LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/1/7   西荻窪 音や金時

出演:太田惠資+シャルル・ヴァニエ
(太田惠資:vln,voice、シャルル・ヴァニエ:dance)

 フランス人の若い男性ダンサー、シャルル・ヴァニエとバイオリンのコラボレーション。フランスで共演歴は既にあるのかな。ステージ隅にバイオリンのスペースが設置され、中央に大きなビニールの袋が置いてある。さらに小さな木の椅子がひとつ。ステージ横にはライトが一つ、置かれていた。

 20時半近くなって、太田惠資がステージへ向かった。セッティングをすませ、大きく手で輪を作る。照明が全て消え、真っ暗に。厨房からと思しき明かりが、うっすらと音金の空間を照らす。
 太田は椅子に腰掛け、赤いエレクトリック・バイオリンを構える。
 ステージ奥の扉が開き、シャルルが現れた。まだあたりは、闇。

 シャルルはビニール袋の中へ入った。ライトを持っているようだ。ほんわりと小さな光が袋の中で瞬く。ゆっくり動き、袋の中で体をくねらせた。
 バイオリンは静かに弓で弦を軋ませる。
 やがてシャルルはライトを持ったまま地べたをはいずり、立ち上がる。

 ふわっと横のライトが照らされた。シャルルは腕を伸ばし、ビニール袋を突き破る。にゅうっと、素手が伸びた。おもむろに袋の中へ体が戻る。顔にビニールを押し付けた。仮面のように。
 袋に入ったままステージ端ギリギリまで転がり、反転する。
 
 太田のバイオリンが次第にノイジーな響きを。次々に軋みがディストーションかかってサンプリングされ、多層化した。ハーシュなアプローチのバイオリンがしばし続く。
 断片の長い譜割なメロディが一瞬顔を出しても、すぐにノイズへ溶けた。

 ビニール袋を押し破り、シャルルが顔を出す。小さな穴を開けた袋を押し下げ、じっくりと姿を現した。上半身は裸。ゆったりしたズボンをはいている。
 ステージ横のライトが、おぼろにシャルルを照らした。

 すっかり姿を見せたシャルルは大きく手を振りまわし、身体をねじった。武道めいた腕の動きがゆるやかな体の捻りとまじる。
 バイオリンの響きとは明確に関連せず、独自の動きを見せた。客席へ背を向け、壁に移った影を見ながら腕を持ち上げる。

 やがて壁へ張り付き、肩や額を使いながら倒立めいた動きを。じんわり身体を持ち上げ、足を大きく広げる。壁を使って身体を前へ突っ張った。
 太田は無造作に腰掛けたまま、バイオリンを鳴らし続ける。

 ふと、太田が立ち上がった。エレクトリックなループが鳴り続ける。シャルルを眺めるそぶり。アコースティックへ持ちかえる。
 すぱっと音が切れ、アコースティックをかきむしった。吼えながら、太田は弾き続ける。

 シャルルは即興で身体を動かしているようだ。ひたすら踊るだけではなく、しばしば壁へ凭れ掛かり体育座りをする。息を整えるためもあったが、パフォーマンスの一環としても同様のポーズを取った。
 コミカルさや明るい動きは皆無で、内省的な舞踊世界を目指しているように見えた。
 ステージ横の明かりは幾段階か照度が変わり、複数の風景を表現する。
 
 中盤から次第に、音楽とリンクした動きもダンスへ取り入れた。太田の鋭いフレーズに合わせ、腕を振りまわすシーンも。
 飛び上がり、足を組み替えステージを左右に動く。低い姿勢で転がり、時に激しく腕が宙を切り裂いた。

 ステージ脇に置かれた、低い木の台を持ち出すシャルル。まず上に載り、飛び込むようなポーズを。やがてダンスが高まり、台の上へ寝そべった。太田のフレーズにあわせ、激しく身体をくねらす。
 唐突に、台の片側が壊れた。たぶん、ハプニング。
 ゆっくりと台を持ち上げ破壊を確認。台を顔の前へ突きつけ、牢獄の囚人をイメージするかの姿勢を。

 シャルルはステージ横へ置いたビニールから、ネクタイを丸い輪にしたような布切れを取り出す。後ろ手から前へ。身体へ布をまきつけ、引き絞る。不自由なポーズで両腕を制御し、やがて片腕へきつく縛った。
 バイオリンはアコースティックのまま。メロディはほとんど弾かず、ダークなフレーズで混沌とした音世界を作った。
 シャルルが腕から布を抜き取った。

 太田がふと、音を止める。
 無音。
 シャルルは太田を見つめる。しかし、太田は音を出さない。
 顔の前でシャルルが腕を組んだ。
 無音。

 十数秒。長くても一分くらい。無音のにらみ合いが続いた。
 ついにシャルルが腕を振り、ダンスを始めた。太田は依然として音を出さない。
 シャルルのステップが床を僅かに鳴らし、息遣いらしきものがかすかに聴こえる。
 太田がそっと弓をバイオリンにあて、軋み音を出した。

 ついに太田のバイオリンが、再び奏でられた。
 穏やかさや柔らかさは希薄。旋律すらも、どこか緊張をはらむ。
 踊りをやめて、壁へ凭れ掛かったシャルル。じっと太田を見つめる。バイオリンの響きが高まった。
 
 シャルルがつと、太田へ近づいた。
 とたん、バイオリンを弾きながら歌いだした。アラビックなボイスが強く轟く。
 肩へそっと手を当てる。ライトに照らされた影が、後ろの壁へ寄り添うさまを映した。 シャルルは太田へまとわりつく。しだいに中央へ、そっと二人は歩を進めた。

 ひらり、ひらり。互いにステップを踏み、円弧を描く。バイオリンを奏でながら。シャルルは地を這うように踊る。
 鋭いオスティナートを、執拗にバイオリンは吐き出し続けた。
 太田がステージ上手へ立ち、両足をまげて立ちながら弾く。シャルルはゆっくりと太田の膝へ頭を預けた。

 二人を横のライトが明るく照らす。目を見開き、シャルルを支えながらバイオリンを弾く太田が鮮烈な光景だった。
 シャルルが床へ寝そべる。太田はゆっくりと体の回りを一周。バイオリンは鳴り続ける。
 
 立ち上がってダンスが再開された。バイオリンのフレーズにあわせ、身体を捻る場面も幾度か。
 やがて静寂。ステージはまた、暗闇に包まれた。かなりの間があって、二人が舞台の中央へ立つ。明るく照らされ、二人は大きく礼をした。およそ50分、一本勝負のステージ。
 
 シャルルのダンスは単独で舞台の支配を目指さず、スペースを空けて太田にも見せ場をつくった。太田の胸を借りて、シャルルが踊ったような印象もあり。
 一方で太田は即興を奔放に展開させるため、コラボの妙味はまだ先がありそう。
 すなわちシャルルが空間を掌握する勢いで踊り続けたとき、舞台はさらに濃密へ向かうのではないか。
 
 前半はダンスと音楽がそれぞれ動き、次第に溶け合う。そしてついに後半で太田が舞台へずいっと入り、踊りへ演奏がさらに混ざった。
 コラボレーションのさまざまな形態を見せた上で、二人がステージ中央で相対した風景が、強烈に印象深いパフォーマンスだった。

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