LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/1/12   初台 オペラシティ

出演:"エクスプローラー"山下洋輔の新しいピアノ協奏曲
 (山下洋輔:p、佐渡裕:指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)

 山下洋輔新春ホールコンサートは00年から恒例だそう。今年は指揮が佐渡裕と知り、聴きに行った。昨年に彼のエッセイを読み、アカデミズム路線と微妙に違いつつ、バーンスタインらへ師事するダイナミックな活動に興味もったため。
 人気公演らしく、客席はほぼ満杯。ぼくは2階席の脇から聴いた。
 一ベルが鳴る。きれいな鈴の音が新鮮だ。まだ客電が明るいなかオーケストラが登場し、おもむろにコンマスが現れる。
 チューニングを終えて、山下と佐渡がそろって舞台へ登場した。

<プログラム>
1."Sudden Fiction"(作曲;山下洋輔、オーケストレーション:狭間美帆)
  1.Beginning, 2.Chaos, 3.New Orleans, 4.Blues, 5.Swing, 6.Bop, 7.Mode,
  8.Yawaragi, 9.Chiasma, 10.Happening, 11.Increasing Tails,
 12.幻灯辻馬車, 13.Sudden Final
(休憩)
2.ピアノ協奏曲第三番《Explorer》(作曲;山下洋輔、オーケストレーション:狭間美帆)
(2007東京オペラシティコンサートホール開館10周年記念委嘱作品:世界初演)
(アンコール)
3."Sudden Fiction"より"Swing"

 全てクラシックへ、山下がまともに取り組んだ作品の演奏。前半曲は07年初演の弦楽四重奏を、今回オケ編曲で初演、後半は完全新作。オーケストレーション担当は現在、国立音大へ在学中という若手を抜擢した。
 
 颯爽と佐渡が指揮棒を構え、演奏が始まった。なおこの日は体力がぼろぼろで、途中うとうととしてしまった箇所もいくつか。無念。
 
 "Sudden Fiction"は13部の組曲でジャズの歴史を意識し作曲された。アフリカンからディキシー、ビバップからフリーへと流れる。
 山下のピアノはふたを取り、指揮者と相対する最前列に配置された。

 おっとりしたオーケストラは絞った音量で演奏を始める。ちょっと抜けがいまいち。
 スイングをテーマにしたあたりから盛り上がり始め、曲の合間に観客から幾度も拍手が飛ぶ。そうでないときは、譜めくりの合間に咳払いが響くのが、いかにもクラシックのコンサートっぽいのう。

 がっぷりとオーソドックスなクラシックへ向かい合った編曲で、ジャズ要素はほぼ皆無。仮にバックビートがあっても、スイングはしない。山下のピアノもさほど前面に出ず、穏やかに進行した。
 途中でコミカルな箇所がいくつか。聴きやすいので、子供向けクラシックのコンサートでもはまりそう。
 前半のディキシー・スタイルの箇所では、スコット・ジョプリン"エンターテイナー"ほか、いくつか耳なじみあるメロディが、明確に挿入される。折り重なり同時並行で数曲が対話しつつ、弦が別のタイミングで奏でられる箇所は、ポリリズミックで刺激的だった。
 
 "Mode"ではイントロで一瞬だけぱっとピアノが鳴り、"So what"の雰囲気を醸す。
 山下トリオのレパートリー、"キアズマ"もいたって紳士的に流れた。細かく聴くと凝ったオーケストレーションだが、こじんまりした椅子に座って上品に聴いてると、なんともくつろいでしまう。
 
 視覚的にはとにかく佐渡の指揮が見ものだった。途中でいったん指揮棒を置き、指で振る。ときおり総譜をめくりながら、ほとんどは棒で振った。
 背筋をピンと伸ばし、腕をやわらかく振るさまがとても優雅だ。基本的にはきびきびと拍を明示する棒だが、指先を腰の下まで低く落として弦をいざない、時に足踏みやジャンプも。
 でかい音でオケが鳴る場面では、堂々たる迫力でぶんぶんと腕が振られる。かっこよかった。

 組曲には"Happening"と題し、佐渡に構成を任せる場面もあるようだ。「運命」のフレーズが交錯し、最後にオーボエが時報風にまとめたのがここか?プログラムを見ながら聴かなかったので、今ひとつ自信ない。
 印象深かったのは、後半で幾度もオケがヒットするところ。だんだん音量を下げて、最後はピアニッシモ。
 佐渡はさらにコーダでコンマスへヒットするそぶりのみ、ぐわっと見せて観客の笑いを誘った。

 最終曲はビブラフォンが沖縄の雰囲気をかもし出し、やがてオーケストラが高まる
 クライマックス近くで山下のピアノが激しくなり、クラスターも飛び出す。エンディングは派手に決まり、いきなり大きな拍手が飛んだ。約1時間の大曲。
 まだ第一部なのに、佐渡と山下は何度も袖から出ては拍手に応える演出。クラシックのオケは何年も聴きにいってないが、中盤でもこんなもったいぶった拍手の繰り返しがあるものなんだろうか。

 後半は楽器配置がオケも含めて幾分変わる。ピアノはステージ横断する最前列へ置かれる。客電が落ちながらオケが登場し、同じ段取りでステージに佐渡や山下がそろう。
 "Explorer"は3楽章構成。前半はピアノでなくオーケストラを前面に出した。ピアノのソロ部分でも、テクニックひけらかしにはならない。手数こそ多いが、ブリッジやオーケストラとの対話的に置かれる。

 冒頭はクラリネットとピアノのデュオから。穏やかなジャズ・スタイルのピアノながら、山下の演奏そのものがジャズとは微妙にずれている。二人の演奏を眺めてた佐渡が、急いで棒を振り上げ、オーケストラを導いた。
 中盤で長めのピアノ・ソロが入り、どんどん大きく盛り上がる。幾度かオーケストラ全体で奏でるモチーフ(第三楽章と呼応する"崩壊"のイメージらしい)がぐいぐいと華やかに響いた。
 
 第二楽章はピアノが穏やかにメロディをつむぎあげる。心地よくてかなり記憶が飛んでいる。プログラムの解題によると"大作曲家のアイディアとフレーズの引用が2箇所"あるそう。一箇所はベートーベンの"エリーゼのために"かな?あともう一曲はわからず。舟をこいでる間に演奏してたのかも。

 そして第三楽章。ビッグバンから山下の自作曲が押し寄せる構成だそう。これも中盤で記憶があやふや。悔しい。自作曲の折り重なるダイナミズムは、あまり印象に残っていません。
 ビッグバンへ向かう予感は、拍子木が幾度か鳴って表現してたと思う。
 気がつけば、演奏はラストへ一目散。佐渡の腕がどんどん優美に大きく動き、にぎやかかつ壮大にオーケストラが大団円を迎えた。

 拍手が幾度も続き、佐渡と山下は拍手へ応える。途中で編曲者と思しき女性も舞台へ登場し、佐渡や山下と握手をしていた。
 するりと佐渡が、指揮台へ上がる。アンコールだ。この曲が、もっともジャズっぽかった。ディキシー・スタイルのブルーズで山下のソロ。もちろんフリーな展開がたっぷりと。
 さらりと佐渡が棒を振り、オケがきれいにピアノを包んだ。さらに途中でオーケストラが立ち上がり、全員がフリーに弾く。コンマスは舞台から客席へおりて弾いて見せた。

 この日は弦バスだけで6本。ピチカートがそろって鳴らす響きだけでも、ちょっと深い。しかし数十人の弦がそろった指使いでバイオリンのかき鳴らしやピチカートをやるさまは、整いすぎて妙に違和感を覚えた。
 ピアノと弦の応酬が数度繰り返され、コーダへ。にぎやかに明るく終わった。

 初演の協奏曲3番は、もっと前衛的な嗜好かと予想したが、とても丁寧でオーソドックスな作品だった。山下の音楽性をきちんとまとめる方向性か。豪腕フリーから整ったフリーへ。ジャズ面での山下とは別論点で評価すべき作品ではないか。
 再演しづらい編成かもしれないが、改めてちゃんと聴きなおしたい。
 録音してたがCD化されるかな?第一楽章の静かな場面で、何人かの客が咳払いしてて、ノイズも載っていそうだが。

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