LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/2/16   秋葉原 CLUB GOODMAN

出演:渋さ知らズ・オーケストラ、ドラびでお

 会場には前面ステージとサブステージ横に大きな垂れ幕が。ドラびでおのドラムは、サブステージへセッティングされていた。観客はぎっしりだが身体を動かすのは可能な混み具合。
 開演時間の19時を15分ほど押し、ドラびでおがステージへ現れた。

ドラびでお
 (一楽儀光:ds,mac)

 耳にイヤホンをはめ、右手で軽くスティックを回す。スクリーンへ映像が映されてるのを確認し、演奏を開始した。1タム1フロアにスネアのシンプルな構成だった。
 サンプラーを押し、エレクトリック・ストリングスのフレーズが2小節ループされた。
 まずシンバルのみを、シンプルに両手で叩く。そのたびにフラッシュのごとく、スクリーンが明滅した。やがて洋画からサンプリングとおぼしき、キス・シーンがいくつか映る。

 ドラびでおを見るのは初めて。太鼓がトリガーで映像を再生、逆再生、倍速など操作かける、とネットで読み楽しみにしていた。
 実際は思ったより映像のめまぐるしさが無い。細切れにカットアップする映像を、ドラムで操作か。むしろ流れる映像の場面転換にドラムが合わせてるような印象を、逆に受けたくらい。

 ドラミングは映像トリガーの都合か、実にシンプル。ロールっぽい場面すら少ない。たまに激しく叩くシーンもあったが、映像とのリンクがいまひとつ理解できず。どうやってるんだろう、とずっと考えながら聴いていた。

 キス・シーンから戦争、サラリーマンの宴会、銃撃シーンなど、ブロック毎に映像が変わる。短いサンプリング・ループも複数個。ほぼ演奏をとめず、場面ごとにドラびでおは横へ置いたマックのキーを押していた。

 実演奏とリンクした、少女のドラムを叩く映像シーンが一番面白かった。バスドラなら、バスドラ、シンバルならシンバル。それをドラびでおが叩くたび、同じ映像が映される仕組み。ときおりあるブレイクは、ぬいぐるみがどかんとドラムの前に登場する絵だったり。毎回ブレイクの映像が違うので、リアルタイム編集じゃなさそうだが・・・。
 
 観客はほとんどスクリーンに釘付け。重たいビートのドラムはすっきりとグルーヴを提示する。凝った映像は興味深いが、むしろ音楽により軸足を置き、より抽象的なパフォーマンスも見てみたい。
 約20分ほどの演奏。汗まみれでにっこり笑い、観客へ挨拶してステージを去った。

渋さ知らズ・オーケストラ
(sax:立花秀輝,川口義之,鬼頭哲,佐藤帆、tp:北陽一郎,辰巳光英、tb:高橋保行、
 tuba:ギデオン、EWI:鈴木新、g:斉藤良一,大塚寛之,ファンテイル、ds:藤掛正隆、
 per:関根真理、b:ヒゴヒロシ key,山口コーイチ、fl,vo:室舘彩、vo:渡部真一
 舞踏:ペロ,さやか,東洋,シモ,ちえ,たか子,南加絵,広田菅子,映像/美術:横沢紅太郎  ,青健
 ダンドリスト:不破大輔)

 地底新聞に記載のメンバーが異なるため、上記は間違いあるかもしれません。
 渋さ知らズは去年の10月ぶりに聴く。また渋さは、くっきりと様子を変えていた。

 こじんまりしたステージへ、みっしりとメンバーが並ぶ。セッティングの途中でドラびでおはドラムを片付けてしまい、共演無しが決定。残念。
 サブ・ステージはきれいになり、奥へ幕が張られた。ステージ脇に脚立が置かれる。

 ドラびでおの終演ほどなく、ステージの幕が開いてメンバーが既にスタンバイ。
「まだ始まらないよ。楽屋だ、ここは」
 タバコを手に持った不破大輔や渡部真一が笑って説明した。

 やがてマイクを持った渡部が観客へ話し始める。演奏は始まらないが、前説とも違う雑談みたいなもの。新橋駅周辺で脱糞の話で、観客は大うけ。大塚寛之らが横から茶々を入れた。
 ふっと不破が立ち上がり、腕を振って拍を提示。渡部の話が盛り上がったところで、一気に演奏を始めた。とたんに客電が落ちる。

<セットリスト>
1.?〜フィッシャーマンズ・バンド〜?
2.Song for one
3.ナーダム 
4.本多工務店
5.仙頭

 最初の曲タイトルを失念。室舘彩へキューが飛び、即興で渡部の脱糞話に合わせた歌詞を、軽やかなブルーズで歌い上げた。
 冒頭のソロは大塚だったろうか。この日の渋さは、一人のソロがものすごく長尺。約2時間ぶっつづけのステージで、ミュージシャンは1〜2回程度しか各々ソロを取らない。
 その代わり一度ソロを取ると、5分くらいぶっ続けな趣向だった。
 不破のキューは曲やソロの区切りで細かく指示。左手で曲のブロックを指示しつつ、右手で拍を振って合図。ときには何人かのみを抜き出しも。メリハリついた構成を意識したか。

 渋さは場所によっても音楽性が微妙に変わる。だから本スタイルはたまたまかも。ともあれ今夜はステージの進行をくっきりと見せ、ひときわ演劇的な盛り上がりを見せた。
 そう、今日の渋さはとても華やかで、一つの流れを持っていた。

 ステージ後方は渋さ垂れ幕が下がる。メイン・ステージではさやかとペロが踊る。
 ギター・ソロが続く中、バナナを持った女性舞踏がしずしずと現れた。おしゃもじ隊はすっかりトロピカルなバナナ隊の趣き。
 二人は脚立へ乗り、規則正しくバナナを振る。ステージ最後まで動きはやまない。無音の場面でも動きはやまぬ。一人が口で動きをつぶやきながら。
 そうとう腕に負担がきそう・・・とろくでもないことを考えてしまう。
 ともあれ二人とも、にこやかにバナナを振り続けた。

 ギター・ソロは佐藤帆のソプラノ・サックス・ソロへ変わったろうか。アドリブの順番はすっかり記憶から飛んでしまった。
 この日は勢い一発で突き進むアドリブが多く、メロディ強調のソロは意外と少なかった。ファンテイル、立花秀輝、2回目の佐藤ソロ、山口コーイチあたりのアドリブが、メロディアスに響いた。

 鈴木新とファンテイルの組合せへ。EWIの低音がテーマの繰り返しへ向かい、滑らかギターのフレーズが重なる。やがて二人の音が自由に絡み合った。
 後方から東洋と女性白塗りの一人が、ぬうっと現れる。薄い白布をかぶって。
 アドリブが続く中、東洋がぎょろっと目でねめつける。

 二人はフロアを横切り、サブ・ステージへ向かった。舞台へ上ると、東洋は静止状態。瞬きもせず、じっとフロアを見つめる。
 女性はしごくゆっくりと、ふわりまきつけた布をからませながら、身体を動かした。
 東洋の体力も驚異的。ぴくりとも身体を動かさない。しかも目を見開いたまま。

 彼らの後方ではPCでの作画が投影される。最初に幕の両端へすらすらと抽象的な画が書かれ、やがて幕へ白黒の画が浮かんだ。
 ジグザグなドットで山が描かれ、右上に「渋」の文字。やがて黒く塗りつぶされ、中央がぽっかりと白く開く。続いて山がもう一つかかれた。淡々と水墨画のような趣き。

 サブ・ステージのパフォーマンス中も無論、演奏はやまない。全てが同時進行で行われる。パラな動きの舞台を、ステージ横のモニターも的確に映した。
 複数の固定カメラを着々と切り替える。ヒゴヒロシの後方からステージを映すアングルは新鮮だった。

 太鼓系が二人、ベース一人。チューバとバリサク各一名。特に太鼓は人数少なめだが、PAの出音がぎっしり集中して薄さは無い。
 鬼頭哲やヒゴヒロシ、関根真理らは長尺ソロこそ取らねど、がっしりとアンサンブルを支えた。特に鬼頭哲は横笛もときおり吹き、佐藤のアドリブなどへ彩をつけた。
 ギデオンの演奏は初めて聴いたが、遠慮深そう。

 トランペットは辰巳光秀が冒頭曲で疾走するソロを吹く。北陽一郎は"Song for one"あたり、曲の切れ目でロマンティックな即興を聴かせた。
 室舘はフルートも吹いてたようだが、ぼくが聴いてた位置ではほとんど姿見えず。音も良く聴こえなかった。

 冒頭曲で15分くらい引っ張り、おもむろに渡部がマイクを持ち直す。
「おれは電気・・・みんなと繋がりたい・・・」
 そのまま"電気、電気"と即興で叫び始める。深いディレイで左右にパンさせ、どっぷりサイケな風景を作った。エフェクタかけっぱなしじゃなく、ときおりすっきり生声で喋らすPA操作が効果的で見事。
 横から室舘がキュートな声で掛け合いを入れ、"fisherman's band"へ。豪快に突っ込んだ。
 斎藤良一のギターが炸裂。ニット帽がずり下がり、目隠し状態で弾き殴った。歪みまくった音色で、フレーズよりもスピード感を強調した勢い。
 猛烈にかきむしった。やがて冒頭曲のリフが復活し、改めて重厚に盛り上がる。

 別箇所だったかもしれないが、斎藤はソロ中に2本ぐらい次々と弦を切る。かまわずにかきむしり、どんどんペグを緩めてく。ときにアンプへ押し付けフィードバックを引き出しながら。大鉈のようなソロだった。

 場面は静かに転換し"Song for one"に。室舘が涼やかな歌声を。
 依然としてびくともせず、東洋が立ち続ける。目を見開いたまま。もう一人の女性は椅子の上へ立ち、身体へ布を巻きつけた。

 投影PC映像はやがて背景となり、墨絵を描き始めた。冒頭はジグザグな山を再び。横へシンプルな線で木々や星も。黒く塗った太陽は、白い線で細かく刻まれた。
 画は白塗り舞踏の身体へも描かれる。身じろぎせぬ東洋は、後方から忍び寄った筆が体へ触れた瞬間すら、まったく変動しない。すさまじい集中力だった。

 メイン・ステージでは立花が、美しいフレーズをスケール大きく吹いた。後半では高音を軋ませる奏法だが、それすらも叙情的に響く。冴えたソロだった。
 時間的な場面はかなりあとだが、幕の両脇の画も手が加わる。複雑な描線がきれいだった。ドライヤーで乾かす音が、かすかに聴こえる。

 女性舞踏がもう一人現れたのもここだったろうか。白塗り半裸ながら頭にカラフルで長い紙を巻きつけ、振る。まるで幾重にも着物を纏ってるように見えた。
 彼女もフロアを横切り、ステージへ。ぎろっと東洋が瞳を動かし、じりじりと下がって舞台にスペースを作った。

 ここまでのPAはボリュームをそうとう絞っていた。
 ぐんっと音量上がったのが、続く"ナーダム"にて。ホーン隊のテーマが響いた。
 客電もつき、明るい中で演奏が続く。
 いったん袖に戻った、さやかやペロ、渡部らもステージに現れた。アドリブは大塚や佐藤らがとったろうか。

 ついにシモも登場。にこやかに笑みを浮かべた顔は、白塗りながら目の下のみ、赤く隈取る。存在感たっぷりな動きで、音楽にのってスケール大きく腕を振り身体をくねらせた。
 サブステージへ到達すると彫像のように動きを少なくし、じっくり動く。

 画を書く途中で模造紙を取り出した美術スタッフは、すいすいとハサミを動かし、波打つ細長い紙を作る。それを東洋と女性の一人に握らせた。
 依然としてシモ以外の白塗り三人は、動きは若干あるものの、静止を中心の舞踏を見せ付ける。

 "ナーダム"で川口のハーモニカ・ソロから、いきなり語りに。
「あ、マイク持っちゃった」
 つぶやいた川口は、そのまま客いじりに。なし崩しに無伴奏で喋りへ向かう。ラジカセの思い出話やポリスのライブ話をひとしきり。ヴァン・へイレンやZEPをやれ、との冷やかしに「ハーモニカじゃムリなんだよ」とぼやく。
 切りのいいところで鬼頭や高橋、ギデオンや鈴木が低音リフをはじめ、再び演奏へ戻った。立花が流麗な旋律を含むアドリブで、世界をぎゅっと凝縮させた。改めて川口のハーモニカ・ソロも。

 演奏途中にトロピカルなバナナ隊は脚立から降り、サブ・ステージへ。
 コーダを迎えた"ナーダム"。そして関根のパーカッションがシンプルに鳴る。"本多"だ。
 ギターのイントロに乗り、奏者が腕を大きく振る。観客も。渡部があおり、一気にテーマへ突入した。

 中盤で観客が花道を作り、さやかやペロ、不破がフロアの中央で踊り始めた。奏者も幾人か降りてきて、サブステージとの花道を行き来する。
 辰巳光秀が勇ましくフロアでアドリブを取った。タンバリンとフルートを持った室舘は、観客をあおる。さやかとペロはフロアで舞い続けた。
 サブステージでは白塗りダンサーが激しく身体を動かし、その横でトロピカルバナナ隊もバナナを振り続ける。

 ステージへ戻った不破は演奏を止め、無伴奏で観客へ"本多"のテーマを吼えさせた。
 それを室舘のタンバリンがあおる。
 がっつりと観客が踊り倒した後、ステージで演奏が復活した。
 
 歓声のなか、そのまま"仙頭"に。飛び跳ねて、にこやかにライブが幕を下ろした。
 こじんまりした箱の機材やスペースをふんだんに使い、ダイナミックな演出が効いたライブだった。
 特にサブ・ステージを広々と使い、舞踏家の存在感をくっきりと強調した。

 演奏も気持ち良かった。渋さオケ名義では少なめなリズム隊と、あえてバックリフやカウンターの即興を減らしたアレンジがサウンドの輪郭をシンプルにした。
 最後の盛り上がりで汗ばみ、外へ出たら冷気が心地よかったな。しっかり耳鳴りも残っていた。

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