LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/1/22  ZEPP TOKYO
 
出演:ZAPPA PLAYS ZAPPA 

 (Dweezil Zappa:g,vo、Aaron Arntz:Key,vo、Scheila Gonzalez:sax,key,vo、
  Pete Griffin:b,cho、Billy Hulting:per,cho、Jamie Kime:g,cho、Joe Travers:ds,vo、
 Special Guest : Steve Vai:g、Ray White:vo,g)

 ドゥイージル・ザッパが父フランクの曲を演奏するユニットの来日公演。ザッパ・トラスト公認だ。パンフの裏には"Zappa" "FZ"まで登録商標する、ゲイルのたくましさが見えた。
 Zappa plays Zappa(以下"ZPZ")は基本的にザッパの曲をコピー。バンド・メンバーは"Z"時代からドゥイージルの盟友、倉庫番のジョー・トラヴァースをはじめ、若手を集めた。
 
 スポット的なショーと思いきや、いつの間にか全世界でツアーを。ゲストにナポレオンやボッジオなどが参加なときもある。日本にはヴァイとレイ・ホワイトが加わった。
 当日のパンフは世界ツアー仕様。ゲストにボッジオもクレジットされ、大らかなもの。

 ブートでZPZの音楽性は既に承知していたが、フランク・ザッパを演奏しまくり、なおかつレイが来るとなったら行くっきゃない。かなり前のほうの席を取れた。
 即刻チケットが売り切れと思ったら、当日券も出るありさま。そんなものか。
 
 ステージはドラムやパーカッションが高台に載せられ、後方にスクリーンがあるのみ。簡素な舞台だった。この辺は父の趣味を反映させたのか。
 ジャミー・カイム(g)の足元にセット・リストがあったけれど、良く見えず。
 ちなみに立ち位置はドゥイージルが中央。ゲストの二人は下手寄りと、上手側のチケットを買った身として、少々もどかしい配置ではあった。

 7時の開演を5分ほど押して、メンバーがぞろぞろとステージへ現れる。スポット・ライトを浴びたドゥイージルが挨拶。
「日本と言えば、父がやったこの曲を」
 いきなり"Black Napkins"を初めてびっくり。前日の大阪公演で無かったというだけに。確かに76年浅草公演でも演奏されたが、"Zoot"は京都公演音源のはず。

 なお本テイクはザッパの映像付き。後方スクリーンに84年(のはず。アランやアイクがちらと映ったような気が)のザッパが、でかでかと映された。
 ギターの音だけ抜き出され、生バンドが伴奏するアレンジ。予想より違和感無い響きだった。

 その上あれこれ流出ZPZ音源でも"Black Napkin"は記憶に無い。しかもザッパ付きセットは、かなり珍しい選曲ではなかろうか。
 残念なことに、始まってすぐトラヴァースのドラムに辟易。リズムがモタり気味なのと、手数が少ない。シンプルに拍の頭を刻むのみ。ベースのピート・グリフィンも頑張るが、最小限のリフを弾く程度。
 肝心の音楽性で、ドラムとベースに妥協はしてほしくなかった。チャドとスコットがフルで参加してくれたらなあ。

 気を取り直して映像を見つめる。無造作に弾き続けるザッパが本当にかっこいい。
 ザッパのソロから強引にコーダへ持って行き、メドレーで"Magic Fingers"へつなげた。
 ふらりと無造作に登場したのはレイ・ホワイト。ゲストの華々しさも無く、いきなり歌い始めた。最初はちょっと高音が渋かったが、じきに往年の伸びやかな喉を存分に披露した。
 ちょっと腹が出ており、横にあったアフロのカツラかぶればアイクと間違えそう。せめてサングラス掛けて欲しかった。

<set list>(不完全)
1.Black Napkins (with Frank)
2.Magic Fingers(以降、Ray参加)
3.Carolina Hard-Core Ecstasy
4.Doreen
5.Zoot Allures
6.Ship Ahoy
7.Pygmy Twylyte
8.Dupree's Paradise
9. ?
10.Uncle Remus
11.Willie The Pimp
12.Black Page#2 (以降、Vai 参加)
13.Andy
14.Filthy Habits
15.I'm the Slime
16.Montana (with Frank)
17.Echidna's Arf
18.City Of Tiny Lites(Vai 退場)
19.Florentine Pogen
(Encore)
20.Cheepnis
21.Cosmik Debris (With Frank)
22.G-Spot Tornado
23.Muffin Man (With Frank)

 "Magic Fingers"以降、ほぼ全曲でドゥイージルのギター・ソロあり。もともと指癖がメインでザッパのごとくインプロ要素も薄いため、連発はかなり辛い。間延びしてしまう。
 しかも他ZPZのメンバーはほぼ、ソロは無し。ザッパはもう少しソロ回しを与えてたと思う。確かに公式音源では、片端からザッパ以外のソロって切られてるが。
 でも"Magic Fingers"のギター・ソロは短めか。

 続く"Carolina Hard-Core Ecstasy"へもメドレーで行ってくれた記憶あり。ありがたい。ここではドゥイージルが、かなり長いソロを弾いた。
 レイは以降で、ほぼ出ずっぱり。インストでは袖へ消るが、椅子に腰掛けバスタオルを首に巻き、身体をステージ影で揺らしてた。時ににこやかに笑いつつ。
 なおレイとジェイミーは両耳イヤホンで音をモニター。他のメンバーは良く見えず。

 アレンジの基本は完全コピーだが、ところどころでブレイクや短いフレーズを加えた。
 ブリッジがちょっと変わる程度なので、挿入の必然性はわからず。演奏を簡単にしたのかな。
 それより一曲づつブチ切れで終わるのが、なんとも腰砕け。全曲はムリでも、せめてメドレーを意識して欲しかった。ザッパ公認ならば。

 にこにことドゥイージルは微笑ながら、観客の歓声へ応える。
「次は、"You are what you is"からだよ」
 アップテンポの"Doreen"を。これも中間部に聴きなれないフレーズあり。

 日本公演ならではのコメントが、続く"Zoot Allures"。
「父がアルバムへ収録したのは、この日本公演です」みたいなことをドゥイージルが告げた。冒頭で「ピッチが狂った」と照れ笑いしながらやり直すシーンも。
 冒頭の白玉から一拍半ほど削ったような、こじんまりしたメロディラインだった。
 アイクや一部のメンバーが袖へ下がり、ドラムとベース、サイド・ギターの4人編成で。後半にパーカッションが戻ってくる。
 
 狂喜したのがメドレーの"Ship Ahoy"。この曲、すっごく好き。
 さほど観客席が盛り上がらず残念。ここが初演だともっと嬉しかったが、実際には07年11月15日、ダラス公演でも披露した。
 ギターがうねるフレーズもそのままコピー。さすがに途中で旋律はアドリブへ変わった。他のメンバーはだれもギター弾いてないようだが、ぐりぐりうねるフレーズはずっとループしたまま。バックで流してたんだろうか。

 アイクが戻って、"Pygmy Twylyte"を賑やかに。シェリア・ゴンザレスはテナー・サックスで伴奏をつとめる。
 ドゥイージルのギター・ソロもしっかりあり。そのままメドレーで続けて欲しいが、やはり強引なエンディングで流れが切れてしまう。
 
「インプロだよ。どうなるか、ぼくもわからない」
 ドゥイージルの前置きで"Dupree's Paradise"へ。完全インプロでなく、ソロ回しが中心。ときおりドゥイージルがハンドキューを飛ばし、ソリストを指定。さらにバンプも。尻から手を降り、屁のような仕草も。ミュージシャンも笑いながら付いてった。そこそこタイト。
 半身のドゥイージルでサインが見えづらく、アーロン・アーンツがキーボードから身を乗り出し、キューを見つめてた。

 ドゥイージルはソロの途中でサインを飛ばし、無伴奏で弾かせる場面も。基本的にブロック毎の展開で、アンサンブルの妙味は薄かったのが本音。
 ソロはベースからパーカッション、ピアニカを吹くアーンツ、ドラムへ。さらにジェイミー・カイムのギターからピート・グリフィンのベースに繋がる。

 興味深かったのがジェイミーのギター。ステージを通して地味にリズムやテーマを弾くのみだったが、ここではザッパに通じるへんてこなフレーズを組み立てたソロをとった。
 ベストはアルトを吹きまくった、ゴンザレスのソロ。彼女はアグレッシブに吹き鳴らし、途中の無伴奏も効果的だった。

 なおベースのソロは"Dupree's Paradise"のコード展開を踏まえるが、続くソロから別の進行へ。気づかなかったが、どうやらさまざまなザッパの曲を踏まえてアドリブしてた模様。
 途中でドゥイージルは観客へもリフを歌わせた。その場でぼくは勘違いしてたが、"Heave Duty Judy"のリフだったみたい。

 レイは途中で袖へ引っ込む。椅子へ腰掛けて、ソロ回しを踊りながら聴いていた。
 おもむろにステージへ戻る。
「彼は初来日。寿司に恋したんだ。それを歌ってもらおう。・・・ゴスペル風でよろしく」
 ドゥイージルの紹介で、にやり笑ったレイが歌いだす。伸びやかな喉がフロア高く響いた。
「これはみんな知ってるよな」
 告げて歌ったフレーズが"上を向いて歩こう"。観客の反応が鈍く、首をかしげながらレイは歌をまとめた。
 エンディングは別の曲で終わらせたが、タイトルがわからず。

 メドレーで"Uncle Remus"に。きっちりギター・ソロを挟み、"Willie The Pimp"へ。
 ゴンザレスがひらひらのファーを身体に巻きつけ、レイへシルクハットと杖、サングラスを渡す。それを振り回しながら、レイは喉を張った。
 ちなみに歌の前、置いてあったアフロのカツラを手に取る。実際はかぶらずほおり投げてしまった。
 サングラスもすぐにはずしてしまう。84年のイメージが強いので、サングラス姿もじっくり見たかったな。

 袖にスティーヴ・ヴァイがスタンバイ。ドゥイージルの紹介で、これまた無造作に登場した。シンプルな服装で、ギター小僧な面持ち。
 いきなり"Black Page#2"から。ギター3本で揃ってテーマを弾くさまは圧巻だった。
 ソロはもちろん、ヴァイが取る。ザッパの影響を意識せず、トリッキーな速弾きをぶじかまし、さすがの存在感だ。

 次の"Andy"ではヴァイとドゥイージルのソロ合戦も。さっそくギターを持ち替えたヴァイは、アームをぐいぐい逆手で押し、悲鳴めいた音を轟かす。さらにタッピングの嵐。
 指で弦を摘みあげ、ぶら下げるような仕草も。

 そのうちすたすたとステージ中央へ歩いて、ドゥイージルと向かい合った。短いフレーズの交換をしばし。高速フレーズをばら撒くヴァイと、じっくり弾くドゥイージルの姿が対照的。

 "Filthy Habits"はレイが袖へ。ヴァイは出ずっぱりで、ソロもたっぷり弾いた。"I'm the Slime"でレイも戻る。イントロで聴き慣れぬ歌の交換を付け加えていた。
 一曲一曲切れてしまうとはいえ、どんどんステージは盛り上がる。

 そして再び、ステージへザッパが映し出された。曲は"Montana"。ドラムのリフはドラムとパーカッションで担当するが、どうもすっきりせず。どたばただった。
 映像はおそらく70年代のザッパ。ザッパのギター・ソロにあわせ、ヴァイらもリフを静かに弾く。にこにこしながら、スクリーンを眺めていた。

 ネックに挟んだタバコを一口。灰皿へ投げ捨てるザッパ。
 ギター・ソロは爽快だった。ネックを見もせず、次々にフレーズをばら撒く。高らかにネックの先をあげた。
 ドゥイージルが持ったギターも、画面と同じSG。ザッパのツマミがないため、別ギターとわかるが。しかし時代を超えて、同一タイプのギターを二人が構える絵面は感慨深かった。

 ここからエンディングへどんどんと。"Echidna's Arf"でアンサンブルをバッチリきめ、"City Of Tiny Lites"はアイクが朗々と歌った。テンポが遅めで物足りないが・・・。
 ヴァイはここで消える。ステージ横のスタッフへギターを渡し、袖でなく奥へ。楽屋へ向かう扉が開き、その先へヴァイは去った。
 本編ラストが"Florentine Pogen"。ここぞとドゥイージルがソロを取る。

 挨拶を述べ、袖へ去るメンバー。ドゥイージルへスタッフがなにやら紙を持って話しかけるが、手を振るだけのドゥイージル。
 時間が短めなので「セットリストと違う」って話かと想像したが、後で見かけたリストと演奏曲に差はなさそう。なんだったんだろう、あれ。

 拍手に応え、ドゥイージルらが舞台へ。"Cheepnis"を軽快に。これもちょっと、アレンジがオリジナルと変わって、長く伸ばされてた印象あり。
 そして背後へザッパが映される。曲は"Cosmik Debris"。これも70年代、"Montana"と同時期っぽい映像だった。

 ヴァイが袖へスタンバイ。ステージへ現れ"G-Spot Tornado"を。譜割がシンプルに感じてしまう。リズムを簡略化させ、もしかしたら変拍子もいじっていそう。コンパクトな"G-Spot Tornado"だった。
 ザッパも為しえなかったロックのアンサンブルで聴ける点は、単純に嬉しい。

 完全な最後が"Muffin Man"。ザッパの映像付き。"Baby Snakes"の頃みたい。ロール・ペーパーを客席へ投げ込み、上半身裸のザッパが観客と手を合わせ、ギターを弾く。
 ドゥイージルとギター・ソロと擬似的に交換も。
 観客もようやく立って、バンドへエールを送る。ヴァイは次々ピックを客席へ投げ込んだ。

 驚いたのがドゥイージルのサービス精神。客席へ押し寄せるファンへ、いつまでも握手を続ける。ヴァイもしばらく握手を続けたが、途中で袖へ。しかしドゥイージルはずっとやめない。ぼくは途中で帰ったが、おそらく最後の一人まで握手を続けてたんじゃなかろうか。

 しめて2時間半強。ZPZにしてはちょっと短め。会場の制限あったのか。ドゥイージルが拍手の後ろで、既にバラシが始まっていた。
 選曲は70年代中心で、ある意味ロック・コンボでステージ栄えするレパートリーが多い。せっかくレイやヴァイもいるし、"Them or us"の再現で"Sharleena"をやってほしかった、とあとで思った。
 
 メドレーでないなど、ザッパ流のステージ・スタイルを踏襲はしていない。息子が父の音楽を演奏する、というノスタルジックな要素が強い。しかしステージはさほどダレず、しゃきしゃきと流れた。
 特にゴンザレスのエンターテイナーぶりが好ましい。彼女はこれからどんな音楽をやるんだろう。

 ZPZのコンセプトは楽しく、ライブを味わえた。もし再来日あるならば、さらにコンセプトを磨き上げたステージを見てみたいな。

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