LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/1/12  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p,key,ocarina,per)

 
 アケタの店月例の深夜ソロ。店へ入ると、明田川荘之がピアノ調律の真っ最中。普段と違うのは、キーボードが準備されていること。パイプ椅子二つを並べた、えらく低い位置にセッティングした。入念な調律が終わると、今度はオカリーナの準備。アタッシュケースを普段置くピアノの横にキーボードが置かれたためか、ピアノの下にケースを配置する。
 
 足元へ転がしたベルの位置を変えたり、ペダルの場所を確認しながら幾度もケースを動かして。準備は着々と進められた。

<セットリスト>(不完全)
1.世界の恵まれぬ子供たちへ
2.アケタズ・グロテスク
3. ?
4. ?
5.アローン・トゥギャザー
6.A列車で行こう
(休憩)
7.テイク・パスタン
8.アフリカン・ドリーム
9. ?

 今夜はMC無し。上に書いた曲名は間違ってるかも。今夜はいきなり、強烈にセンチメンタルな世界が噴出した。強いタッチでテーマが断片的に弾かれる。ゆっくりと間を取り、すぐさまアドリブへ。やがて即興の合間から、じわっとテーマがにじみだした。
 ほどなくして明田川のうなりも始まる。初手から10分ほどぶっ続け。0時20分ごろに幕を開けたライブは、いきなり濃密な仕上がりだった。

 今夜の明田川は、どこか凄みが漂う。熱をこめて鍵盤に相対し、強く叩いた。一曲目からアドリブはぐいぐいとドライブする。音数はさほど多くなく、テンポもゆったり。しかし情感を思い切り、ピアノへこめた。

 拍手を待たず、すぐさま次の曲へ。一転してテンポを速め、がんがん飛ばした。左足がせわしなくリズムを刻む。いきなりクラスターまで飛び出した。ハードに叩いてもくっきりとメロディを刻むことが多い明田川だが、今夜はひときわタッチが強い。テーマがぐっしゃりとフェイクし、幾度も繰り返されるたびに表情を微妙に変えた。
 冒頭2曲続けて、アプローチは異なる熱演を披露した。

 3曲目でキーボードに向かう。椅子の高さよりも鍵盤のほうがぐっと低い。音数を減らし、ペダルで思い切り残響を付け加えてメロディをとつとつと刻んだ。左手がワルツのように動く。
 曲名思い出せないがライブでは何度か聴いたことある。ジャズとはちょっと違う雰囲気の曲。カバーだったろうか。左手がコードをつくり、右手は時折トリルを入れる。
 やがてのアドリブもテンポをむやみに速めない。じっくりと抑えながら、広がりある世界を作った。低音部を手のひらで押さえ、クラスターの要素もあり。

 ひとしきりアドリブが続いたところで、音色のボタンを弾きながら押す。そこまでのエレピ音源が、太いストリングス音源に。店のスピーカーから朗々と響く。大き目のボリュームで、ペダルをばんばん効かせつつ。明田川はぐんっと音幅を広げた。
 また音色がエレピへ。もういちどストリングスへ。場面ごとに音色を変えながら演奏は続く。ストリングス音源でテーマを奏でるとそれをサンプリングし、ループさせながら彼はエレピ音源でソロを重ねた。
 エンディングはぐっと音を絞り、シンプルな響きでコーダを作る。

 ピアノへ向き直り、オカリーナを。強いタッチで吹き鳴らし、次へ持ちかえる。しばし即興のあと、鍵盤へ。曲名は失念したが、これも明田川がライブでよく弾くオリジナル曲。
 テーマの順序を若干ずらし、アドリブのイントロからテーマへ向かった。
 歯を食いしばるように鍵盤をしゃにむに叩く。

 続いて"アローン・トゥギャザー"。ごつごつと牙をむくような演奏。これも聴き応えあり。
ソロはみるみる崩され、前のめりにグルーヴした。クラスターが飛び出す。弾き飛ばす勢いで、混沌とコード性を混在させてテンポも自在に変える。
 さまざまなうねりがクラスターに飲み込まれた。

 オカリーナへ持ち替え。強く息を吹き込み、汽車の霧笛を。キーボードでも同様に叩く。
 しばし複数のオカリーナをフレーズごとに持ち替え、バロックの要素も取り入れたソロを。
 やがて早めのテンポで"A列車で行こう"に移った。ピアノへ戻り、即興が続く。これもクラスターをハードにやったかな。唐突に曲が終わり、ひとこと休憩を告げた。
 「もう1時半か・・・」とつぶやいて。

 10分ほどの間に、再び調律を。一時間のライブで、すでにあちこち音がずれてるのが、調律する音の響きでわかる。一息つくと、ほどなくライブは再開された。
 次が"テイク・パスタン"だったと思う。間は少なめ、性急にテーマが奏でられた。断片をつむぎ、旋律へ戻るような感触。アドリブがつむがれ、テーマへ収斂する。テンションが妙に激しく、曲の耳ざわりはむしろハードだ。

 ロマンティックな表情を持つ曲だが、あっさりと硬質な面持ちすらも。のめりこんでアドリブが複雑に混ざり、やがてテーマへ戻った。後テーマの響きは、和音のトップを省略したような雰囲気。
 中域を強調して、ふっくらと旋律が次第に膨らむ。最後はベルをがらがらと鳴らしておわったろうか。

 もっともハイテンションでのめったのが、続く"アフリカン・ドリーム"。オカリーナをイントロにおいたのが、この曲だった最後だったか、記憶が少々あいまい。
 とにかく"アフリカン・ドリーム"では、クラスターが奔放に挿入された。内部奏法も積極的に使い、一度ならず数度も低音部を平手打ちしては、ハープのようにピアノ線をじゃらじゃらとかき鳴らした。

 テーマで高音部を軽やかに鳴らす場面は、強く平手打ち。猛烈なクラスターが炸裂しては、フレーズへ戻る。ブレイクしてピアノ全体を押すしぐさも数度。テンポ良く、ピアノ上部を数度軽く叩くしぐさは新鮮だった。
 ひじ打ちや手のひらでの叩きのめしはあっても、今夜は踵落しなどは無い。上腕のみでクラスターを成立させた。

 合間にアドリブを豪腕メロディアスに奏でる。目を閉じて胸を張り、明田川はひたむきにフォルテシモで鍵盤を弾き続ける。
 左足がひざから激しく動き、床を激しく踏み鳴らしながら。息を切らせつつ、テンション高く長尺で演奏が続いた。

 終盤でのオカリーナもすさまじい。数フレーズ毎に持ちかえる。7〜8種類は使った勢い。ソフトなタッチからタンギング無しの吹きまくりまで。さまざまなアプローチを取った。
 最終曲はスタンダードだろうか。耳馴染み安い、穏やかなメロディ。アドリブはくるくると回転しつつ、唐突にエンディングへなだれた。
 いきなりピアノを弾きやめ「・・・終わります」とにっこり。
 時間はちょうど2時ごろ。延べで約1時間半と、たっぷりピアノ・ソロへ浸れた夜だった。
 とにかく今夜の明田川はパワーをふんだんに内面から迸らせる熱演だった。音数が少なくても、ぐいっと押し広げられるような。今夜もレコーディングがされていた。次にアルバムを発表する際、今夜のテイクが使われたらいいなあ。
 個人的にはキーボードを使った(3)曲目をCDで改めて聴きたい。

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