LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/1/6   新宿 経王寺本堂

   〜JAZZと仏教 LIVE!〜
出演:小森慶子+アラン・パトン、北原久仁香
 (小森慶子:cl,ss,b-cl,per,etc.、アラン・パトン:acc,musical saw,per,voice,etc.、北原久仁香;朗読)

<構成>
I 組曲「mental schetch modified」(宮沢賢治)
 加藤龍勇ファンタジー詞画集「原体剣舞連」(朝日ソノラマ刊) 他
U 小森慶子&アラン・パトン Live

 お寺を舞台に加藤龍勇の個展が開かれた。このお寺と関係ある人だろうか。完全なプロフィールは検索できぬも、89年にアート部門で星雲賞受賞の経験ある人みたい。
 本堂中央に巨大なスクリーンが下がり、左右の壁に10点強の絵が飾られる。ステージ上手にミュージシャンのブースがあった。
 第一部は北原久仁香による朗読劇で、音楽を小森慶子とアラン・パトンが担当。第二部でデュオ・ライブの構成だった。1/6と1/7で3公演を開催。ぼくは初日のマチネへ行った。

 客電が落ち、ミュージシャンがスタンバイ。パトンがパーカッションを降り、金属質の音を出す。小森はソプラノ・サックスを。下手から黒尽くめな服装の北原が、歌いながらゆっくりとステージへ登場した。
 ステージ中央のスクリーンへ、加藤の絵が大きく映し出される。北原は後ろへ立った。
 宮沢賢治の一節を暗唱。そして手に持った本を開き、朗読を始めた。ときおり立ち、ときおり座って言葉を連ねる。北原の横に、大きな蝋燭が一本。ぎらぎらと炎をまぶしく煌かせた。

 ストーリーは宮沢賢治の生涯を述べながら、ときおり幻想世界へ移行する内容のようだ。
 場面ごとに、時に素早くいくつも、加藤の絵がスクリーンへ映し出される。写真のような光景も、途中で映し出された。
 照明効果は無く、あくまで朗読と音楽のみで舞台世界を表現した。

 音楽はかなりきっちり入る場所が決まっている。舞台冒頭で譜面が映し出され、北原が歌う。その伴奏や、場面ごとの音楽を静かに挿入した。
 歌伴は小森がメロディをクラで提示し、アランはアコーディオンだったろうか。かなり譜割やフェルマータを揺らす、北原の歌だった。歌の出を、小森が軽くクラを振って合図する。

 小森の足元にはエフェクター、アランは横へカオスパッドやサンプラー(?)を置いた。ただし、ほとんど使わず。基本は薄くマイクを通す程度。
 中盤でカリンバを二人は持ったが、小森のマイクはオフ気味で、途中に切れたりも。アランは冒頭で少し、エコーをカオスパッドで飛ばした程度か。
 朗読へ音楽がフリーに絡むと期待していたため、意外だった。

 小森が途中で朗読の内容に合わせ、タムを静かに叩く。
 アランは違う場面で、エコーを効かせたマイクで、幾度か強く声をぶつけた。
 終盤でゆっくりとスクリーンが上がる。煌びやかで重厚な本尊の情景が映し出された。
 朗読は30分程度。音楽は続く。

 クロージング・テーマが、そのまま高まった。聴き覚えある曲。小森のオリジナルかな。
 クラリネットを高々と上げ、メロディからアドリブへ向かった。
 冒頭にメロディは幾度か繰り返された。ソロの時は、足元のサンプラーで薄くループされながら。
 
 アランはミュージック・ソウを演奏。軋ませながらのこぎりを弓で弾くだけでなく、表面を叩いたり大きくたわませながらエコーをかける奏法も提示した。
 さらに15分程度、じっくりと音楽が続いた。静かに余韻を残す演出が美しい。

 休憩を挟み、ステージ中央にミュージシャンの楽器や立ち位置が移動した。
 サンプラーやカオス・パッドも準備されるが、やはりほとんどぼくが聴いた公演では使用されず。小森はほぼ生音状態だった。
 本殿ながら、予想ほど音が残らず。ほどよい残響だった。

<セットリスト>(不完全)
1.子供の行進
2."ディキシー・ジャズ"
3."マケドニアの曲"
4.No title
5.張り切りボーイ
6.パストラル
7."ロシア(?)の曲"
8."クレツマーの曲"

 MCは主に小森が担当。一曲づつ丁寧に紹介あったが、覚えきれず。すいません。
 まずミュージシャン二人とお寺の息子と思しき二人が、演奏しながら登場。子供二人は寺の太鼓(名前、なんていうんだろう)を叩きながら行進した。
 子供二人がライブの開演を高らかに述べ、幕開け。
 
 まずアランが故HONZIを悼み、彼女の曲を。きれいなマーチだった。アランはアコーディオンを弾き続け、小森がクラリネットでソロを入れる。足に巻いたパーカッションで、軽くリズムを取りながら。
 腰掛けたアランに対し、立ったまま吹く小森。場面ごとにきゅっと中腰の姿勢で、ダンスっぽく身体を揺らした。

 『JAZZと仏教』のタイトルでなぜ自分らが呼ばれたんだろう、と言いながら自己紹介を。
「あ、次は自慢できる。ジャズの曲です」
 小森が告げ、演奏が始まった。ディキシーのスタンダードかな。アランはバックビートをさほど強調せずアコーディオンを弾く。ジャズよりもバスキング調のアレンジとなった。
 小森はクラを使用。軽やかに舞うアドリブは哀愁をまとう。

「タイトルが長くて最後の一言しか覚えてません」
 アランの紹介でマケドニアの曲(?)を演奏。バルカン要素でぐいぐい押す。アランはソロを取らず、バッキングに専念。
 7拍子の曲という。ときどき4拍子が続き、3拍子が挿入される風にも聴こえてリズムが取れず楽しかった。

 ソプラノ・サックスへ持ち替えた小森がアドリブを取るが、完全フリーへは向かわない。テーマを明示し、ソロを取る程度。ずぶずぶの即興路線でなく、流れを見える進行だった。
 小森が足に巻いたパーカッションは既に取っている。タンバリンを持ち、軽く叩いたのはこの曲辺りだったろうか。

「タイトルは、ありません」
 一言告げて、次の"No title"はアランのソロで演奏された。めまぐるしく、くっきりしたメロディをアコーディオンで奏でる。時にユニゾンで口ずさみながら。
 終盤でカズーをユニゾンで吹く。上下する激しいメロディを、輪郭きれいなタンギングで吹き抜き、すごかった。

「難しい曲だね」
 正座して聴いていた小森が、ぽつりとつぶやく。アランは無言で微笑んだ。

 さらにアランのオリジナルを。アコーディオンへ乗せる人形に捧げた曲。小森はクラへもちかえたろうか。
 センチメンタルなメロディを、小森のソロを挟んで演奏。終わるなりアランが、アコーディオンへ乗せた人形を勢い良くはたき落とした。

 小森のオリジナル"パストラル"で、バスクラへ持ちかえる。
「立って動きながら演奏してると、息が切れることに改めて気づきました」
 苦笑しながら、曲紹介を。アランはアコーディオンでバッキングを。
 フレーズやアドリブの切れ目で、小森がずいっとアランへ身を乗り出す。そのさまが演劇的で、なんだか効果的だった。

 たぶんロシアの曲、と紹介した曲では、アコーディオンを弾きながらボーカルもアランが入れる。これもバルカンあたりの風景が滲む。
 最後はクレツマー。複雑なテーマのフレーズが完全ユニゾンで、クラとアコーディオンは紡ぐ。猛烈なパッセージを、涼しい顔で弾きまくる二人がかっこよかった。

 後半は1時間程度。法要が3時からあるとか。残り10分しかない。あわただしい解散となった。
 あえてジャズにこだわらず、スタンダードを並べない選曲が良かった。各公演でそれぞれ内容を変えるのかな。
 バラエティに富む選曲で二人の音楽を前面へ出す、暖かな演奏だった。

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