LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/2/8   六本木 SuperDeluxe

出演:brother's sister's daughter+Han Bennink、LITE、HUNUNHUM

 brother's sister's daughterの14日間連続来日公演の初日。スーデラは初めて行ったが、打ちっぱなしのようにフラットなスペース。ステージの周りに簡単な台が椅子代わりに2列、あとはスタンディング。さまざまな客層でかなり混んでいた。
 ファンとして、目当てはクレイマーのみ。インプロだろうなと想像しつつ、開演を待つ。
 ふらり、ふらり。まだまばらなフロアを、何気なくクレイマーは歩いていた。

HUNUNHUM

 Ds,ts,key,b,per,g+per編成の日本人バンド。20分間連続一本勝負だった。何曲かをメドレーで演奏したようす。初手から変拍子まみれのリフが、ユニゾンで突き進む。
 少々リズムや縦線が荒っぽい印象を受けた。ドラマーがリーダーらしく、ブロック毎にスティックを指揮棒代わりに振って合図を送る。

 20分間のほとんどが、おそらく書き符。ときおりサックスのアドリブや、全員でのチャンス・オペレーション的な即興が混じる。メロディアスな即興は比重低い。
 タイトで変拍子ばりばり、ときにポリリズムとなる構成は興味深いが、アンサンブルがタイトならばさらに好み。
 
 ドラマーは横にグロッケンを置いたり、スネアにフライパンや小さなシンバルを載せて叩いたり。さらに女性キーボード奏者とユニゾンやカウンターでヴォイスも挿入。バラエティさを狙ったアレンジのようだ。
 この手の編成には珍しく、ギターのエフェクターが控えめ。素直な音色でリフを奏でた。 
 途中で緩やかなブロックも混ぜたが、基本はせわしない混沌を提示した。

Han Bennink solo

 あっというまにバンドがはけて、ハン・ベニンクが一人ステージへ現れた。ソロのライブがあると想像しておらず喜んだ。
 いきなりレギュラー・グリップで叩きまくり。彼の生演奏は初体験だが、旺盛なサービス精神と強靭なリズムに圧倒された。
 即興で3曲ほど、およそ40分のステージ。

 とにかくリズムがブレない。ステージを通しテンポはほぼ一緒。後述するパフォーマンスを連発させつつ、マシンのように一定のビート感を保ち続けた。
 ときおり緩やかなテンポへ切り替わっても、ひとつながり感覚が残る。
 アクセントの位置を次々変え、手数のタイミングや倍テンポで変化を出した。
 譜面だと単なる連打になりそうなドラミングが、ライブでは驚異的な表現力を見せた。

 冒頭は20分ほどぶっ続け。ハイハットを規則的に踏みつつ、1タム1フロアのシンプルなセットをせわしなく両腕が動き続ける。スティックの残像がきれいにドラムセットの上で舞った。さっそく足をスネアに乗せ、ベンドする奏法も。
 クラッシュやライドをほとんど叩かず、手数の猛烈さで圧倒した。左横を見つめる姿勢を保ちながら。
 ベニンクはフリージャズ奏者のイメージだったが、すっかり勘違い。バディ・リッチ系譜の王道ジャズ・ドラマーと感じた。

 めまぐるしいドラムのロールが、ひたすら続く。たまにスネアの響き線をはずし、音色を変えた。
 タイトなドラミングが心地よい。途中でホイッスルを出し、妙なタイミングで吹きながら叩いて1曲目が終わり。

 色々なパフォーマンスは2曲目だったかな。スティックからブラシへ持ち替える。
 さらにスティックを口に挟み、口琴のように鳴らしたり、後ろの壁を叩く。ピンスポットの照明を逆利用し、壁に手で鳥の影を作って笑いを誘う。
 やがてスネアを持ってステージ中央へ。静寂の中、ぱあんとシンバルを一打ち。ついで椅子を運ぶ。
 
 スネア一台でのソロ。ブラシへ持ち替え、口笛吹きながら軽快に叩く。やがて観客に口笛を吹かせた。曲は"ハイ・ホー"。静寂の中、ドラムがすぱすぱと響いた。
 さらに地べたへ座って、床や自分のブーツのかかとを叩く。ついには寝転び、そのまま床を叩いた。
 そんな姿勢変更のときでさえ、ノリを切らさない。きっちりジャストのビートが保たれ、一連のノリが続いて凄まじい。

 最後の曲はドラム・セットへ戻る。スティックを口にくわえ、壁にもう一方を当ててカツカツ鳴らしながら歌うパフォーマンスも。
 そして7拍子風の高速パターンでスネアとタムを猛烈に鳴らしたあと、ハイハットの連打が盛り上がる。顔は真っ赤に変わってた。
 大きな歓声に笑顔で応えつつ、ステージを去る。べらぼうに爽快なドラムだ。

LITE
 
 03年結成。音源のイギリス発売がきっかけでマイク・ワットと交流始まり、今回の日本ツアーを仕切る流れになったそう。ギター2本、b、dsの編成。
 シンプルなリフをユニゾンで繰り返す。出音は素直だが、グランジやサイケの要素も取り入れた。全編インストが新鮮。

 両足を深く曲げつつギターを弾く短髪の男以外は、激しく身体を揺らせてた。奏者らが自らの音楽に陶酔してるかのよう。
 ドラムが腕を大きく振り上げ叩く。手数は多いが、かなり隙間の多いビートだった。シンバルやスネアを鳴らすときも、連打ながらパターンをさほど強調しない。

 ベースの激しいアクションが面白かった。後半の曲でリフを引きまくった後、ブレイクして目を閉じたままスパッとギターを指差した。
 他の曲でもネックを振り上げ、身体を揺らしまくる。ディストーションの効いたベースが、軽くメロディを取るアレンジもあった。
 ミニマルな展開をかすかに漂わせつつ、基本は勢いあるロック30分くらいのステージ。

 最後の一曲は、brother's sister's daughterとハン・ベニンクが加わる。セッティングに時間かけ、ステージ・スペースにどっさりミュージシャンが詰め掛けた。サム・ベネットはコンガを叩く。ハン・ベニンクは比較的かっちりしたドラムを叩いた。
 Liteとマイク・ワットが共演した曲らしい。

 個人的に、目はクレイマーへ釘付け。やる気なさそうな風情で、バイオリン・ベースからノイズをたまに引き出してかぶせてた。

brother's sister's daughter+Han Bennink
 (Mike Watt:b、Kramer:Fuzz b、Samm Bennett:ds、+ Han Bennink:ds)

 マイク・ワットのバンド。ミニットメンやストゥージズは未聴で、どんなベーシストかは全く知らず。wikiで帰宅後調べたが、J・マスシス+Fogのメンバーと知る。どうやら彼らの01年来日公演で、ぼくはワットを聴いていた。
 マイク・ワットとクレイマーの共演歴は不明。どういう人脈だろう。サム・ベネットはクレイマーとなんとなくつながってるが。

 おそらく本バンド名義で音源は未リリース。ドラム1人ベース2人と豪快なユニットだ。クレイマーのことだし、継続したユニット化は怪しい。
 ハン・ベニンクが全編でゲストで加わった。もっともゲストとして立てるそぶりはさほどない。

 前曲のセッションからセットチェンジに時間かかる。クレイマーはアンプの後ろにベースを置き、床へ座り込んでエフェクターの配線を自ら繋ぐ。
 サウンド・チェックをめいめいがおこないつつ、なし崩しに始まった。

 全てインプロ。メロディや構成は全く無い。相互のかけ合いもさほど意識せず、並列型の即興がとりとめなく続いた。途中でベネットやベニンクがきっかけをつくり、場面転換へ向かった。
 ワットはステージ上手端に立ち、足で激しくリズム取りながらベースを弾き倒す。ぶいぶい指が動くわりに、出る音数はさほど多くない。団子のようなフレーズを流し、勢いで押した。

 クレイマーはホフナーのバイオリン・ベースをストラップ無しで弾く。足元のエフェクターでファズやディストーションを切り替え、ときおりアンプのツマミをいじる。
 初手からベースをアンプへ押し付け、フィードバックを引き出した。
 無造作な仕草でぎしぎしとノイズを撒き散らす。音を埋め尽くさず、隙間を残したセンスがさすが。クレイマーの完全インプロは初体験だが、これほどセンスあるとは。

 ストラップ無しのベースは、低く構えたり腰や足で支えつつ弦を爪弾く。フレーズはほとんど選ばず。ゆったりしたハイトーンを中心にノイズ装置としてベースを操った。指弾きではじめ、途中で尻ポケットからピックを出す。
 リズムはフリー。ドラムやベースのグルーヴにかまわず、奔放にノイズを挿入した。後半でちょっとループを入れたが、ほとんどは単発かつ即時性の音。賑やかしの立ち位置で、好き勝手振舞った。

 ステージ中央にクレイマーが位置する。なんだか主役みたいで嬉しい。エフェクタ位置の都合で、クレイマーは常に半身。下手側ドラムのベニンクへ背を向け続けるかっこう。
 その立ち位置がなおさら、ベニンクをゲスト扱いせぬさまを強調した。

 ベニンクは手数多いが、3人の奔放な即興に沈んで存在感が希薄になる。
 ジャストなリズムだけでなく、フリーに鳴らす場面も。
 いわゆるソロ回しの場面は全く無し。潔い即興が突き進んだ。

 あんがいアンサンブルを引っ張ったのは、ベネットかも。
 手数はベニンクほど多くない。しかしシンバルやドラムを力強く叩き、アクセントをつけた。ワットやベニンクの流れをつかみ、いっきにベニンクとのデュオで疾走する場面もいくどか見られた。

 どの場面か忘れたがドラム二人が爆走始めると、ワットもクレイマーも手を休める。クレイマーは楽器を置いて床へ座りこみ、観客状態でしばらくドラムのデュオを眺めていた。

 ベネットのリズム感は、ちょっと粘っこい。歯切れ良いがアクセントに癖がある。それがベニンクのビートと見事に溶けた。基本は4拍子だが、さほど小節感は気にしてなさそう。
 冒頭から20分くらい続けて即興。ベネットとベニンクのデュオ以外は展開ほぼ無し。クレイマーに目がつい行ってしまう。
 錯綜するリズムの絡みと、クレイマーが入れるノイズのタイミングが興味深かった。

 2曲目は短めながら、曲かも。ワットがマイクへ近づき、吼えたり歌ったり。
 ベニンクはステージ中央へ、スネアを持って現れた。ステージ中央で連打を激しく。途中でスティックがぶち折れ、しかめ面。折れた先端をヘアバンドにはさんで叩く。
 見かねたベネットが、後ろからスティックを手渡した。素直に受け取ったベニンクは、手持ちの一本を客席へ投げ込み、新たなスティックで演奏を続けた。 

 次いでセッティング済みなステージ横の椅子にすわり、足をバタバタ踏み鳴らしつつ椅子の足をスティックで鳴らした。
 挙句の果てに椅子をひっくり返し、そのあとドラム・セットに乗っけて叩いた。
 椅子がひっくり返ったとき、クレイマーのエフェクターすれすれに倒れてひやり。
 特にトラブルは発生しなかったが。ドラム・セットへ戻るベニンクへクレイマーが近づき、一言告げた風に見えた。
 ちなみに曲の合間でベニンクは借りたスティックを、ベニンクのドラムセットへ律儀に返していた。

 最後も15分ほどの即興。どの曲もさほどムードに差が無く、始まりと終わりのパターンも不明瞭。ワットは汗だくで弦をはじく。後半では肩の力が和らぎ、リフっぽい場面もちらほら。

 クレイマーはディストーションをループさせたり、高音でゆったりとメロディめいた響きの提示も。他の三人が熱演なのと対照的に、涼しい顔でベースを操るさまが面白かった。
 クールなスタンスのまま、アンプやエフェクターのツマミを操作し続けた。

 終盤ではベースをアンプへ押し付け、フィードバック中心に。
 PAバランスのせいか、異様に低音成分が多い。ワットやクレイマーが積極的に音を出すと、空気がみりみりと震えた。

 なんとなく即興が終わる。大きな拍手の中、ベネットがメンバーを紹介した。
 アンコールの拍手はやまない。かなりしばらくして、ベネットとベニンクのみ現れた。
「ベーシストたちはビルの外へ出ちゃったよ」
 ベネットが苦笑する。トイレじゃ、とベニンクが混ぜ返したような。そのままドラムのデュオで、アンコール開始。
 シンプルなセットで聴き応えあり。鋭い切れ味のベニンクと、前のめりなノリのベネットのリズムは、いい具合に溶け合った。
 いきなりマイクへベネットが吼え、二人で爆走する瞬間が良かった。

 クレイマーがフラリと姿を見せ、スピーカーの横から覗き込む。アンコールに参加する気は無いのか、そのまま客席の中へ消えてしまう。
 しばらく後にくわえタバコでベースを持ったワットが現れ、クレイマーともどもセッションに加わった。ドラム二人は演奏をとめない。
 まとまらないベースのフレーズを、ぐわっとばら撒くワット。そしてノーテンポでクレイマーのノイズが加わった。

 アンコールも10分以上か。途中でベニンクが飽きた表情で、シンバルのロールやタムの一打ちで終わりを誘う。ところがベネットがのりのりで、なかなか終わるそぶりを見せず。
 クレイマーはどうでもよさそうな感じで、淡々とエフェクターを踏みかえた。ベースをひょいと持ち上げ、突き刺すようにベース・アンプへ提示。とたんに鋭いノイズが搾り出された。
 
 ワットは比較的全体の構成を意識したフレーズに変わった。ベネットがコーダへ合意し、ドラム二本とワットでコーダへ。飄々とクレイマーのノイズが載る。

 終演は23時。本命のbrother's sister's daughterは1時間程度だが、ちょうどいいバランスだったかも。
 無干渉で並列進行のインプロが、ふとしたきっかけでうねるさまが刺激的。ワットやクレイマーも含めて、即興の妙味を十分に理解したサウンドだった。 
 むやみなハイテンションでの力技は無い。テクニックひけらかしな場面も不要。センスのみで音像を見事に構築する、上質な即興を味わえた。

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