LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/12/28 大泉学園 In-F
出演:クラシック化計画
(翠川敬基:vc,菊池香苗:fl,喜多直毅:vln,会田桃子:va,渡部優美:p,竹内永和:g,北村聡:bandoneon)
翠川敬基がクラシックとがっぷり組み合うユニット、クラシック化計画。ぼくが聴き始めた数年前は、菊池香苗らと人数を絞ってストイックなスタンスのイメージあり。
In-Fを舞台に変えてからは非クラシック系ミュージシャンを招き、バラエティ豊かなアプローチを狙うかのようだ。
この日も合計7人が出演。観客席が埋まるなか、演奏しないミュージシャンは袖にいっぱい。濃密な感じだった。
<セットリスト>
1.J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタno.1
G-dur/BWV1027
2.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲/Sz.56
3.ファリャ;歌曲"7つのスペイン民謡"
4.ピアソラ:ル・グラン・タンゴ
(休憩)
5.F.クーラウ:"庭の千種"変奏曲/op.105
6.ラヴェル:弦楽四重奏曲
F-dur
1)翠川敬基+渡部優美
口開けは二人の演奏から。ヴィオラ・ダ・ガンバの説明などを丁寧に翠川がする。なお今日の演奏曲は全て、今夜初めて聴いた。
ピアノがかっちりと音を重ねるなか、翠川が思いきりフレーズを揺らす。冒頭の2楽章は曲の時代が異なるかの気分だ。チェロの線はかなり細く、早いパッセージでは幽かに響いた。
観客が現れたため、ちょっと間を長くとった第三楽章が、もっとも二人の音が溶け合った。
これまでくっきりしたピアノの旋律が、ふわり揺らぐ。チェロの流れとかみ合った。こういう曲なのかな。
2)、3)喜多直毅+竹内永和
バルトークとファリャの2曲を演奏。どちらも小品が数曲連なって構成される。曲数と捉えるならば十数曲を立て続けに奏でた。一曲終わるごとに、次々と譜面がめくられた。
バルトークの曲はルーマニア民謡を元に作曲したらしい。情緒的なフレーズが噴出する。
喜多は口を軽くあける独特の表情。上半身を大きく動かし、情熱的な喜多の音色が響いた。竹内は丁寧に音を連ね、ふんわりと鳴らした。
比較的アグレッシブなバイオリンをギターが包むような、柔らかく落ち着いた合奏だった。
バルトークは3曲目辺りの極小音な場面の、音色が興味深かった。フラジオみたいなキィキィ音が続く。続く曲で伸びやかなバイオリンの響きが引き立った。
メロディは心地よいが、なんだか唐突に終わってもどかしい場面も。長尺の一曲にして欲しかった。と、バルトークに因縁つけても詮無いが。
より二人の演奏がはまったのは、続くファリャ。
もはや喜多は独壇場で、自らの音色を溢れさせ存分に弾きまくった。ギターも滑らかに疾走し、がっぷり力強いアンサンブルはとても聴き応えあった。
4)会田桃子+北村聡
ピアソラがロストロポーヴィッチに捧げたという曲。普通はバイオリンとピアノの編成らしい。今回はヴィオラとバンドネオンの特別編成で行われた。
めったにない機会だ、と会田があおると「誰もやらないだけじゃない?」と北村が突っ込む。
ところが。一音流れたとたん、響きにやられた。この編成が一般的でもおかしくない。
ぐわっと北村が蛇腹を広げ、素早く閉じるときの空気音すら、サウンドにムードを与えた。
バンドネオン独特の柔らかく膨らむ音色が、よりヴィオラの演奏を引き立てた。めまぐるしく動く旋律の勢いを、削がずにもり立てる。
輪郭の丸い音色なバンドネオンがしずしずと寄り添う。北村は譜面台へ大きくスコアを広げ、無造作に弾きこなした。
会田のビオラは曲が進むほどに情感を増す。3楽章辺りは、譜面すら見てなさそう。上半身を揺らして重心を動かしながら、くっきり粒立つ音が滑る。芯の太い音色が、素晴らしく心地よかった。
5)菊池香苗+渡部優美
安定した優美な演奏。ピアノはバッハのときよりも、柔らかく響く旋律だった。ときおり手を宙へかろやかに舞わせつつ、渡部は奏でる。アイコンタクトでなく、フルートの動きをときおり見つつ、次のフレーズや楽章へ移っていた。
菊池は譜面台へ広げた楽譜を涼しげに吹き連ねる。ものすごく簡単そうに吹いてるが、聴こえる音はとてもめまぐるしい。上下に激しく動き続けるフルートは、ときおり先端をふんわり動かした。円を描くように。
二人の音楽が丁寧に紡がれた1曲だった。
6)菊池香苗+喜多直毅+会田桃子+翠川敬基
クライマックスはラヴェルが唯一残した弦楽四重奏曲を4人が演奏する。1stバイオリンを菊池が吹く、本ユニット独特の編成で。
そうとう難しい譜面だそう。譜割が難しい上に、変拍子が連発するようだ。
特に喜多がプレッシャーかかった表情で、ぼやきながら準備する。
リハで2楽章中に譜面を間違え、4楽章の譜面で喜多が弾いてしまい「なんか違う響きだな」と思いつつも弾き続けたエピソードも披露された。
チューニングは幾度も行われる。
「ストリングス好きなら、チューニングの響きでも気持ち良いよね。チューニングがあってさえいれば」
翠川が、そう言ってにやり笑った。
ふっと空気が緊張し、演奏が始まる。チェロがゆったりスケールを奏で、他の3人が玄妙に旋律を絡めた。
すごい曲だ。めまぐるしく主旋律の楽器が入れ替わり、ヴィオラや2ndバイオリン、チェロへもアンサンブルの軸が動く。本編成で、フルートからヴィオラにフレーズが渡される音像が、ひときわ気持ちよかった。
チェロのピチカートも、とても効果的に響く。どちらかというとエッジの立った弦と硬質な肌触りのフルートを、チェロのピチカートが瞬時に暖める。
独特な編成かつ生音だけに、バランスがころころ変わる。会田、次いで喜多が前に出るようなバランスだったが、次第に4人の音が溶けた。
フルートがもっと鳴ると思ってたので、ちょっと意外。わざとボリューム落としたのかもしれないが。
本来は弦楽四重奏で溶けることを想定したアンサンブルも、フルートに変わることで独特なサウンドへ向かう。
クラシック化計画のオリジナリティを、この編成で強調している気がしてならない。全世界の過去を踏まえ同様編成あるのか、不勉強で知らないが。
流麗のきわみな曲ながら、奏者の必死振りが伝わってくる。喜多は食いつくように譜面を追った。3楽章前だったかな。「ああ、何か喋りたいー」と喜多が思わずぼやき、翠川に突っ込まれていた。
さらに5拍子が続く辺りはリハでも苦労したらしい。演奏中に、いきなり拍を数え始める荒業を披露した。演奏解体を防ぐためのなりふり構わぬプロ根性を見た気がする。
アンサンブル全体も特に難曲な4楽章で、どたばたになったらしい。演奏中に譜面を落としてしまう喜多だが、あわてずに直して弾き戻る。
最後は雪崩落ちるように音が絡み合って駆け抜けた。コーダの寸前で奏者の表情にも苦笑が漏れ始める。
曲が終わって拍手が鳴る。そのままステージ上でいきなり全員が反省会を始めたのがとても面白かった。
あらためて翠川が挨拶。メンバー紹介で、アンコール無しにライブは終わった。
クラシック化計画は次回も予定されている。次はどんな曲が披露されるか楽しみ。このライブを聴くたびに、クラシックへ興味が増してゆく。
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