LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/1/31 西荻窪 音や金時
出演:ル・クラブ・バシュラフ
(松田嘉子:ウード、竹間ジュン:ナイ,レク、やぎちさと;ダルブッカ)
チュニジアなどアラブ音楽を演奏するユニット、ル・クラブ・バシュラフのライブへ。ぼくは昨年6月ぶりに聴く。昨年に加入の、やぎちさとがダルブッカを叩く編成は初体験。19時半に始まると予想し、なんとか仕事を終わらせ会場へ。到着すると観客席が明るい。
よかった、間に合った・・・とステージ見たら、既に奏者が舞台にいる。ちょうど始まるところだった。
立ち位置はいつもどおり。松田嘉子がマイクで曲の背景を静かに説明し、演奏へ。いわゆる3人の掛け合いMCは無く、おっとりとステージは進行した。
(セットリスト)<不完全>
1.バシュラフ・ラスト
2.サマイ・ナハワンド
3.サマイ・ゲルディ
4.ルンガ・ブスタニカル
5.アルンダ・ビービー・マッハヤマ(?)
(休憩)
6.サマイ・ハスィン
7.サマイ・サバ
8.アウィット・アーニー
9.ビン・トゥ・バラッド(?)
10."レバノンの夜"
11."あなたを待っていました"
曲タイトルは聞き取りのため、間違ってる可能性大。すいません。
(3),(4),(6),(7)と4曲のオリジナルを投入する、新鮮なセットリストだった。前半2曲が竹間ジュン、後半2曲が松田嘉子の作品。旋法を踏まえた作曲らしく、オリジナルもセットの流れへ溶け込む。事前の説明が無ければ、伝統音楽として聴いてしまったろう。
前半は穏やかな流れ。じわじわと音楽を楽しんだ。なかなか頭が仕事モードから切り替わらず。そのためか、今夜は細かなところへ耳が行く。
アラブ音楽はユニゾン中心な印象あり。でもいろいろと耳のとっかかりに気が付いた。
(1)ではユニゾン基調ながら、ある程度弾いた頃合で竹間が松田へ合図を送り、曲調が変化した。
ウードやナイがときおり、するりと飾りフレーズを入れる。同時には行わないようだ。聞いてた範囲では。ウードがワンフレーズ入れると、次のフレーズでナイが、と対話形式にすすむ。
決まった構造なのか、たまたかかはわからない。でもフレーズが寄り添いながらも、まれに入る飾りや変化に耳が惹かれた。
ウードは単音弾きと連続弾きを使いわけ、バリエーションは大きい。むしろビブラートをほとんど使わず。逆に、たまにぐぐっと使うのが印象深い。
一方のナイは音量やビブラートでニュアンスを出した。
ここでダルブッカはさほど変化をつけず。淡々と刻む。テンポ・キープやビートの強調でアンサンブルの役割分担を引き受けない。ベース音とリズムをシンプルに鳴らすだけで、さりげない効果的な膨らみを出した。
ぐいぐいと音楽へのめりこむ。特にダルブッカはセカンドセット、後半の演奏が圧巻だった。
3人のアンサンブルが熱っぽく高まるなか、メロディへ吸い付くようにリズムが響く。
リズムであおるコンセプトの音楽とは逆ベクトル。メロディとビートが一体となった。ダルブッカの淡々としたビートは、強烈なグルーヴを産んだ。
ちなみにステージでの立ち振る舞いも三者三様で面白かった。竹間は目を閉じ、口や顎でビブラートをかけるため、上半身が情熱的に揺れる。
やぎは客を見ず、半身で奏者を見るか目を閉じて。うねるように上半身や頭をゆっくり揺らす。
そして松田は、くっきり目を開け真っ直ぐに視線を客先へ飛ばした。指先を見ず、ほとんど身体を動かさず。迫力あった。
(2)や(3)は"サマイ"旋法の曲らしい。10拍子が基本かな。ときおり変拍子が入ったかも。終わりのほうは6拍子な気もする。
4拍子感覚で聴いていくと2拍ずつずれ、小節感が揺らいで心地よい。
(2)はナイ、(3)でウードのタクスィームを冒頭に置いた。
竹間はこの日、どの曲でもたっぷりとタクスィームを披露してくれた。ナイの拍子感覚が素晴らしく刺激的だ。
無伴奏だと、小節感がほとんど消える。以前のライブではバロック的な感触を覚えた記憶あるが、今回は奔放だった。ここでは途中でテンポも変えつつ、音楽を紡ぐ。
ひとつながりにフレーズを吹いたかと思えば、短いフレーズ後にナイを口から離し、一呼吸置いて続ける。拍子は意識できず。滑らかでかつ、ときおり鋭い響きが混じった。
今夜は凛とした風景が爽快なタクスィームが続く。ビート性よりも旋律固有のうねりを操るかのよう。
一方のウードも、小節感は希薄。なんらかのビートは感じても、拍子がよくわからない。(3)のタクスィームは短めながら、和音は使わず涼やかにソロを取った。
竹間のオリジナル(4)は2拍子を基本に4楽章+リフレインの構成だそう。とはいえひとつながりで演奏され、区切りはよくわからず。いさましい2拍子で押す途中、挿入された3拍子の場面などが違う楽章かな。
一つの場面は短く、とんとんと進行した。
長尺で演奏されたのが(5)。タイトルは良く聴き取れず。間奏でナイからウードへとタクスィームが回される。存分に即興を楽しめた。
ダルブッカとウードのシンプルなリフで、竹間は果てしない独奏の世界へ没入する。
リズムが明確だと、なおさらタクスィームの小節表現へ好奇心がそそられた。
4拍子で聴いてたが、フレーズの切れ目も終わりも1拍目をほとんど意識しない。拍裏からもしばしば。
むしろたまに1拍目からフレーズ始まるため、なおさら一連の流れが印象的だった。
2拍目や3拍目からぐいっと吹き始め、時に拍の途中で終わる。拍を意識しないで聴くべきか。演奏が刺激に溢れた。
10分近く独奏をしていた印象あり。
ウードの独奏では竹間がレクへ持ちかえる。ウードのフレーズが一段落すると間髪を入れず、ダルブッカとレクのユニゾンで穏やかなフィルを入れる。励ますようなフィルの組み立てがきれいだった。
比較的、ウードのタクスィームは短め。
ダルブッカもさほどソロをひっぱらず。軽やかに叩いた。ソロのとたん、拍の頭がぐんにゃり歪む。ビート感は維持しつつ、裏拍強調の音使いだった。
そして竹間によるレクのタクスィームへ。シンプルに指先で打面の叩きから、シンバルを飾りに混ぜる。次第にシンバルの響きが比率を増し、賑やかに盛り上がった。
アンサンブルに戻って曲をまとめる。1stセットは1時間くらい。
短めの休憩を挟み、2ndセットへ。こんどは松田のオリジナルを2曲続けて。これらも"サマイ"旋法をベースだそう。
10拍子のリズムはメロディ楽器が8拍。2拍をダルブッカが飾りのように付け加える場面も。曲調から既に掛け合いのようだ。フレーズの飾りはかなり控えめに感じた。
ダルブッカがぴったりとメロディのユニゾンへ寄り添い、強靭なアンサンブルとなった。
今夜、もっとも印象的だったのが"アウィット・アイニー"。エジプトのリアド・ソンバティによる曲で、1950年代のレパートリーだそう。歌入りを器楽演奏で奏でた。
美しいメロディが情熱的な演奏で繰り広げられた。コーダがしごくあっさりで拍子抜け。
もっともっと長尺で聴いてみたかった。
曲が長いので一部だけ、と説明あったのが続くエジプトの曲(9)かな。場面ごとにくるくると楽想が変わった。(8)や(9)では旋律途中で、楽器の掛け合いがくっきり表現された。
短いフレーズのソロっぽい場面をウードやナイが吹き、続けてユニゾンへ。優雅なアレンジだった。
"レバノンの夜"や"あなたを待っていました"は原題も紹介したが、聴き取れず。マイクがときおりハウるのを気にしながら、手短に曲の背景や詩の内容を松田は紹介した。
ちなみに途中でウードのチューニングをする場面もあり。
アンサンブルはどんどん熱っぽくなり、聴き応えたっぷり。演奏は前のめりにグルーヴした。
最終曲"あなたを待っていました"もタクスィームを中間部へはさむ長尺にて。セットの前半はどんどん進め、最後にタクスィームも交えじっくり聴かす構成だった。
こちらはナイとウードのタクスィームのみ。やはりウードのバックで、レクに持ち替えた竹間と、ダルブッカを軽やかに叩くやぎが、そろって合間に叩くリフが心強い。
後半セットも1時間弱。
一丸となって盛り上がるアンサンブルの強靭さに没入する、素敵なライブだった。
聴いててさらに、アラブ音楽のさまざまな要素へ興味が深まった。