敬基
最後は弦楽三重奏。曲はヒンデミットの第1番 op.34 (1924) 。
「あまり演奏されない曲です。ましてバイオリン・パートをフルートが担当は、まちがいなく世界初演。世界で最後かも」
翠川が微笑みながら曲紹介をした。会田はビオラに持ちかえる。ここでも演奏前に思い切りさらってて面白かった。
曲の構成がユニーク。5〜6楽章あったかな。冒頭ではフルートが常にめまぐるしく旋律を吹き続け、ビオラとチェロでバックアップする。
最初は3人のアプローチがまちまちで、アンサンブルの豪快さがユニークだった。
無造作かつ繊細に奏でる菊池。旋律をがっしり捕まえるような力強い会田。そして曲へがっぷり向かい合う翠川。三者三様の方法論がくっきりと立ち上がった。
2楽章からはアンサンブルの溶けあいが、より滑らかに。しかし曲の奇妙さが、妙な居心地悪さを演出した。各楽章とも、中途半端に着地する場面多し。
耳に楽しく馴染んだのは3楽章目だったかな。フルートとビオラが絡む合間に、チェロがユーモラスなリフを挿入する。
ここでもアドリブみたいな突拍子も無い旋律の展開が、逆接的に耳へ馴染んだ。軽やかにチェロがするするっと操る場面。フルートとビオラが対話しつつ収斂する楽想。それぞれの流れは一気通貫していそうで、ひょいっとはずされる。
まるで厳密にリハをしたフリージャズのよう。こういう聴き方が間違ってるのはわかるんだけど。
ボリュームたっぷりな作品がコーダへ。終わったときも、達成感というか物足りなさが残るような。奇妙な。
にこやかに微笑んで翠川が挨拶して幕を下ろした。アンコールは残念ながら無し。
バラエティ豊かな選曲と、勢い溢れる演奏を堪能した。次回は未定らしいが、またぜひ聴きに行きたい。本当の意味で寛ぎつつ、クラシックの幅広さを味わえる的確なライブだ。
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