LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/12/15 大泉学園 in-F
出演:森+齋藤
(森泰人:b、齋藤徹:b)
「今日のベーシスト、齋藤さんです。・・・今日のベーシスト、森です」
ステージにはコントラバスが2本。上手に立った森泰人はウッドベースの肩を抱くような姿勢で喋りだした。
森泰人はスウェーデン在住、齋藤徹と完全デュオは初めてだそう。齋藤がガット弦を使う話から始まりしばらくMC。おもむろに演奏へつなげた。
今夜は各セット6〜7曲くらいづつ。各自のオリジナルと持ち寄った曲を演奏。完全インプロは無かったと思う。PA無しの生音で。
ライブが進むにつれ、ぐんっと前へ滲む音圧が心地よかった。
まず齋藤のオリジナルから。森が丁寧に指弾きでリフを紡ぐ。強靭なリズム感で、着実に奏でた。齋藤は奔放に奏でだす。いきなり指板の上で弦を爪弾き、フラジオや変則フレーズを多様する。フリーなアプローチで向かい合った。
リズムを崩さぬ森のベースがしっかり音像を支え、齋藤が前のめりに動いた。
途中のソロ交換でも、つんのめるようなテンポで齋藤はリフを刻む。フレーズも奔放に変え、音像がぐんにゃりと揺らいだ。
二曲目は沖縄民謡とモンゴルの曲をメドレーだったかな。マレットを使って弦を叩いて、三線みたいな響きを齋藤が引きだす。マレットの中に小物を仕込んでるのか、振るたびにびりびりとサワリも鳴った。
森は丁寧な音使いで、暖かく包む。特殊奏法は使わず。対照的な二人のアプローチが楽しいサウンドを作った。
この日はテーブル席で聴いていた。足もとの木箱へ何の気なしに足をつけると、演奏に同調し、ぐおんっとときおりかすかに振動する。
開放弦に共鳴してるようだ。ボディ・ソニックみたいで面白かった。
一曲毎に短くMCを入れる。続いて森のオリジナルを。スウェーデンの他界した楽器修理屋に捧げた曲らしい。
工房でスペースをとるため『チェロまで。コントラバス奏者には自分の電話番号を教えるな』のエピソードを披露し、笑いが飛ぶ。
小刻みに活き活きとメロディが動いた。それまで低音を中心に弾いていた森だが、ここでは高域を多用した。フラジオっぽい響きもたまに。
たまたまなのか、この曲に限らず森はほとんどアルコを使わない。がっしりとウッドベースを抱き寄せ、柔らかく響かせた。
齋藤は槍を持つように僅か体と楽器を離し、独特の短いアルコで指弾きと併用した。
毛の脇部分を使うのか、倍音みたいな高音が大きく響く。軋ませるような色あいだった。
ときおり演奏前で森が構成を確認する。エンディングは、ほとんどがあっさりと。終盤でむやみに盛り上げず、唐突に着地する無造作なアレンジが多かった。
前半でひときわぐっと来たのは、ラスト2曲目。時間を確認して、その場で決めた。
情感的なメロディもさりながら、二人のアドリブが圧巻だった。
互いが同時進行でアドリブをばんばん入れる。音域は同一だが、二人の音色が違うため、両者の音が絡み合う。
ぶんぶんと音が前へ出る。旋律によるソロのせめぎあいが刺激的だった。
1stセット最後の曲も、テンションが維持された。二人が始めて弓を使いあったのがここだったかな。
冒頭でこそソロとバッキングを明確化していたが、もはや二人の立ち位置が溶け合う状態。森のリズム感がくっきりと輪郭を描き、齋藤が枠線を跨ぐ譜割で拡大した。
2ndセット冒頭はマスターが渡したCDについて、森の解題から。スウェーデンの音楽仲間と作った私家盤(?)で、自分の子供の作った歌詞に曲をつけたらしい。
後半セットはその場で曲を決めてる様子も。
森は丁寧に譜面を確認しながら奏で、齋藤は自作曲などは暗譜で弾きまくった。
MCはほぼ全て森がつとめる。曲間での紹介密度はまちまち。丁寧に曲を説明するときもあれば、さらっと無造作に演奏を始めたりもあった。
たまに齋藤へ話題をふるが、小声でよく聴こえず残念。齋藤が舞台に提供した曲も演奏したようだ。
後半セットも明確に役割分担は決めない。いくぶん、森のほうが底支え的な位置が多かったか。二人がそれぞれぐいぐいとアドリブを続ける。
リフの連続はほとんど無く、極太の音が絡み合うさまが聴き応えあり。
頭をずらしあい、テンポは同一なのに拍の頭が交錯する刺激的なパターンも、ステージ最後のほうで登場する。
二人の演奏は、明確にグルーヴを強調しない。リズムの流れはしっかり作りながら、スマートに構築したイメージあり。
中盤で齋藤のオリジナルを。チューニングを変えながら4度調弦や5度調弦について、森は丁寧に違いを説明する。
この曲で二人のアルコが炸裂した。みっちりと森がアルコを使い、長尺フレーズを提示する。短い弓を使う齋藤は、めまぐるしく弾きまくった。
途中で指弾きに切り替えたとたん、鋭く音像が変わった。
元にチューニングを戻し、1〜2曲やったろうか。最後はスタンダードの"アマポーラ"。
軽快に齋藤がボディ叩きをはじめ、胴をこすりだす。にやっと笑った森も、ウッドベースの胴をこすり始めた。いきなり音像がスクラッチ合戦へ。
「・・・熱いよ」
ぶらぶらと手を振っての齋藤の一言に、観客が笑う。
ビートは明示しながらも、拍の頭は二人で違う。アルコを持った齋藤が、丁寧にテーマを紡いだ。
ワンコーラスをほとんどフェイクさせずに弾いたところで、森へ主導権を渡す。サビのメロディを崩しながら森が受け取り、アドリブを齋藤へ。そこからは即興合戦だった。
齋藤はボディ叩きを復活させ、小刻みにさまざまな部位をパーカッションのように叩く。一回だけ、自分の頭もついでに叩いてた。
エンディングでは再度、二人によるボディのスクラッチ合戦が登場した。
あっさりと曲が終わる。各セット1時間程度。
始まりが遅めだったので、すでに時間は22時45分頃。だがアンコールの拍手はすかさず飛んだ。
二人はステージを下りず、ちょっと相談して山田耕筰の曲を。情感を滲ませながら、二人は丁寧に弾く。齋藤はマレットを持ち出し、軽く弦を叩いた。
本編はここで終わり。観客で聴きにきていた森の友人、NY在住の日本人ベーシストがステージへ乱入した。"Hideo
Kitagawa"と自己紹介。ネットで検索したが、カール・キングらと演奏している人だろうか(http://www.turrbborecords.com/)。
「弦が柔らかいねー」
森の楽器を弾きながらつぶやく。いきなり弾きだした。スラップを強調したオーソドックスなスタイル。
「これがNYスタイルです」と告げ、しばらくソロを。そのうち、森がステージ奥にある、In-Fのウッドベースを手に取った。
齋藤へも参加を促し、3人でセッションが始まる。ウッドベース3人のみの演奏って、絵面も音像も稀で興味深い。
スタンダードを演奏したようだ。齋藤は軽く弦をはじく程度。乱入者が激しく弦をはじき続け、森が熱いフレーズで応える。
「4バーズしませんか」
弾きながら森が一言。そのまま4小節交換で突っ込む。齋藤もときおり猛烈に高音部で突っ込んだ。
このジャムが終わったのが23時を回ろうという頃合。思わぬ"第三部"だった。
そのまま乱入者がアドリブで弾き続ける。森も齋藤もピアノへ寄りかかりながら演奏を眺めていた。
ずうっとその演奏は続いていたが、時間の関係でぼくは23時15分頃に失礼した。あのまま、音楽は続いていたのかもしれない。
最後は思わぬ幕引きとなったけれど。齋藤と森のセッションはフリーとオーソドックスが並列で絡み合う、濃密な音世界だった。さらに豊かなタンゴもたっぷりと
森のリズム感が素晴らしく、齋藤の奔放なフレーズがひときわ引き立つ。ウッドベース2本による低音の噴出も、まさに空気そのものの振動で爽快だった。