LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/12/25   西荻窪 音や金時

出演:太田惠資ソロ
(太田惠資:vln,per,vo,g,etc.)

 クリスマスのソロ・ライブ。観客はほぼ満席の盛況だった。ステージにはエフェクターがずらり並び、後方には発売前のモニターだという細長いスピーカーがそびえたつ。
 バイオリンはエレキ2本とアコースティック一本。タールはスタンド付で準備され、横にサンプラーも置かれた。さらにアコースティック・ギターまであり。さまざまなアプローチのライブを予感させるセッティングだった。

 そして予感は、いい意味で裏切られた。即興と曲を混ぜたライブかな、と予想していた。
「即興でいきます。渋い映画を見てる気分で聴いてください。もちろん、ストーリーは自由です」
 そう一言告げた太田は、青いバイオリンを構えた。ペダルを踏む。ライブの幕が開く。
 セットリストを書き記そう。

<セットリスト>
1.即興

 休憩無し、2時間ぶっ続け。サービス精神とアヴァンギャルドが混在する、太田独特の世界観が炸裂した。

 まず青いバイオリンで白玉。すぐさまディレイで音をたなびかせ、次の音を乗せる。残響が次第に重なり、奥深い音色が響いた。
 いったん音像が高まったところで、太田はおもむろにソロを奏でた。
 メガホンを持ち、静かにつぶやきのボイスも挿入する。

 ふっとサンプラーの音を押したのはここだったろうか。風景はくっきり切り替わる。ビートが提示された。
 太田が赤いバイオリンに持ちかえる。残響が響く中、プラグを差し込んだ。ノイズがのり、軽く顔をしかめながらそっと抜き差し。数度繰り返した。
 ちなみに後半でも同様にプラグの抜き差し。小さく鋭く、ノイズがはまる。ところが今度はディレイで響くノイズが、クリック音のように軽やかに響いた。

 赤いバイオリンを構え、ペダルを操作。ディストーションの効いたノイジーな音が響く。ボリュームは控えめだが、スピーカーからどわっと低音成分が滲んだ。床に手を触れると、かすかに振動が伝わる気が。
 轟音ならば実感したと思うが、じわじわと低周波がまとわりつく感触が心地よかった。

 歪んだ音色のバイオリンは、弓を逆さにして木の部分で弦をこする。軋むノイズは増幅され、太田の演奏にしては珍しくハーシュな方向性だった。
 弾きながらアラブ風に歌う。青いバイオリンを持っていたときかもしれない。

 続いてアコースティック・バイオリンへ。バックの音は消され、かすかにディレイ・ループの残響が残っていたイメージあり。
 くっきりメロディが即興フレーズで溶けてゆく。2本のエレキ・バイオリンのコーナーが20分くらい。アコースティックで15分くらい、じっくりと奏でた。矢継ぎ早に、しかしじっくりと奏でるフレーズに、酩酊感を覚える。

 タールを持った太田は、軽やかにしばらく叩く。小気味良いがダンサブルさのみを追求でなく、パーカッシブな前衛へ傾倒もしない。あくまでパーカッションを使って、メロディアスな味わいを残す、独特の世界観だった。
 歌も取り混ぜ、親しみやすさも残す。

 ここから先は、次々にバイオリンを持ち替えた。サンプラーと組合せ、時に分厚く、時にシンプルなメロディのみで即興を連ねた。
 アコースティック・バイオリンでは複弦奏法も目立った。一音をドローンさせ、別の弦でメロディを奏でる。膨らんだ響きで味わい深かった。

 約一時間経過したころ。太田はふと、足元の小さなラジカセへスイッチを入れる。
 「ややっの夜」で使うやつ。流れてきたのは、歌入りのスイング・ジャズ。腰掛けて時計を確認。横に置いたワインで一休みなそぶりで、客席が微笑んだ。
 わずかに「ややっの夜」の口上も繰り出す。途中でやめてしまい、ラジカセのスイッチも消した。
 サンプラーが再び響き、ソロへ行っただろうか。

 さまざまな風景が行き交い、順番を覚えていない。
 フレーズは暖かく、緊張感を保ちつつ、重苦しさは無い。静かな情景で、バイオリンから旋律が溢れた。
 アコースティック・バイオリンでミュートをはめて、ひとしきり弾く。ポケットへミュートをしまい、存分に音を響かせた。マイクで拾われた音が、瑞々しい。
 
 曲はほとんど無し。アコースティックを弾いてるとき、クリスマス・ソングを奏でだす。途中で変奏したな、と思っていたら。
「メーロディを忘れた〜♪やっぱりクリスマス・ソングは弾かないほうがいい〜♪」
 いきなり歌いだし、笑いがとんだ。
 
 1時間半ごろ経過の辺りで、アコースティック・バイオリンを激しくかきむしる。サンプラーからのビートは激しくなった。
 "モスクス"がかなり速いテンポで疾走した。アドリブへ突入し、曲から改めて即興へ沈む。

 ギターを構えたのは後半かなりたってから。腰掛けて、ガット・ギターを構える。ナイロン弦のような、柔らかい鳴りだった。
 いくつかフレーズを爪弾き、ボサノヴァ風の展開も。ときおり、ぽーんと倍音を響かせる。

 やけに明るいコード進行。プログレ的な展開だった。ギターのフレーズはループされ、楽器は横に置いた。バイオリンを構え、ペダル操作しながらパターンを重ねる。
 かきむしる鋭いループと、コードっぽい展開だったろうか。
 厚みあるバックの中で、バイオリンが炸裂した。

 どうやって終わるんだろう。好奇心が高まる。
 アコースティックを弾いてた太田が、華やかなリフを即興交じりで弾いた。"オータのトルコ"かな、と予感させたが、曲へ結びつかず。そのままアドリブに向かう。
 いったん音を止めて、マイクへ口を寄せた。
「ク・ク・クリ・クリ・・・」
 つぶやくボイスをひとしきり。もう一度バイオリンを奏で、静かに終わった。

「バイオリン、太田惠資です。パーカッション、太田惠資です。・・・ギター、太田惠資です」

 丁寧に挨拶とMCをひとしきり。長尺のライブは幕を下ろし、アンコール無しで終わった。
 休憩ありな2セット制と、延べ時間は変わらない。けれどもぶっ続けの2時間1本勝負は、とても聴き応えあるボリュームだった。
 じっと音へ耳を傾け、次の展開を見つめる。休みなく即興が続き、楽器の持ち替えやサンプリングのパターン変更で場面が移る。
 あえて持ち替えも細切れにしないことで、じっくりとそれぞれの一時を味わえた。
 
 ある意味情け容赦ない、長尺一本やり。だが暖かな味わいで空気が揺れる。たとえノイジーな場面でも。とにかく刺激溢れる、至福の一時。怒涛の即興ライブだった。

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