LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/1/13   秋葉原 Club Goodman

  〜"HOWLING"〜
出演:Bondage Fruit、UFB3

 このハコははじめて行ったが、予想よりこじんまり。後方の椅子席には終わってから気が付いた。もっともステージがさほど高くないので、スタンディングでは後方だと少々見づらいかも。
 音量はどのバンドもさほど大きくない。トリのボンフルはかなり前で聴いてたが、細部までくっきり聴こえて嬉しかった。

 舞台の前に幕があり、転換時はスクリーンとして映像を映す。きれいな演出だが、正面幕はぼやけて、いまひとつ画が見づらかった。

UFB3
 (梅津数時:ss,as,b-cl,cl、Morgan Fisher:voice,key、Samm Bennett;ds,voice,per)

 
 インプロ・トリオ。過去にもこの編成でライブをやっているようだ。客電が落ち、幕の後ろで3人の音が始まる。勢い良く幕が開く。
 まず連続音。梅津はバスクラで循環呼吸を続ける。

 ライブは最後まで持続系の即興が多かった。メロディを紡ぐ瞬間はほとんど無い。勢い一発で疾走し、弛緩を合間にはさむ。梅津が混沌を切り裂いて美しく旋律を奏でる場面を期待したが、残念ながらほとんど無かった。

 主導権は特に無く、ほとんど同時平行で即興がてんでに続く硬質なインプロ。もっとも奔放だったのがモーガン・フィッシャーだった。
 キーボードをいくつかと、サンプラーらしきものを使っていた。詳細機材は後ろから見ており、よくわからず。
 冒頭で自らのボイスやキーボードをサンプリング・ループさせ、がしがしと歪んだ音色のキーボードを弾き殴る。乱暴な印象は無いが、ひしゃげたサウンドのランダムな弾き具合が音像の輪郭を鋭く刻んだ。

 サム・ベネットは冒頭で少し即興歌を披露し、あとは刻みに回る。シンプルな4拍子の合間に、僅かなリフを。のんきなそぶりで叩いた。前に見たよりタイトなビートを打つ。
 全体を聴きながら緩急を効かせるが、ときおり自らを主張してテンポを維持して突出させる。

 梅津は場面ごとにめまぐるしく楽器を変える。バスクラからアルトサックス、ソプラノ、クラリネットと。時にサックスの二本吹きやマウスピースを取ってネックへ息を吹き込むアルト、マウスピースだけで笛のように響かすなど、特殊奏法もつぎつぎと。
 フラジオを轟かせるアプローチは取らず、しゃにむにキーを押す吹きまくりを多用した。循環呼吸で音を止めず、サムやモーガンの即興を引き立てる。

 ソロ回しの感覚は無く、互いが独自に進行する。梅津がアルトやクラでメロディを準備で始めると耳をそばだてるが、どれもサムやモーガンがテンポを変えたために、程なくフリーへ埋もれてしまった。
 梅津のバランス感覚が為せる技だろう。だけどモーガンやサムが暴れてた分、もっと梅津が目立って欲しかったな。
 
 サムは途中で笛や小物を持ち出し、マイクの周りで降る。殿堂歯ブラシみたいな先でシンバルを鳴らした。同時に別の手でスティックを二本持ちし、上下からはさんでロールを。
 中盤からぐっと混沌さが増した。
 モーガンは小さなキーボードをループさせ、しゃにむにフリーな音の断片をばら撒く。ひとつながりの短いフレーズの後ろで、梅津がサックスでめまぐるしい音を連ねた。
 盛り上がっては沈む、流れが続く。
 梅津は座ったまま。楽器をときおり交換するが、穏やかな雰囲気だった。

 ぶっ続けで約45分ほどの即興は、フェイドアウト気味に消えた。メンバー紹介が始まる。
 「あと、2分だけやります」
 流暢な日本語で、モーガンが告げた。小さな笛らしきもので鋭い音を出す。梅津もマウスピース吹きか何かで、鳥のさえずり風な音を出す。
 "I hear the bird〜♪ singing in a tree〜♪"
 サムがのんきに歌いながら、ドラムでゆったり刻みを始めた。

 一瞬怒涛に流れかけ、再びサムが同じフレーズを歌う。
 やがてモーガンも梅津もフリーへ向かった。演奏途中にサムがメンバー紹介。
 いきなりモーガンがカウントを始める。サムや梅津が次々に数字や言葉で応え、雪崩式に終わった。
 予想とは違ったが、これはこれでユニークで濃密な、刺激のつまった世界観の即興。楽しかった。

Bondage Fruit
 (鬼怒無月:g、勝井祐二:vln、大坪寛彦:b、高良久美子:per、岡部洋一:per)

 セットチェンジは20分ほどかけ、じっくりと。するっと幕が上がる。
 メンバーがスタンバイし、中央でギターを構えた鬼怒無月が客席を見つめた。軽く頭を下げ、演奏へ。

<セットリスト>
1.新曲
2.Three Voices
3.新曲
4.金属の胎児
(アンコール)
5.Locomotive

 数年ぶりのライブだが、アンサンブルにぶれは無い。冒頭からいきなり新曲の披露へ至った。
 そっと高良久美子が弓でビブラフォンをこすり上げる。
 細切れなギターのフレーズが、カントリーにも通じるリフを連ねる柔らかい感触の曲。 ひとしきりリフを連ね、鬼怒は勝井と視線を合わせる。一気にテーマへユニゾンで向かった。
 ギター・ソロのみが中途であり。速いフレーズで弾きまくった。勝井祐二はリフのみを担当。7分くらいと短め。

「ずいぶん久しぶりです。ええと、前のアルバムは何年前だっけ・・・?」
 挨拶と次の曲紹介を簡単に。収録盤の発売時期を思い出そうと鬼怒が喋っていると、
「・・・演奏しましょう」
 一言、勝井が微笑む。進行を促した。今夜は喋りが少なめ。しかし鬼怒と勝井の、のんきな掛け合いはきっちり健在だった。

 "Three Voices"はビブラフォンとギターの刻みをじっくりと。高良がリフをそっとマレットで奏で、大坪寛彦がふわりとベースの弦をはじく。いっきに雪崩れるアンサンブルの強度に、ぞくぞくっと来た。

 岡部洋一は薄い胴のスネアや、ジャンベのような太鼓などを並べる。シンバルも各種。さらにドラムセットの横へ小さなシンバルを吊るすなど、バラエティに富んだセット。
 タイトに刻みながらも時にスティックを口にくわえ、指先で叩く。
 2曲目では勝井のソロもあり。エフェクターをふみ、中腰で身体を揺らしながらバイオリンを弾く。
 松脂なのか、弓と弦が合わさる辺りを照らすライトに、煙のようなものが幾度もたなびいた。
 
 鬼怒はギターを弾きながら、きっと勝井を見つめる。アンサンブルの切れ目ではメンバーへ視線を飛ばし、アイコンタクトを取り合った。
 ピックを口にくわえ、指先で弾きながらフェイドアウトしたのはこの曲だったろうか。
 ミニマルなギターのリフがえんえん続く。ゆったりしたヴィブラフォンのテーマとはポリリズミックに折り重なった。

 ステージ後方からはスモークもふわふわと漂う。続いても新曲。旺盛な創作欲は、数年ぶりのライブでも変わらない。
 ボンフルでは新曲だが、別のライブでやったことあるのかな。なんだか含みのある曲紹介だった。

 アコギへ鬼怒は持ち替え、腰掛けてタイトに刻んだ。バイオリンのソロが挿入される。これもカントリーやスワンプ要素が込められた内容。
 続いて演奏された"金属の胎児"とはあまりに対照的な、すっきりと整理されながらも、泥臭さを残す音楽性が興味深い。

 ボンフルはすでに次のライブが5月と決定しつつ、会場が未決らしい。
「そんな告知ってあるのか」
 当日までに会場は何とかする、と言う鬼怒に勝井が噴出す。決まらなかったら会場は鬼怒の自宅で良いか、と言い出しMCがあちこちへ展開した。
 鬼怒は最初、そんなに家が広くないと言いながら。
「金は要らないからここにいるみんなに、片付けに来てもらおうかな」
 と話がずれていく。

「家に無いなあと思った本が、そういえば鬼怒くんのトイレにあった。ショックだったなー」
 借りっぱなしのCDや本もあると鬼怒がぼやくと、すかさず勝井が突っ込む。10年くらい前の話らしい。戸惑って苦笑する鬼怒。そして曲紹介へ。

 1st収録の"金属の胎児"。怒涛に雪崩れるアンサンブルは、それまでの音像と明らかに違う。勇ましい凄みとパワーに満ちた曲調は、すっきりしたアレンジで演奏された。
 数年ぶりのライブで15年以上前のレパートリーながら、全員が現役でばりばりやってるため、弛緩さやノスタルジーは皆無。活き活きと突進した。
 ギターやバイオリンのソロも含め、たっぷりと奏でた。

 1時間と短めのライブ。アンコールの拍手にはすぐさま応えた。曲は"Locomotive"。
 重厚なイントロで始まる、ヘヴィな展開から。高良が手のひらを丸め、笛のような音を挿入する。
 曲が始まって、ヴィブラフォンを強打。しかし電源が入っていないのか、オフ気味に響く。打ち鳴らされるかすかな響きへギターが重なった。

「それじゃ、次はぼくの家のライブで」
 にっこり笑って、鬼怒がステージの終わりを告げた。

 アンコールだけで10分以上。総尺は短めだが、強烈な印象を残す充実した一時だった。新曲披露で更なる展開も期待できる。
 ライブごとにアレンジを大胆に変える旺盛な創作欲と、柔軟で強靭なアンサンブルで圧倒する、ボンフルが帰ってきた。今後の活動が、本当に楽しみ。

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