LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/2/17   吉祥寺 Mandala-2

出演:MUMU、鬼怒+ナスノ+吉田
 
 MUMUの1stレコ発ライブ。録音は05年だがリリースに至らず。ついにまぼろしの世界からリリースの運びとなった。
 今夜は立ち見がちらほら出る入り。
「大勢いらして有難う。みんな是巨人のファンなんですよね。わかってます」
 MUMUの出番冒頭でいきなり、中根がギャグを飛ばす。

鬼怒無月・ナスノミツル・吉田達也

 是巨人名義ではない。
「普段難しいことをしてるので、今日は即興で楽しくやります。」
 冒頭で鬼怒が告げる。実際、1曲目が終わるなりナスノが「楽しい〜!」と図らずも漏らし、爆笑だった。コンセプトは"イエスとパンクとほんの少しの黒人音楽"と言ったかな。

 彼らのセッションは3曲編成。冒頭から20分ぶっつづけで突っ走った。
 吉田は2タム編成。右手がタムやシンバルを忙しく動き、左手はスネアを連打するパターンを多用した。4拍子を基調に奇数拍子を混ぜてるようだが、リズムの組合せまで聴き取れず。
 雪崩式に突っ走り、根本は基本ビートを統一した。
 真っ先にヴォイスを入れたのも吉田。ついで鬼怒も叫ぶが、マイクがオフでよく聴こえず。
 さらにナスノもヴォイスを入れ、3人で絡み合う編成も。

 全て即興ながら構築性ある展開で、ところどころでびしりと頭が合う。ナスノはゆったりとフレーズを組み立て、ときおりポリリズムで揺れた。
 吉田の叩きのめすビートを軸に、ナスノと鬼怒が互いに短めのソロが交錯。鬼怒は速弾きでざくざくとフレーズをばら撒いた。
 スタッフのビデオ撮影を受けてか、鬼怒はエフェクターを踏まぬときにステージ右奥へ下がる。くっきりと吉田が見えるように気配りしていた。

 2曲目は比較的短め。ナスノがワウを踏みつつ高音部を強調し、軽やかなメロディを奏でた。
 吉田がスティックをへし折って、苦笑しながら持ち変えたのもここだったろうか。
 鬼怒はリフを弾きつつ、スペースをすかさずソロで埋める。テンション高い一方で緩急を効かせる場面も。
 だれかが引っ張る構成でなく、三者が互いに聴きあいつつ盛りたてる印象あり。

 MCはナスノがのんきな口調で主役をつとめ、どっかんどっかん沸かせた。
 今日の音源が吉田の編集で曲になったとしても「簡単なことしか弾いてないから、ぼくは大丈夫だな」と嘯き、あげくに観客とお茶飲む企画を熱心にぶちあげた。
 さしもの鬼怒も「時間がもったいないから、演奏しましょうよ」と呆れるほど。

 「ピットイン前でね。"プロミス"だよ」
 直前のナスノが言った言葉が、いつの間にか曲名に。
 静かに曲が立ち上がる。ギターが小さくフレーズを重ね、大きな譜割のベースが異なるビートで重なった。
 やがてドラムが高まり、ハイテンションで突き進む。
 吉田のヴォイスが力強く吼え、鬼怒がシャープに弾き続けた。後半でベースに太くディストーションがかけられた。

 是巨人の強靭な構築性あるアンサンブルとは別の、アイディア豊かな即興群も聴き応えあり。即興巧者の3人だけはある、濃密なセッションだった。

MUMU
(植村昌弘:ds、中根信博:tb、坂元一孝:Key)

 司会は中根がつとめた。MUMUを聴くのは05年の4月ぶり。
 毎月新曲を投入するスタンスは変わらぬため、すでに膨大なレパートリーが存在する。レコ発ながら収録曲はまったく演奏せぬプログラムとなった。
 なぜか1曲目は"2005#1"から。終わった時に「昔の曲でした」と紹介。MUMUの過去セットリストによれば、07年にも3回演奏している。気に入った曲なんだろう。

<セットリスト>*MUMUのサイトより引用しました。
1.2005 # 1
2.2008 # 2(初演)
3.2008 # 1
4.2007 #12
5.2006 #12

 "2005 # 1"は冒頭から猛烈に、鍵盤が打ち鳴らされる勇ましいテーマの曲。進行するとムードががらり代わり、中盤でじっくりと中根が長めのアドリブを取った。
 久しぶりに聴いたせいか、トロンボーンのアドリブ部分が新鮮に響く。シャープでタイトなドラミングとシンプルなキーボードのリフに乗って、メロディアスに吹いた。最初はこもり気味だった鳴りも、やがて輪郭がくっきりと。

 今夜は対バンありで、1曲、3曲、1曲。以前と同様なライブの組み立てだった。
 MCでは「CD買ってくださいね。植村くんが借金してますから」と、みもふたもない切々とした宣伝で笑いを誘う。

 次が今月の新曲"2008 # 2"。軽やかなメロディがきれいだが、断片のように新たな場面が次々に紡がれる。
 この曲に限らず、どれもぼくのリズム感ではさっぱり構成や拍が取れない。
 軽々と3人とも演奏するが、複雑な組み立てばかり。しみじみとMUMUの曲が贅沢だと感じた。アイディアがふんだんに投入され、10曲くらいの楽想を1曲へむりやり押し詰めた感触あり。

 3曲続けたのは先月や年末の新曲群。植村の手数はさほど多くないが、ポイントをきっちり締める。両足ペダルで賑やかにバスドラを踏んだ。
 音量は控えめで、ふくよかにドラムを鳴らす。右奥に配置と思しき、ざらついたシンバルの音色も効果的に挿入。
 どの曲も中根のアドリブあり。3曲目や4曲目ではアンサンブルの一部でソロを織り込み、短いフレーズと譜面部分が交錯した。

 もっともドラムが活躍は最後の曲。テーマからキーボードのバッキングで、植村が滑らかにソロを披露した。
 打ち鳴らすだけでなく、間や変則ビートを膨大に注ぎ込む。一瞬たりとも弛緩せず、刺激的なリズムを果てしなくばら撒いた。
 
 久しぶりに聴いたが、やっぱりMUMUは楽しい。
 コンパクトでキュートなアンサンブルをベースに、ややこしいビートと滑らかな旋律が交錯する。今月の新曲も歌心を滲ませる。
 ポップに纏め上げないあたりが、いかにもMUMUらしい捻りだけれども。

MUMU+是巨人

 第3部は両者合体セッションで、怒涛のアンサンブルを提示。冒頭に再度MUMUのCD宣伝を。鬼怒がジャケットの素晴らしさをのみをやたら強調し、全く音に触れぬ宣伝がおかしかった。
 途中でめんどくさくなったのか、あっさりと鬼怒が曲紹介して演奏へ。
  
<セットリスト>
1.Arabesque
2.Lebanon
3.Black page#2

 2曲が是巨人のレパートリー。MUMUは譜面を見ながらの演奏。トロンボーンとギターがユニゾンで進み、ベースとキーボードは別のことをやってるようだ。
 ドラムは吉田が奔放に叩き、かっちりと植村が刻む。
 ドラムはどこまで譜面か謎。しかし植村がタイトに叩く分、吉田の前のめりでアグレッシブなビートが強調された。

 アドリブは中根から鬼怒へ。"Arabesque"ではわずかながら、二人が同時にソロを絡ます場面も。坂本はシンプルなリフで支えた。
 アンサンブルがすさまじく分厚い。MUMUは全く危なげなく演奏し、構築性がひときわ華やかだった。

 "Lebanon"はイントロのゆったりしたフレーズが重厚で迫力あり。坂本とナスノが太く膨らませ、ドラム二人が両脇から煽る。
 吉田と植村の共演は初めて聴いたが、二人の音楽性の違いが興味深かった。
 二人だけの完全デュオも聴きたかったが、残念ながらその機会は無し。

 ひときわビートへのアプローチが対照的だったのが続くザッパの"Black page#2"。
 2/1にマイク・ケネリーとのライブで共演の際、テンポが速すぎ11連符の処理に納得いかずのリベンジだそう。ちなみに吉田はザッパへ、さほど思い入れないらしい。

「適切なテンポで演奏しましょうね」
 植村が冒頭で告げたが、"Baby Snakes"に近いテンポで颯爽と奏でた。ギターによるイントロ付きが新鮮。
 トロンボーンが健闘し、連符も次々吹きこなして舌を巻いた。さすがに一番速いところはムリだったが。
 
 ギターのバランスが小さめだったが、鬼怒はしっかりと音を組み立てる。
 しっかりと中間部ではアドリブ付き。中根が余裕ある面持ちで旋律を奏でると、鬼怒は隙間無い速弾きで駆け抜ける。ソロの最後はタッピングで埋め尽くした。
 中根のソロでは吉田がバックをつとめ、植村は手を休める。
 逆に鬼怒のときに植村が叩いて吉田が聴きに回る、混成アンサンブルならではのアレンジだった。

 ドラムは吉田が符割だけあわせて自由に叩く。植村は譜面へ忠実な耳ざわりだ。
 ぴたりユニゾンですすむ場面も、吉田は左手がスネア群、右手がタムやシンバルを叩き尽くすのに対し、植村はタムとスネアの組み立てで輪郭を明示した。
 アンサンブルの頭を引っ張ったのは鬼怒。すごく面白かった。

 アンコールの拍手がやまず、いったん客電がついたがミュージシャンらがステージへ戻った。特に曲を決めてなかったらしく、MUMUのレパートリーを演奏した。
 譜面を中根が鬼怒へ渡したとたん、植村が大慌て。
「お願いだから譜面見ないで。即興でやって」
 と頼み込む。「どんな曲なの?」と吉田も後ろから譜面を覗き込むが、植村は譜面無視を強調した。

 結局、植村の熱望でMUMUは淡々と譜面で演奏、是巨人は完全即興のセッションとなった。MUMUのサイトによれば、曲は"2007 #10"。
 ゆったりしたバラードの印象を漂わすが、リズムは複雑。
 ちょっと聴いただけで、吉田はそっとシンバルやタムを叩き、鬼怒はエフェクターを効かせたアプローチを取った。
 ナスノもごく自然に演奏へ加わる。フリーでポリリズムな是巨人とかっちりまとまるMUMUとの混載が心地よい。

 中根のソロのときも是巨人は奔放に展開し、混沌でユニークな音像が産まれた。鬼怒は途中でショート・ディレイをかませたフレーズも。ギターのアドリブ・スペースも。
 坂本がさりげなく両手を広げ、リフを継続し曲を伸ばしてたようす。

 アンコールも予想以上にたっぷりと演奏してくれた。コーダをきっちり決め、ライブが幕を下ろす。
 のべ2時間半くらいの大ボリュームとなった。トリオ編成で構成きっちりなアレンジを採用する2バンドながら、アプローチが異なるために複合作用で膨らみがでた。
 なにより全員が抜群のテクニックで渡り合うため、細部まで聴きどころだらけ。濃密なサウンドがとても美味しい一夜だった。

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