LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/2/24   渋谷  O-nest
 
 〜 Navigation Night #2 〜
出演:KRAMER、CAUCUS

 
 2フロアを使い5バンドが出演するイベント。クレイマーがらみで聴きに行った。いつのまにやらフロア前方はぎっしりの盛況。10分押しくらいでライブが始まった。

Caucus
(柳川勝哉:vo,g、加藤達郎:g、川上宏子:g,glocken、高橋哲:b、蛭海 "GUMBY" 和亮:ds)

 今年の1月にギターが加入、5人編成へ。
 冒頭は川上の前へグロッケンを置き、いきなり演奏が始まった。6曲ほど。全て英詞だったと思う。
 今夜は背後にスクリーンが置かれ、CGに文字が重なるグラフィックも。歌詞の一部も挿入され、演奏と関連していた。バンドの意向がどこまで反映されてたかは不明。ほんのりとムードを盛り上げた。

 いきなりの轟音で鼓膜が揺れる。高音と低音をしこたま強調し、個々の分離はかなりまとめて。ギター3本がストロークするときは、ほとんど識別できなかった。
 マイクは川上や高橋の前にも立ったが、MCで使うのみ。コーラスは無く、全て柳川のボーカルだけで通した。前のめりに歌い続ける。

 グロッケンは1曲のみ。横に片付けられ、あとは豪快なギター・リフが炸裂する。ノリは良く、ドラムが幾分タメ気味に叩く。ゆったりしたリフと猛烈なドラムの連打が錯綜する曲など、アレンジも多彩に仕上げた。
 ギター・ソロは、柳川のプレイが強烈だった。
 アームをわしづかみにし、時にアンプへ押し付けフィードバックを。フレーズよりも歪みを前面に出し、ぐいんぐいん音を揺らす、猛然たるアドリブがいかしてた。

 全般的にすっきりながら、歪んだギターが吼えるロック。くっきりしたメロディで、より洗練された。
 ギター3本は弾き分けつつも、全員で太く押してゆく形か。ベース・リフの絡みは音量がでかいため、細かいとこまで聴き分けられずが本音。

 歌声は青白くゆらめき、太いベースとギターのリフに包まれる。アップテンポの曲が多く、ゆったりめなのはアレンジ上で爪弾かれるときのみ。1時間弱のステージを、休み無く疾走。
 以前ライブを見たときよりも、ゆとりあるアンサンブルな気がした。
 MCはほとんど無い。"Sing"では歓声が上がり、華やかに盛り上がった。

「特別ゲストです。クレイマーを」
 この言葉に狂喜。柳川はエレアコに持ち替えた。しかしクレイマーの姿は無い。

「クレイマーは・・・呼んでこないとダメかな?」
 袖をちらり見て、苦笑する柳川。手で合図送って、スタッフが楽屋へ消えた。場つなぎにメンバーのMCへ。
 喋ってる合間にクレイマーが登場。改めての紹介すら待たない。
 思い切り無造作にステージへ現れ、キーボードの前に座った。あまりのけれんみ無さが面白かった。

 共演は1曲のみ。録音済みの2ndに収録予定だそう。
 クレイマーは身体を曲げ、俯き加減でキーボードへ向かった。軽くグリサンドをあて、指をぺたり鍵盤へ貼り付けるように白玉を弾く。
 コード弾きがメインか。アンサンブルのなかでは、音が埋もれ気味でよくわからず。

 歌声が続く。つい、ずっとクレイマーを見つめていた。ほとんど身じろぎしない。ときおり顔を上げて、にこやかな表情で柳川らを眺める。
 アレンジでオルガンだけが取り出されても、クレイマーは無造作に鍵盤を弾き続けていた。
 
 ライブはあっという間に終わった。感極まったような表情で、柳川が顔を拭う。
 2ndはクレイマーがマスターを持ち帰り、ノイズ・マイアミでミックスとマスタリングをするらしい。発表が楽しみ。

Kramer

 セット・チェンジはさっさと終わったが、なかなかクレイマーは姿を現さない。上の階でやってる別ライブを踏まえた、タイムテーブルを尊重かも。いつしかフロアの人口密度が高くなる。
 おもむろにクレイマーが登場した。振り返ってスクリーンを見つめる。

 "Things to come"
 アルファベットが一つ一つ、タイピングのように映し出される。
 それを確認すると、椅子へ腰掛けたクレイマーはエレキギターを構えた。

 今夜のパフォーマンス"Things to come"は再演。去年の1/6にイスラエルはテルアビブで初演のはず。コンセプトはビデオとエレキギターの融合で、今夜も同じ編成だった。

 ちなみにギターはCaucusの柳川に借りたらしい。アメリカから持ってこなかったのか。おおらかだな。
 編成は同じだが、音楽はおそらく全て即興。一部のフレーズや構成などは、ある程度準備してた可能性もある。

 映像はCGで万華鏡のような効果を出したり、アニメーションを挿入したり。抽象的な展開でストーリー性は薄い。ただし牧歌的なイメージは低く、むしろ攻撃性を感じる場面も。
 なにかメッセージを訴えるより、自らの思いを溢れさす光景と受け止めた。
 おそらくビデオは即興性無し。決まった映像を一連で流し、クレイマーがアドリブで音を重ねているのでは。

 しばらくは俯きかげんのまま、クレイマーはエレキギターを爪弾く。メロディは無く、ショート・ディレイで多層性ノイズを積んだ。まったくのディストーションや、ハウリングも重ねる。
 アンプを二台置き、さらにマイクもギターへ。声は出さない。遠目で具体的な操作は不明だが、アンプの出音もマイクで拾って増幅や変調もあったのだろうか。
 リズムはミドル・テンポで一定。和音感は希薄だった。うっすらと4拍子を提示し、最後まで変拍子は強調せず。

 後ろで聴いてたせいか、音量はさほどでもない。むしろもっと轟音で聴きたかった。次第にノイズ性を増す音像は、根本がすっきり。ハーシュに鳴っても、ポップさを常にのこしてる。
 重なるノイズは次々に消え、新たなノイズをディレイで重ねた。
 単音がディレイで複層、さらに抽象的なフィードバックがかぶった。ときおり指弾きもしていた模様。

 クレイマーはたまに後方のアンプへギターを押し付けるフィードバック以外は、ずっと座ったまま演奏を続けた。
 ときおり振り返り、映像の進展を確認する。観客へのアピールは皆無。あくまで音楽と向かい合った。
 もっとも音像はドラマティックに変貌しない。じわりじわりと新たな要素が重なり、しばらくすると違う風景を作り出した。

 ギター一本とエフェクタのみの操作で、サウンドは停滞無し。その上で、多彩にきらめく。刺激的で飽きない音作りはさすが。
 テクニカルな操作は無く、あくまでセンス一発でハーシュ・ノイズを進行させた。

 30分くらい、さまざまなアプローチでギターで音を撒き散らす。メロディ展開は避け続けた。
 "Thank people!"
 全ての音を止めて、いきなりクレイマーが叫んだ。実際の言葉はさだかで無い。少なくともぼくには、こう聴こえた。
 
 間をおかず、すかさずギター・ノイズが復活。猛烈なストロークが現れた。性急に和音のかき鳴らしを叩き込む。
 今夜のパフォーマンスで、メロディっぽい場面はここのみ。

 やがて再び、ディレイを駆使した波紋のようなサウンドへ。
 クレイマーは幾度も振り返り、画面の進行を確認した。
 背景では手書きのアニメーションが現れる。冬の町並みを一人歩く背中が、やがて収斂する。

 "Fin"
 文字が浮かんだ。クレイマーは音を止める。
 立ち上がって、拍手に応えた。約45分ほどの演奏。

 ハード・エッジなアンビエント作品。CDで聴いても楽しめる。逆に映像とのリンクは、見ていてあまり感じない。進行そのものは意識しても、画の動きや転換と音楽は関連させず、ギターの即興そのものに集中していた。
 クレイマーの完全ノイズ作品は、CDでは発表されていない。どしゃめしゃなパンクをノイズ、と定義しなければ。
 ともあれすっきりとまとめられ、なおかつ刺激や尖がった要素も含まれる。こういうアプローチもできるとは。

 正直、ぼくはクレイマーに歌って欲しかった。ギターの弾き語りで。望みは叶わなかった。けれども今夜の音楽そのものは、とても満足いくステージだった。
 歌い続けて欲しい。しかし、ノイズまみれのクレイマーも良かったな。

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